「今回は楽しかった」

 

よく通る声が海域全体に響き出す。

 

「リバイアサンの奴が邪魔をしなければもう少し楽しめたのだが・・・・・・どうやらタイムアップだ」

 

夕日に染まり、黄金色のオーラを纏った黒翼と身体は上に上に登っていく

 

「いずれまた会おう、今度はもっと面白い趣向を用意しよう。君たちも精進に励んでほしい」

 

夕日を背に笑うレン

 

「さらばだ」

 

彼女はそれだけ言うと忽然と消えてしまった。

あとには憎しみをもはや隠そうともしないシンジと、魅入られたようなマユミ

複雑な表情で消えたあたりを見つめるアスカとトウジ

多少自失気味のサキエルとシャムシエル

そして・・・・・・

 

「葛城さん・・・・・・・・」

「ちくしょう・・・・・・・・・・」

 

どうすることもできず立ち尽くし声だけかけるマコトと

すでに腕も元に戻ったミサトが無力感にさいなまれながら座り込んでいた。

そして船団をとらえていた赤い光のドーム

レンの結界が夕日に溶けて消えていく

 

そしてその日も完全に西の海に消え

やがて星が夜空を覆う頃

のろのろと敗者は撤収していったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ミサトの船団の損害は中型帆船二隻、救命・上陸用のボート多数

四十名の水兵

確かにその損害はレンが直接表れたにしては損害は少なかったが

しかし

兵士達一人ひとりが受けた恐怖は計り知れなかった。

 

そしてミサトは相手にもならなかったことが余計憎しみを募らせる

それが彼女を破滅に誘うとも知らず

その内なる暗き炎に身を焦がす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼精日記

第十三話

『捨て去ったものへの想い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンが知りレンを知る何者かの横槍により、多少予定より早く撤収したレン

彼女はすぐに己のテリトリー・エニシアン島に移った。

己の広大な結界の中心たる黒曜の間に現れるとそのまま膝を付いてしまう。

 

「・・・ふぅっ・・・・・・・ちょっと無理をしてしまったかな?」

 

主の帰還とともに灯った魔法の明かりの中

微かに汗を浮かべ、顔色も悪いレン

多少息も荒く、はしばらく立ち上がることも出来ない

 

「まったくなにやってるんだか・・・・・・・」

 

急に頭上が翳ったと想い顔を上げると

そこに呆れた表情をしたリナがいた。

心なしか肌の艶が良く、血色もまた良くなっている。

 

「・・・・・・・・嫌なタイミングで現れるな、あなたも・・・・・・・」

「そう?当然じゃない、待ってたんだから」

「はぁ・・・・・」

「暗いわねぇ、こんな美女が心配してあげてるのになに?」

「それはどうも」

 

悪びれず言うリナにレンは突っ込むことさえ出来ず力無く苦笑する。

そして背と手足から伸びる十六翼が一度大きく開かれると、はじけるように羽根が飛び散り

光に還り粒子となって消えてしまう。

服も消えてしまい神々しい裸身を晒したままなんとか立ち上がり

手をかかげ何もないところから白のガウンを取り出し羽織る。

そして、レンはよろめきながら出口に向かおうとするが、何もないところで足が絡み倒れそうになる。

 

「ほら、捕まりなさい」

 

まったく自然にそれを支えるリナ

素早くしかしさりげなく

リナはレンの右手を取りそのまま肩をかして進む

レンとは20センチの差があるのにその動作は軽々といった様子だ。

 

「ねぇ、ちょっと薬湯入れてみたんだけど、お風呂にしない?」

「・・・・・・・・・・・・・・・風呂?」

「そ、気持ちいいわよ♪保証するわ」

「ふむ・・・・・・・」

 

ミサトやマコト、そして後からきた“碇シンジ”やアスカにマユミにトウジ達

今後いろいろ長い付き合いになる相手達の手前余裕をかましていたが、実はかなり無理をしていたレン

とっとと自室にもどり眠るつもりであったが、しかしもとが大の風呂好きなレンはそう言われると興味がわく

 

「・・・・・・・行く」

「そうこなくっちゃっ!私の特性ブレンドの薬湯よ、いいわよ〜♪」

 

