朝、それは必ずしも清々しいものではない。

「く、ぁ…はぁ……どうし、て……」

ここに、夢にうなされる少年が一人。

纏わりつくおびただしい汗とその声から、それがどのような類の夢か、推測するのは容易いだろう。

「っ！！はぁ……はぁ……はぁ…またあの夢か……」

長い苦しみから開放され、最初に彼がしたことは、その手を見ることだった。

（もう何度も見たってのに、まだ慣れないな。あの夢は）

夢の為だろう、七時にはまだかなり早いというのに、カイの顔には全く眠気の残骸が見られない。

（朝飯の前にシャワーだな）

着替えを取り出し脱衣所へ向かった。

汗で貼りついた服を脱ぎ、風呂場に入ってすぐ熱いシャワーを浴び始める。

そのまま暫く瞑目し、今度は温度を下げる。

（大丈夫だ。ここはあそことは違う。変えることができるんだ。一つずつ確実にやっていけば、大丈夫だ）

自分に暗示を掛けるように心の中で呟きながら、冷水に打たれる。

（当面の問題は綾波にどう接するか、だな……くそっ、振り切れてると思ってたのに……暫くはシンジに任せるしかないな）

そのまま浴び続けていると、身体が冷えて身震いがした。

（そろそろ上がるか）

服を着て、今度は朝食。

昨夜も食べていないので空腹感はあるが、夢の所為か食欲はない。

が、食べないわけにはいかない。

買っていたカロリーブロックを一つ口に入れた。

噛み砕きながら書類に必要なことを書いていく。

その間、テレビは情報を垂れ流しにしている。

書き終えると、丁度チャイムが鳴った。

「誰だ？こんな朝早くから……」

このマンションに住んでいる者は少ない。

更に言えば、カイと顔見知りであるのは一人だけである。

もちろんその一人をよく知っているカイは、最初から候補に入れていない。

新聞か何かの勧誘もこんな朝早くからは来ないだろう。

やや不信に思いながらも玄関に向かった。

そしてドアを開けると……

「おっはよ〜」

などと呑気な挨拶をする、即座に候補から外した女性――葛城ミサトが立っていた。

二秒程硬直した後、カイは無言でドアを閉める。

が、ミサトは閉まりきる前に手足を滑り込ませ、玄関に押し入った。

「何するのよ！酷いじゃない！カイ君ね！」

「こんな朝早くから来る方が非常識じゃないのか？」

（今日は厄日だ……）

うんざりして言うカイに、ミサトはそんなことには気にも留めずに喋りつづける。

「大体なんで勝手に出て行ったりしたの！？昨日帰ったら荷物もなくてビックリしたのよ！隣に引っ越したってリツコから電話があったけど不安だったのよ！夜遅かったから代わりに早起きして来たの！」

（まだ寝てたらどうしてたんだ？全く、わけのわからんことを…）

言っても無駄そうなので黙っておく。

「第一シンジ君の意志を無視するの！？シンジ君は私と一緒に住むって言ったのよ！？」

「シンジは分かってくれる。それに俺にも住居の選択する権利くらいはあるし、嫌な奴からは離れたい。それともなにか？副格にはそんな権利は無いと言うのか？」

「そ、そこまでは言わないけど……」

視線を鋭くしてカイが言うと、怯んで僅かに後ずさる。

その瞬間を逃さず追い討ちを掛ける。

「じゃあ話は終わりだ。そんなにシンジと住みたいなら今度訊いてみろ。ほら、早く出て行け」

押し出してドアを閉める。

外からはカードキーが無ければ開けることはできない。

まだ言いたいことがあるのか、暫くチャイムが鳴りつづけたが、無視を続けていると静かになった。

（予想よりあっさり引き下がったな。もっとも、シンジがお前の方に住みたいと言っても譲るつもりはないぞ。万が一にもシンジまであんな思いをさせるわけにはいかないからな）

