ネオエヴァ〜友を想う心〜

          03
     〜戦いと級友〜



 シンジが引越してきて、数日後・・・

「・・・と言うわけで、皆さんに新しい学友を紹介します」

 2−Aの担任である老教師が、シンジを紹介している。

「い、【碇シンジ】です・・・よろしくお願いします」

 シンジの席は後から二番目、レイの斜め前で、シンの前であった。

 最初、シンジがレイと親しげに話していたので、
『あの朋意一筋の綾波が! 浮気か?!』と騒がれてしまった・・・

 無論、それを聞いた某委員長が『ふけついゃうぅ〜〜〜!!』と、
大声で叫んだらしい・・・

 だが、スグにシンジとレイが双子の兄妹と言う説明をシンがした。

「それで、なんで、2人の名字が違うの?」

 そんな質問をしてきた生徒にシンジとレイが、
答えにくそうにしていると、シンが、

「親の都合だ・・・あんまりそう言う事に口出しをしてると、
嫌な奴と思われて、友達無くすぞ」

と厳しく言ったので、詳しく訊こうと考える者は居なかった。

 また、校内のネットで

【碇君があのロボットのパイロットって噂、本当? Y/N】

と言うモノがきたが、無論、シンジはパイロットではなく、
(一応零号機に乗れるらしいが)戦闘指揮部長なので、
【No】とだけ答えた。

 そのとき数人の女生徒が残念そうな溜息を漏らしていたが・・・



 それから、数日がたった。

 今日はシンが用事があって、遅れてくる事になっていたので、
シンジとレイだけが来ていた。

 朝の教室で、眼鏡をかけた少年がビデオカメラを片手に持ち、
もう一方の手に戦闘ヘリの模型を持って、遊んでいた。

「ギューーーーン!!・・・ドドドドド!!・・・ドワ〜〜〜!!」

 彼が映している模型の向うに、女生徒の影が映ったので、彼はビデオを下ろした。

「どうしたの?・・・委員長?」

 少年が訊く。

「昨日、頼んだプリント、届けてくれた?」

 委員長と呼ばれた髪を二つに結んだ女生徒、【洞木ヒカリ】は、
学級日誌を胸に抱えながら尋ねた。

「え?!・・・あぁ、いやなんか、トウジの家、留守みたいでさ」

 少年、【相田ケンスケ】は、目をそらしながら、
机の中にあるプリントを押し込みながら言う。(届けてねぇ〜じゃん)

「相田君、鈴原と仲良いんでしょ・・・
 二週間も休んで心配じゃないの?」

「大怪我でもしたんじゃないの?」

 あくまでも軽く言うケンスケ。(お前本当に友達か?)

「えぇ?・・・例のロボット事件で?・・・
 テレビじゃぁ、民間人には1人も居ないって・・・」

「まさかぁ〜♪ 鷹栖山付近の爆心地見ただろう・・・
 テレビでは、避難して無事だったって言ってたけどさ、
入間や小松だけでなく、三沢や九州の部隊まで出動してたんだぜ♪
 絶対、十人や二十人じゃぁ済まないよ、死人だって・・・」
(民間人じゃ無いだろ・・・お前が言ってるの)

 二人が喋っていると、ジャージ姿の少年が教室に入って来た。

「トウジ・・・」

「鈴原・・・」

 ジャージ姿の少年【鈴原トウジ】は、不機嫌そうに二人に近付くと、
鞄をドカッと置き、机の上に座って、辺りを見渡す。

「・・・なんや、幾人か減ったみたいやな・・・」

 そこまで被害が多くなかったし、ネルフのおかげで、
多くの人が助かったと言う報道があった為、TV版ほど疎開した人は居ない。

 その所為か、ケンスケはそこまで深刻に考えていなかった。

 また、パイロットとか、そう言う詳しい事は、
プライベートと言う事で報道されないらしいが・・・

「疎開だよ、疎開、転校したんだよ。
 アンなのが街中に来て暴れたらねぇ〜」

「喜んでんのは、お前みたいなやつだけやろな・・・
 生でドンパチ見れるやろし」

 トウジが呆れたように言う。

「まぁね、でもトウジこそ、どうしてたんだよ?・・・
 こんなに休んじゃってさ・・・この間の騒ぎで巻きぞいでもくったか?」

 ケンスケがトウジにビデオを向けながら軽口をたたく。

「・・・妹の奴がな」

「(拙・・・)」

 トウジが悲しみと苛立ちの表情をしていたので、ケンスケはカメラから目を離す。

「妹の奴が巻き込まれて怪我して、意思がのうて、入院しとったんねん・・・
 家んトコ、おとんもおじいも、あのネルフっちゅう研究所の務めやろ・・・
 今、職場を離れるわけにはいかんしな・・・
 ワイが居らんと、あいつ病院で1人になってしまうがな・・・
 だから、気ぃ付くまで、傍におったんや・・・昨日までな」

 愚痴もココまでなら良かった・・・・

「しっかし、あのロボットのパイロットはホンマ、ヘボやな!!・・・
 ムチャクチャ腹立つわ!!・・・味方が暴れてどないするっちゅうねん!!」

「トウジ・・・」

「鈴原・・・」

 ガタン

 ざわつく教室、そちらを見てみると1人の少年が、怒ったように近付いてくる。

「ん?・・・何や、こいつ」

「あ、転校生の」

 ヒカリの説明が終る前にシンジが言う。

「何言ってんだよ!・・・
 そのパイロットがその娘を救出しなかったら、その妹さんは死んでたんだろう!!・・・
 そんなの責任の押し付けじゃないか!!」

 シンジは、友達になり、妹の彼氏(と周りから言われている)であるシンが、
悪く言われているのに、我慢できなかったのだ。

「なんやと!!(何でしっとんや!!・・・こいつ関係者やな!!)」

 トウジがシンジを睨む。

「違う所があるのかい!」

 シンジも睨み返す。

「キサン!・・・チョッと来い!」

「なんだよ!!」

 トウジはシンジの胸倉を摘む。

「面貸せっちゅうとんじゃ!」

 シンジはトウジに引き摺られて行く。

 ケンスケが驚きながらも、後について行き、
ヒカリと離れた所で見ていたレイ(シンジに『ココに居て』と言われた為)は、
オロオロしている。

 シンジ達が居なくなって、少しして、教室のドアが開いた。



 校舎裏・・・

 バキ!!

