はじめてのありがとう

たくさんの人との関係

様々な思い

多くの他人との出会い

様々な自分の発見



碇君に会ってから、ワタシはいろいろなものを得ることができた。

ワタシは、碇君と出会って人になった。



もっともっと長く、ワタシは碇君といたかった。

ほんの少しでも長く、碇君といっしょに生きていきたかった。



ワタシは碇君との様々な想い出に想いをはせた。

それは一年にも満たない短い間だった。

だけど、それまでの十四年間をはるかに上回る密度のある生活を送れた。





でも、もう終わり

ワタシは役目を終えて、無に帰る

もはや誰もワタシを覚えていないはず





すべての人の心から

そして碇君の心からも

ワタシ自身の心からも

ワタシという形が消える

ワタシの中の世界も失われていく

ワタシという存在がこの世界から消える





覚悟していたのに、とても寂しい。











そんな風に思っていたとき、ワタシは誰かに呼ばれた。



最初は、空耳か何かかと思った。

もはや、ワタシのことを覚えている人はいないはずだったから



“綾波!!”



二度目の声は確かに聞こえた。

確かにワタシを呼んでいた。

それも一番聞きたかった声で



”碇君!!”



確かに碇君の声だった。

確かに碇君の想いだった。

ワタシを求める碇君の心だった。



ワタシは消えかかっている意識と体を必死に声のする方向に向けた。

すでにワタシは、人の形を保てず、煙かなにかのようだった。

が、それえも必死になって向かっていった。



















新世紀
第六話
『新生』












Shinji



あの時どれだけ探しても綾波の姿は見えなかった。



”声は聞こえるような気はするのに”

”どこかからかボクを観ている気配はするのに”

”こんなに探しているのに”

”こんなに会いたいのに”

”こんなに側にいてほしいのに”



いっこうに見つからなかった。

ボクは不安でいっぱいになった。

時間が経てば立つほど、ボクの心はかき乱された。

焦りと苛立ちで、息苦しいほどであった。





”もしかして、綾波は人の姿を捨てたのかも”

”母さんと共に人々と旅立っていったのかも”





そんな事が脳裏をチラチラとかすめた。

想像は悪い方ばかりに働く。

不安な気持ちで心がいっぱいになった。

焦りがボクを駆り立てた。



赤い湖の水をかき分けながら、ボクは綾波を探した。

広い湖面を、いつまでも当てなく探した。

ずぶぬれになりながら、ボクは探し続けた。



いつまでも姿の見えない、綾波を



「綾波!!」



ボクは必死になって綾波を探し求めた。

心と声で、綾波の名を何度も叫びながら

体から赤い水を滴らせながら

不安と焦りに駆り立てられて





そんな時、ボクの目の前に揺らいでいるような白いものが現れた。



ミルクのようななめらかさだった。

絹かなにかのようなきめこまかさだった。

ボクの目の前で、ゆらゆらとゆれている

かたちの無い揺らめきだった。



突然、ボクの脳裏に、稲妻のようにひらめきが走った。

それは同時に、大切な重みをともなった。

それはまた、純粋な喜びをつれてきた。



「あ、綾波!?」



ボクのその言葉に反応したかのように、それはボクにまとわりついてきた。

思わずボクは綾波を抱きしめようとした。

しかし、その手は空しくゆらゆらゆれる白を通り抜けた。

本当に、温かい水がそこにあるような感触だった。



”綾波は、もう、人の形をまったく保てなくなっているのか!?”