前の世界での事を思い出し、顔を歪めるが、すぐに気を取り直す。

「さて、他に何かすることは……」

次からはまずインターホンで確認しようと心に決めるカイであった。

昼、結局大して、することが見付からなかったカイは、途中にあるコンビニで契約書のコピーを取って、ネルフへ足を運んでいた。

書類を提出して、休憩ブースでジュースを飲んでいると、リツコが通りかかった。

「あら、えっと……」

「カイだ」

「そう。で、どういう風の吹き回し？拒否権を得たというのにここに来るなんて」

当たり前だが快くは思われていないらしい。

「別に書類を出しに来ただけだ。それよりちょうど良かった。幾つか訊きたい事があるんだが」

「あまり時間は取れないけど、それでもいいなら私の部屋に行きましょう」

だが、仕事と割り切っているのか、そこに確執は窺えない。

あるいは質問には答えたくなるのが彼女の性分なのか。

「忙しいなら今度でもいいし、仕事の片手間でもいい」

「じゃあ着いて来て」

早くも歩き出したリツコを、ジュースを飲み干してから追いかけて行った。

赤木リツコの研究室

「で、何を訊きたいの？」

コーヒーを淹れながらリツコが問う。

「まずは、前にエヴァに乗った時にダイレクトシンクロがどうのこうの聞こえたんだが、どういうことなんだ？」

本当は知っている。

「そうね、簡単に説明すると……あ、貴方もコーヒーいる？」

「いや、いい。さっきジュース飲んだばかりだ」

「そう。まずはダイレクトって言うくらいだから他のシンクロもあるっていうのはだいたい想像できてたわよね？だからその違いからね。あ、今日中に終わらせたい仕事があるから悪いけど……」

椅子に座り、端末を起動させて言った。

「ああ、構わない。それよりなかなか美味そうだな」

「ええ、コーヒーメーカーも豆も特注だから。で、違いだけど、通常のシンクロは中継装置を通してるの。ダイレクトは普通なら絶対通るはずのそれを無視してエヴァとシンクロするの。これはミサトにも言ったんだけど」

「美味いのはいいんだが、俺はここまでしようとは思えないな。好きなんだな、コーヒー。そういえば、そんなことも聞こえてたな。取り込まれるとか。どういう仕組みなんだ？」

「そうね、私の数少ない趣味の一つよ。聞こえてたなら話は早いわね。私達はエヴァを使ってはいるけれど、実際分かっていることは少ないのよ。ブラックボックスの固まりみたいな物だから」

「趣味か……俺もシンジも出来ることと言えばチェロぐらいだが、趣味と言える物でもないな。それでよく使う気になったな」

「趣味はある方がいいわよ。特にこんな仕事をしてるなら尚更ね。仕事をこなすだけの人形は最悪よ。使うのはそれしか方法がないだけ」

人形、という辺りで、無意識に暗い物を顔に浮かべた。

リツコが端末の画面を見ているのをいいことに、カイは侮蔑の視線を向ける。

しかしそれとは対照的に、変わらない声で続けた。

その時ドアが開いたことに気付かなかったのは、意識が他の事に集中していたからだろう。

「人類の存亡を掛けた戦いの最前線だしな。趣味じゃなくても、心が安らぐ何かはあった方がいいに決まってる。解明できなくても使うしかないって訳か。だが、分からないのによく造れるな」

「だからネルフはカウンセラーやレジャー施設を充実させたのよ。替えの効かない人材って結構居るから。使えるのと造れるのと理解できるのは似ているように感じても、実は全然別物なのよ」

