ネオエヴァ〜友を想う心〜

          01
     〜作戦部長と指揮部長〜



 地軸がゆがみ、海面が上昇した為、完全に海の一部となってしまった街の中。

 その海から生えているビル郡の中を巨大な生物が泳いでいた。

 その生物は泳ぎながら、ある都市を目指していた。

 その生物の上陸予想地点には、大規模な戦車隊が配置されていた。

 その生物が大砲の有効射程圏内に入った途端、
今までの静寂を打ち破るように、戦車隊の苛烈な砲撃が始まり、
その後に控えているミサイル車隊からも、強力なミサイルが発射された。

 その様子を遠くからモニターで見ている男達が居た。

「十五年ぶりだな・・・しかし・・・少し早いな」

 白髪の男が、自分の前に居る黒い服を着た男に話し掛ける。

「あぁ・・・しかし、間違いない、使徒だ・・・(折角、早く呼寄せたのにぃ〜・・・)」

 黒い服の男は答え、続けて言った。

「来るべき時がついに来たのだ。
 人類が避ける事の出来ない、試練の時が・・・
 そして・・・俺の償いの始まりの時が・・・」



 誰も見当たらない街中にアナウンスが響いている。

『緊急警報、緊急警報をお知らせします。
 本日十二時三十分、東海地方を中心とした関東中部全域に、
特別非常事態宣言が、発令されました・・・
 住民の方々は速やかに指定のシェルターへ、避難してください・・・
 繰り返しお伝えします・・・』

 誰も見当たらない街中で、1人の少年が公衆電話を使っていた。

「ちぇっ・・・電話もダメかぁ、モノレールも止まってしまったし・・・
 まいったなぁ〜こんなトコで、足止めなんて・・・仕方ない、後、二駅くらい歩いてみるか」

 少年は受話器を置くと、歩き出す。

「でも、非常事態宣言なんて・・・戦争でも始ったのかな?・・・まさかね・・・」

 少年は歩きながら、封筒を取り出す。

「(でも、父さんは、いったい今になって、僕に何の用があるんだろう・・・
 僕を十年以上も、親戚だって言って、あんな、殆ど知らないような人の所に、
預けていったまま、ほっといたくせに)」

 そう言って、同封されていた写真を見ると、
どう観ても恋人募集の為の写真としか思えない写り方をした女性の写真である。

 半分ほど見えている胸元に、御丁寧にも矢印を書き、『ココに注目』と書いてある。

「・・・まさか、新しいお母さんとか言わないよね・・・
 嫌だよ、こんなあからさまに、『アパーイケイケ』系は・・・」

 少年は何時の時代の言葉かわからないような言葉を吐く。(とっても失礼ですね)

 少年が封筒を仕舞い、歩いていると、近くを戦闘機が飛んで行く。

「はぁ?」

 次の瞬間、直ぐ上を巡航ミサイルが飛んで行く。

「な、何だ?!」

 少年が、ミサイルの飛んでいった方向を見ると、
まるで一昔前のアニメに出てくるような巨大な怪物が居た。

「な、なんだよ・・・アレは」

 少年は唖然とする。(ついて来れてないようです・・・普通はそうだ)

 そして、少年の近くに、怪物に叩き落された軍用ヘリの破片が、爆風と共に、落ちて来る。

「わ、わわ、わぁ〜」(やっと現状を理解したようだね)

 少年は慌てて破片と爆風を避けようと腕で身を隠そうとするが、出来るわけがない。

 しかし、少年を爆風から庇うように、一台の車が間に入る。

「へ?」

「シンジ君ね! 早くこっちに乗って!」

 その車に居たのは、先ほどの写真の女性だった。

「え? あ、ハイ、か、葛城さんですか?(た、助かった)」

「いいから! 急いで!」

「あ! ハイ!」

 その女性、【葛城ミサト】に言われて、シンジと呼ばれた少年は慌てて車に乗る。

「しっかり掴っててね!!」

 ミサトは車を急発進させる。

「ゴメンね、遅れちゃって」

「いいえ、僕の方こそ助かりました」

 そう言いながら、シンジは怪物の方を見る。

「国連軍の湾岸戦車隊と、ミサイル部隊がアッサリ全滅したのに、
戦自の方はまだ諦めないのかしら?」

 ミサトはそう言いながら、車のスピードをドンドンあげる。

「あの〜いったいなんですか? アレ」

 シンジが訊く。

「状況のわりに、意外と落ち着いているのね」

「そ、そうですか?」

「アレはね、【使徒】よ」

「使徒?」

 シンジが訊き返す。

「今は詳しく説明している時間は、っと! ないの!」

 ミサトは答えつつ、流れミサイルや、爆風を避けながら車を進めていく。

 凄いドライビングテクニックである。

 ただ、シートベルトをしてないシンジは、あっちこっちにぶつかりながらも、
懸命にミサトの運転の邪魔にならないようにしているが・・・(惨い)



 ネルフ本部発令所

 そこには、戦自から来た幹部三人が、指揮をとっていた。

「ミサイル攻撃でも歯が立たんのか!」

 幹部の一人が言う。

「・・・さっきも、国連軍(U N)のミサイル車隊のミサイルを、
アレが直撃で受けていたのを見てたんじゃなかったか?」

「私・・・その時のより、今のは威力が無いと思うの」

「そのようね・・・元々、UNのお古だしね」

 どこからともなく、あげあしを取るような声が聞えてくる。(誰でしょう)

「・・・ぜ、全弾直撃のハズだ!」

「なんて奴だ!」

 声を無視し、別の幹部が叫ぶ
 
「どう贔屓目(ひいきめ)に見ても、俺には三割もマトモに当ってない様に見えるがな」

「えぇ、そうね・・・被害が逆に多いわ・・・(使徒のよりも・・・)」

「確かに、残りは全て一般建築物や道に流れていってるわね・・・人が居なくて良かったわ」

 また響くあげあし取りの言葉、幹部達は周りを見るが、それらしき人物達は見えない。

「えぇ〜い! 何所のどいつだ!」

 しかし誰も答えず、それどころか、絶望的な報告が流れる。

「戦闘機、戦闘ヘリ部隊、壊滅していきます!」

「クソ! こうなったら奥の手だ!」

「そうだ! 戦自の意地を見せてやる!」

「目にモノ見せてくれん!」

 完全に血圧の上がっている幹部達。

 誰に見せる気であろうか?

「しかし、あそこでは・・・」

 オペレーターの1人、ロン毛の【青葉シゲル】が忠告するように言う。

構わん! 今の指揮権は戦自にあるのだ!
 ネルフなんぞの指示は受けん!