「スマンのぉ〜転校生、ワシはお前を殴っとかなあかん、
殴っとかな気が済まんのじゃ!」

 殴られて倒れているシンジにトウジはそう言う。

 トウジはあのロボット、エヴァンゲリオンの関係者であるらしいシンジに、
八つ当たりをしているのだ。(最悪・・・でも、おまえ、漢じゃなかったんかい?)

「悪いな、さっきも聞いたように、あいつの妹さんが・・・」

「何でだよ!・・・妹を助けて貰ったくせに、
関係者に八つ当たりか!」

 シンジは口を拭いながらケンスケを無視して、トウジに言う。

 ケンスケは驚く・・・

 彼は巻き込まれたとしか思っていなかったのに、
この少年は、あくまでも『あのロボットが助けた』と言っている。

 どっちが真実かは分らないので、二人の顔を見比べる。

 図星を指されたトウジはムッとして、
もう一度シンジを殴ろうと近付いて、手を振り上げる。

 ガシッ!!

「「な!」」

 トウジとケンスケが驚きの声をあげる。

 トウジの腕を掴んでいるのは、何時の間にか現れたシンだった。

「どけ・・・」

 ブン!

 そのままシンは、トウジを横に投げ捨てると、シンジの所に行く。

 無論、後ろにはレイが居る・・・あ、ヒカリまで・・・

「き、きさん!」

 起き上がって、シンの方に行こうとするトウジをケンスケが止める。

「や、止めろよ、トウジ、そいつは、あの朋意だぞ!」

「なに!・・・」

 あまりクラスの他の生徒に関心の無かった為、
顔を知らなかったトウジが足を止めた。

「朋意って、あの怒ると赤目に・・・な!」

 トウジは一瞬、シンの瞳が赤くなってたのを見た。

 去年、シンがレイを助ける為に三階の教室から飛降り、体育倉庫の扉をこわして、
上級生、五人を叩きのめしたのは、裏では有名な話である。
           
 更に、今年の初め辺り(一年の 三学期)に、1人の女生徒(レ     イ)>を助ける為に、
上級生を約20人ほどを、1人で病院送りにしたのは、公然の秘密である。

 その所為で、少しの間、停学になったことも・・・

 その癖、成績は何時もトップであり、去年の内に通信で大学を卒業したとも噂されている。
(目立たないほうがおかしい)

 シンは、硬直しているトウジを無視して、シンジをやさしい顔をしながら、助け起こす。
(既に瞳の色は、黒に戻っている)

「君も少しは鍛えた方が良いね・・・何があるか分らないから・・・」

「そうだね・・・」

 シンジは恥かしそうに言う。

「大丈夫?・・・お兄ちゃん」

 レイもシンジの傍に来て、心配そうに見ている。

「でも、ありがとな、俺をかばってくれたんだろ?」

 シンジのズボンなどについた土をシンは払い落としながら言う。

「い、いや、でも結局、あまり役に立たなかったから・・・」

「いや、その気持ちが嬉しいよ」

 シンはシンジにそう言うと、今度はトウジを睨む。

「ウッ」

 瞳は赤くなってなかったが、そのシンの顔にトウジはビビッた。

「そんな訳で、アレに乗っていたのは俺だ・・・
 八つ当たりをするなら、俺にしてもらおうか?」

 トウジは何も答えない。

「どうした?・・・一発くらい殴らせてやるぞ・・・
 相手が自分より強そうな奴だったら、その態度か、最低だな・・・どうした?」

 シンが近付いてきて、挑発するように言うが、トウジとケンスケは目をそらす。

「それでも男か?・・・貴様は!・・・
 どうした?・・・一発くらい、殴らせてやるって言ってんだよ!」

 トウジは拳を握るが、下を向いたままだ。

「本当に大事な妹なら、抱き上げて連れて行くくらいの事をしろ!・・・
 手を離し、人ごみに紛れた位で置き去りにするな!!・・・
 それで彼女を戦場に置きっぱなしで、自分はシェルターに逃げて震えていたくせに!!
 自分より弱そうな奴に当ってんじゃねぇー!!
 クズか貴様!!」


 シンがそこまで言った時、目を瞑ったまま、トウジが叫びながら殴る。

「わぁ〜〜〜〜!!」

 バキ!!

 レイとヒカリとシンジは目を瞑る。

「な!!」

 トウジが驚きの声をあげる。

「何で避けへんのや・・・」

 トウジの拳はモロにシンの顔に突き刺さっているが、シンは微動だにしてない。

 それどころか平然としている。(口から少し血が出ているみたいだけど・・・)

「避ける必要も無いからだ・・・
 貴様のような、男の腐った奴以下の拳など、俺に効くか」

 シンは口から出ている血を拭うと、トウジに冷たく言い放つ。

「グッ」

 トウジは言葉に詰る。

「貴様は妹さんの・・・ミカちゃんの爪の垢でも飲んでいろ!・・・
 じゃぁ、教室に戻ろうか、シンジ君、レイちゃん、それに、委員長」

 シンの顔が一瞬にして優しい顔にかわる。

「あ、うん」

「えぇ」

 シンジとヒカリが返事をし、レイが頷く。

 シンはシンジ達を連れ、そこから、去ろうとする。

「な、何でミカの事、知っとんや・・・」

 トウジは、シンが自分の妹の名前を知っている事に、驚いて聞く。

「昨日の夜、意識が戻ったと聞いたので、今朝、見舞いに行った・・・
 しかし、妹さんに聞いてた話の兄貴と全然違って、失望したぞ・・・」

 シンはそう言い放つと、トウジ達を無視して、教室に戻ろうとする。

 トウジは、自分のした八つ当たり的行為を恥かしく思って、下を向いていた。

 シンは前回の戦いで、逃げ遅れ、怪我をしたミカが、気付いたと報告を受けたので、
ワザワザ、彼女を見舞ってきたらしい・・・

 そのため、学校に来るのが遅れたのである。

 ピピピピピピィ・・・・

 シンとレイの持つ携帯が鳴る・・・

 しかし、なぜかシンジのは、鳴っていなかった。

 不信に思いながら、シンだけが携帯の受信のボタンを押して話し始める。

「俺だ・・・あぁ、それは分ったが、何故、シンジ君には連絡を入れんのだ?・・・
 あぁ、当然だろ、ココに一緒にいるからな・・・
 どうした?・・・連絡を入れなかった理由を話せ!
 さもなくば、それ相応の処置をとるぞ!・・・日向三尉!・・・
 なにぃ〜ふざけるなよ!・・・
 誰が、誰の指揮で、前回戦ったと思っているんだ?!・・・
 直属の上司の命令でも、間違っている事は聞く必要は無い!・・・
 『ネルフではそんな腐った考えの持主は要らん!』と、前回戦いで、作戦も立てず、
ただ発令所で突っ立ってた、そのお偉い作戦部長様とやらに伝えとけ!・・・
 次にそれをやったら、貴様も同罪だぞ!