何時の間にか話が混同している。

このまま行けばさらに訳が分からなくなっていくだろう。

そう判断したのか、それともただ短気なだけなのか、さっきから気付いてもらえない闖入者が、ついに業を煮やして声を上げた。

「だ〜！！あんたらさっきから二つの話題を同時進行させないでよ！こんがらがっちゃうでしょ！」

だがその闖入者に対する二人の反応はすこぶる冷たいものだった。

「あら、ミサトいたの？」

「盗み聞きは良くないぞ。それより勝手に人の個室に入るな。ついでに言えば、話が終わるまで待つこともできないのか？」

「あんたの部屋じゃないでしょ！」

「で、何しに来たの？」

「え、ああ…その、そう、通りかかったら声が聞こえたから……」

いつもならとっとと目的を果たすミサトだが、やはりカイにみっともない所を見せたくないのだろう。

適当な言い訳を見付けたが、それには大きな欠陥があった。

「ここ、防音よ」

「ぐ……すんません、実はただコーヒー飲みに来ただけです、はい」

「食堂のより美味いだろうが、仕事ほったらかしてか？まだ勤務時間中だろ？しょうがない奴だ」

「本当ね。どうせ仕事まだ残ってるんでしょう？」

やれやれ、と溜息を吐く二人。

「あんた達だって雑談してるじゃない」

「俺はエヴァで訊きたい事があったんだ。あれに乗るのが俺の仕事だからな。雑談は副産物だ」

「私は質問に答えながら仕事もしてたわよ？」

「……なんかあんた達ってさ、変な所で気が合ってない？ねちねち苛めてくるところとか…」

「そうか？それより用が無いなら後にしてくれ。まだ話は終わってないんだ」

「いいけど、また同時進行させないでよ」

「仕方ない。どこぞの女は、同時に二つの話を理解できないからな」

大げさに溜息を吐いてみたりする。

「なぁんですってぇ！」

「別にお前なんて言ってないだろ？」

よほどミサトで遊ぶのが気に入ったらしい。

口元が歪むのを隠しきれていない。

「……二人共、いいかげんにしなさい」

こめかみを押さえて、馬鹿馬鹿しくて頭が痛くなる、と言外に伝える。

「だってこいつが！」

「へいへい。じゃ、本題の方にしますか」

「そうね。使えるのと造れるのと理解できるのは別物って所まで話したわね。まだ質問ある？」

「ダイレクトシンクロで何か問題はあるのか？」

「前回の戦闘では特に問題は無かったわ。もっとも、戦闘してたのは大した時間じゃなかったからはっきりとは言えないけれど、通常の活動に問題は無いと推測しているわ。だけどインダクションモードを始めとする機械的な操作は使えるかどうか分からないわね」

「なんだそれは？」

「簡単に言うと戦闘機のロックオンシステムのような物ね。イメージできるでしょう？銃の命中率を上げる為に考案されたの。使えるに越したことはないのだけれど……」

「今から準備できるか？」

「え？」

「何だろうと試してみればいいだろう」

余りに意外な言葉を、二人が理解するのには少しばかり時間が掛かった。

ネルフ本部　実験棟　巨大兵器用実験室

「プラグ固定終了。第一次接続開始」

「ＬＣＬ注水」

「主電源接続。全回路動力伝達。起動スタート」

「ダイレクトシンクロ、開始しました」

「ハーモニクス、全て予想範囲内です」

順調に報告が進む中、手の空いたマヤがリツコに話し掛けた。

「でも、よく進んで実験に参加しましたね」

「そうね。本当に意外だわ」

モニターに映るデータを次々と処理しながら、淡々と答える。

何故か着いて来ているミサトが、話に便乗してきた。

「あの性格じゃあ駄々こねて嫌がるなんて考えられないでしょ」

この様子ではやはり知らないらしい。

「そうじゃなくてですね、カイ君、拒否権持ってるんですよ」

「な、ちょっと待ってよ！何よそれ！聞いてないわよ！！」

「やっぱり書類見てなかったのね。昨日の電話も途中で切ったし」

「そんなことどうでもいいでしょ！それよりどういうことなの！？どうせあいつの身勝手なんでしょ！？」

「今は使えるパイロットが他に誰もいないからよ。無茶すればレイを出すことはできるけど、戦力にはならないだろうし、アスカを呼ぶにも時間が掛かる。それにあなたもあの力は見たでしょう？解明出来ればこれからが有利になるけど、少なくとも使徒と戦い、勝てばいい。それが司令の判断よ」

