連邦の中心都市の一つ
多くの衛星都市を持つ首都を中心とした、都市国家たるブラックアーケード
寒冷ともいえるその気候
十二人の不愉快な老人達との会合も終わり、乾いた空気を吸い込んで吐き出し
深呼吸して老人達の毒気を抜くと、カヲルは歩き出す。
部屋から出ると、二人の容姿の良く似た少女が待っていた。
鎧のような、見ようによっては飾りの多くついた踊り子の衣装のような
そんな華麗な姿のこの二人も銀髪に赤い瞳である。
彼女等はそのまま歩き出したカヲルに並び、自分達も歩き出す。
「彼の者の結界範囲が現在かなり広がっています」
「支配下の島に特にそれらしいものは増えてないのにかい?」
「はい、現在のところ、十二の島に結界の要が置かれています」
「それは知っている」
「これはその島の町、港一つが結界になっていることは・・・・?」
「いや、本当なのかい?」
「はい」
始めて聞く内容にカヲルは聞き返すが
帰ってきたのはもっとも短い肯定
「なるほど、港と町の整備を進めながらそんなことしてたんだ。盲点だったね」
「ハイ、実質的に彼の者の勢力下で、もはや破壊は難しいです」
「しかも破壊されても、街の復興とかで幾らでも直せる、いや住民達(たち)がする・・・・」
「そうなります、住民自体が結界の一部と考えて良いでしょう」
「やれやれ、でも今は増えていなんだろう」
「町などの要はです」
「と、言うと?」
「奴(やつ)は人間そのものを要にしています」
「・・・・・・どうやって?」
「警備船団の兵士達(たち)、特に魔法兵、上級魔法使い、魔導師です」
「潜在的に少しでも魔術の素養があるものに自分の力を埋め込み、己の端末に仕立て上げる」
「そしてその端末の行動範囲が一時的な結界となるのです」
双子らしい二人の美少女は、自分達の話す内容の分担をあらかじめ決めていたように
それぞれの言葉をまるで一人が語るかのように二人で喋る
端から見るとかなり異様な光景なのだが、カヲルは慣れているのか気にする様子も無い。
「先の戦闘で、彼らにもまた様々な使い道があることがわかりました」
「敵結界ないであらかじめ書き込まれていた魔法プログラムの発動」
「その効果は見事に証明されました」
そう、ミサトの率いる船団は自らの結界で守りを固めていたにもかかわらず
捕虜にしていた警備隊の水兵達と、クァードとストラーシャの眷属達が突破口になり見事に破られたのだ。
「なかなか見事だったよね、先の戦闘は」
「はい」
「それも、大容量の魔力キャパシティと実際の巨大な魔力があればこそだねぇ」
「・・・・・・・・」
「そんなに困らなくていいよ」
なんお方策も見いだせず、いくらかしょんぼりする双子の姉妹
そんなふたりにカヲルは優しく声をかける。
「君たちが気に病むことでは・・・・・・・無いとはいえないけど悩んでもなんにもならないし僕らみんなのことだし」
「ありがとうございます」
二人はカヲルに気遣わしたことを恥じ、表情を引き締め
さらに報告を続ける。
「つまり、彼は自分の艦隊、大部隊を率いていれば、どこでも行動可能なわけだ」
「そうなります」
「こちらに同じことは出来ないのかな?」
「確かに、私達も今は自分達の結界のそとでは長く活動できませんね」
「こちらも真似出来れば越したことは無い」
「でも、今のままでは無理です」
「どうして?」
予想はしていた者の、間髪入れず否定されたのでさすがにきになって聞き返すカヲル
「我々にはそれを為すだけのキャパシティーがありません」
「忌々しいね。力ですでに劣るわけかい?こちらには十七人とシンジくんがいるというのに」
「そうなります」
「ともかく、こちらも方法を考えないと、いざとなったら何時でも全力で戦えるように」
「はい」
「そのとおりです」
様々な問題が山積みである。
そんな中、様々な手段をシュミレートしてみるが、実際それほど方法が無いことに気づくカヲル
そのことが苦笑しつつ口から漏れる。
