あれから、数週間、ボク達はジオフロント内で生活した。

 

ジオフロントでなら、とりあえずかなりの間、自給自足が可能であった。

多くの人が、ジオフロントに残って、生活をする事になった。

中には、さっさと上の第三新東京に家族を連れてくるものもいた。

実際、間違いなく公共サービスが機能しているのは、ここだけだったから。

 

 

ボク達は、発令所のメンバーの中では、仕事が一段落しているらしい伊吹さんの世話になることになった。

といっても、別段一緒に住むと言う訳でない。

朝と昼、そして夜の三度、ボク達に必ず顔を見せにきただけである。

それから、少し重要なことと、まったくそうでないこと

そんなことについて話す程度であった。

 

この間、ボクとレイは、様々な訓練と調査を受けた。

 

一般常識から始まる様々な学問

簡単なスポーツから始まった体力テスト

そして、トレーニング

専門的な知識の学習

護身としての武道

コンピュータをはじめ、様々な機械の使い方

車、バイク、その他の操縦の仕方

しまいには簡単な戦闘訓練まで受けた

 

頭脳分野の方は比較的楽だった。

頭の中には、補完後から様々な人々の膨大な量の知識が眠っている。

このため、最初から、ある一定のことが解っているのである。

あとはその知識を慎重に掘り起こし、さらに反復することで慣れるだけである。

 

もちろん、すべてはっきりと思い出せる訳ではない。

それらは封印されているのだから、ボク達の意思で

そして、はっきり思い出せると困る。

もともと他人の記憶なのだ。

明確でないほうが、己に影響を及ぼさない。

その記憶自身がホントウに、ボクらのものになるまで、

それは何千年もかかるかも知れないけれど

 

だから、それらに関連したことが周りで起こったとき、なんとなく思い出せる程度ではある。

 

それでも、何も知らないのとはまったく違った。

覚えるのではなく、思い起こすだけでいいのである。

記憶するのではなく、確認するのである。

その作業は、非常に楽だった。

 

そんなわけで、どちらかと言うと復習、反復学習のような形で進めれたから随分楽だった。

それでも、数が溜まればそれ相応にきつくはあったのだけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

新世紀
第11話
鍛錬


 
 

 

 

 

 

 

 

訓練その他は、苦労したことも色々とあった。

 

様々な国の言葉を話すのは大変だった。

 

知識として、喋り方は解っていた。

ただし、口が慣れていなかった。

そのため、舌や口の中を噛んだりしてとても痛かった。

調子に乗って喋っていて顎が外れそうになることも、しばしばだった。

最初の頃など、ちゃんと喋っているつもりが、まったく言葉にならないことも多かった。

 

まともに喋れるようになっても、ちょっとした変化ですぐまた舌を噛むことも、度々

一つの言葉が、ようやく形になるようになったら、また次と、この苦難は続いた。

 

 

 

専門知識、技術の習得

トレーニング、護身術、武道の鍛錬

そして戦闘訓練

最後の方になると、随分ときついものとなった。

戦闘訓練は本当にハードそのものだった。

まさに体力の限界に挑戦するような毎日であった。

 

レイがいなかったらとっくに投げ出していたかもしれない。

慣れない訓練は、肉体的にも精神的にも辛いものがあった。

 

 

いつもレイがいてくれたから、続けられた。

共に歩む者の存在は、大きな支えであった。

互いを支え合う存在があるのは、大きな強みだった。

 

 

それでも、肉体的なものは、ちょっとハードだった。

 

何しろボクはたいしてスポーツが得意ではなかった。

体力的にも、とてもじゃないが自信はなかった。

レイに関しては、そもそもこの過酷な訓練に耐え切れるのかどうかさえ不安だった。

 

「今日は大変だったね。」

「どこか痛くない?」

「熱は出てない?」

「とにかく良く食べて良く寝よう。」

「マッサージしとこうか?」

 

こんな会話が、特に繰り返し行われていた。

実際、レイもボクも、一人ではとてもあれは乗り切れなかっただろうな。

 

そんな風に思えるほど、それはきついものだった。

 

”レイを守りたい”

 

この思いが有ればこそだった。

 

 

つらい訓練に耐えたのも、これからも一緒に暮らしていくためだった。

 