 シンはそう怒気をはらみつつ、怒鳴って携帯を切る。

「たく・・・ココまで露骨にやるとは・・・
 本当に見境がなくなっていってんじゃないのか?」

 どうやら、ミサトは『戦闘指揮部長には、連絡を入れる必要は無いわ』とか、
マコトに言ったらしい。

「委員長、先生たちから、避難の指示が来るだろうから、
クラスの皆に準備をさせといた方が良い・・・
 一応、俺達の事は黙っててくれ・・・今度、説明すると思うから」

 さっきの怒りはどこへやら、シンは優しい口調でヒカリに言う。
(喜怒楽が激しいのね・・・哀は、どうなんだろう?)

「え、えぇ・・・分ったわ」

 ヒカリは少し驚きながらも頷く。

「じゃぁ、裏門に迎えが来るみたいだから、行こうか、シンジ君、レイちゃん」

「え? うん」

 シンジが返事をして、レイが頷き、三人は裏門に行く。

「ほら、相田君、鈴原、行くわよ」

 下を向いたままのトウジと、シンにビビって硬直していたケンスケは、
ヒカリに背中を押されて行く。





 ネルフ本部・発令所

「司令が居ぬまに、第四の使徒襲来か・・・」

 モニターに映る使徒を憎々しげにミサトが見ていると、耳を押えつつ、
泣きそうな顔でマコトが電話を切り、ミサトに言う。

「か、葛城さん、やっぱ怒られましたよ・・・それも、シン君に・・・直接」

「何! 喋っちゃった訳!」

 焦るミサト・・・・・・

 彼女が、二週間かけて、ネルフ本部内にカンヅメ状態で覚えた書類の中に、

『もし、戦闘指揮部長がその場に居なかったりして、指揮がとれない場合、
作戦部長が、代わりに指揮をとる』

 と言うのを、サッソク実践しよう思って、
シンジには連絡を入れないようにマコトに言いつけたのだ。(アホ)

 しかし、それが、アッサリとネルフ本部の影のボスとまで言われているシンに、
バレてしまったのだ。(・・・ペンペンはどうなったんだろう?)

「・・・マコト、俺は忠告したからな。
 だいたい、同じクラスなんだぞ、彼等は」

 シゲルがマコトに言う。

「そうなんだけど・・・やっぱ、直属の上司の命令だったからさ・・・」

 マコトがシゲルに言う。

「え!・・・うそ?!・・・朋意君とシンジ君は同じクラスだったの!」

 事実を知らなかったミサトが驚く。

「書類に書いてあったでしょ!・・・チルドレンの項、E−13にしっかりと!・・・
 だから、本気かと訊いたんです!・・・本当に全部憶えたんですか!」

 マコトが疑わしそうな目を向けながらミサトに言う。

「そ、それは・・・」

 ミサトが何とか誤魔化そうとしていると、発令所のドアが開いて、リツコが入ってきた。

「ミサト、貴女、日向三尉に何か頼んでたみたいだけど・・・
 その事で、シン君が何らかの処罰を与えるように言ってきているから・・・
 最低でも、戦闘後、副司令の説教を受けて貰うわ・・・
 内容によっては、どうなるか分らないけど」

 入ってくるなり、リツコは呆れながら、ミサトにそう宣告する。

「そ、そんな、チョッとした・・・」

「言い訳は止めた方がいいです!・・・見苦しいですよ!・・・
 人の命の掛った戦闘前なんですからね!・・・悪戯心かなんか知りませんけど・・・
 ワザワザ、連絡を止めて、
周りの足を引張らないでください!!」


 マヤが目も向けずに、ミサトの言い訳を止める

 その声はどうやら怒ってるようだ。

「ミサト・・・何を考えて、何をしたのかは・・・
 あえて訊かないけど(想像出来たから)・・・
 訓告と減棒位は覚悟しときなさい!」

 リツコも怒ったような口調で言う。

「そ、そんなぁ〜」

 ミサトは焦る・・・

 彼女はバレても、マコトによるチョッとした手違いで、
済まそうと考えていたから仕方ない。(ミサト、お前・・・)

「何はともあれ、作戦は考えてるんでしょうね、作戦部長さん・・・
 それさえしてなかったら、どうなるか知らないわよ」

 リツコが言うと、ミサトは冷汗をかきながら言う。

「と、当然でしょ!・・・ちゃ、チャンと考えてあるわよ!
(しまった、指揮が取れればいいと・・・どうしよう)」

 ミサトは慌てて作戦を練り始めた。



「で、聞いて置こうか?・・・今回の偉大なる作戦とやらを・・・お偉い作戦部長様」

 エヴァ初号機の中で、シンが冷たい口調で、嫌味度100%で言う。

『て、敵のATフィールドを中和しつつ、コアにパレットライフルで一斉射よ』

 ミサトが短い時間で考えついたのはそれだった。

「どうして、そのような作戦を考えついたのかも、聞いて置こうか?」

『こ、今回の敵の武器らしき物は、腕のムチのような物と推測がされるわ・・・
 だから、危険が少ないように、レンジ外で攻撃する為に・・・』

 ミサトが説明する。

「と、言うことは、このパレットライフルの弾の特性や、
使徒の予想データを加味して、そうなったと言うことだな」

 モニターのミサトが頷く。

「(本当に、このライフルの弾の特性を理解して、アレだけの時間を使って、
この作戦を考えたのなら、10点もやれんな、百点満点で)・・・
 シンジ君、このように作戦内容を訊けばいいんだ」