「今は、シンジ君とあの二人にまかすしかないか」
「そうなります」
「現在はあの三人以外結界の外では我々もまた満足に活動できませんから」
「こまったね」
「「ええ」」
3人は良く知る、そして大切な仲間を思い
しかし基本的にあまり策謀、計画を練ることよりは直接闘うことを好む性格を愁い
なにか手は無いものかと、立ち止まり思案した。
「ともあれ、僕は僕に出来ることをするよ、君達はしばらく休んでおいて」
「別に休まなくても大丈夫ですが?」
「なるべく力を無駄遣いしないで欲しいんだよ、でも眠りに入る前に踊りを、二人の踊りを一度見せてね」
「いいですよ」
「わかりました」
二人の少女は華やかに微笑むと、静かにカヲルの前から立ち去った。
そしてカヲルは一つの部屋に入っていった。
狼精日記
第十五話
『それぞれの思惑』
その2
そこには何も無く、窓も無く
ただ中央に淡く青白い光を宿す大きなオーブが細く見事な衣装を施された棒の上にあった。
カヲルはその前まできて、オーブに手をかざす。
するとそこから光があふれ、目の前に幻影を映し出した。
一人の神官らしき人物が出てくる。
「これは渚様、どのようなご用件でしょうか?」
白い衣装に身を固め木の葉を紋章にした皇国のシンボルを刺繍された
帽子を被った壮年の神官が恭しく頭を垂れる。
「予定通り皇帝陛下との会談のため通信しました。陛下に取り次いでください」
「しばし御待ちを」
そして、幻影が一度白く覆われ
次にどこかの豪奢な部屋が現れた。
そして、正面には豪奢な椅子に座った、柔らかい雰囲気の
しかし自然とこちらが居住まいを正してしまうような威厳を持った女性が口を開く。
「久しぶりですね、渚カヲル」
「お久しぶりです。皇帝陛下にあらせられましては、御変わりも無くご健勝のご様子・・・・・」
「堅苦しい挨拶はいりません。首尾のほうはどうでした?」
例に盛れず、思わず深深と頭を垂れてしまったカヲルがお定まりの挨拶をしようとすると
ネルフ皇国女帝・碇ユイはそれを留め、さっそく報告を聞こうと促した。
「そうですか・・・・・・それほど大きな被害はでなかったのですね」
「はい、戦いは終始押されていましたが時間そのものが短かったのが幸いでした」
しばらくカヲルが報告するのにまかしていたユイは、被害のことになってようやく口を挟んだ。
その意外な少なさに安堵すると、ユイはカヲルの話しの内容からそのまま次のことを思案し始めた。
「・・・・・・・・わかりました。戦力の増強はこちらでも考えておきます」
「ありがとうございます」
「それから魔道師の派遣、急いでください」
「もちろんです。陛下」
「こちらも海軍の技術部員、訓練教官三十名を派遣します」
「重ね重ね、ありがとうございます、それではこれで」
「引き続き報告怠らぬように」
「はっ!」
最後は再び皇帝の威厳をみせ、ユイは片手を上げて通信を切った。
そこは国王の謁見に使うことも有る応接間の一つ
部屋には彼女ともう一人の女性がいた。
ユイはソファーに腰掛けていたその女性に声をかける。
「どう思います?今回のこと」
「結局のところ、戦闘力において相手の優位は圧倒的ってことを見せ付けてくれたわね」
「見せ付けた?」
「そう、言わばこちらの出方を牽制したんでしょう。戦力が整う前に」
「何の為にです?」
「それはもちろん邪魔するため、ついでに相手の行動を制限するためでしょうね」
ソファーに座った紫の髪と黒のマントと妖しげな衣装に身を包んだ女性は淡々と
しかも思い切り為口をきいている。
「でも、それなら一度で十分だったはず・・・・・なぜ無理までして葛城将軍の部隊まで襲ったと思います?」
「気になる?」
「ええ、動機があまり見えてこないんです。それほど戦略上意義があっtわかでも無いですし」
「そうね、だいたい単純に戦力をそぐのならより自由の利くあの蒼銀の巨狼をだせばすむことですし」
「そうなのよねぇ・・・・・」
どうにも学者根性が即位後も抜けないのか?