ボクは、絶望と共にそれを悟った。

心の中が悲しみで満ちてくる。



ボクの気持ちを察したのか、綾波がボクをいたわるようにそばにいる。



優しく、ボクを包んでくる。



その様子が嬉しかった。



また、その柔らかな笑顔を見れないのが悲しかった。



ボクは、優しく包まれながら、泣いてしまった。



やさしく綾波に包まれながら、ボクは声を押し殺して泣いていた。



綾波に再び会えたことから来る安堵に泣いた。



その姿を二度と見ることができないのかという悲しさから泣いた。



ボクは、他にすべを知らない子供のように、いつまでも泣いた。



”形を失ったのであれば、再びそれを与えればいい。”



突然、ボクの脳裏に、そんな考えがよぎった。



そして、ボクの中で、何かが変わった。



同時に、体のうちから、急に何か大きな力が湧きあがるのを感じた。

背中を突き破って何かが出てきそうになり、ボクはしゃがみこんだ。

ボクは体を曲げ、自分の体を強く抱き込んだ。

体から湧きあがる力が、背中から突き出ようとするかのようだった。



そして、背中から光が突き出た。

ボクは思わず思い切り背中をそらしていた。

背中からの衝撃が、ボクのからだ全体を揺さぶった。



光は一定の長さになると、伸びる事を止め、そしてゆっくりと広がっていった。



それは光の翼だった。



後に、綾波に聞くと、それは初号機が最後に起動したときにその背にあらわれていたものにそっくりだったそうだ。



ボクは、何も解らないまま、さらにその羽を大きく広げ、六対十二枚の翼とした。



ボクは無意識に次々と動作を行っていた。



まるで何をするべきなのか全て知っているかのように



何も解らないまま、しかし何の疑問も無く動作を行っていく。



まるで、自分が自分でないようだった。



そして、翼は、綾波を包み込んだ。







綾波は、ボクとは別で、すべて解っていたのだろうか。



まったく慌てた様子もなく、じっとして、それを受け止めた。

光はやがて、継ぎ目の無い滑らかさで

まるでそれは、綾波を包む繭のようだった。



やがて、翼がゆっくりと開いた。

ようやくボクも落ち着きを取り戻した。

そのとき、目の前に、あの綾波がいた。

ボクが良く知る綾波が。

以前と変わらない笑みを浮かべていた。

綾波の微笑みをはっきりとその目にした。



我も忘れてその体を抱きしめた。



強く、強く抱きしめた。



二度といなくならないように



その姿を永久にとどめようとするかのように



そして、それまで忘れていた疲れが、ボクの体に染み渡っていった。

やがて、ボクは意識を支えていた緊張の糸を解き放った。











Rei





そこには、確かに碇君がいた。

ワタシはただ嬉しくて、嬉しくて、碇君お体に抱き着こうとした。

煙のような体でひたすら碇君の体に触れた。



”あ、綾波!?”