 どうやら、シンはシンジに、作戦の訊き方を教えていたらしい。

『うん』

 ミサトとは別のモニターで、シンジが頷く。

 シンジの後ろにはレイがいて、
横目でミサトを見ているようだった。(見張っているのね)

「じゃぁ、いくぞ」

 エヴァ初号機が上に射出されていく。



「(大体、なんで、こんな戦術のいろはも知らないような子供に、
指揮を任せないといけない訳)」

 ミサトはシンジを憎々しげに睨みながら、
そんな事を考えていると、フラッとレイと目線があう。

 ミサトは目線をずらす。

 因みに、シンジは自分の役職を知って以来、独自に勉強している。

 また、学校の勉強は、遅れないようにシンとレイに教えて貰ったりしているが・・・

 元々学者である両親の血を色濃く持つ為なのか、やる気を出したシンジは、
2人に教えられた事を即座に憶え、遅れるどころか、かなりの知識を詰め込ん行った。

 また、探していた戦術書を、ワザワザ、ゲンドウにプレゼントされた為、
『戦術のいろは』くらい充分に知っている。

 と言うか、ゲンドウの直接のプレゼントが、余程嬉しかったのか、
分厚い全68巻を全て何度も読みかえし、今では、愛読書となって居るらしい。

 因みに、こっそり、ゲンドウに、それをプレゼントをする事を勧めたのは、
シンであるらしいが・・・

 その時、ゲンドウの趣味で、別なモノもプレゼントしたらしいが・・・

 そっちは何故か、押し入れの奥であるらしい(短い外伝・・・出かな?)

「クッ(大体、あの娘はパイロットの癖に、待機もせずに、何でココに居るわけ?!・・・
 それに私の事を睨んでいるようだけど・・・私が何をしたって言うのよ!!)」(自覚なし)

 ミサトはそんな事を考えながら、今度はモニターを見る。



 第334号シェルター内
      
 トウジは、茣蓙(ご ざ)の上に体育座りで、ボーとしていた。

 ただ、ボーとしていた訳でなく、シンに言われた事を反芻していた。

「・・・分ってはいたんや・・・
 でも、なんかにあたらんと、やっていけんかったんや」

 トウジは時々そんな言い訳がましい事を呟いていた。

 その横でケンスケは、携帯テレビを見ていた。

「あぁ、やっぱりどこもやってない・・・ったく! 
こんなビックイベントなのに、俺達一般人には生で見せてくれないんだからな」
(いや、普通、そんな危険なモンを生で見せるTV局は無いと思うよ)

 暫く愚痴っていたケンスケはある事を思いつく。

 そして、トウジの方を向く。

「なぁ、トウジ、話があるんだけど」

「なんや?」

 トウジは半ば心ココにあらずだ。

「ここじゃ、チョッと」

「チィ、しゃ〜ないの〜、委員長!・・・ワイ等、便所や」

 少し離れた所に居るヒカリに、トウジは大声で言う。

「もう!・・・先に行っときなさいよ!」

 ヒカリは顔を赤くしながら、叫ぶように言う。



 シェルター内・トイレ

「で、なんや」

 用をたしながらトウジが訊く。

「お前を漢として、頼みたい事があるんだけど」

 トウジの隣で用をたしながら、ケンスケが言う。

「・・・・・・ワイ、全然、漢らしゅーないし・・・」

 トウジは落ち込みながら言う。

「(ウッマズッタ〜)で、でもさ、お前、一応、漢を目指しているんだろ」

 ケンスケは、別方面で攻めてみる。
  
 儚 (はかな)い夢やったんやなぁ〜・・・ワイごとき腐った奴がみるんは・・・」

 どことなく諦めているトウジを、アレコレ言ってその気にさせようとするが、
中々トウジはその気にならなかった。

「(クッ・・・)だからさぁ〜真の漢の戦いって奴を見に行かないか?」

 手を洗いながら、等々こんな事までケンスケは言い出した。

「・・・・・・お前、本当に自分の欲望に忠実なやっちゃのぉ〜」

 呆れながらトウジが言う。

「で、どうするんだ?・・・手伝ってくれるのか?・・・くれないのか?」

 ケンスケが眼鏡を光らせながら言った。



 シェルター内の待避所

「・・・遅いわね」

 ヒカリはトイレに行ったまま、戻ってこない、問題児二人を不信に思った。

「皆、悪いけど、チョッと見てくるわ・・・
 もしもの時は、代わりにお願いね(もしかして、あの二人)」

 ヒカリはそう言って、周りの級友達が頷くと、トイレの方に行く。

「ヒカリも大変ねぇ〜」

「本当に委員長な性格だからねぇ〜」

「可哀相な性分・・・」

 ヒカリの後姿を見ながら、級友達は呟くように話していた。



 シェルターに近い丘にある神社、そこにトウジとケンスケは来ていた。

「うおぉ〜〜〜!! 出てきた!」

 エヴァが出てきた途端、ケンスケは歓喜の声をあげる。

「・・・あんなんの何所が良いんじゃ」

 その様子を見ながら、トウジが呟く。

 暫くしていると、イカのような怪物がやってくる。

「気持ち悪い化けモンじゃの〜(あないな奴と戦っとんか・・・)」



 使徒が一定範囲に近付いてくると、シンは使徒のATフィールドをイキナリ中和しつつ、
コアに向って一斉射をする。

 しかし、使徒には効かず、煙がもうもうと立ち、使徒の姿が見えなくなる。

「馬鹿!・・・あれじゃぁ、相手が見えないじゃない!・・・何考えてんの!」

 ミサトが叫ぶが、周りのオペレーター達は冷たい目で、ミサトを見る。

 それはそうだろう、彼がそんな馬鹿な事をしたのは、
その『馬鹿』と叫んだミサトの考えた作戦通りなのだから仕方ない。

「シン君!・・・そこから急いで離れて!・・・そのライフルは捨てても良い!!」

 シンジが叫ぶと、シンは言われた通り、その場から離れた。

 その瞬間、初号機の居た所に光のムチが振り回される。
                  
 シンはライフルを使徒に投げつけて、牽 制(けん せい)>をする。

「あの大馬鹿!・・・何で武器を捨てんのよ!!」

 またミサトが叫ぶ。

「僕が命令したからです!・・・勝手に人を『馬鹿馬鹿』言わないでください!」

 モニターを見ながらシンジが言う。

「何でそんな命令を出したの!」

 ミサトは食って掛かる。

「役に立たない武器を持って傷付くよりも、身軽になった方が良いからです!」

 ミサトの方を見ずにシンジが言う。

「役に立たないってどう言う意味よ!」

 ミサトはシンジの肩を掴んで自分の方を向ける。

「邪魔しないでください!・・・考えが纏りません!」

 手を振り払って、シンジが言う。

「何ですって〜〜!!(このガキが〜〜)」

「作戦部長は黙ってて下さい!・・・これは戦闘指揮部長からの要請です!」

 つまり、同格同士、しかも、戦闘中では、上の権利を持つ者からの命令であるが、
使徒に復讐すると言う事に固執しているミサトにとっては、
年下のガキから言われた駄々にしか聞えない。(どっちが駄々なのか・・・)