解らないことがあると解決せずにはおれないユイにとって、こんな謎は奥歯に者が挟まったようで気持ち悪い。
一方の赤城ナオコには心当たりがないでもなかった。
「まぁ、これは予想だけど」
「なんですなんです?何を思いついたんです?」
「まったく・・・・・・そうがつかないでよ」
「あ、すみません・・・・・・」
「ふぅ・・・・」
いきなり詰め寄ってきたユイ
その年の割に若すぎる容姿と美しい顔が目の前にきて、多少トギマギしながらも
ナオコはなんとか踏みとどまり、ユイに軽く注意して心と体をおちつかせ、体制を整える。
「葛城将軍の部隊を狙ったことは、それほど意味がないと思うのよ」
「意味が無い?」
「そう、はっきりいえば気まぐれ、なんかの八つ当たり」
「むぅ〜〜〜〜」
わかりやすい説明だが、どこか納得出来ないでいるユイ
しかしナオコはそれにつきあう気など無かった。
「ともかく、この話はこれでおしまい。後は・・・・・・・」
「後は、ともかくこれからくる敵に現在出ている部隊をどう対処させるかです」
「そういうこと」
何とか話を切り替え、ユイのこれ以上の接近を防ぎ
少しがっかりしながらも、同時にほっとするナオコ
そんなナオコの内心を知ってか知らずか、ユイはさらに話を進めていく
「対抗策は?」
「結局向こうは正規の行動をおこす軍を襲うことはないのだから、あの連合艦隊には充分に注意し、戦力を分散させないようにしなくちゃ駄目ね」
「それでは計画が滞りますね」
「アスカちゃん?彼女の海賊団の援助を増やして、さらにこちで一つ作りましょう」
「人はいるの?」
「ちょうど霧島家の家臣に良いものが残っていたわ」
「あの家ね・・・・・・」
家臣の大半と嫡男の裏切りにより嘗ての勢いを失った名門中の名門貴族を思い起こす。
「まぁ、さすがに人材は多いから。それでいくつもり、のこりは海軍の予備役から出しましょう。あとは新兵」
「物にするのが大変」
「海軍に徹底的に訓練させましょう、そういうことでいいんじゃない?」
「わかりました」
アッサリと結論を下してしまう。
皇国の重要な決定はともすれば貴族院でも宰相でもなく
この二人がさっさと決めてしまうことが多かった。
「ところで・・・・・・・今日はゲンちゃんはいないの?」
「あの人は執務中です」
「そ、じゃぁあとで寄ってみるわ、またねユイ」
「また、ナオコ」
どうにも趣味の悪い、美人ではあるが化粧のけばい年齢不肖の女性
皇国相談役赤城ナオコはそれだけ言うと、宰相のゲンドウを求めて部屋をさった。
そして、皇帝陛下は早速逃げ惑うであろう旦那の一人、ゲンドウの様子をみようと
再びオーブに手をかざし、幻影を映し出すのだった。
「レン様・・・・・・・」
「ん?何マナ?」
書類仕事も一息つき、早速マナに紅茶を入れてもらったレン
自分は総督府貴下の警備船団の大規模な訓練を見に行っていたマナ
戻ってくるなりレンに会いに来て、はなにか言いにくそうにレンに声をかける。
「私は・・・・・・・・・・」
「?」
「私は役に立ってるのでしょうか?」
「へ?」
いきなりの質問にレンは思わず面食らってしまう
「私、あの二人ほど力無いですし・・・・・・・」
「ちょ、ちょっと待って、なにがそんなに気になるの?」
「いえ・・・・・私このままじゃレン様の脚を引っ張らないと心配で」
マナはエプロンドレスの裾を握りしめ、俯くその翡翠の瞳には涙がたまっている。