リナは、本当に嬉しそうに笑いながら言う

初めてみる表情に、レンは多少面食らってリナの顔を凝視した。

 

「な、なによ?」

「いや・・・・・・」

 

まじまじと見つめるレンに少したじろぐリナ

心なしかリナの頬が赤くなる。

 

「・・・・・・・・・そんな表情もするのだなと」

「・・・・・ヘロヘロのくせに余裕あるわね」

「まぁ、そんな照れなくても、そんなあなたも綺麗ですよ」

「アリガト♪」

 

他人を気遣い手を貸す

慣れないことをしたせいもあって多少動揺していたらしいリナも

レンの次なる攻撃には見事交わし、いつもの華やかな

しかしどこか韜晦したような笑みを浮かべ答えた。

そして黒曜の間の中央を問いらに向かって二人歩いていき

音もなく開いた巨大で重厚な黒の扉を越えて、そのまま湯殿に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、マナとレイはどうしたんです?」

 

いつもだったら真っ先に駆けつけてくるだろう二人がいないのを不振に思いレンは訪ねる。

リナはそれに意味ありげに笑いつつ己が支えるこの完璧な美貌を持つ長身の麗人を見上げる。

 

「あ、あの二人なら疲れて寝てるわ」

「疲れて?」

 

レンは道すがら聞き返す

 

「そ、まだまだ甘いわね。体力はあってもテクニックが今一だわ。鍛えて無いみたいだし」

「・・・・・・・・・(汗)」

 

どうやら二人は返り討ちにあったようだ。

 

「レイはちょっと淡泊ね。体力はそれこそ無限みたいだけど。それともあなたが相手だと違うのかしら♪」

「・・・・・・・・・けっこうがむしゃらで・・・・それこそオオカミみたいだったが・・・はて?」

「そう、じゃぁ今度こそ本気見せてもわないと♪とっとと寝ちゃうんだもの」

「あらら・・・」

 

自分には随分と淡泊だったレイにちょっと不満らしく唇をとがらせるリナ

一方レンはいつものがむしゃらで止まらないレイを思い出し、ほんのり赤くなる。

 

「あの二人相手じゃ今までちょっとものたりなかったでしょ、テクニックがないものねぇ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「今度からは私がしっかり楽しませてあげる♪」

「・・・・お手柔らかに」

「もうちょっと反応してよ」

 

レンはリナに肩を借りながら

本当は己も淡泊なほうなので戸惑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、ついたわ」

 

ついたのはもはや城の最上部に近い湯殿の手前

星が広がる夜空の下、和風の庭園にししおどし

そしてそれに面した縁側には葦などの水草で編み上げたチェアーが四つと同じ材質のテーブル

いつも洗った状態の薩摩切リ子のグラス

マナが用意する以外は独りでに足され注がれる水差しにはレモネード

今は風鈴が涼しげな音色、チリンチリンと響かせる。

 

「ここか・・・そういえば最近使ってなかったな」

「そうでしょうね、ちょっと寂しく感じたもの」

「?」

 

レンはその言葉に首を傾げる。

この城はマナが拘っているレン自身の部屋と日常的な世話のいくら以外

すべてレンの魔力によって清潔に、そして傷も無く保たれている。

当然この湯殿もまったく汚れも埃も傷も無かったはずだ。

 

「魔力で清潔に保たれてても雰囲気まではごまかせないもの。長く人が来てない感じだったわ」

「なるほど?」

「前使ったのは?」

「ふ〜〜む」

 

リナの手を借りて枯れて乾燥した水草で編まれたチェアーに腰掛け首を傾げるレン

 

「そういえば、いつ使ったか・・・・・・・」

「そんなに前?」

「う〜ん、確か一回ここに来て間もない頃・・・・」

「あなたがまだ皇国皇太子碇シンジだったころね」

「そう・・・・」

 

リナの指摘にほんの少し、ほんの少しの翳りがレンの面に浮かんで消える。

 

「そう、確かここに来たばかりの時、マナやそのお付き、ボクについてきた女官達が入れてくれたんだ」

「へぇ〜」

「あれは嬉しかったなぁ。ここに来たときはホント気分がめいっていたし」

「随分と懐かしい思い出みたいね」

「ああ?もう六年近く前だし・・・」

 

