【シンジの自宅・シンジの部屋】 朝。制服姿のアスカがベッドに腰掛け、眠りこけているシンジの寝顔を見ていた。 「シンジ、朝よ。起きないと遅刻しちゃうよ。」 「うーん…自転車で走りすぎた…全身筋肉痛…。」 「起きないと、こうしちゃうぞ〜。」 「わーっ、起きる、起きるってば!」*「一体、何をしているのだろう?」【第三新東京市・大通り】 駆け足で登校するアスカ、筋肉痛を堪えてそれに続くシンジ。 「あのビル、また大きくなってる。」 「人口が増えているんだ。マンションや団地も目立ってきたし、研究所の職員も増えているって。」 建造中のビルやマンションを二人が見回していると、そこにトウジとケンスケが駆け足で来た。 「オッス!」*「オラ、悟空!」「トウジ!」 「ビュワワワワワワン!バリバリバリ!ドッカァァァァァン!」 「ケンスケ!」 「シンジも朝から女連れったぁ、熱い!アツイ!」 「鈴原はデリカシーが無いから、彼女とうまくいかないんじゃなーい?」 「なっ!?こいつ、ワシの事ナメとるな!」 「ヒカリからいろいろ聞いちゃったもんねー、鈴原の事。」 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 アスカの言葉にトウジは耳を押さえて逃げ出した。 「トウジ、待てよ!それでは、相田通信兵は鈴原隊員の追跡に向かいます!」*「追跡!ドキュソ!」【東町の通学路】 「あ〜ん、チコクチコクゥ!初日から遅刻じゃかなりヤバイって感じだよねー!」 口にトーストを咥えながら走っている青い髪の少女がいた。 【十字路】 「アア!!」 焦りに焦っていた少女、そしてその存在を知る筈も無い少年、二人は出会い頭に衝突した。 「つつつつ……。」 「あたた……。」*「あーたたたたた、あた〜っ!!」 ※「テレショップ・あたたっ!」少女が咥えていたトーストは地面に落ち、雀の朝ごはんになっていた。 はっと気付いた少女は捲くれ上がりそうになったスカートをすぐに押さえた。 「…えーと…。」 「ごっめんね!マジで急いでたんだァ!ほんとごめんね。」 少女はぱっと立ち上がると駆けて行った。 それを呆然と見送るシンジの背後では、アスカが額に怒りの血管を浮かび上がらせていた。*「ドラゴン・怒りの血管、なんてな。」 ※「♪怒りの血管を浮かび上がらせた事もある〜。」【第壱中学校・下駄箱】 「シンジ、ワイシャツの襟、乱れてるよ。」 「さっき転んだだけだから、いいって。」 「いいから任せて。」 そう言ってシンジの襟元に手をやり、襟を正すアスカ。 「こういう気遣いは私が一番でしょ。」 「うん。ありがとう、アスカ。」 【第壱中学校・廊下】 「お早う、シンジくん。」 後ろから声を掛けてきたのはカヲルだった。 「お早う、カヲル君。で、その薔薇は何?」 カヲルは一輪の薔薇を手にしていた。*「♪君にバラバラ、ハートは紅い薔薇〜、という感じ?」 ※「♪薔薇の〜首飾り〜ルビィを〜散らすJEWELY。」「これは友情という名の薔薇さ。喜びを分かちあえる朋友との再会。一輪の薔薇は贅沢を極めた装飾にも勝る。」 「相変わらず朝から意味不明の事を言ってるのね。」 アスカの反応は冷たかった。 「ところでシンジくん。肘、擦り剥いてるけど、どうしたの?」 「あ、本当だ。さっき、人とぶつかって転んだ時かな?」 「待ってシンジ。バンソウコウ持ってるから貼ってあげる。」 「やれやれ、朝からご馳走様。」 【第壱中学校・3年A組教室】 「ぬワァニィ〜!!で、見たんか、その女のパンツ!」 「別に見たってわけじゃ…チラっとだから、そんな気がするだけで…。」 「カァ〜!朝っぱらから運のエエやっちゃなあ。」 などとシンジとトウジが話していると、いきなりトウジの耳が引っ張られた。 「いてててて!」 それはクラス委員長のヒカリだった。 「いきなり何すんのや!?イインチョ!」 「鈴原こそ朝っぱらから何下品な事言ってるのよ!ホラ、さっさと花瓶のお水換えてきて!週番でしょ!」 「ホンマうるさいやっちゃなあ。」 「なんですってェ!」 「喧嘩する程仲がいい、って事かな?」 トウジとヒカリの掛け合いを微笑ましく見ているシンジだった。 