「!!(このぉ〜)」

 ミサトは拳を振り上げようとするが・・・

「ミサト!・・・前回、話したことが分らないなら、
即刻、ここから、出て行きなさい!!」

 リツコに後ろから怒鳴られて、拳を上げるのを止める。

 そして、よく見れば、周りの人間も、ミサトを睨んでいた。

「クッ(私が何をしたって言うのよ)」

 ミサトのやった事・・・他人の足を引張ろうとし、ロクな作戦を考えず、
実際に、その作戦で戦っている者の悪口を言い、更に指揮妨害である・・・

 ミサトは自分が何をしてたか自覚が無いらしい。

 ただ、シンジを憎々しげに睨んでいただけだ。



「なにやってんだ?・・・発令所で・・・な!」

 ミサトがシンジに食って掛かってた為、それに気を取られたシンは隙が出来てしまった。

 その隙を見逃す使徒ではなかった。

 即座に初号機の足を掴んだ使徒が、初号機を投飛ばす。

「しまった!!」



 某所・・・

「鈴原、相田君!・・・何してんのよ!・・・はぁ〜はぁ〜」

 丘を駆け登ってきたヒカリが、息を切らしながら言う。

「な!・・・委員長!・・・何でココに」

 ヒカリの姿を見て、トウジが驚く。

「貴方達が、トイレから全然帰って来ないから、不信に思って中を見て、
ダクトが開いてるのを知て、外にでてるのが分ったから連れ戻しに来たのよ!・・・
 いったい、何のつもり!!」

 ヒカリが怒ってトウジを問いただす。

「そ、それはケンスケが、死ぬ前に生で見たいっちいうから」

「何考えてんのよ!・・・2人とも!・・・
 本当に死ぬ気!・・・早く戻るわよ!!」

 ヒカリが怒って怒鳴ると、ケンスケがカメラを覗きながら、叫ぶ。

「わわわわぁぁぁ〜〜〜〜
 こっちに来るぅ〜〜〜〜!!!」


「「へ?」」

 トウジとヒカリがそっちを見ると、紫色の巨大な何かが飛んできた。

「「うわぁ(きゃぁ)ぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」





 発令所

「あらあら、ちゃんと指揮ぐらいとりなさいよ・・・それとも、代わって上げましょうか?
(そうよ、子供はシェルターで震えていればいいのよ!)」
(・・・パイロットも子供って覚えてる?・・・ミサトさん?)

 その原因を作ったミサトが、嫌味ったらしくシンジに言うが、
当のシンジは完全にミサトを無視する事にして、モニターを凝視している。(邪魔だからね)

「クッ(ガキが指揮を取るから)」(いや、ミサト、アンタが完全に悪い)

 ミサトはシンジしか睨んでないので分らないが、
忙しい3人のオペレーター以外は、皆、ミサトを睨んでいる。

「(葛城作戦部長・・・見損ないました)」

 ついでに、某眼鏡オペレーターは、ミサトに憧れを、
持たなくなり始めたようである。



「クッ!・・・マズッタなぁ〜・・・なに!」
               
 エヴァの指の所に、トウジ達が 蹲 (うずくま)っていた。

 男連中の顔は泣きそうであったが、ヒカリはどこか打ったのか、
少し離れた所で倒れていた。

 そこに使徒の光のムチが襲ってきたので、エヴァでそれを掴み、トウジ達をかばう。

「クッ!・・・シンジ君!・・・馬鹿共と委員長が居る!・・・指示を!」




「な、なんですってぇ〜!!・・・そ、そんな!」

 その声に民間人が居ると知り、ミサトはどうして良いか咄嗟に分らず、
半ばパニックになって、おろおろするばかり・・・

 しかし、シンジは、瞬間的に身体が動いた。

「日向三尉!・・・兵装ビルは!」

 シンジが叫ぶ。

「62%稼動できます!」

 咄嗟にマコトが答える。

「伊吹三尉!・・・それらの火力が最も集中する点は!」

 マヤがスグに割り出す。

「比較的傍だと、D−13ポイント東です!・・・
 後、少し離れて、S−21ポイント西です」

「青葉三尉!・・・S−21ポイント西をエヴァの視点に!」

「了解!!」

 あまりも素早いシンジの対応に、パニクッてたミサトはボケッとしている。

「兵装ビル、合図とともに何時でも打てる準備を!!」

「「「はい!」」」

「シン君!・・・示した所に使徒を投げて!!・・・三人を逃がして!!」

『それが・・・1人は気絶している!・・・多分自力で3人とも逃げれない!・・・
 使徒の足止めをしてもらっている間に、このプラグに入れたほうが!』

 シンが自分の意見を言う。

「任せる!・・・皆!・・・なるだけ使徒の足止めを!」

「「「「「「分ってます!!!」」」」」」

 オペレーターズ(&下の階のオペレータ達も)が返事をする。

「そんな!・・・一般人をエントリープラグに入れるなんて!」

 いままで、ぼ〜っとしていたミサトが驚く。

「え、越権行為よ!!・・・戦闘指揮部長!!
(重要性が分ってるの? このガキが!!)」

 シンジにミサトがそう怒鳴る。

「僕が責任を持ちます!・・・シン君!」

 シンジがそう言った時、ミサトの口元が一瞬だけ持ち上がったのを、
レイは見ていた。

 そして、レイは、携帯を取り出し、何所かに連絡をしている。



「おらぁー!!」

 シンが使徒を投飛ばすと、兵装ビルのミサイルが使徒に向ってミサイルを打ちまくり、
足止めを開始する。

 使徒が足止めされている内に、シンがエントリープラグを半分出して、
ワイヤーを使って降りていく。

「この馬鹿共!!」

 シンの言葉に、トウジとケンスケは縮み上がる。

「さっさと、ワイヤーに掴って、あそこに乗れ!・・・
 ドロを落し、その靴は捨てろ!・・・
 時間がない!・・・クッ、委員長は意識不明か」

 シンはヒカリを抱き上げつつ、ワイワーを使って上り、
戸惑っているトウジ達から、泥まみれの靴を奪って捨てると、
備え付けの非常用のホースで、更に泥を落させて、エントリープラクに叩き込む。