 そう言って、幹部は自分達のところにある回線から、ある所に連絡を取る。
  
 拙 (まず)>いな・・・あの付近のシェルターの方はどうなっているのだ?」

 先ほどの白髪の男【冬月コウゾウ】が黒服の男【碇ゲンドウ】に小声で言う。

「あぁ、シェルターの住人は特殊ルートで、極秘裏に別地域に脱出させるのは完了したが・・・
 迎えが遅れた所為で、あいつが、まだ居るはずだ(ひ、非常に拙い!!)」

 どことなく渋い顔をしている。

「先日来た葛城君が上手く拾ってはいるらしいが・・・
 こうなったのは、お前がこの間、彼に言われるまで、
彼を呼ぶのをスッカリ忘れていたからだぞ」

「ウッ・・・そ、それは、忙しかったからで・・・
 と、兎も角、少しは時間を稼がねばな」

 ゲンドウは背後から、かなりのプレッシャーを感じていた。

 そして冬月とゲンドウが、N2兵器を使った場合による付近のシェルターの被害などを、
戦自の幹部に説いたが、(戦自には、住人を脱出させた事は教えてないので、
シェルターには避難している住人が居ると思っているハズだが)戦自の幹部達は聞く耳を持たず、
 
N2兵器を、躊 躇(ちゅうちょ)>なく使用する命令を下した。
(電話の先の部下もためらっているようだったが・・・)

 ゲンドウは思いっきり歯軋りをして言った。

「ネルフがあの兵器を、あそこで使う事を止めた事は記録させて貰うぞ!」

「ふん! 奴を倒せれば、単なる尊い犠牲だ」

 戦自の幹部達はそう言い返した。

 勿論、既に、この映像と音声は記録され、同時に国連や政府にも提出されているのだが・・・
(誰かさんの指示で)

 兎に角、ゲンドウ達は言い争いをする事で、貴重な数十秒を稼ぐ事が出来た。

「後は、彼女の運転技術にかけるのみだな」

「あぁ・・・(だから、後で睨まんでくれぇ〜〜)」

 ゲンドウが冷汗を流し、顔を青くしながら、冬月に答える。



 ミサトの運転する車は、後ろからの爆風に軽く押されたが、
戦自のN2爆雷の投下が予定より遅れたのと、非常時と言う事で、一般車道なのも関らず、
ミサトが、メーターの最高速295k/hを、余裕でオーバーしているスピードを、
出していたおかげで、かなりの距離が稼げた。

 そのおかげで、N2爆雷による爆風の影響で横転する事も無く、
ネルフに向って突っ走る事が出来ていた。(かなりの改造をしているようだ)

「あやぁ〜『シンジ君を回収しだい、後を見ずに突っ走れ』って、リツコが言ってたけど・・・
 こう言う事を見越しての事だったのね・・・戦自も無茶をするわ・・・」

 安全圏内で、後の爆発後の風景をバックミラーで、
軽く確認したミサトが、呟くように言った。

 ミサトはシンジの方を見てみると・・・

 必死にシートベルト(着けてない)を、握り締め、
(着けようとした格好で)目を回しているシンジがいた。

「め、目がぁ〜・・・頭がぁ〜・・・」

 気絶はしてないようだ。(惨いなぁ〜)

「あちゃ〜・・・ま、後は直線だから、大丈夫ヨン!」

 そう言いながら、ミサトは携帯のスイッチを入れる。



「わははは!!!」

「見たかね!」

「コレが『我々の』N2爆雷の威力だよ!」


「これで君の新兵器の出番はもう二度とないと言う訳だ!」

 一つの街と、付近にある三つの民間人を収容したシェルターを、
吹飛ばすような攻撃をさせて、大威張りで言う戦自の幹部達・・・

 後の事を考えているのだろうか?

 この攻撃をさせられた戦自のパイロットは、その日の内に、
『もう、守るべき民間人を平気で殺さねばならない戦自では、やっていけない』と、
辞表を提出し、戦自を去って、腐った戦自の将官や政治家を批判するルポライターになったそうな。

 ゲンドウはそんな事を言われながらも、別の事を考えていた。

「(シンジは無事だろうな・・・そうでなければ、お、俺の償いがぁ〜
 それに・・・ がぁ〜・・・こいつ等・・・覚えてろぉ〜!!)」

 そんなゲンドウを他所に、眼鏡をかけたオペレーター【日向マコト】が言う。

「爆風などの電波障害の為、目標確認まで今しばらくお待ちください!」

「あの爆発だ、ケリはついている!」

 戦自の幹部達は踏ん反り返って、偉そうに言うが・・・

「爆心地にエネルギー反応!!」

「「「!!!」」」

 マコトの報告に驚愕する幹部達。

「な! 何だと!」

「そんな馬鹿な!」


 慌てる幹部達・・・

「いや、そんなもの、N2兵器の残留エネルギーに決っておる!」

 幹部の1人が言い切る

「アレにそんなモノが、あのレベルであると言うデータは、一切無かったが?」

 仕様書を良く読んでいる幹部が言う。

「し、しかし・・・そうでないなら、なんなんだ?!」

 言い争いをしている幹部を他所に映像も回復していく。

「映像回復しました! 中心地、映像出ます!」

「「「なぁ!!」」」

 そこには、N2爆雷が直撃(頭部近くで爆発したのは確認済み)したはずなのに、
平気な顔?で立っている使徒の姿があった。

 平然と周りを見ている。

 ただ、表面が少し焼けて、仮面のような顔の下にもう一つの顔が見えているが・・・

 ついでに、マコトはゲンドウに何かを小声で報告している。

「馬鹿な・・・」

「我々の切り札が!!」

「街を住人ごと犠牲にしたのだぞ!」(ヤッパリ分っててやったのね)

「なんて奴だ!」

「「「バケモノメ!!」」」

「だから、うち司令が、無理だと教えてやったのに・・・(一応、無事だったようだね)」

「無理に使うから・・・(大丈夫だった・・・良かった)」

「無様ね・・・(ミサトの車、改造してて良かったわ・・・でも、彼、大丈夫かしら?)」

 また何所からか声が聞える。

 実は灯台下暗しの所に、三人ほど、直に坐っている。(完全に死角の位置だな)