その様子に、冗談ではすまない深刻さを感じたレンは、マナをそのまま抱き寄せると
その揺らいだ瞳にキスをして涙を舐める
「ねえ・・・・マナ」
「はい・・・・・」
「ボクを今までずっと支えてくれたのは誰?」
「それは・・・・・」
「ボクを公私にわたってもっとも手伝ってくれてるのは誰?」
「・・・・・・・・・・・」
「ボクが出るべき様々な場所で、唯一その役目を肩代わり出来るのは?」
「・・・・・・確かに今までは私がいろんな面でさせてきたと自負しています」
「なら、いいじゃない、マナはこれまでいつもボクを助け、支えてくれた」
「でも・・・・」
「でも?」
マナはそこで言いよどむ
「戦略、謀略、様々な政治、政策決済の面ではリナがいます、力の面では綾波さんがいます」
「ん」
「私でなくてもすむのでは?私ではすでに役者不足ではないか・・・・・」
「不安?」
「はい」
「でも、ボクは暇なんてあげないからね、マナには絶対!」
「!!」
レンのストレートな物言いにマナは目を丸くする
「だって、マナがいてくれないと誰がボクの世話するの?だれがおいしい紅茶入れてくれるの?」
「それは・・・・・・魔力さえ使えば、いくらでも・・・」
「それがだめなんだなぁ〜〜〜」
「?」
「だって、ボクはマナがあんまり世話焼くもんだから完全にそれに依存してるし」
「・・・・」
「それがやっぱり気持ちいいんだもの」
「なら・・・・・なら・・・・・・・」
「ほんと、マナが悪いんだからね」
思い切りその豊かな胸にマナを抱きしめ、レンは続ける。
「朝お起こしに来てくれること、お茶を入れてくれること」
「・・・・・それは」
「食事の用意、着替えの手伝い、風呂では背中を流してくれる」
「・・・・それは私がしたいから」
「そして、ボクも心地よいし嬉しいから任せっぱなしだった」
「はい・・・・」
レンは楽しげに日常の風景を歌い上げ
マナもつられて表情が多少穏やかに、そしてゆるむ
「昼食の用意、決済の手伝い、閲兵式の代理・・・・・・ボクはマナに頼ってばかり」
「そうでしょうか?私はただやりたいだけで別にそんな・・・・」
「そして夜もとても大事・・・・・・・」
「あ、あの」
「可愛いいしね、マナ。ボクの趣向がこんなになったのマナのせいだよ、絶対」
「・・・・・・そ、そんな」
マナは顔を上げるが微笑みながら夜の生活をあげられて
今度は真っ赤になって再びレンの胸に顔を隠す
「マナが再現なくボクを甘やかすから・・・・・ボクはマナがいないと一日の始まりもろくに迎えられない」
「あ、あのレン様」
「だからダメ!未来永劫、神々の魂が擦り切れるまで星々の光が途絶えるまで、君はボクの側にいるの。わかった?」
レンは無邪気に、華やかに笑いながら膝の上に載せたマナの顔をのぞき込む
マナの瞳がから見る間に涙があふれ出す
「アリガトウ、ありがとう・・・・ございます・・・・・う、ううう・・・・・」
「だから、絶対マナはボクのところにいないと駄目」
「はい・・・・はい・・・・・」
「愛してるよ、マナ」
「私もです」
嬉しさ、喜び
そのた様々な感情が一挙に涙になってあふれ出す
マナはレンの豊かな胸に顔を埋めつつ、泣き続けた。
(でも・・・・・・・私はもっとレン様の役に立ちたい。力になりたい)
しかし想いは募る
(力が欲しい、もっともっと大きな力が!)