「あぁ〜〜!!・・・か、カメラが!!・・・完全にお釈迦に!!」

「な、何や!・・・み、水?!」

 エントリープラグ内に半分ほどたまっているLCLに驚く二人。

 その間に、自分とヒカリの泥を流して、シンはヒカリを抱えたまま、
エントリープラグに入ってくる。

「グダグダ言うな!・・・オイ!・・・そこのジャージ馬鹿兄貴!」

「え?・・・ワ、ワシのことでっか?」

 トウジが驚いたように、自分に指を指すと、シンはヒカリを渡す。

「へ?」

 トウジはヒカリを受け取って、訳が分らないと言う顔をする

「どっかにしっかり掴りつつ、支えてろ!・・・
 彼女を守れ!・・・少しは俺に漢を見せろ!」

 シンの目は真剣そのものだ。(若干、その瞳孔に赤味が差している)

「は、はいぃ!」

 トウジは言われるままに、ヒカリの身体を支えつつ、掴れるとこに掴る。

 シンは即座にパイロットシートに座るとケンスケを見る。

「それから、眼鏡!」

「へ?」

「死にたくなければ、その辺に黙って掴ってろ!」

「はい!」

 ケンスケも掴ると、再びLCLで満たされ始める。

「「わわわ!」」

「気にするな!・・・呼吸の出来る水だ!・・・安心してリラックスしろ!」

 シンの言葉に、二人は思いっきり、LCLを肺に入れる。

「「ウッ・・・」」

「不味いのは我慢しろよ・・・」

 そして、再び起動させると、使徒が兵装ビルのミサイルを受けつつ近付いて来る。



「エヴァ初号機再起動!・・・シンクロに若干の乱れあり!」

 マヤが報告する。

「異物を三つも入れるから・・・撤退よ!・・・るーと」

 ミサトが指示を勝手に出そうとするが・・・

「シン君!・・・速いのはムチだけだ!・・・本体はのろまだ!・・・
 後二分チョイでやれるか?!」

 シンジがシンに言う。

「な!」

 ミサトがまた驚く。

『分かった・・・一分半で決めてやる!』

 シンがプログナイフを装備した。

「何故!」

 ミサトがシンジに言う。

「見た感じ、あの使徒はエヴァが逃げれば、追跡してきます!・・・
 この中に入れることは、世界の終わりなんでしょ!・・・
 だったら、シン君に任せます!・・・
 それにあそこの近くにはシェルターがあるんです!
(委員長達が出てきたと言う事は傍に・・・)」