 戦自の幹部達は青筋をたてながら、周りを見ているとゲンドウが口を開く。

無理矢理N2爆雷を、市街地に投下・・・
 その結果、シェルターごと、守るべき民間人を・・・
 どうするおつもりですかな?」

 ゲンドウにそこまで言われた時、幹部達はある事を思い出す。

「い、碇君、先ほどの記録だが・・・」

「やっぱり、抹消してくれんかね」

 保身の為にゲンドウに恐る恐る訊く。

「問題ありません・・・ニヤリ・・・
 既に国連本部の方にも、政府にも・・・
 しっかりと記録がリアルタイムでいっております・・・ニヤリ

 ゲンドウは絶望的な答えを返す。

 しかも、先程まで電波障害の為、連絡の取れなかったミサトから、
『【碇シンジ】君を無事保護しました』と言う連絡があったので、
満面の笑みを浮べている(想像すると・・・ちょっと)・・・

 幹部の内、二人は力を落として、崩れるようにイスに座るが、
残った一人は狂気に駆られたように叫ぶ。

「くっならば! もう一度だ! 使徒を倒すまで何度でも」(無茶な事を)

 しかし、そこまで叫んだ時、後ろのドアが開いて、沢山の戦自の兵が入ってくる。

「おお! 早く我々の邪魔をするこいつ等を」

 戦自の幹部がネルフの所員達を指差しながら、そこまで言った時、
兵達の銃口はその幹部達に向けられる。

「な!」

 兵達の後ろから、別の幹部が入ってくる。

「そこの奴らを早く拘束しろ!・・・
 自分達のエゴで、街を消滅させた大罪人だ・・・」

「「「ななな!!!」」」

 3人は拘束されていくのを横目に見ながら、新たにやって来た幹部が、ゲンドウに言う。

「碇君、今より本作戦の指揮権は、君達ネルフに移った」

「もっと早く、せめて、街を犠牲にするに、その英断が欲しかったですな」

 冬月がゲンドウの隣で言う。

「すまない、戦自の本部もこの無能者共が、指揮権を何時までもネルフに渡さず、
まさか無理矢理N2爆雷まで使わせるとは思わなかったのだ・・・
 しかも本部を通さずに直接とは・・・
 我々に報告がきたので、慌てて取り押さえに来たのだが・・・遅かったようだ・・・
 すまない・・・」

 新たにやって来た幹部は、唇を噛みながらも、頭を下げる。

「そんな無能を寄越さないで欲しかったですな・・・
 まぁ、想像はついてましたから、住民は早々に、付近のシェルターから、
別の離れた所に急いで、避難させておいて良かったです・・・
 ギリギリでしたがね・・・」

 ゲンドウがキツイ言葉を返す。

 その言葉を聞いて、連行される3人はゲンドウを『何故言わなかった!』とばかりに睨む。

 ゲンドウは、『言ったが、聞かなかっただろう!』と睨み返す。

「・・・我々の所有兵器が、目標に対して無効だったのも、
無能どもを押し付けてしまったのも素直に認めよう・・・
 だが・・・」

 実は、戦自の考えでは、何かと問題の多い三人を処罰する口実を作るのと、
ネルフに指揮権を渡してやったんだと言う体面を作り、威信などを保つ為、
政府に戦自の所有兵器が、あまり役に立たない事を認めさせ、
某新兵器開発の為の予算の増額を狙ったのであるが・・・

 予想以上に三人が無能であったので、
『折角の忠告も聞かず、逆に、無駄に街を一つ平気で犠牲にするような軍に予算を回せるか!』
と言われ、大幅に予算を縮小されるはめになってしまった。(その分、ネルフに回ったらしい)

 その戦自とは反対に、ネルフの方は気転を利かせ、近くのシェルターに避難してきた為、
無意味な攻撃の犠牲になるところだった人々を、シェルターに着いた時、
即座に、予め作っておいたシェルターとシェルターを繋ぐ通路を使て、
別の離れたシェルターに避難させて、多くの命を救ってくれたとして、評価と支持を得た。

 ちなみにその通路にはバスが通れるほどの大きさがあり、
ネルフの所員達が専用のバスを使って、まとめて非難させた。
(実は、某少年の指図で、ネルフが突貫で極秘裏に作っていたらしい)

 また、無能な3人は(ネルフの提出した証拠により)国連軍の裁判にかけられ、
全国家代表一致で死刑と可決されたらしい。

「だが、君達なら、勝てるというのかね?」

 サングラスを中指であげながら、ゲンドウは戦自の幹部に向かって言った。

「ご心配なく、その為のネルフですよ・・・
 ですが、御協力をお願いします・・・同じ人類を守る志しを持った者として・・・」

 その言葉を聞いた幹部は非常に驚いた顔をしたが、一言、

「・・・そうだな・・・我々も協力は惜しまん・・・
 前線部隊には協力するように命令を出しておく・・・
(聞いていたのと、違うな・・・)」

 と告げて、拘束された三人の幹部達と兵達と共にその部屋を去っていった。





 その頃、何とか復活したシンジは、ミサトにあるファイルを渡されていた。

「特務機関ネルフ?」

「そう、国連直属の半非公開組織。
 数ヶ月前までは、完全に非公開のままだったらしいんだけど、予算を得るためと、
あんなバケモノと戦うんだから、隠しようが無いって事で、
本当に一部だけだけど、先週あたりから、公開する事になったのよ」

 車がカートレーンに載る。

「私も数日前から、松代から、ここの本部に所属する事になってね・・・
 まぁ、その前はドイツに居たんだけど・・・いわゆる国際公務員って奴よ・・・
 貴方のお父さんの部下の1人ってわけ」

「(部下か・・・良かった)“人類を守る立派な仕事”って奴ですね」
(まだ、心配していたのか? シンジ)

「なにそれ・・・皮肉?」

「別に・・・・・・」

 そう言って、シンジは黙り込む。

 車が運ばれて行く。

「葛城さん・・・」

 シンジが窓の外を見ながら、再び口を開く。

「ん? ミサトでいいわよ」

 ミサトは化粧を直しつつ答える。

「父は・・・何の為に・・・僕を呼んだんですか?
 父はもう僕の事なんて、忘れているのかと思ってました・・・
(まさか新しい母さんを紹介するとか、僕の居ない間に作った兄弟を紹介するとか?)」
(鋭いね・・・君・・・一部あってるよ)
 
 シンジは 俯 (うつむ)きながら、ミサトに訊いた。

「・・・それは(しまった、訊いてなかったし、資料も読んでなかった・・・
 想像は出来てるけど・・・言い辛いわよ)・・・
 お、お父さんに、直接会って訊いた方が良いわね」