リナが聞くとレンは懐かしげに辺りを見回しつつ答える。

 

「そのときからこんな感じなの?霧島家って、そんなに日ノ本かぶれじゃなかったと思ったけど」

「いつと比較してるんです、いつと」

「あら?そんなこと聞いちゃいけないわ」

「・・・・年が関係してくるし?」

「よけいなお世話よ!」

 

脱衣所でもあるこの場所の、高さ二メートル、幅五メートルはある巨大な鏡の前の長い台

そこに並んだ化粧水を見ていたリナが年の話に敏感に反応して見せマナお気に入りの一品を放り投げる。

瓶は中身をぶちまけつつ飛んできたが、レンの前で停止しその左手に収まり

飛び散った化粧水もそのまま床や壁などにつくことも落ちることもなく、瓶に戻っていく

 

「あんまり無駄に力を使わせないでください、疲れてるんです」

「そんなことしなくても部屋汚れないし中身も継ぎ足されるでしょうに・・・・・・・・・」

「貧乏性でね。それにこれはマナはのものですから」

「ふ〜〜ん」

 

そのまま宙を浮いてもとの棚に戻っていく化粧水の瓶を眺めつつ、リナは適当に相づちを打つ

 

「マナは実際に買うものを使ったり、ともかく魔法で物事すべてを管理するのが好きでないんです」

「難儀な性格ね。せっかく便利な力があるのに」

「それはそれで、拘りというもの。楽しんでるんですよ、買い物とかいろいろ」

「そう?まぁわかんなくも無いけどね」

 

そしてブーツを手早く脱ぎ、すくと立ち上がると、リナはおもむろに服を脱ぎだした。

手袋を外し、黒のストッキングを脱ぎ、そして立ち上がりミニスカートをすとんと落とす

 

「さ、お話はこのくらいにして、さっさとお風呂に入りましょう」

「そうですね」

「湯は冷めないけど待ちくたびれたわ」

 

さらに上着を脱ぎ、薄い青のシミーズを脱いで黒のブラとショーツを脱ぎ捨てる

その成熟した、しかし瑞々しく若々しい、どこか麻薬のような危険で人を虜にする裸身と香り

その持ち主がレンの手を取る。

 

「ほら、のんびりしてないで、早く」

「はいはい」

 

ぐいと引っ張って立ち上がらせるとさっさとガウンを脱がせ放り投げ

そのまま腕を組んで湯殿に向かう

日ノ本の縁側のごとき板間を多少アレンジした庭に面した廊下を進むと

城のほぼ側面のところに竹垣で囲われた場所に露天風呂がある。

 

「しっかし・・・・・趣味よねぇ〜」

「いいでしょう」

 

「湯」とかかれたのれんの掛かった入り口をしばし眺めてから

レンは疲れがみえつつも得意そうに、しかしリナは呆れる

 

「ほんと、いつからこんなに皇国は日ノ本にかぶれ始めたのかしら?」

「ボク以外にこの品の良く落ち着きのある趣味を持つものがいましたか?」

「・・・・・・・品ねぇ〜」

「あるでしょ、風格とか、日ノ本のものはシンプルな中に美しさがある」

 

なんだか機嫌とともに血色まで良くなってきたレンが得意そうに説明する

特にこの風呂というのが大好きなのだから説明にも力がこもる。

 

「さ、ともかく早く入りましょう?夜こんな格好で外にいたら風邪を引くわ」

「そうですね」

 

そして少し薄めの紺の暖簾を潜るとそのままそのまま湯船に向かった

 

 

 

 

「ほぉ?」

 

レンの鼻孔を爽やかな、そして落ち着いた香りがくすぐる

大量の湯気に混じって露天風呂から漂うその香りは体をリラックスさせてくれる

 

「どう?数十種類の薬草を絶妙な具合で配合してるのよ、いい香りでしょう」

「そうですね・・・・・・程良く緊張が解ける感じです」

「別に私たちなら強力な麻薬を使ってもなんの影響も無いんだけど・・・・・・そういうの嫌いでしょ?」

「当たり前です。やはりこういった古くからの知恵と自然を生かしたものが一番です」

「ま、その辺りでは私もあなたとマナに賛成ね」

「レイはもともとナチュラル嗜好ですし」

「結構趣味があいそうね、みんな・・・」

「嬉しいですね」

「そ?」

 