「でもね!」

いけます! シンクロ率、76.23%、誤差±16.3、
シンクロやハーモニクスに乱れはかなりありますが、何とか大丈夫です!」

 ミサトの言葉をさえぎるようにマヤが叫ぶ。

「クッ」

 自分の意見が却下されたミサトは言葉に詰る。




 シンの腕を引張って、ケンスケは泣きそうな顔をしながら言う

「なぁ、なぁ、朋意、大人の人は逃げろって言ってるんだ!・・・無理だろ!・・・
 なぁ、なぁ、逃げようぜ!・・・俺はまだ死にたグェ!」

「煩い!・・・寝てろ!・・・集中の邪魔だ!」

 一々煩いケンスケに、青筋を立てたシンが坐ったまま、
肘打ちか何かを鳩尾辺りに放って、一発で気絶させる。

「へ?」

 トウジは驚いてそれを見る。

「オイ!・・・ジャージ!」

「は、はい!」

「死にたくなければ、その娘を、委員長を守りたい、
守って欲しいとだけ、念じておけ!」

「はいぃ!!(守っとくれぇ〜!!)」

 トウジはシンに言われるまま、そう念じていた。



 初号機が左手のプログナイフで使徒のムチを弾きながら、
(ナイフにはATフィールドが纏わりつかせてある)使徒に近付くが、
最後は使徒のムチが初号機の腹部に刺さる。

『クッ・・・コンノヤロ〜〜〜!!!』

 シンは痛みを叫びで誤魔化し、使徒のコアを右手で掴み、押し込んでいく。

 コアにヒビが入っていき、ねじ込まれていく。

 使徒は逃げたくとも、腕であるムチを押さえつけられ、逃げれない。

 使徒が、断末魔を上げるように悶えている。

 そして、シンが宣言したよりも少し早く、一分二十六秒後、使徒は完全に沈黙する。

『ミ、ミッションオーバーだ・・・今回は、回収をたの・・む・・・』

 その通信とともに、シンの意識が消えた。

「パイロットは!・・・一般人は!」

 シンジが訊くと、シゲルが答える。

「全員無事のようです!」

「では」

「その前に!・・・指揮部長は、越権行為の責任を取るって言ったんだから、
独房にでも、入ってもらいましょうか?」

 シンジの声をさえぎってミサトが言う。

 何時の間に呼んだのか、彼女の後ろには何人かの保安部員が居る。

「今は、回収が先です!・・・シン君の無事が分りしだい」

「口で言ってもわかんないなら」

 シンジの方を見て、戸惑い顔の保安部員達を、
シンジにけしかけようとするミサトを、リツコが止める。

「ミサト・・・止めときなさい・・・
 彼等はよほどの事がない限り、そんな事はしないわよ」

 リツコにそう言われたので、ホッとした保安部員達は背筋を伸ばして、
リツコの後ろに並んで立つ。

「り、リツコ・・・(折角のこのチャンス)」

「行くのは貴女だけよ」

 レイが口を開く。

「何を言っているのよ!・・・アンタにソンナ権限は!」

 ミサトが、レイを睨むように叫ぶ。

「副司令から、リツコさんに」

 ミサトを無視しつつ、レイは携帯をリツコに渡す。

「はい・・・ミサトがそんな事を・・・
 はい、あれは、司令からも許可が・・・分りました」

 携帯を切りつつ、リツコがミサトを睨む。

「な、何?」

 ミサトが引く。

「葛城一尉を独房に連れてきなさい・・・
 副司令からの直々の命令です」

 リツコが保安部員達に冷たく言う。

「な、なぜ!」

 自分の使徒に対する復讐行動の邪魔になると思われるシンジを、
引きずり落す事しか考えてなかったミサトは、訳が分らないと言う顔をする。

「貴女ね・・・自分がやった事の意味が分ってないの?・・・
 連絡妨害、しかも緊急召集の・・・」

 リツコが頭を押えながら言う。

「そ、それは、チョッとした」

 言い訳をミサトは始める。

「冗談では済まされないのよ!
 世界の命運がかかっているって、
分ってんの!」


「じゃぁ!・・・戦闘指揮部長の越権行為は!」

 既に初号機の回収の指揮を取っているシンジを、ミサトは指差す。

「越権も何も・・・司令と副司令も、あの指示は人命救助及び、
            
使徒殲滅の判断として、妥当(だとう)だとし、事後承諾を出したわ・・・
 人の事より、少しは自分のしでかした事を考えなさい!・・・
 貴女は、人類を存亡を賭けた戦いを・・・
 いったい何だと思っているのよ!!
 連れてって!」

 ミサトは自分が呼んだ保安部員達に囲まれる。

「ちょ、ちょっと!」

 ミサトは、大学からの親友であるリツコから、
そんなふうに言われるとは思っていなかったので慌てる。

「葛城一尉、IDと銃を・・・従って貰えないならば、実力で」

 リーダー格の男が言うと、保安部員達が一斉に銃を向ける。

 その目はマジである。

「わ、分ったわよ」

 ミサトは銃と身分証を渡し、保安部に連れて行かれながらも、
シンジの後姿を睨んでいた。(懲りない人)



 シンとヒカリは病院に入院する為に運ばれていき、トウジ達は検査後、
暗い部屋に連れてこられた。

 泥まみれの靴を入れなかったのが幸いして、
感染症の心配は殆どないようであった。
        
 目の前に居る黒い服を着た男(ゲ ン  ド ウ)>が、殺気のこもった状態で、二人を睨んでいる。

 無論、二人は、ビビっている。

 それだけでなく、同じように殺気を放っている保安部員の黒服の人達が、
トウジ達の後ろに20人程居た。

「では、君達が、勝手にシェルターを出た理由を聞こうか?」

 その男の隣に居る白髪のお爺さんが、二人に訊く。

「トウジ!」

「ケンスケ!」


 何故か一緒に来ている父親が二人を怒鳴って促がす。

「わ、ワイは、お、漢の戦いが見たくって・・・」

 トウジが言うと、冬月は眉をピクンと動かして、近付いてきて、もう一度静かに尋ねる。

「なんと、言ったかね?」

「は、はい、漢の戦いを」

 バキ!!

 トウジがそこまで言った時、冬月が思いっきりトウジを拳で殴る。

 トウジは吹き飛び、父親に起こされる。

「そんな事で・・・そんなくだらん我儘で・・・
 君はシェルター内のクラスメイト達や君達を守る為に戦っている者を、
死に追いやろうとするのかね・・・
 しかも、下手をすると、人類全体が滅ぶのだぞ・・・」

 冬月にそう静かにいわれ、トウジは自分のやった事の重大さに気付く。

「で、そっちの君は?・・・
 ただ戦いをカメラに収めたいからなんじゃないだろう・・・」

 あくまでも冬月はあくまでも優しく言う。

 ケンスケは何を勘違いしたのか、
これをエヴァのパイロットになれるチャンスだと思った。

「は、はい!・・・ワタクシは、
是非あのロボットのパイロットにならせて頂きた・・・」

 ドガ!バキ!!ドゴ!!

 ケンスケがそこまで言った時、トウジを殴る時でさえ、表情を崩さなかった冬月が、
憤怒の顔で、ケンスケの胸倉を掴み、両頬と腹、計三発も殴る。

 眼鏡が吹き飛び、割れていた。

 冬月は本気で怒っていた。

 いつも温厚で、あまり怒った事は無く、ニコニコと日頃からしている冬月・・・

 そんな副司令の憤怒の形相を見るのは、初めてだったので、
そこにいた全員(ただしゲンドウは除く)は声も出ない。

「フザケルのも大概にしろ!!」

「ひ、ひぃ〜」

 冬月は胸倉を掴んだままで、ケンスケに怒鳴った。

「そこに居た少年の言い訳も、許せんかったが、まだ耐える事は出来た、しかし、
貴様のは何だ!
 エヴァのパイロットになりたいだと!
 もう一度言うぞ!
 フザケルのも大概にしろ!
 彼等が! エヴァのパイロット達が! 
 好きでパイロットに成ったとでも、
思っているのか!!
 彼等はただ、適性があると言うだけで、
幼い頃から、その自由を奪われて、
やらされてきているんだぞ!! 
 その命を削ってだ!!
 我々が好き好んで、
年端もいかぬ子供達自由を奪って、
そんな事をやっていると思っていたのか!!
 我々が好きで彼等をエヴァのパイロットに、
していると思っているのか!!
 そんなくだらん理由で貴様は、
戦闘中にシェルターから、抜け出し!
 あまつさえ、戦闘の邪魔をし、
パイロットやクラスメイトの命を、
危うくしたと言うのかあぁ〜〜!!」


「ひ、ひぃ・・・」

 ケンスケは完全にビビって、半泣き状態でいる。

 そして、後ろからゲンドウが冬月の肩に手を置くと、
息を切らしながら冬月はケンスケを離す。

「落ち着け、冬月」

「はぁ!・・・・・・す、スマン・・・
 あまりにもふざけた事を言われたので、切れてしまった・・・
 すまなかったな、鈴原君、相田君、君等のお子さんを殴ってしまった・・・」