 チョッと冷汗を流すミサト・・・シンジが見てなくてよかった。

「これから、父の所へ行くんですね」

「苦手なのね、お父さんの事・・・(分るけど・・・あの顔じゃぁ〜)」

 ミサトがシンジを見ながら言う。

「別に、面倒臭いだけです・・・
 それに、会ったって、ギクシャクするのは分ってますから・・・」

 どことなく諦めている表情のシンジ。

 すると、車が明るい所に出てくる。

 そこは、天井から、いくつものビルが生えており、下には大きな森と湖、
そして、いくつかの建物とそれらと上を繋ぐ道が見えた。

「凄い! 本物のジオフロントだ!」

 シンジがそれを見ながら叫ぶ。

「そう、これが私達の基地、ネルフ本部、世界再建の要・・・人類の砦となるところよ」

 ミサトが自慢するように言った。



 それから、少し経って・・・ネルフ本部内

「ミサトさん・・・」

「なーに?」

 ミサトが地図のようなものを持って答える。

「さっきから、ずいぶん歩いていますけど・・・まだ父の所に着かないんですか?」

「え?(ドキ!)う、煩いわね、貴方は黙ってついて来ればいいの!」

 ミサトが冷汗を流しながら言う。

「(迷ったんだな・・・あれ、ココとは全然違う階の地図のようだし・・・)」

 後から、ミサトの見ている地図を覗き見て、今の階を確認したシンジはそう思った。

「(おっかしいわねぇ〜確かこっちでいい筈なんだけどな・・・)」

 ミサトは歩きながら、そんな事を考えていると、
シンジの後にあったエレベータから音がして、開いた。

「何所へ行くの? 2人とも」

 そのエレベータから、金髪・・・だが頭皮(生え際)辺りは赤茶色で、
黒眉の女性が現れた。(あれ?)

 更にあまり化粧はしていない様である。(おや?)

「遅かったわね、葛城一尉!」

「あ、リツコ・・・」

 その怒ったような声に反応して後を見るミサト。

「あんまり遅いから、迎えに来たわ。
 人手も時間も予算もそんなに無いんだから・・・
 グズグズしているヒマは無いのよ!」

「ごめ〜〜ん、迷っちゃったのよ・・・
 何せ、この間、来たばっかだったし、不慣れだから」

「だから、『着いたら迎えに行こうか?』って訊いたのよ!・・・格好つけて断るから」

 リツコはそう言いながら、シンジの方を見る。

「その子ね、例の【適  任  者】(フォース チルドレン)>って」

「あ、初めまして、【碇シンジ】です(なんだろ? フォースチルドレン・・・って)」

 シンジは、リツコの言葉の意味を考える。

「私は、技術部一課、E計画担当博士【赤木リツコ】よ、ヨロシク」

 リツコはそう言うと、後のもう一度エレベータを開きながら言った。

「いらっしゃい、シンジ君、どっかの誰かさんの所為で、時間がないの。
 貴方には、先ず、見て貰わないとけない物があるから・・・
 ミサト、貴女もついてくるの!
 どうせ、迷うでしょ!」

 リツコの言葉にむくれるミサト・・・しかし、事実だから仕方ない。

「見ないといけない物・・・ですか?」

 シンジはそう言って、リツコとミサトの後をついて行った。





 発令所では、部外者(戦自)が居なくなった為、ゲンドウと冬月の指示の元、
大急ぎで使徒を迎え撃つ準備をしていた。

「よし! その調子だ!」

「強羅最終防衛線で、なるだけ足止めをしろ!」

「時間を稼げ!」

「戦自の本部にも、武装ヘリを出して、協力するように要請!」

「ただし、無理をしすぎて、死なせるようなマネだけはさせるなよ!」

 ゲンドウと冬月が次々と指示を出す。

 すると、ある電灯が光った。

「ム・・・では、冬月先生・・・暫く頼みます」

「あぁ・・・そこ! 出すぎだと伝えろ! 距離をとって、牽制して、時間を稼げはいいんだ!
 余計な色気を出すな! 死にたいのか!」

 ゲンドウは冬月の声を背に、ケージに向かう。

「(三年ぶりの再会か・・・また、へまをしなければ良いが)・・・
 ん? 何か忘れているような?」

 激を飛ばしながら、冬月はそんな事を考えていた。

 その後には、蒼銀の髪を持つ少女と楽しそうに談笑している少年が居た。



『総員第一種戦闘配置! 繰り返す、第一種戦闘配置!
 対地迎撃戦準備、初号機起動準備!』

 その放送を聞いて、驚くミサト

「チョッと、どう言う事?」

「聞いての通りよ、時間がないの・・・近道を通るから、これに乗って」

 リツコは目の前に浮かんでいるボートに乗るように言う。

「そうじゃなくって、まだケガの治ってないレイには、無理じゃないの?
 パイロットはどうするのよ!」

 ちなみにミサトはサードチルドレンの【朋意シン】には、まだ会った事がなかった。

「・・・・・・」

 リツコは、ボートのエンジンを起動させようと忙しい為、聞いてないので、答えない。

「何を考えているのかしら? あの司令は・・・」

 ミサトが乗りながら、そう呟くと、エンジンがかかった。

「よし、出すわよ!(全く・・・整備してないんだから・・・かかりが悪いのよ!)」

 リツコがそう言って、ボートを動かす。

「おっとと、それで、N2爆雷は使徒には効かなかったの?」

「えぇ、表層部に少しダメージを与えただけ・・・
 依然進行中、やはり、ATフィールドを持っているみたいね。
 おまけに学習能力もチャンとあって、外部からの遠隔操作では無く、
プログラムのようなモノによって動作する一種の生体兵器、
もしくは知的巨大生物と、マギも分析しているわ・・・
(彼の予想した通りにね)」

「それって」

 ミサトが驚いたように言う。

「そう!・・・エヴァと一緒よ・・・」

 リツコがそう答えると、ミサトは黙り込む。

 その様子を、シンジは坐って黙って見ていた。

 そして、自分は何の為にココに来たんだろうと考えていた。

 ボートが、階段のある桟橋のような所に着く。

「着いたわ、ココよ」

 3人は階段を上っる。

 扉の中に入る時、リツコが声をかける。

「暗いから、気を付けてね」

 2人がある程度中に入った時、リツコが照明のスイッチを入れる。

「わっ!」

 シンジが驚きの声を上げる。

 目の前には、紫色の巨大な顔があった。

「鬼?・・・いや、ロボット?」

 シンジが呟くように言うと、リツコは訂正するように言う。

「厳密に言うとロボットじゃないわ、人の造り出した究極の汎用決戦兵器!
 人造人間エヴァンゲリオン!! 我々人類の最後の切り札、これはその初号機よ・・・」

 誇らしげにリツコは語る。

「これも父の仕事ですか?」

 シンジが尋ねるように呟く。

『そうだ!』

 スピーカーから、ゲンドウの声が響いた。

 シンジが顔を上に向けると、エヴァの顔の上、後方辺りに部屋があり、
そこに髭面の男が立っていた。

「父さん!」

『久しぶりだな・・・』

 見下ろすゲンドウ、見上げるシンジ・・・

 少しして、シンジが目線をズラす事によって、
久しぶりの親子の見詰め合い(ただし、ゲンドウの主観)は終る。
(シンジは睨まれたと思ったんだろうな・・・)