「あのガキ！人の足元見やがって！それにそんなの持ってたら使徒と戦うかどうかも分からないじゃない！」

かなり頭に血が昇って、暴言を吐き、足元を蹴飛ばす。

自分の目的である復讐ができないというのだ。

しかも司令部もそれを認めている。

さらに今朝とリツコの部屋でのことで、不満も溜まっている。

ここまで怒るのも当然と言えるのかもしれない。

だがそれに対するリツコの反応は、軽蔑を含んでいるように見える程、冷ややかなものだった。

「自分から実験に参加することもあるようだから、別に無茶苦茶するわけでもないみたいよ。文句があるなら碇司令に直接言って頂戴。彼の拒否権を剥奪できるアイデアがあるなら聞いてくれるでしょうから」

そこで二人の会話は途切れたが、代わりに嫌な沈黙が漂っている。

しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。

メンバーの一人が恐る恐る声を掛けた。

「あの……赤木博士」

「なに？」

「やはりインダクションモードは……照準が合わさってもエヴァがそれに応じた動きをしていません」

「そう。やはりダイレクトシンクロの制御力の方が強いのね」

そう言って、プラグへのマイクのスイッチを入れた。

『なんだ？』

「予想通りの結果よ。でも一応色々調整してみるから。そんなに時間は掛からないわ」

『分かった』

実験終了後、男性パイロット用更衣室

（予想通りインダクションモードは使えない）

プラグスーツを脱ぎながら頭を働かせている。

思わず微かに口元が緩む。

（これでヤシマ作戦での盾役は決定だ。あくまで保険にすぎないが…）

むやみに多いロッカーの一つを開け、クリーニングされた服を取り出した。

（あいつとは違うのは分かってるけど、だからって傷つけるのは嫌だし）

甘いのかもな、と口元の緩みが自嘲に歪む。

（葛城ミサトを辞めさせられればそれが一番なんだが……しないといけないことは多いな）

赤木リツコの研究室

「さて、インダクションモードが使えないと分かったんだけど、遠距離攻撃にはどんな風に手を加えるべきだと思う？」

「それを俺に訊くのか？まあ正解なんだが…」

「どういうこと？」

「遠距離攻撃の手段はできてるということだ」

へぇ、と口元だけを笑わせて睨みつける。

「詳しく聞きたいわね」

勿論そんなことで怖気づくカイではなく、軽い逆襲に出る。

「そんな恐い顔をするなよ。別にどっかの組織に頼んで、とかじゃない。監視してるんだから分かってるだろ？」

「さあ、何のことかしら？」

瞳に一瞬動揺が浮かぶも、それを一瞬で押し殺してありきたりに誤魔化す。

当然それを見逃すカイではなく、見下すように鼻で笑った。

「ふん、まあいい。で、続けるぞ。手段っていうのはＡＴフィールドだ。それを収束させて飛ばせば十分な殺傷力がある筈だ」

「そんなこともできるの！？」

「流れ込んだ知識によるとな」

「方法は……訊いても無駄だったわね」

「ああ」

それは検査入院の時のことだ。

同じような質問をされて、カイはこう答えた。

『分かってはいるが説明できない。自転車の乗り方を子供に言葉だけで教えるのは無理だろ？それと同じだ』

勿論それで納得するリツコではない。

できる限りのことを聞き出そうとしたが、元々言う気も無かったカイからは何の成果も得られなかった。

「じゃあ銃は使わないの？」

「さあな、もしかしたら銃の方がいい場合もあるかもしれない。例えば狙撃するにはスコープのある銃の方が向いてるだろ？」

「確かにそうね。インダクションモードが使えればベストなんだけど……」

「それに他のエヴァと連携を取らなければならない時とかもな。戦力の差が多きすぎれば上手くいかないだろうし」

「大した自信ね」

「事実なんだろ？それぐらい簡単に推測できた。まあそれは置いといて、銃の使用許可を出しといてもらえないか？」

「どうして？」

「銃の訓練しないといけないだろ？」

あの紅い世界でカイは殆どの知識を他人の記憶と共に得たが、それはあくまで知識止まり。

しかも他人の経験に基づく物だ。

実際に自分が経験するのとは大きな違いがある。

故に訓練は必要なのだ。

勿論、訓練をするからには目的がある。

それは当然エヴァの為だけではない。

「そんなことを訊いてるんじゃないわ。私が訊いてるのは理由よ。あなたが直接するより、エヴァに乗ってした方が効果的なのは分かってるでしょう？だったら銃の使用許可なんて必要無いじゃない」