下は平たく角の丸い石をはめ込むように敷き詰めており

しかも滑らない程度に磨かれていて足下を心配する必要はない

大の大人が二十人はまとめて入れそうな浴槽も基本的には同じ構造

しかしこちらはより隙無く小さな石が敷き詰められていて比較的浅めの湯船に寝ころんでも痛くない

 

「おや?こんなに水面が高くなかったはず何だが、もはや溢れてるな」

「そうでしょ?そのくらい深さがないと、意味が無いのよねぇ」

「?」

「それにやっぱこういう風に満々と湯を湛え溢れ出すぐらいがいいのよ」

「まぁ、そうかもしれませんね」

「そうよ」

「それにしても・・・・・」

「何?」

「あなたもお風呂好きなんですね。日ノ本かぶれがどうのこうの言う癖に?」

「あら?なんのことかしら?」

「ごまかすんですね」

「ささ、さっさと入りましょう。確か最初に体を流して入るのが作法よね?」

「ええ」

 

レンとリナの二人はおけに流れ続ける湯を注ぐと二度三度と体を流し

 

「う〜ん、やっぱりいい香り、それにサラサラ」

 

リナ自分とそしてレンの髪をまとめて髪留めでアップにして湯に浸からないようにすると

ゆっくりと湯に浸かる 

 

「ふ〜む」

「体がふわふわ浮くでしょう?」

「これは?」

「比重が重いの、まぁこんなところは私もあんまり魔力を使いたいと思わないし、それなりに用意したわ」

「助かりますよ、心地よい」

「だったらもっと体の力抜いて手足を伸ばしなさい」

「ええ」

 

レンは素直に力を抜き、その美しく伸びやかな手足をいっぱいに伸ばす

微かに白く濁った湯の中、二人の見事な肢体は上から見るとどこか影のようになる

 

「どう?暖まるでしょう」

「ええ、ほんとに・・・・・・」

 

実はリナもかなりの風呂好きであり、しかも湯は程良い温度、人肌ぐらいで

しばらく体の疲れをいやすべく二人は浸かり続けたのだった。

 

 

 

 

 

「さ、そろそろ一度上がりましょう」

「・・・・・・・・・・そう・・・」

「あらら、さっそくふやけちゃって」

 

十分ぐらいだってから、リナは一度上がることを進めたのだが

その時レンは疲れと湯の心地よさで完全にふぬけた感があった。

 

「ほんと、そんなところを見せてくれるのも嬉しいけど、ともかく上がりましょう?背中流してあげるから」

「・・・・ええ」

「ほら、手かして」

 

リナはレンの手をつかむと軽々と立ち上がらせ、もう一度肩を貸して湯船から上がり

やはり湯がこんこんと湧く水場に連れていく

そこには腰掛けが幾つか置いてあり、さらに手桶と下に引く敷物があった。

 

リナは癖で腰掛けを良く流すと、そこにレンを座らせ

自分は湯の張った手を毛を持ってレンの後ろに立ち、レンの髪を解く

 

「さ、湯をかけるわよ」

 

ざざあざーーーーーー

 

頭から湯を注がれてもレンはどこかぼうっとしたままだ

 

「髪と頭洗うからかゆいところとかあったら言ってね」

 

そしてリナは特性の石鹸を泡立ててまずは頭皮そのものを洗っていき

それから別のこちらは少し香草が入っている石鹸で髪を丁寧に洗っていく

 

「・・・・ねぇ、レン・・・あなたもしかして今の”碇シンジ”に焼き餅焼いたの?」

「・・・・・・・」

 

レンの長い髪を手に取りながら洗いつつ、リナは聞くがレンは黙ったまま

しかし、リナはいっこうにかまわず話を続ける

 

「焼き餅・・・・てのも違うかな?でもなんだかやるせなくなった?自分の一つの可能性を見て?」

「・・・・・・・・・」

「確かに彼は呪いも継承も無かったときの、なんの運命にも巻き込まれていないあなたの可能性かもしれない」

 