と、校舎裏の駐車場に猛スピードで入ってきて見事なスピンターンで止まったフェラーリがあった。 「おお!ミサトセンセーや!」 シンジ、トウジ、ケンスケの三人は窓枠から身を乗り出した。 フェラーリから降りてサングラスを外し颯爽と歩き出したのはシンジ達のクラス担任のミサトだった。 「おおお!やっぱええなぁ、ミサトセンセは。」 自分を見つめる三人の少年の熱い視線を感じたのか、ミサトは三人の方を向いてVサインを見せた。 三人も笑顔でVサインを返す。*「♪V・V・V、ビクトリー!」 ※「Vっと行こう!」「何よ、三馬鹿大将が!バッカみたい!」 自分達の恋のお相手のそんな態度に二人の少女は膨れっ面をした。 「起立。礼。着席。」 朝のホームルーム。チャイムの後でヒカリの声が響き渡った。 「よろこべ男子―!今日は噂の転校生を紹介するーっ。」 教室に入ってきた女子生徒は自己紹介した。 「綾波レイです。よろしく。」 「アアーッ!」 彼女を知っていたシンジは思わず立ち上がった。 「アア!!あんた今朝のパンツノゾキ魔!!」 レイもシンジに気づいて身を乗り出した。 「ちょっと、言いがかりはやめてよ!あんたがシンジに勝手に見せたんじゃない。」 アスカが直ぐに立ち上がってシンジを弁護するが。 「あんたこそ何?すぐにこの子かばっちゃってサ。何?デキてるワケ?二人。」 「た、た、ただの幼馴染みよ、うっさいわねェ!」 「ちょっと、授業中よ!静かにしてください!」 ヒカリが立ち上がって注意するが。 「はあ〜あら、楽しそうじゃなァい、私も興味あるわー。続けてちょーだい。」 ミサトの言葉にクラスに笑い声と冷やかしの声が響いた。 “みんなに冷やかされて恥ずかしかった……。” 【第壱中学校・保健室】 シンジが保健室を訪れると、そこには養護教諭のリツコが待っていた。 「お早う、シンジ君。早かったのね。」 「え?あの、朝ちょっと転んで肘を擦り剥いちゃって、一応診てもらえってミサト先生に言われて…。」 「あら、そうだったの。じゃあ、そこの椅子に座って待ってて。」 「でも僕、次の授業は教室移動で…。」 「そうなの?ああ、でも、ちょっとシンジ君に用もあってね。ミサトには伝えてあるから、遅れても大丈夫よ。」 「用…ですか?」 「簡単な身体チェックよ。貴方の他にも何人かするんだけど…ネルフの要請でね。」 第三新東京市は研究都市で、様々な分野の研究所がある。街の大多数の人間が研究所に関わりながら暮らしている。 その数ある研究所の中でネルフは最大手だ。シンジだけでなく、アスカ、トウジ、ケンスケ、ヒカリの親もそこで働いている。 「それじゃあシンジ君。背中向けてちょうだい。」 「はい。」 「夜更かしはするほう?」 「あまり……。」 「普通ね?」 「はい……普通です。」 「ジュースは飲みますか?炭酸入りの。」 「時々……。」 「時々、か……。」 「研究ってどんな事するんですか?」 こんな簡単な質問でいったい何がわかると言うのか?シンジは疑問に思った。 「大丈夫よ、シンジ君の身体は柔らかいほうだから。」 「あの……。」 「シンジ君のお父さん、素敵な人ね。」 「え?」 あの髭親父が?と一瞬シンジは困惑した。*「ヒゲオヤジ……カタカナにしたら別人になってしまうな。」 ※「オチャノミズ……は髭は無かったか…。」「研究所で会う事あるんですか?」 「いつも一緒よ。」 「……。」 「私ね、シンジ君のお父さんが好きなの。」 「へ?」 「ショックだった?」*「♪ショック!ショック!タ〜イム・ショック!」「そんなこと……。」 と言いながら、内心動揺しているシンジ。 「安心して。尊敬しているって意味よ。」 【第壱中学校・廊下】 次の授業は体育。シンジが廊下を歩いていると、傍の普段使ってない教室に何故か人の気配がした。 「あれ?更衣室こっちになったのかな?」 シンジはおもむろに扉を開いた。 「きゃー!何すんのよ!ヘンタイ!」 中では他のクラスの女子が水着に着替え中だった。 「待って!間違いだってば!」 碇シンジはただのチルドレンに格下げされた。 嵐の吹きすさぶ砂浜……ボロボロの茶褐色のマントを纏い、杖をつくシンジ。 シンジ「着替え中の教室にはカギを付けるように、今度のホームルームで提案しよう……。」