深く静かに沈んで行くも、滂沱の涙でも流しきれるものではなかった。
「よく来たわね、みんな」
ブリデン島に向かう『大海原の淑女号』の甲板上
その前に大きな港に船団を抜け出してきたところで、ミサトはある客人を迎えていた。
「お久しぶりです。姉さん」
「姉さんもお変わり内容で」
「元気にしてました?」
「仕事さぼってませんか?」
「ああ!もうそんなに言わないの。つもる話は後でゆっくり私の部屋でね♪」
「「「「「「「「は〜〜〜い」」」」」」」
ミサトの前に集まってわいわいとやっていた八人の子供が答える
「それにしても、みんな早かったわねぇ、大丈夫だった?」
「はい!みんな健康そのものです」
「なんかリツコに変なことされなかった?」
「特にありませんが?」
「そう、でも躯いじられたりセクハラされたり・・・・・・泣き寝入りは駄目よ」
ミサトはどこか見当違いなことを言い出し
その前に集まった八人、いずれも子供なのだが、彼らもまた面食らう
「みんな元気で良かった。これからは十分くつろいでね」
「ええ」
「お世話になります」
比較的年長のもの達がミサトに挨拶をしてると思うと
「おい、見ろよ。これで操縦するんだぜ」
「かっこいいなぁ、やりたいなぁ」
「なに言ってる。無理だよそんなの・・・・・・」
「それは・・・・」
「あ、こっちもおもしろい♪」
小さい方の子供たちは必死に目新しいものを見て回り楽しんでる
みな、ミサトとの再会を単純に喜んでいた。
しかしミサトの思惑は違った。
「さ、昼食の準備が出来てるわ。みんなで久しぶりに食事にしましょう」
(この子達がいればあいつらに、あいつらに勝てるわ。でも訓練しないと)
心の奥でそのような
暗い暗い思いがあった。
一方
王都の一角
貴族の館が立ち並ぶ中、一際大きな屋敷の一つ・洞木家
その若き取締役(当主は父)洞木ヒカリはあまり虫の好かない、しかし重要な客を迎えていた。
「・・・・そう、まだ資金が足りないの?」
「そのようです、それで私がここに参りました」
「判っています、援助が欲しいのですね」
「その通りです」
シンジの連合艦隊
アスカ等の海賊団の資金、物資の調達を新たにシンジから請け負った(脅された)ケンスケは
重要な協力者の一人、洞木ヒカリい会いに来ていたのだ。
「言い分だけ出しましょう、ただし・・・・・・」
「ただし?」
「もしこれで私腹を肥やすことがあったら、私を含め現在協力している貴族達はアナタを排除します」
「そんな、私以外にだれが裏まで手を回して物資の輸送、資金の調達が出来るのです?」
「そんなもの、いくらでもおります」
「なっ!」
先日ブリデン島でみたシンジの笑みを思わせる凄惨で殺気を孕んだ冷笑に
もともと気が小さいケンスケは、六歳も年下の相手に縮みあがる。
「皮肉なことに奴が交易を盛んにした御かげで商人が多く育っているのです」
「くっ!」
「アナタは確かに得がたい協力者です。くれぐれも間違いの無いよう・・・・・・」
「わかりました」
そして召使に案内され,表向きは丁重にケンスケは玄関まで送られた。
しかし、その心中は屈辱で沸きかえっていた。
「ち、見てろ! 今は無理でも必ず貴様等出しぬいてやる」
暗く暗く、そう誓うのであった。
さらに二日後
「しかし、アイツラ偉い見方がついとるんやのぉ」
「何がです?」
「あの狼や!港を最初におそった狼」
「ああ、あのレイよかいう名前の」
「レイ?」
「そう、綾波レイ、人の姿を取っていることも有るようです」
シンジとトウジは、ようやく出向が可能になった貴下の艦隊お最終準備を監督しながら
先日現れた蒼銀の巨狼について話し出した。
ちなみに、トウジは何時もののっぺりとした全身黒い鎧の“じゃーじるっく”
