鋼鉄の巨人

第一章 たのしい学園生活

第三話

【人工進化研究所・自動販売機コーナー】
 「碇くん。」
 自動販売機コーナーでシンジが一息ついていると、そこにレイがやってきた。
 「綾波さん。」
 「どうかな?」
 「え?」
 「私のプラグスーツ。」
 「似合ってるよ。」
 「そう。まあ、こんなもんかな。」
 「嬉しい?」
 「まあね。でも、仕事だから。」
 「ふーん。」
 「あんまり見ないでよ。」
 「じゃ、見ない。」
 「この建物の中を探検してみたいな。」
 「僕はここにいるから、綾波さんは好きに見学すればいいよ。」
 だが、レイはそのままシンジの傍に座った。
 「…探検はやめたの?」
 「…道がわからないから。」
 「まだ時間あるよ。行ってくれば?」
 「もういいの。」
 「綾波さんって変わってるね。」
 「碇くんの傍がいい。」
 「これから行く所は、何もかもが大きいんだ。潰されないように注意してよ。」
 「大丈夫!」
*「会話がかみ合ってないような気がするが…気のせいか?」
【人工進化研究所・インクライン地上駅】  「はい、みなさん、隣の席を見てください。お友達は揃いましたか?」  「「「「「「はぁーい!」」」」」」
*「小学生の遠足かよ!」
 「前方安全確認。出発進行。」
*「♪運転手はミサトだ、車掌はリツコだ。」
 「わ、落ちていく。」  「びっくりだねー。」  「こんなん乗るの、初めてやなぁ。」  「降りる速度が速い。」  「これから起こりうる事象に興味をそそられるよ。」  「本日はゲヒルン・インクラインをご利用頂きまして、誠に有難うございます。地下900メートル、ジオフロントまでの所要時間は5分でございます。」
*「♪バスガイドになったミ・サ・ト。」
 窓いっぱいにジオフロントの風景が広がる。  「うわっ!凄い!凄すぎる!」  「森と湖、モノレールと自動車道路、どえらい贅沢な基地やな。」  「どう、これがジオフロントよ。」  「アスカ、得意げだね。」  「ジオフロント……メモメモと。」  「人は開拓者精神に満ち溢れている。」  「地面の直径は6キロメートル。空洞の高さが約1キロ。地上で何か起きたら、みんなここへ移住するのよ。」
*「何かって、例えば遊星爆弾による放射性物質汚染か?」
 と、モニターに伊吹マヤの顔が映った。  「ネルフへようこそ。これから皆さんはネルフ本部、地下のケージまで来て頂きます。与圧室を通過後、操縦者は実機に接触。見聞終了後、試験的な搭乗を行います。零号機、綾波レイ。初号機、碇シンジ。弐号機、惣流・アスカ・ラングレー。参号機、鈴原トウジ。四号機、相田ケンスケ。伍号機、渚カヲル。ケイジ内は安全第一で行動してください。」 【ネルフ本部・開発部ドック・与圧室】  「耳が痛い……。」  「壊れそう……。」  「おぅ、こわ!」  「エアロック?」  「楽しみだね……。」  「ドア外れそう。」 【ネルフ本部・エヴァンゲリオンケージ】  「なんて大きいんだ。これが大人達を夢中にさせる物の正体か……。」  「6機揃うと、神の存在を実感できるわね。」  「ロボットのような物は生きているんですか?」  「知りたい?秘密よ。」
*「それは秘密です。」 ※「それはね…ヒ・ミ・ツ。」
 「人造人間エヴァンゲリオン……。」  「私にとってエヴァは良い思い出。シンジ君のお父さんと過ごした時間。」  「リツコさん、楽しそうですね。」  「夢中で駆け抜けていった。そんな感じかな。」  『赤木博士、コンソールまでお越し下さい。』  「シンジ君、またね。」  「口紅の匂い……。」
*「匂いに敏感な奴だな。」 ※「匂うな…(山さん風)。」