忘れていた、いや思い出したくなかった苦い思いと現実にレンは押し黙る。

しかしリナはそれを真っ向から否定した。

 

「でも、それがなんなの?」

 

洗い終えた髪をすすぎ、さらにトリートメントしてからレンを再び立たせ

用意しておいた敷物の上にレンをうつぶせに寝かせる。

 

「じゃぁ、躯洗うからね」

 

それだけつげると、さらに別の石鹸をとって手のひらで泡立て

レンの滑らかで瑞々しい白い肌を念入りに洗っていく

時折揉みほぐしたりツボを刺激したりして、マッサージもしていた。

 

「あなた、今が不満?」

「いや・・・・」

「レイやマナは嫌い?」

「・・・・・・・・・彼らのことは大切だよ」

 

それまで黙っていたレンが低く小さく応える

 

「大切なのは見てれば解るけど、好きかどうかは?」

「・・・・・・好きだよ」

「愛してる?」

「ああ」

「じゃぁ、今のあなたじゃないと彼らと今の関係になれたと思う?」

「思わない」

「だったら、いいじゃない、あなた今を楽しんでるでしょ?」

「ああ・・・・・」

 

リナは優しく笑い、そしてさらに今度はレンを仰向けに寝かせる

そして今度もやはり手で石鹸を泡立てて丁寧に洗っていく

 

「あれもあなたの可能性、でも今だってあなたなんだよ」

「・・・・・そうだね」

「だったらあんなの羨むなんて止めなさい。そして今をもっともっと楽しめばいい」

 

洗い終えたレンを再び腰掛けに座らせ

手桶に湯をくみ流す

 

手でレンの髪の湯を切り再び髪をまとめる

そして綺麗になったレンを湯船に連れていくと静かに付けた。

 

「それに、こんな美人で面倒見のいい女の子までいるんだから、これで不満たらたらだったら罰が当たるわよ」

「罰?」

「そ、それはもう界の王者達も古き実力者達もけっして許さないわ。それが大宇宙の法則だもの」

「・・・・わかったよ、リナ」

 

自分の躯を洗い出つつ湯船のレンに話しかけるリナを見ながらレンは答えを返す

 

「ん、よろしい」

 

洗い終えるとリナもまた手早く髪をまとめ浸かり

 

「楽しみましょう、これからとてもとても長い長い時間が私たちにはあるんだから」

 

湯船でレンの腕を取り胸に抱き込み

躯を密着させつつリナは謎めいたことを言った。

 

 

 

 

 

 

湯から上がったレンとリナは

しばらく魔力も使わず自然に縁側で涼んでいたのだが、やがて汗も引いたので戻ろうと服を着る

が、

 

レンは普段寝間着にしている黒のズボンと上着

そして下着類を取り出すとよろめきながらも身支度を始める。

 

「ホラ!貸しなさいよ、着せてあげるから」

「あ、ありがとう」

「いいって、下心ありありだもの」

 

素早く下着とネグリジェを身につけたリナと違い

どうにも身体に力が入らずもたついているレンを見かねたリナが着替え手伝う。

枯れた水草で編んだチェアーに腰下ろさせ、下着を取り上げるが・・・・

 

「あれ?なんで下着こんなのなの?これって男物じゃない」

「いいじゃないか、ボクがどんなもの着ようと」

「駄目よそんなの、胸なんてブラがないとかたち崩れちゃうじゃない!せっかくかたち良いのに」

「・・・・・そう変わるものか・・・・・・、ボクは人間とは違うんだぞ!!」

「そう?それはまぁ、私もあの子達もそうだろうけど・・・あ、あの子達は男の子か」

「だから問題は・・・・・」

「あるわよ!!可愛く無いじゃない」

「だがらなぁ・・・・・・」

 

いつものマナではないことだし押し切られてなるものかと何度も否定し駄々をこねるレン

しかし物事そう甘くない

 

「・・・・・・・・とっとと着替えさせないとコルセットからなにまでフル装備させてピンクの宮廷ドレス着せるわよ」

「な・・・・・・・・」

「似合うわよ〜〜、レンってばとんでもなく美人だし色も白いし髪も綺麗だもの」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった」