『フッ・・・エヴァンゲリオン初号機、出撃準備』

 ゲンドウがサングラスを押上げながらそう言ったのを合図に、
ケージの作業員達が一斉に作業を始める。

「ちょ、チョッと、どう言う事ですか?! 司令!」

 ミサトが声を上げる。

『時間がない・・・』

 ゲンドウは冷たく言い放つ。

 しかし、ゲンドウ本人は、ダンディにキめているつもりらしい・・・

「しかし、初号機は、レイでは動かないのでしょう!」

 しかし、ミサトは食って掛かる

『(ん? 何を言っているのだ?)パイロットは先程(出張先の松代から)着いた。
(そう言えば・・・彼は、まだ発令所に居るのだろうか?)』

(現在、そのパイロットは、慌てて着替えております)

 ゲンドウは、淡々とそう答える(言葉が足りんよ・・・ゲンドウ)

 すると、ミサトは、シンジの方を見る。

 ちなみに、リツコは作業の陣頭指揮をとっている為、近くに居ない。

「・・・父さん・・・僕に何をさせる気なの?」

 シンジが声を搾り出すように呟く。

『(?・・・葛城一尉から、聞いているだろうに)お前の考えている通りだが?』

 不思議そうにゲンドウはシンジに言う・・・

 勿論、書類をロクに読まないミサトが、
シンジが呼ばれた理由の事など知るハズもなく、誰からも聞いていないシンジは叫ぶ。

「なぜ、僕なんだよ!

『他に居ないからな(俺が償わなければならない、息子は)』

 胸を張りながら、ゲンドウは偉そうに言う。

 それは、シンジから見れば、威嚇しているようにも見えた。

「父さんは僕の事が要らなかったんじゃないの!」

『(償わせてもらう為にも)必要だから呼んだまでだ!』

 ゲンドウは、ハッキリとした口調で言うが・・・

 口に出す言葉は少なく、必要な所が完璧に抜けている・・・

 本人気付いてないし・・・口下手なんだろう・・・

 これがユイの言っていた可愛いところなのかも知れない・・・

 シンジはそのまま黙り込む。

 代わりに、ミサトが叫ぶ。

「しかし、ファーストチルドレンであるレイでさえ、
シンクロするのに六ヶ月もかかったんですよ!
 いま来たばかりのこの子には無理です!!」

 ミサトが叫ぶと、シンジ以外のその場にいる人間が、全員固まる。

『・・・(それは・・・無理だろうが・・・彼女は何を言っているんだ?)』

 ゲンドウは、あくまでも(本人がダンディと思っている)ポーズを崩さずに、考え込む。

 リツコは目をパチクリさせながら、
暫く考えて、額に青筋を立て、ミサトに近付いて行く。

「・・・でも分ってます、他に手段がないことは・・・しかし・・・
 分りました、シンジく」

 ミサトが、何かを演説して、シンジに詰め寄ろうとすると、
リツコが履いていたパンプス(ハイヒールに近い靴だったような)の片方を抜いて、
手に持ち、それで、思いっきりミサトの頭を叩く。

 バコ〜ン!!

 気持ちの良い音が響いた。

いた〜い! リツコ! 何をするの!」

「貴女・・・何を言っているの?(て言うか、何、ひたってんのよ)」

 リツコは冷たく言い放つ。

「り、リツコもリツコよ! 分っているんでしょ!
 イキナリ呼び出されて、何の説明も無く

 ミサトが涙目(痛かったんだろう)リツコに言うと、リツコが呆れたように言い返す。

「しなかったの? 貴女が

「そんな・・・あんな危険な状態で話せる訳が無いじゃない!」

「いえ、ココに着いてからよ・・・時間はタップリあったわよね・・・
 本部内で迷ってたし・・・」

 本編でもそうだよね。(うんうん)

「え? そ、それは、道を調べてて・・・」

「呆れた・・・(どおりで話が通じてないと思った)話してなかったのね」

 リツコはパンプスを片手に頭を押さえながら言う。

「でも、どう話せって言うのよ!!」

 半分逆ギレ状態で、ミサトが言い返す。

「まぁ、確かに貴女からは、彼に話し辛いかも知れないけど」

「誰だってそうよ!!」

「『誰だって』って・・・そうなの?」

 不思議そうに、リツコが訊く。

「当り前でしょうが!! イキナリ、何も知らない少年に・・・
 こんなのに『乗れ』って言える訳?!」

『「「「「「「「「「「はぁ?」」」」」」」」」」』×無数

 ミサトが叫んだ途端、シンジ以外の聞いていた者達が、
一斉に首を傾げた。(ゲンドウまで・・・)

「・・・え〜と・・・ミサト・・・確認するけど・・・誰に『乗れ』って言うの?」

 リツコが額を押えながら、ミサトに訊く。

「彼にでしょ!」

 ミサトがシンジを指差す。

 そこでシンジは周りの様子がおかしい事に気付く。

「(もしかして・・・乗らなくていいの?
 じゃぁ、父さんは何ために、僕を呼んだのさ?
 まさか、やっぱり・・・)」

 沈黙に支配された周りの様子を確認しながら、シンジはそんな事を考えていた。

「・・・ミサト、貴女、もう一つ確認するけど・・・
 一昨日、私が渡した資料、ちゃんと目を通した?」

 周囲の沈黙を破り、リツコが呆れたようにミサトに言う。

「へ・・・・・・・・そ、そりは・・・」

「呆れた・・・また読んでなかったのね!! 
 シンジ君に初号機が動かせる訳ないでしょう!
(今は出来ても、すぐに出来なくなるわ!)」

 リツコはミサトに怒鳴るように言う。

「へ?」

「チャンと書いてあったでしょう!
 シンジ君が乗れる可能性があるのはレイと同じ零号機よ!
 だいたい、シンジ君は・・・
 パイロットとして召喚した訳じゃないのよ!!」