「そうだろうけどな、こっちの方が俺にとってメリットが多いんだよ」

「訊かせて」

「一つ目、俺はあまりエヴァに乗る気はない。二つ目、護身用にもなる。三つ目、その分の金と時間を別の有意義なことに使って欲しい。デメリットはあるか？」

疑問と言うよりも確認に近い口振りだ。

リツコにしても、一つ目は強制できないことであるし、二つ目、三つ目もそれに越したことが無いのは確かなので、断る必要はなかった。

「そうね、でも一つ質問よ。なら何故今日はエヴァに乗ったの？」

「必要だと思ったなら何だってやるさ。ただそれだけのことだ」

「そう、分かったわ。取り敢えず申請しておくわ」

そう言って書類を作成し始めた。

もしこの時彼女が、彼の言葉を深く考えていたのなら、歴史は変わってしまったかもしれない。

帰りがけに病院へ来た。

だが、どうしても病室へ向かうことができない。

（やっぱり駄目だ。振り切れてもいないのに、綾波を助け出すなんて駄目だ。そんなこと許されない）

背を向ける。

（頼む、シンジ。今は、お前に何とかしてもらうしかないんだ）

次の日

「ふあぁぁ〜〜……いまなんじぃ？」

今日は碇シンジのお目覚めだ。

上体を起こし、大きく伸びをする。

「ん、七時半か」

枕もとの目覚まし時計で時間を確認する。

ベッドから抜け出して、服を着替える前に机に向かう。

その真ん中に、一冊だけ置いてあるノートを手に取った。

よく見ると、その上部から赤と青の紙テープが覗いていて、日付が振ってある。

「ああ、二日連続でカイだったのか」

最も日付の新しい二枚の青の紙テープが、赤の紙テープの次に並んでいる。

まずは二日前のページを開く。

主だった事を挙げると、住居をミサトの隣に変更したこと、拒否権を得たこと、レイの見舞いに行ったことが書かれていた。

他には特筆すべきことはない。

そのまま次の日のページを見る。

最初に書かれていたのは銃の使用許可を申請したということだった。

その目的もきちんと書かれている。

後は、許可が下りれば銃の訓練をするので、筋肉痛になるのを覚悟してもらいたい。

備え有れば憂い無し、シンジも訓練を受けた方がいいとあった。

「筋肉痛は嫌だなぁ、訓練は……どうしようか？」

間の抜けたことを口にしながら続きを読んでいると、不意に目を引かれる所があった。

「ん？カイのお願い？珍しい」

『シンジ、昨日も書いた綾波レイのことで頼みたいことがある。

彼女の見舞いに行って、話をしてやって欲しい。

一回きりじゃなく、出来る限り何度もだ。

難しい話をして欲しいわけじゃない。

パイロットとしての質問でも、個人的なことでもいいんだ。

こう言いながら、俺は彼女に会うことはできない。

理由は言えないんだ。

すまない。

彼女は、個人的なことだが色々辛い思いをしている。

そしてそれを悪い意味で受け入れて、心を閉ざしてしまってるんだ。

そこから救ってやって欲しい。

話をし続ければきっと効果はあると思う。

絆を結んでやってくれ。

理不尽だと思うだろうが、頼む』

「こんな風に言うなんて、余程のことなんだ。それに会えない理由……こっちに来てまだそんなに日は経ってないのに、何かあったのかな？」

取り敢えず赤テープに日付を書いて貼り、綾波レイに会ってみると書いておいた。