【エントリープラグ内】  「結構カッコイイかも。」  その時、レイから通信が入った。  『碇くん。』  「綾波さん、どうしたの?」  『……後で話があるの、それだけ。』  レイからの通信は切れた。 【ネルフ本部・零号機ケイジ】  ケージ前、零号機の顔の前でカメラを持ち出すレイ。  「記念撮影。」  「その為に僕を呼んだの?」  「そうよ。」  「しかもケンスケのカメラだし……。」  「相田くん、優しいの。」  「ケンスケの奴……ちょっと悔しいかも……。」  「シャッター押して。」  「うん……。」 【第三新東京環状線・人工進化研究所前】  ベンチに並んで腰掛けているシンジとレイ。  「あの……。」  「何?」  「うちの両親は研究所勤めで、帰りがいつも遅くて、僕は留守番ばかりしていた。綾波さんのうちはどうなの?」  「一人暮らしだから。」  「一人?両親は?」  「聞いてどうするの?」  「ごめん……。」  「……。」  「こういうのって、どう聞いたらいいかわからなかったから。」  「いいのよ……。」  「傷ついたの?」    (無言)
*「♪ム・ゴ・ん……色っぽいね。」
 「碇くんってさぁ……。」  「ん?」  「惣流さんと仲いいよね。」  「アスカとは幼馴染で、一緒によく遊んだから。」  「そう。」  「アスカのお母さんも研究所勤めで忙しいんだよね。」  「……。」  「ごめん……。」  「碇くん。」  「ん?」  「私も夜一人だから遊ばない?」  「え?」  「でも、今夜はダメ。何時の日か、二人で出かけようよ。」  「うん……。」 【第三新東京環状線・車内】  「あら、お邪魔だったかしら?」  車内でシンジとレイはアスカと一緒になった。  「こんにちは、惣流さん。」
*「夜だぞ。芸能人か、君は?」
 「アスカよ、アスカ!」  アスカとレイの間に激しく火花が散った。  「今日は楽しかったわね。なんか遠足みたいだったし。」  「転校してきたばかりで電車の乗り方まで教わっちゃった。」  「混んでいて大変だった……。」  「二人とも仲良しですこと。」  「仕事だから。」  「そうそう仕事。研究所のね……。」  「よく言うわ。」  「それに碇くんといると落ち着くの。」  「僕って癒し系。」
*「自分で言うな。」
 電車は小涌谷駅に到着した。  ホームに降りるレイ。  「ハッキリ言ってあげようか。あんた、シンジの事が好きになったんでしょ。」  「碇くんを好きに?ま、まさか。」  「ドキドキしているくせに。」  「あ、ああ、ありえないもん!」
*「ぼく、ドラえもん。」 ※「こんなの、ありえなーい。」
 頬を赤らめてうろたえるレイ。バレバレだった。  「恋が始まると、突き動かされるわよ。自分では止められないもの。」  「じゃあね、碇くん。」  「うん、また明日。」  レイは逃げるように帰って行った。 【シンジの自宅・シンジの部屋】  夜。ベッドに横になっているシンジ。と、地震が起きた。  地鳴りに目が覚め、シンジはあたりを見回した。  「地震だ……。」  カーテンの隙間から光が差し込んでいるのに気付いたシンジは、立ち上がってカーテンを開けた。  「眩しい……。」  窓の向こう。人型のまばゆい光が山の向こうにそびえ立っている。
*「…ビッグフットみたいだな。」
 上空をヘリコプターなどが飛び回っている。  途端、人型の光が音を立てて消えた。  「消えた……。」 【シンジの自宅・居間】  寝付けないシンジは居間に出てきてテレビをつけた。番組の話題はもっぱら人型の光の事。  『こちら現場です。第三新東京市に現われた光の巨人は、たった今、研究所の裏手の山へ消えました。』
*「光の巨人なんて言ったらウルトラマンになっちまうだろうが。」
 「研究所だ……。」  心配になり、電話を架けてみるシンジ。  『ただいま回線が大変混雑しております。もうしばらくしてからお掛け直し下さい。』  「研究所に電話が通じるわけないか……。」  シンジは諦めて受話器を置いた。