「じゃ、じゃぁ、パイロットは?」

 ミサトが首を縮めつつ、リツコに訊くと、自分達が入ってきた扉とは逆側にある扉から、
プラグスーツを着た少年が入ってきた。

 勿論、その後ろに蒼銀の髪の少女がついて来ている。

皆! 初号機の準備は出来て・・・
 あ! 君が、シンジ君だね!!」

 少年はシンジに気付くと、傍に寄ってきて、右手を出し、握手を求める。

「え?・・・あ、うん、僕が【碇シンジ】だけど・・・」

 シンジは、その少年に何かしら、懐かしいような、
何かしらのつながりがあるような、
よく分らない不思議な感覚を覚えたが、慌てて手を握り返す。

「ほら、レイちゃん、前、話していたシンジ君だよ」

 少女がシンジを恥かしそうに見る。

「・・・【碇シンジ】さん?」

 少女、レイがシンジに尋ねるように訊く。

「う、うん・・・」

 シンジが答えると、レイは目に涙を浮べながら、抱きついてくる。

「やっと会えた・・・」

「わわわ、な、なに?」

 シンジは焦る。

 少年は少しコメカミ辺りに冷汗を出しながら言う。

「レ〜イちゃん、いくら感激したからって、少し、アレだと思うよ・・・」

「え・・・あ、ご、ゴメンなさい、シン君」

 レイはそう言うと、顔を赤らめて、慌ててシンジから離れる。

「ど、どう言う事?」

 少し混乱しているシンジが訊く。
  
「あぁ、自己紹介が、まだだったね、俺の名前は【朋意(ほうい)> シン】・・・
 このエヴァンゲリオン初号機の専属パイロット、でこっちが」

 シンと名乗った少年がレイの方に手を向けると、レイは自分から自己紹介を始める。

「【綾波レイ】、零号機の専属パイロット・・・です」

 レイが恥かしそうに頭を下げる。

「で、君の実の妹だよ・・・まぁ、双子のね(本当は違ったんだけどね)」

 シンが付け加えるように言う。

 レイが抱きついたのは、純粋に肉親と聞かされていた少年に会えた喜びからだった。

 確かに、シンジにはレイにもシンほどではないが、何かを感じていた。

 ちなみに、レイは、ゲンドウを父親とは全く感じないらしく、
呼び方もいまだに司令らしい・・・今はゲンドウもそこまで気にして無いようだが・・・
(酷い扱いを受けていたからな・・・魂を分割させられたり・・・色々と)

「え? へ? どう言う事?」

 シンジが訳の分らないと言った顔をする。

「詳しくは・・・あれ? リツコさん、司令は?」

 キョロキョロ周りを見ながら、シンがリツコに訊く。

「え?・・・あぁ、司令なら、あそこに・・・」

 リツコが威圧的に立っているゲンドウを指差し、シンがそちらを見る。(あ、青筋が・・・)

 ブチッ・・・

 何かの切れる音がした・・・

「(あ、拙い・・・)」

 比較的近くにいたリツコはシンから一歩離れ、レイは耳を塞ぐ。

「こらぁ〜!! ゲンドウ!!
 ンッなトコに突っ立ってんじゃね〜〜〜!!
 息子に誠意を見せるつもりがあるんなら!!
 とっとと、ここに降りてこんかぁ〜〜!!
   
 こんボケがぁ〜!! 俺を本気(マ ジ)>で怒らす気か!!」


 イキナリ、足元を指差しながら、司令に(しかも呼捨てで)、怒声をあびせるシン、
ゲンドウは慌てて降りてこようと慌てて階段の方に向かい、どこかにぶつかってコケている。

「父さんって・・・(実は結構オチャメなんじゃ)」

 シンジが冷汗を流す。

「で、そちらが、【葛城ミサト】さんですか」

 さっきの怒声は何所へやら、笑顔でシンは、ミサトに言う。

「え、えぇ・・・ちょ、チョッとリツコ」

 ミサトはリツコを離れた所に引張って行って、小声で話し掛ける。

「なに?」

「彼って、何者?」

 ミサトの問いにリツコは溜息を吐きながらも、小声で言う。

「はぁ〜・・・やっぱり、何にも読んでなかったわね・・・貴女」
(他人に聞かれる訳にはいかないからな・・・そう言うところ)

「アハハ、私、長い文章や、細かい字は苦手で・・・・・・」

 リツコに睨まれながら、ミサトは頭を掻く。

「相変らずね・・・いいわ、説明してあげるから、よく聞きなさい」

 ミサトは頷く。

「彼の名前は【朋意シン】、一応表向きには、副司令付の直属の部下で、
初号機の専属パイロットって事になっているけど・・・
 実際のところ、保安部、諜報部、技術部、作戦部、
戦闘指揮部等々の特別顧問でもあり、
あの司令でさえ、全く頭の上がらない天才児!
 実質的にこのネルフ本部を、裏で動かしているNo.1よ。
 ネルフ本部の所員なら、貴女以外、殆ど知ってるわ・・・
 ネルフ本部内では、公然の秘密よ・・・まぁ外には言えないって奴だけど・・・
 まぁ、貴女が来た時は、入れ替わりにチョッと松代に出張に行ってたけど、
今日急いで帰ってきたのよ・・・
 昨日、レイも話してたでしょ、『シン君は日本に居る』って」

 リツコが一気に説明する。

「え?・・・だって、あの時は、シンジ君の事かと思ったんだもん、名前、似てるし・・・
 え?・・・と、言う事は、り、リツコも、認めてるの?・・・
 彼を?(年下なのに?)」

「認めるも何も、事実だし・・・(実際、彼には借りがいっぱいあるのよね)」

 どことなく、今のリツコの顔は、ミサトのどの記憶の顔よりも、晴々としている。

「あれ? そう言えば、戦闘指揮部って、何?」

 と、作戦部長【葛城ミサト】が、聞き慣れない部署の事を訊いた。

「何って、その名の通り、戦闘時に、パイロット達の指揮をとる所よ・・・
 まぁ、人はあまり居ないけど・・・戦闘中のパイロット達の直接の上司ってトコかな?」

「な、何よ!! それ〜〜!! 
 何で作戦部が指揮をとらないのよ?!」

 数ヶ月前までは、そう聞かされて、ミサトはドイツに行ったり、松代に飛んだりして、
頑張ってきたのだから仕方ない・・・(それは・・・苦労したんだね)

「貴女ねぇ〜・・・作戦部の仕事は、『作戦を考える』のと、
『戦闘時に簡単なアドバイスをする事』と、『戦闘後の書類整理』位よ・・・
 書類にも書いてあったけど・・・読んでなかったわね」

 『知らなかったの?』とばかりに、リツコが言う。

 つまり、ほぼ、雑用だけ残ったのである。

「ど、どどど、どう言う事よ?!・・・
 て言うか、何故、作戦部が指揮をとっちゃいけないの!」

 使徒を仇のように思っているミサトが訊く。

「簡単な事よ・・・
 『作戦を考えた人間が指揮をとると、指揮に柔軟性が無くなってくる』わ」

 リツコはすらっと言い返す。

「なぜ!」

「決ってるでしょ、作戦を考えた人間は、『余計なプライド』なんかが、
かかって来て、実際に指揮をさせると、どうしても、
『自分の考えた作戦だけを完遂』させようと、最後まで考えるわ」