ボク達は、結果として多くの秘密を持ってしまったから。

ある人たちにとって、ボク達の存在そのものがビジネスになり得るのだから

 

あるいは目障りでしょうがない者達も

ボク達にとって敵にしかなり得ないものも多々いるのだから

 

力を制限する以上、様々な技能もまた武器になる

身を守る術を身に突ける必要があった。

 

ボク達は、秘密が多い。

ボク達に深く関わっている人たちには敵が多い。

ボク達自身に、大きな意味合いがある。

使徒が出て来る訳でも無いこれからの世界で、ボク達の力は脅威でしかない。

そして、とても魅力的な商品になりうる。

 

これだけあれば、ボク達をねらう人などワンさかといるだろう。

これまでは、たとえそれが利益になるとしても、使徒という現実に存在する脅威のため、ボク達を危険にさらす訳にはいかなかった。

 

しかし、これからは何の障害も無い。

ボク達をほっておかなければいけない理由は、使徒と共に消えてしまった。

 

 

そんなことを思うと、とても他人任せにしておこうなどとは思えなかった。

 

自分とそしてレイの。

二人分の命が懸かっているのだ。

 

ボク達を狙うものから、身を守らなければならない。

 

もちろん、ボク達の特性についてはほとんど知られていない。

特に力については、知る者はいない。

補完のことについて知っているのは、ごく一握りの人間だ。

 

もし、このことがバレでもしたら、それこそ大変なことになるだろう。

 

ただし、いつばれるかもしれないと言う不安はあった。

 

実際、NERVという組織は、お世辞にも一枚岩とは言えなかった。

おまけに簡単に外部の者を侵入させてしまうことがある。

職員の数が多くすべてに監視は行き届かない。

上層部ほどボク達に警戒している

 

”信用できない人間も中には居るんだ”

”力を使って危機を乗り切ることは、あまり得策ではない”

”力の開放は即察知されるため、ほとんどできない”

 

そんな思いがボクの危機意識をより深い物にした。

とにかく、なるべく通常の手段で身を守るしかなかった。

 

後に母の実家の力を借りようなどとは、夢にも思わなかった。

 

そんなこんなで、随分と努力した。

いつのまにか、戦闘訓練等を中心に置くようになった。

軍か情報部の特殊部隊がやるようなきつい訓練に、ボク達は耐えていった。

更に、様々な武器、兵器の使い方を習った。

日常にある物を使ったサバイバルの知識等もつけていった。

 

”レイを守りたい”

 

この思いが支えだった。

 

恥ずかしいながら、ついでに言おう。

この訓練の中で、お互いをサポートするような動きは随分と成績が良かった。

 

お互いを助ける。

お互いを守る。

助け合って危機を乗り越える。

愛し合う二人で

 

恥ずかしい思いが、しかし確実に、実を結んでいた。

 

 

NERVと言う組織が再び機能するようになっても訓練は続けた。

様々な実験に協力するようになってからも訓練は続けた。

ボク達は、お互いを守るため、できる限りは訓練を続けるつもりだった。

実際に、これらの訓練は、ボク達が大人になっても続けていた。

習いつづけたのはNERVからではなかったが

 

”本当に、好きな人のためなら結構なんでもできるんだな”

 

後にそんな感想を持った。

ボクとレイの二人は、とにかく多くの時間を訓練に費やしていた。

 

 

そしてこの間、NERVの他の人々は、とにかく秩序の回復と、他との連絡の取り合いで忙しかった。

 

 

おまけに、家族が心配で、多くの職員がやきもきしていた。

 

NERVの職員達の多くは交代で休みを取っていた。

自分達の家族や友人の無事を確かめるために、みんなとにかく必死で予定をやりくりしていた。

幸いだったのが、元々の仕事のほとんどが無くなったことだった。

 

 

もはや、使徒の研究はできない。

残っていたサンプルは、すべて石となり、砕けてしまったから。

 

あるには初号機と弐号機と9体の量産機

初号機と量産機から情報を引き出そうと必死になっていたが、しかしたいした成果が上がっていないようで

そもそもたいした情報があるわけでもなく

沈黙を守り続けているため人員も時間も割かれていない

 

