そのとき、ワタシは一息ついた。
”ようやく自分の仕事を終えたのだ”
そう思いながら、ゆっくりと世界を見渡した。
自分の流した血で、真っ赤に染まった世界を
達成感など無かった。
ただ空虚な穴が胸に残った。
空しさだけが心を揺り動かした。
望んでいたはずなのに
このときが来ることを
これで、望む者はみな、人の形を取り戻す。
そして、新たな世界で生きていくはずだ。
彼の望みのままに
そして、望まないものは、初号機と共に、はるか宇宙へと旅立つこととなる。
嘗てワタシに形を与えたもの
ワタシのオリジナル
そしてワタシを管理し妬み、憎んでいた人も
”ワタシは用済みなのね”
”ワタシは形を失う”
”人の心からも消える”
”ワタシはこの世界から消滅するのね”
以前はそれを望んでいた。
早くすべての役目を終え、そして死ぬことを。
でも今は恐れていた。
死ぬのが恐かった。
忘れられてしまうのが寂しかった。
消えていくのが悲しかった。
すでにワタシの体は、人の形を成していなかった。
補完で使ったもう一人のワタシ、本当のワタシの体は役目を終えた。
そして、死に行き、崩れていっていた。
まだかろうじて、首や手の部分が形をとどめているようだ。
ワタシも、同じ
綾波レイもまた同じように役目を終えた。
そして消えていくのだ。
もうすぐあれも崩れる。
完全に消えてしまう頃には、ほとんどの人があれを忘る。
そしてその時、ワタシも忘れられる。
ワタシが消える。
どうしようもなく、寂しかった。
誰かのそばにいたかった。
もっともっと生きていきたい。
そんな気持ちでいっぱいだった。
”碇君と生きていきたい。”
心の中は碇君のことでいっぱいだった。
次第に消えていく体をぼんやり見ながら、ワタシは物思いにふけった。
薄れ行く意識の中で、ワタシは大事な人を思い起こしていた。
ワタシは、碇君の事を思っていた。
碇君と会った時の事
碇君との思い出
碇君の中にある、ワタシが生きた証
ワタシの中にある、碇君が生きた証
そしてもうすぐ消え行くワタシ自身
消えてしまうその時まで、碇君の事を考えていよう。
そんな風に思った。
そして、その思い出に浸った。
すがっていたのかもしれない