シンジは軽い様子の白銀の鎧と青のいでたちである。
「へぇ、女か?」
「スゴイ美少女・・・・・・と、いいたいところですが、実際には絶世の美少年です」
「ま、まさかレンのやつ・・・・・・・・・」
レイが女でなく男、そして美少女と見まごう美少年と聞いて、トウジの心にある予想が生まれる。
それは大変正しくて
「多分そのまさかでしょうね」
「・・・・・・・・・かわってしもうたんやのぉ」
「まぁまぁ、気を落とさずに」
「それで、その綾波レイやけんど、アイツ一体何もんや?あの力、尋常なもんやないで」
「相田殿から聞いたのですが、あれはもともと西大陸、ネルフ皇国の山脈にいたそうです」
「ほう、ネルフ産かい」
「その地方では神としてあがめるものもいたとか・・・・・・」
「ほう・・・そりゃスゴイ、でもなんであんなところおんねん?」
「ええ、なんでも相田殿は一度あれを捕まえたことがあったとか」
「何ぃ!?」
いくら有名で取引の規模が多いとはいえ、一回の商人が艦隊を圧倒した化け物を捕らえたと聞き
目が飛び出そうになるほどトウジは驚く。
「それで、売りさばくため連邦に向かっていたのが途中エニシアン島で狼は脱走」
「そりゃマズイ」
「そう、大問題、それでさらにマズいことに巨狼はそのまま城に逃げ込んだ」
「それで、レンが買い取ったわけかいな?」
「いいや、取り上げたそうです。相田ケンスケを逮捕し、牢屋にぶち込むかわりに」
「罪状は?」
「危険な獣を野放しにし、あまつさえ城に追い込んだから」
「なるほど・・・・・・ふ〜ん、しかしどうやってあないなバケモン捕まえたんや」
「捕まえた当初はあそこまで魔道を操ることは出来なかったらそうです」
「ほう?」
トウジはそれまで作業している部下たちに向けていた顔をシンジに向けてより話しに集中する。
「しかも精神てきにかなり幼いところがあって羊の群れを罠に使ったら見事にじゃれて簡単に封印できたそうだよ」
「なんじゃそりゃ?」
「ま、とにかくもはやそれなりに戦いも習っているみたいだし、その手は通用しないでしょう」
「こまったなぁ」
「そうだですね」
この二週間ずとたたかった相手である。
それだけに相手の技量は良くわかる。
幾ら予測できても、その行動を呼んでゆり中達に戦いを運んでも
結局傷一つつけられなかった相手だ。
二人はしばらく腕を組み考え込む
しかし、ここでもどこか関係が変化していた。
シンジは多少トウジに心を許し、トウジは疑いを捨て去ったのか?
なにかが変わっていた。
そして艦隊出発のとき
艦隊はその威容を完全に取り戻し、兵士達はみな再び力に満ちて
空は青く、海は静かだった。
シンジはトウジとともに港のさんばしまで見送りに来たアスカと対話していた。
「あなた達は以後も彼らの警備船団や警備している商船を襲ってください」
「言われなくともやるわよ、それが仕事だし皇国の、陛下の命令なのだから」
「そうでうね、くれぐれも彼ら自身と闘おうなんて思わないでくださいよ」
「わかてるわよ、ホントにしつこいわね」
「済みません、心配なんですよ」
「なっ!?大きなおせわよっ!!」
シンジの感情のこもった声にアスカは赤くなる。
「他の貴下の海賊も同じ行動を取ります」
「それで、相手を翻弄したいわけね」
「お願いします」
「まぁ、まかされたわ。どうせ業務内容は変わらないしね」
「そうですか、ではお気をつけて」
「ふんっ!」
そして、シンジ達は新たな任務に向かった。
「山岸さん・・・・・結局こなかったな」
最後に小さく呟いた。
この別れの意味がとても大きかったこと
それはとても大きな回り道だったことに気付いたのはずっと後だった。
「行ってしまったのですね」