 ゲンドウに肩を叩かれて、落ち着きを取り戻した冬月がすまなそうに言う。

「いえ、代わりに殴って頂いてありがとう御座います!
 これで、こいつも、少しはモノを考えるようになるでしょう!」

 鈴原の父親はトウジを片手で支え、逆に敬礼をしながら、礼を言う。

「ウチのは、この愚息は・・・殴り殺して頂いてもかまいませんでした!・・・
 何をふざけた事を言ってるのか・・・帰っても私から折檻しておきます!・・・
 おら、ケンスケ、立たんか!・・・帰ったら、説教だ!!」

 ケンスケの父親は、額に青筋を立てて、
まだ腰を抜かしているケンスケの襟首を掴んでいた。

「では、さがれ、それと相田君のカメラは没収だ、いいな」

 ゲンドウが言うと、一礼をして、去っていく・・・

 ケンスケは引き摺られながら、父親に時々『自分で立って歩け!』と言われて、
蹴られていたが・・・

「フ・・・お前が、あそこまで切れるとはな・・・」

 二人っきりになった時、ゲンドウが冬月に言う。

「・・・あそこまで愚かな事を言われればな・・・
 それに、エントリープラグの中で、
いの一番に泣き言を言っていたくせに、
『パイロットになりたい』などと・・・
 単なる英雄願望だけ、実際に乗せれば、戦闘に役に立つどころか、
フィードバックによる痛みに驚いて、周りの足を引張って、
余計な犠牲を出すのは目に見えているからな・・・
 それよりも、俺はお前が怒り出さなかったのが意外だったぞ」

 不思議そうに冬月が言う。

「フ・・・俺が怒鳴る前に、お前が怒り殴ったからな・・・
 機を逃したのだ・・・
 しかし、何年ぶりだ?・・・人を殴るのは」

 ゲンドウが少し呆れたように言う。

「さぁな・・・ユイ君が消えた時のあの晩に、
お前と殴り合ったの以来じゃないのかな?・・・
 まぁ、今回はあれほどキレなかったが・・・」

 つまり、冬月は、この十年間、人を殴った事はなかったらしい。

「そうだな・・・・・・今日は、飲みに行くか?・・・
 勿論、奢りますよ、冬月先生」

「偶には良いかも知れんな・・・酒も・・・」

 そして、2人も外に出て行く。

                             続く




あとがき

さて、これからどうなるんだろう?

シンジ君は、家出しないだろうし、なぜかミサトが更迭されたし・・・

また家に帰れないね・・・ミサト・・・

前回から考えると、最低でも、二週間以上帰ってないんですよね・・・

はぁ! そう言えば、ペンペン・・・生きているだろうか・・・(^^;)

で、今回の状況を考えて・・・・・・・フフフ ( ̄+― ̄)キラーン

次回・・・どうなるんだろう?

そんな事を考えています。

しかし・・・『奴』ですか・・・(前回のキャラコメ参照)

この異常に『アスカらしくない言い回し』の『タイプライターで打たれた手紙』も、
誤魔化す為のフェイクと見た!

フフフフフフ・・・イイ度胸じゃないか・・・こんなアカラサマナ・・・



アスカ「く・・・」
シンジ「あの盗聴機、とりもちさんだったのかな・・・」
アスカ「人の家に盗聴機を仕掛けるだなんて、なんて奴よ!」
レイ 「・・確かに問題のある行為ではあるけれど、」
アスカ「とは言っても、LASを書かす為には、警察に突き出すわけにも行かないし・・ぶつぶつ・・」
シンジ「あはは」(苦笑)
レイ 「・・ところで、冬月副司令が目立っているわね」
シンジ「うん、そうだね。元々あまり目立たなかった人だったから、喜んでるかな?」
レイ 「ええ、この前喜んでいたわ」
シンジ「いい方向で目立つとやっぱり嬉しいね」
アスカ「・・・ぶつぶつぶつ・・・」
レイ 「そうね・・・対して、鈴原君と、特に相田君が悪い方向で印象的ね」
シンジ「うん・・・二人とも親友なだけに複雑な気分だよ」
レイ 「碇君は立派に指揮をしているのに・・・」
シンジ「ま、まあ、それは、僕の方がだから・・」
レイ 「・・そう・・指揮と言えば葛城3佐のが凄いわね。」
シンジ「うん・・・ミサトさん邪魔しかしていないね」
アスカ「・・ぶつぶつ・・・」
レイ 「日向2尉も幻滅してしまうし・・・」
シンジ「ミサトさんがどうなるのか心配だなぁ・・・」
レイ 「そうね、」
アスカ「・・・ん?ミサト・・確かにとんでもない事になってるわね・・・」
シンジ「うん・・・」
アスカ「まあ、自業自得な部分が多いわね、3バカトリオの二人もね」
シンジ「そ、それを言ってしまったら・・・」
アスカ「はっ!あ、アタシはだ、大丈夫よね!?」
レイ 「・・それは、とりもちにしか分からないわね、」
アスカ「・・アタシが登場するまでに何とかしなければ・・ぶつぶつぶつ・・・」
シンジ「ま、まあ頑張ってね・・」


ミサト「なによこの扱いは〜〜!!?」
ミサト「何でアタシがこんないやな奴になんなきゃいけないのよ!!」
日向 「葛城さん・・」
ミサト「・・・日向君・・あなたも私を見捨てたのね!」
日向 「ちっ!ちがいますよ!!」
ミサト「こないで!!」
日向 「か、葛城さん」
ミサトは日向をおいてどこかへと去っていった。
日向 「葛城さん・・・」(滝涙)


ミサトが部屋に入ってきた。
ミサト「頼んでおいたものは?」
男  「これが、目標の行動パターンです」
ミサト「御苦労様」
男  「いえ、」
ミサト「ふむ・・・」
男  「・・・」
ミサト「地図を貸してくれる?」
男  「はい、どうぞ」
ミサト「ここと、そこ、それと・・・ここにも狙撃班を配置して」
男  「分かりました」
ミサト「目標を生け捕りにするのが目的よ、麻酔銃を先ずは使用して、
    どうしてもと言う場合は、足を撃ち抜いても構わないわ」
ミサト「ものには限度ってものがあることを教えてやるわ、」
男  「決行はどうしますか?」
ミサト「そうね・・・準備が出来次第で良いわ」
男  「分かりました。」