碇君はすぐワタシだと気付いてくれた。



そしてワタシを抱きしめようとしてくれた。



ワタシはただただ嬉しかった。



自分が人の形を失っていることもどうでもよかった。



消えてしまうかもしれない不安も、忘れてしまった。



悲しい想いも、ワタシの心のうちから消えていった。



ワタシはいつまでも碇君の体を包み込もうとした。





そんな時、ワタシのうちから、何かが碇君へと移っていった。



そして、何かが碇君からワタシへと移ってきた。



次の瞬間、碇君が背を折り曲げて、自分の体を抱くようにしてかがみ込んだ。



そして、突然、背から光でできた翼がその背から現れた。

その翼は、瞬く間に大きく広がり十二枚に別れた。

なにかと思うまもなく、いきなりワタシを包み込んだ。



その中で、ワタシは言葉では言い表せないほど、多くの体験をした。



まるでワタシは、その光の翼を胎盤として、受精卵まで戻ったかのようだった。



そして、一挙に碇君の知っているワタシの形まで、成長した。



ワタシはそこから、生み出された。



ワタシは、確かに、初めて人の形となった十四年前まで戻った。



しかし、ワタシは決して、碇

ユイをもとにした存在ではなかった。



第二使徒としてでもなかた。



ワタシは、綾波レイとして、生まれた。

そして、碇君の良く知るワタシとなった。



碇君の母親のコピーではない

使徒でもない

人形ではない

綾波レイとしてワタシは生まれた。





再び翼が開いたとき、ワタシは形を持っていた。

再び人として生きていた。

目の前には十二枚の翼を背負った碇君がいた。

その顔は、やさしそうで、そしてとても嬉しそうだった。



ワタシは幸せで、幸せでぼうっとしていた。

ワタシが、どうしようもなく突っ立ていると、碇君がワタシを掻き抱いた。

強い強い抱擁に、ワタシも応えて抱き返した。

すると碇君は、嬉しそうな表情のままゆっくりと意識を失った。



ワタシは喜びからいつまでも碇君を抱いていた。













opt

ある戦自の隊員





それは突然起こった。



わたしはいつのまにか気を失っていたらしい。

目を覚まし、ワタシは状況を確認しようと周りを見渡した。

すると、同じように仲間がいた。

やはり、同じように辺りを見渡していた。



すると人影が目に留まった。

少年が一人さまよっていた。

碇シンジという少年である。

確か、エヴァンゲリオンの三番目のパイロットで、ターゲットの一人だった。



ワタシは任務を思い出すと少年を処理しようと銃をつかもうとしたが、なくなっていた。

周りのワタシの仲間も同じようだった。

ろくな武器も無かったので、少年を取り合えず取り押さえようと仲間と共にそちらに向かった。



その時になって、ようやく、周りの様子の異常に気付いた。

ジオフロントに突入していたはずのワタシが、どういうわけか、地上にいた。

しかも、空も地上も一面赤い色で覆われていた。

はるか無効には、巨大な女性の首が横たわっていた。



周りをよく見ると、死んでいるのか、気を失っているのか、大勢の人間が横たわっていた。

戦自の隊員もNERV職員も大勢いた。



中には起きている人間もいた。

だが、みな一様に周りのその状況に呆気に取られているようであった。





周りの状況を飲み込めず、仲間と共に、何かをなすとも無く立ち尽くしていると、いきなりそれは起こった。



少年の側に、いきなり白いもやか何か解らない物が現れた。

と思うと、少年の背から、いきなり光が現れたのだ。

それはいくつにも別れて広がり、そしてもやを包んだ。

まるで少年が翼でもって、そのもやを抱いているようだった。



次の瞬間、世界が突然もとの色合いを取り戻した。

すべてを覆っていた赤い色は、少年の羽が一際に明るく輝いたかと思うと、まるでそれに吸い取られるように消えていった。

はるか向こうに見えていた巨大な首もすべて、掻き消えてしまった。





少年の翼が開くと、そこには、同年代の少女がいた。

少年と少女が抱き合い、少年は気を失った。



同時に翼も消えた。





よく見ると、現れた少女は、同じくターゲットの綾波レイというパイロットであった。



再び任務を思い出したワタシたちが、取り押さえようと向かおうとしたその時、少女がこちらを見た。

かと思ったら、次の瞬間、二人は消えていた。

周りを見渡すと、いつのまにかNERVの職員も消えていた。



後にはただ、呆然とたたずむ我々が、何も無かったようにたたずむ、第三新東京市の郊外に残された。





やがて、NERFの副司令の冬月と名乗るものが、無線を通して停戦を申し込んできた。



さらに二週間後、戦自の部隊の指揮系統も回復し、正式に停戦と撤退命令が来た。

我々は、ほとんどわけのわけが分からないまま、何もなせないままに撤退した。









PS

「ねぇ、碇君は2号機パイロットのこと、いつも名前で呼んでる」

「ん、そういえばそうだね。なんか最初に言われたからね。そう呼べって、命令みたいにさ」



苦笑するシンジ



「だったらワタシも名前で呼んでほしい、それに名前で呼びたい」

「え!?」

「ダメなの?」

レイは上目遣いで、目を潤ませ手を胸の前で軽く握って見上げる

凶悪なまでの破壊力を誇る、とくにシンジには絶大な効果を及ぼす攻撃である。



「わ、わかったよ、綾波」


「違う、レイよ、レ・イ。さぁ、シンジ、呼んでみて」

「れ、レイ」

「嬉しいの。シンジ」



レイはシンジのい首に思い切りしがみつき、体を胸を密着して抱きついた。

ちなみに両名とも裸である。

あるいは夢の中かもしれない


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