カードをひき、並べつつ
マユミは部屋で呟いた。
「今回の襲撃は成功だったのでしょうか?」
今日ものんびりと庭でくつろぎつつ
相変わらずのメイド服のマナは御茶の準備をしながら
シャツにズボンというどこか昼下がりの休憩中の“さらりーまん”のような姿のレンは
眼鏡をかけて秘蔵の魔道書を読み解き、魔法の研究をしながら
レイは日溜りの中ウトウトしながら
リナはいつもの無邪気で嫣然とした独特の笑みを浮かべつつ
庭の芝生に敷物を引いて、御茶と昼ねと読書の穏やかな時間を過ごしていた。
「どうかな・・・・だいたい目的は果たしたと思うよ」
「はぁ・・・・」
「少なくとも連合艦隊はむやみに動けない」
「ついでに葛城とかいうあのイケイケ(死語)の率いる船団も肝を冷やしたでしょうね」
レン達は様々に意見を交える
「そうですね、でも彼らの指揮下に入った海賊達はどうしましょう?」
「とりあえずは警備船団で相手をするしかないね」
「しかし、それには数が足りるかどうか、あとゼーレの領域も」
「あとはレイに頼むしかない、まかせて良いかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいわ、潰せば良いのね」
ほんとうに眠りかけていたのか?
レイの反応はかのあり鈍かった。
そんなレイをレンは微笑ましく、マナは呆れたように見てたが、しかし話しを元に戻す。
「そう簡単にはいかないかもしれない、あまり無理をせず牽制さえすればいいんだからね」
「あとくれぐれも民間船を襲わないでよ」
「・・・・・・・ふぁぁ・・・・・・・・わかった」
「「・・・・・・・・・・・・(汗)」」
相変わらず薄めを開いただけで、耳も寝ていて尻尾もダランとして
その愛らしい口でめいいっぱいあくびをしてからレイは答える。
今度はレンも少し不安になったが賢明にも気にしないことにした。
「・・・・・・・・ところで最初のブリデン島襲撃の時、最後の辺りで妙な気配をかんじたのですが」
「・・・・・私のほうも何人か、力の強いものが見てた」
「気づいたの・・・・・・あれが当面一番厄介な敵だよ」
「そうですか・・・・・・大丈夫でしょうか?」
「とりあえず。ボクの結界内にはこれないだろう」
「他は?」
「相手もあまり表だって動けないし、行動も制限されてるみたいだ。滅多に出てこないと思うよ」
「出てきたときは?」
「なるべく戦闘はさけて、あるいは時間を稼いで,ボクが行くから」
「難しいですね」
「気をつけるのは、レイだよ、散歩のとき襲われたんじゃたまらない」
「相手の結界には入っちゃだめだからね?」
「・・・・・・・・・むぅ・・・・・・・・・・・・わかったなの・・・・・・・・」
((本当にわかったんだろうか?
))
あくびをかみ殺しながら返事をする例を不安げに見る二人
レンとマナは心配事が増えた気がして少し滅入った。
ちなみに、よほど気に入ったのか、リナはそんなレイの様子を目を細めて見守っている。
というより、なんかよだれの音が聞こえそうな感じだ。
「それと、リナ・・・・・・“アレ”、何時出来るの」
「あ、ああそう、“アレ”ね。まだしばらくはかかるわ。とりあえず、その間に材料をそろえて頂戴」
「わかった。マナ、また頼める」
「判りました」
「こちらも、連邦側の島の攻略を急ごう、忙しくなるよ」
「はい」
ともあれ、3人は今は静かに御茶と読書と御昼寝を
柔らかい日差しの昼下がり、庭の芝生で楽しんでいた。
後に多くのものが述懐した。
あのブリデン島の戦いが、本当の戦いの幕開けだったと
あれから一月の攻防が始まりの序曲だったと
あのとき、何かが変わったのだと
しかし、彼らがそれを知るのは、まだ先である。