「よろしい、じゃぁ、さっそくこんなの付けてみようか・・・・・・いっそ赤なんて良いかしら?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好きにして・・・・・」

 

思わず仰々しいピンクのドレス姿の自分を想像し、心底げんなりしてしまったレン

どうにも逃がしてくれそうになく、マナとは違った手強さである。

 

「ふんふふ〜〜〜ん♪」

「・・・・・・・・・・・」

「ん〜、やっぱり黒が一番ね。なにせ色が白いから栄えるわ〜〜〜♪う〜ん、紐パンより側面メッシュね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「こんなレースたっぷりな、イケイケなのも決まるわねぇ・・・・・・薄いし」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あら?なに黙っちゃってるの?」

「・・・・・ついてけない・・・・・・」

 

自分の側面メッシュのレースたっぷりの黒の下着をつけている姿

疲れ切っていることもありもはや抗う気力も起こらない

 

「もう!ちょっとはリアクションしてくんなと寂しいじゃない」

「こんなのつけてろと?」

「別に上着やズボンはいつも通りでいいからね?後しっかりじっくり観察させてくれれば文句いわないから」

「・・・・・・まだ見るわけ?」

「そりゃそうよ」

「オヤジですかあなた?」

「あら、失礼ね」

 

レンの皮肉にもまったく答えた様子なく、

いつもの通りポニーテールに灰色と紺と黒のコーディネートだ。

しかし、どうも雰囲気が違って見える。

 

「ん?なんか・・・・・」

 

瑠璃色ポニーテールを珍しく下げてストレートにした様子

風呂上がりらしくその髪がしっとり濡れていて

どうやらレンが着ているのをみて一度着たいと想っていたらしい白地に薄桃色の華を彩った濃紺の帯の浴衣

そしてほんのり桜色に染まった頬が何時以上に女らしく色っぽい

 

「ふむ、なかなか色っぽい」

「ふふ〜〜ん」

「な、なに?」

「そんなに見つめて、やっぱり私ってば魅力的?」

 

言いながらリナは頭の上で手を組んで見せたり、腰掛け足を組んだりしてポーズを取って見せる

 

「ええ、魅力的ですよ」

「こんな時は言葉よりほしいものがあるなぁ、お風呂も入れてあげたし・・・・・」

「そうですね・・・」

「ん・・・・・・・・・・んん・・・」

 

レンはリナの唇を塞ぎ、舌を絡め唾液をすすり、流し込む

濃厚なキスは三分も続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・少しお遊びが過ぎたかな?」

「まあねぇ・・・・・・」

 

どうしようもないと溜息を付きつつレンの手を取り立ち上がらせる

よろめくレンに肩を貸して再び廊下を進み、レンの寝室に向かう二人

 

「あら?」

「おやまぁ」

 

そして部屋に到着し、寝室に入ったとき二人は思いがけないものを見た。

 

「いつの間にここに来たのかしら、二人とも完全に寝てたのに」

「最近はボクの寝室に来ることはなかったのにな」

 

リナは少々呆れ顔で言い

そしてレンはどこか嬉しそうに笑っていた

普段はレンが二人の寝室に赴くのがほとんどなのである。

 

「ね、このベットは十分すぎるほど大きいし、このまま四人で寝ない?」

「・・・・いいわね、そういうのも」

 

そしてレンはベットの左側、リナは右側に潜り込み

比較的小さいレイとマナを挟んで眠った。

 

「おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

 

そして魔法の明かりを消す

レンは飽きもせずレイとマナ

そして眠ったように見えるリナを見つめつつ考えていた。

 

(そうだな・・・・・・・・何を懐かしむ必要がある?何を羨むことがある?ボクはこんなにも幸せじゃないか)

 

すぐ隣のレイの髪と飛び出ている犬耳を撫でつつ

 

(リナの言うとおり歌い、踊り、そして楽しもう)

 

そう、先は長いのだ先は

 

(まだまだ道は遙かに遠いけど、その時そのときを精一杯楽しく)

 

そして三人の気配と体温を感じながら

レンもまた眠っていった。

 

 



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