「当然でしょ、勝つ為だモノ!」

 ミサトはムキになって言う。

「でも、それは必ずしもBest、いえ、それどころか、Betterとも言えないし、
勝つ為とも言えないって事よ(シン君の受け売りだけど)」

「???」

 ミサトは訳が分らず、考え込む。

「つまり、
『自分の考えた作戦を完遂させる事だけ』を考えたり、
己のプライドなどが引っ掛って、後の事や、『戦場に居る人達の命等』を、
どうしても『軽視する事が多い』のよ・・・
 それこそ、『自分の身に直接かかって来ない』限りね・・・
(さっきの戦自の幹部達みたいにね)」

「そんな事・・・」

 ミサトは、反論しようとするが・・・

「軍人精神、いえ、軍隊経験のある人間が、そう言う事は無いと言える?
 その時、『パイロットの命と引き換えに、自分の作戦が完遂できる』、
『例えパイロットや住民を犠牲にしても、自分の作戦で使徒が倒せる』って、
事になったら・・・例え、違う人、例えば、パイロット辺りから、
より安全で、『貴女のとはまるで違う別の案を出してきた』としても・・・
 出来るの?・・・貴女に?」

 リツコはミサトに問うように言う・・・

「・・・・・・・・・・」

 ミサトは答えられない。

 己の復讐心で、使徒を倒す事に、全てをかけている自分が、
土壇場で、パイロットや一般人の生命について、
チャンと考えるかという事を・・・

 他人の意見を聞き入れるかと言う事を・・・

 特に軍人ともなれば、上の命令以外で、作戦をおいそれと変える事はしないだろう。

「その点、『作戦を考えた者』と、『実際に指揮をとる者』が、
別系統の者であれば、その危険性は少ないわ・・・
 更に、指揮をとる者が『軍人精神』がなく、
『パイロット達に心情が近ければ近い』ほど、
パイロットやその付近にいる『人命の事を考え易い』のよ。
 それに、パイロットは、
子供達の命は、使徒を倒す為のコマじゃない』のよ!
 そんなふざけた事を考えている者は、ココには必要無いわ!!
 どんなに優秀であってもね!!
 それに彼等はあの使徒達と直接戦えない、不甲斐無い私達、
大人の代わりに戦ってくれる
のよ!
 シン君はそんな事をおくびにも出さないで、(まぁ、多少口が悪いけど)逆に私達、
大人達の不甲斐無い所を補ってくれているのよ!!!」
(シンって、リツコやネルフの皆に何をやってたんだろう・・・)

 リツコの涙を流しながら言っている言葉は、
ミサトの復讐を果たす事しか考えてなかった心に、深く突き刺さる。
(シンは・・・あ! 少し恥かしそうにしている・・・聞えてたのね、当然か)

 それは、現在のネルフに居る大人達の全ての意思でもあった。
(シン君、結構やってるね・・・ネルフ本部全体で)

「・・・ココで、本部で働いている者は、全員、その事を『絶対に頭から外さない』わ・・・
 だからこそ、どんな手を使っても、彼等の命を、自由を護る事を考えている・・・
 例え、その為に、『自分達の命を使っても』ね・・・覚えておいて・・・ミサト」

 リツコがそう言うと、周りで作業している者達は、
まるで自分達の心の代弁をしてもらったように、
頷いたり、涙を流したりしていた。
(なんか凄い意識改革をしてるんですけど・・・)

 そうこうしていると、ゲンドウが降りてきた。
(結構、時間が経っている気がするけど・・・
 使徒はどうなっているんだろ?)

「ったく、何であんな所に居るんだよ」

 チョッと恥かしそうな顔でシンが言う。

「す、すまん、あの方が格好良いかと・・・
 やはり、父親としてダンディに・・・(む? 何があったんだ?)」

 慌てて降りてきたばかりのゲンドウはリツコの弁舌を聞いてない。

「・・・それじゃぁ〜逆効果だろ、全く、『威圧して』どうする・・・
 『逆に親子の溝が深まる』ぞ(どこかで教育のやり方を間違えたか?)」

 シンが頭を押えながら呆れて言う。

「そ、そうか・・・すまん(決まったと思ったが・・・)」

 ゲンドウは頭を下げながら縮こまり、シンに謝る。
(本当に頭が上がらないね、ゲンドウ)

 その姿を見て、シンジは何時の間にか父に対する恐怖は全くもって無くなっていた。
(当然だな・・・)

 結果はどうであれ、親子の溝は一気に少なくなったかもしれない・・・

「謝る相手が違うだろ、それに、ほら、レイちゃんの事は自分で説明するんだろ」

「あぁ、そうだったな」

 ゲンドウはそう言うと、レイの肩を持って、シンジに言う。

「シンジ、この娘が、レイだ、お前の双子の妹だ」

「・・・それ、さっき俺が言った・・・なぜそうなのか、説明しろよ」

 シンが突っ込む。

「あ、あぁ、シンジ、見て分るように、レイはアルビノという体質でな、
生まれてスグ別の所で育っていったんだ」

「それで・・・なんで、妹なのに、碇じゃないのさ?・・・父さん」

 シンジが細い目でゲンドウを見る。
(疑ってるな・・・まぁ、シンジを捨ててったと言う前科があるから、当然だが・・・)

「そ、それはだな、チョッとした手違いで・・・」

 しどろもどろになるゲンドウ。

「(ッたく、あれだけ練習させたのに・・・肉親の前では本当にあがるんだな)」
(ユイに聞いたんだな)

 その時、ケージにある大きなモニターに冬月の顔が映る。

『おい! そろそろ初号機を出してくれ、これ以上は危ない!』

「おぉ!(冬月先生、ナイスタイミングです!)そうか!・・・
 すまない、話の途中だが、緊急を要する!
 話の続きは後でするから、朋意君はスグに初号機に!
 シンジは私が発令所に案内しよう」

 ゲンドウは慌てて言う。(問題の後回しだな・・・)

「仕方ない・・・じゃ、シンジ君、後で、レイちゃん、チャンと見てて、
アレの参考になると思うから」(アレって?)

「うん、シン君、頑張って」

「じゃぁ、後で・・・(でも、何で僕が呼ばれたんだろう?)」(はぁ! 説明がまだだ!)