NERVとしての仕事は、とりあえず各機関との連絡と事後処理のみになっていた。

そう、表向きは

 

おかげで、多くの余剰人員ができていた。

 

 

 

ただ、発令所のメンバーは当面とても忙しそうであった。

 

また、その下で、事務的な仕事をする人たちも大変そうだった。

彼らは、その他のいろいろな国、組織の援助を行っていた。

余剰人員は、結局すべてそこにまわされた。

 

特に、日本政府には、随分と協力をした。

 

何より、これからを良い有利な立場で戦うため。

ようやく回復してきた日本政府に対する交渉は、先手を取ったこともあり、有利に運んだ。

なにより、戦自一個大隊、丸ごと人質にした交渉は効果抜群だった。

いまだ、色々な面、特に復旧が今一つ進まない社会資本の回復のため援助をしているうちに交渉を進めたのも良かった。

 

援助が打ち切られれば、日本がたちまち混乱するのは明らかだったから。

ちなみに、日本以外の国では、人々が人の形を取り戻すのがかなり遅かったようだ。

それは、第三新東京を中心に、そこから離れるほど遅くなった。

地球の裏側辺りまでになると、二週間近く遅れていた。

 

後にレイに

 

「わざと?」

 

と、聞くと

 

「違う!!」

 

と、妙に怒った様子で言い返されてしまった。

おまけに怒ってどっかに行ってしまった。

よく考えたら、人が元の形を取り戻す過程では、ボクもかなり関わっていたのだった。

だから、即、それが仕組みの上で避けられない事だった事に思い付いた。

幸運なことに、早くにそのことに思い当たった。

 

そんなわけで、急いでレイに謝りに行った。

追いかけてみると、いろいろ変だった。

 

見つけてくださいと言わんばかりに様々な手がかりがあった。

しかし、決して簡単には見つからないように細工されていた。

ATフィールドの応用などの裏技は、相手もつかえることもあり全て封じられた。

だいたい、使えば発令所の面々に感づかれてしまう。

とにかく、見失わないよう、でも捕まらないよう細心の注意が施されていた。

地道に探すしかなかった。

とにかく、追い掛け続けるしかなかった。

ようやく追いついたところで、有無を言わさずに抱き締めたのだった。

 

何故なら

逃げ回られて、ちょっと気が立っていた。

追いつくまでの不安が、苛立ちを駆り立てた。

だから、きつくきつく抱いた。

そして、落ち着いてから一言、

 

「ごめん。」

 

と謝り、口をふさいだ。

 

レイの唇をむさぼった。

レイのその舌をもてあそんだ。

レイの歯をなぶった。

 

ボクはかなり長い間、そうしてレイを求めた。

レイもまたボクをきつく抱き返した。

ボクを唇でむさぼった。

 

捕まえた場所は本部にある庭のようなところだった。

 

とりあえず周りには人がいなかった。

もっともどうせ発令所の面々は、モニターしていたんだと思うけど

彼等は監視を怠らないから

 

今思うと、顔から火が出そうなほど恥ずかしい場面の連続だった。

それでもこの時は、ひたすら真剣だった。

逃げられるうちに、言いようも無く不安になっていた。

 

”もはや一緒にいられないの?”

”捕まえなければ、二度と会えないかも?”

 

普段は押さえている感情が湧き出したためである。

この時は、それほどまでに不安だった。

 

”ボクにこんな思いをさせて!!”

 

理不尽だとわかっていても、衝動は消せない

寂しさを忘れようと、いつまでもレイを抱いていた。

ボクの憤りを伝えようと、きつくきつく抱いていた。

 

だから

捕まえることができた、自分の腕で抱くことの出来る喜びから、レイに何度も何度もキスをした。

辛い思いを伝えるために、幾度もその唇を奪った。

離れたくないがために、その舌を絡めた。

 

ボクは、行動で、はっきりとその思いをレイにぶつけた。

後で聞いたのだが、レイはその時、やっぱりわざと逃げ回っていたそうだ。

 

「シンジが追いかけてくれるのが嬉しかったから」

 

消え入りそうな声で、恥ずかしそうにそう説明してくれた。

お互い、人目もはばからず良くやったなあと、そんな感想を残した。


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