 シンが初号機に向かって走って行く。

「ミサト、私達も発令所に行くわよ」

「わ、分ったわ」

 ゲンドウ、シンジ、レイ、リツコ、ミサトは、ゲージを出て、発令所に向かった。


                                    続く




 後書き

 さて、本格的に始りました! 『ネオエヴァ〜友を思う心〜』・・・

 とりもちが、キリ番を踏んだ時に発動します(多分)・・・

 一応、これもリターン系ですが、シンジもレイもアスカも帰還者ではなく、
オリキャラの【朋意(ほうい)シン】が還ってきた者です。

 凄いですねぇ〜ゲンドウを顎で使っているみたいだし・・・(笑)

 このお話では、シンジとレイは兄妹って事になってます。
(近くのLAS派の人が、燃えちゃってて・・・そうじゃなきゃおかしいってさ・・・)

 しかし、一応LRSです!(ラブ・レイ・シンだけど)(核爆)レイは幸せになる!

 これだけは譲れないとりもち・・・フフフフ・・・

 まぁ、今回の話は、ゼーレ(と外道)以外に祝福をと言う事で・・・

 え? ゲンドウはどうするかって?・・・

 一応シンの再教育?により、外道じゃなくなっているし・・・
(親ばかになっている可能性大)

 多分、一応幸せになるんじゃないかと・・・
(8割方、幸せになるでしょう・・・このまま行けば、この作品内で最も幸せ者?)

 まぁ、それなりに苦労はしてもらいますが・・・ね|電柱|〜 ̄) 隠れニヤリ

 なんか、前作【リターン】の時、『ゲンドウ補完隠れ委員会』からのメールが・・・
(何なの? それ?・・・『親ばかゲンドウ友の会』なら、知ってたけど・・・)

 さて、次回は第3使徒との戦いと、ゼーレとの会談の予定・・・

 予定です、あくまで(爆)

 いかにして、ゲンドウはシンの事や、ネルフ本部の現状をバラさずに行くのか?

 【朋意 シン】の父親と母親は誰なのか?

 当てきる人居るかな?(前作同様、読者様に挑戦的・・・とりもちの娯楽です)

 ちなみにヒントは、プロローグ編で大きなヒントを言ったし・・・・

 今はそれ以上は無しと言う事で(^^)v

 今回も謎が色々・・・はぁ! プロローグの所為で減っている・・・(^_^;)

 まぁ、難しい(と、とりもちが思っているだけ)のがあるから良いか・・・

 それでは、次回でお会いしましょう。



 P.S(って言うか、こっちがメインかも)キャラコメ係りのアスカさんへ・・・

 フフフフフ・・・前回ので、貴女のお気持ちはよ〜く分りましたよ・・・
                (↑激勘違いしている可能性、大有り・・・)

 折角、『贖罪外』で、虐めちゃったから、お詫びに、ココのHPでは、
珍しい『激甘なLAS』も、この作品で、一緒に目指してあげようと思ってたのに・・・
 マジで・・・超本気で・・・ヘ( ̄〜 ̄ヘ)(ノ ̄〜 ̄)ノ♪

 折角の企画書・・・破られたんですね・・・読まずに・・・私のだからって・・・
★メラメラ★(((T〜T*) フフフ イモはウマイカイ?

 しかも、喜ばそうと思ってた、最も重要なLASな部分の早出し予定表を・・・
(確実に出番が遅れるネ♪)

 アレは、必死こいて作ったから、予備が無いんですよね・・・ぽい¢( _ _)ノもう良いや!

 ココではなく、某HPの某FFで、
アスカさんとその世界のシンジ君(その名前はシンになってますが)の・・・
ラ〜ブラブなお話を書いている私には、ココで、それを書く資格がないと仰るんですね・・・

 そこでは、相思相愛で、結婚確実になってるのに・・・
(ココでもそうしようと思ってたのにねぇ〜)

 何の為に、ワザワザ、朋意君を未来から連れて来たのか・・・ブツブツ・・・

 フ、フフフフ・・・仕方ない、そちらがそう言うふうにでるなら・・・

 そんなに、私の悪魔モードをお望みなら・・・[壁]`∀´)Ψヶ〜ヶヶヶヶ
        (↑激暴走しかかってます(滝汗))

YUKI『さぁ・・・自ら、自分の望みを消しそうなアスカに、明日は・・・あるのか?!』



シンジとレイは焚き火をしていた。
シンジ「・・う〜ん、でもいいのかなぁ・・・」
レイ 「さぁ・・・碇君、いい具合に焼けたわよ」
シンジ「あ、ホント、あ、あつ・・・」
レイ 「美味しいわね」
シンジ「ホント、美味しいね」
そんな中、アスカがやってくる。
アスカ「ん?2人とも何食べてんのよ?」
シンジ「あ、これは・・・」
レイ 「焼き芋よ」
アスカ「貰うわよ」
レイ 「まだいくつもあるから」
アスカ「あつっ・・と、ホクホク・・うん、いけるわね♪」
レイ 「・・そうかもしれないわね」
レイはどこかかわいそうと言った雰囲気でアスカを見つめる。
アスカ「な、なによ・・その目は・・・」(汗)
レイ 「・・・YUKIからのものよ、これを見れば、分かると思うわ」
シンジ「あ、あの・・あ、綾波」(汗汗)
アスカ「なになに・・・」
アスカ「・・・・・・」
アスカ「・・・なんですってぇえええ〜〜〜!!!!!」
レイ 「ある意味自業自得かもしれないわね・・」
アスカ「何で教えてくれなかったのよ!!?」
シンジ「あ・・でも、その何か言う前に破っちゃうし・・・その・・・」
アスカ「・・・」
レイ 「とりもちは泣きながら紙ふぶきになった企画書を集めていたわね」
アスカ「・・・・」
シンジ「あ、あの・・アスカさん」
アスカ「こんちくしょ〜〜〜〜!!!!!!」
アスカは全速力でその場を走り去った。


ジオフロント内バー、
ミサト「何よ何よなんなのよ〜!!」
日向 「葛城さん・・気持ちわかります。」
ミサト「でしょ!でしょ!ふざけんじゃないわよ!なんで、私があんなでたらめな待遇されるのよ!」
日向 「注ぎますか?」
ミサト「ええ、がんがん頂戴、飲まなきゃやってらんないわ!」
日向 「はい、どうぞ」
ミサト「マスター!!じゃんじゃん持ってきて!!」
ミサト「日向君も飲みなさいよ」
日向 「はい、お付き合いします。」
日向 (いいですよ・・このくらい、貴女の為なら・・)
・・・・・
・・・・・
・・・・・
ミサト「ぐが〜・・ぐが〜〜・・・・ぐが〜・・」
日向は、上着をミサトの肩にかけた。
日向 「・・給料の前借頼めるかなぁ・・・・」