「なにすんのよっ!!!!」
「なにすんのよっ!!!!」
エニシアン島のドーム
そしてブリデン島の湖の島
そこで、“シンジ”とレンはアスカにリナに
頬を叩かれた。ただ、降りしきる雨と雷を背景に湖中央の島の東屋での口づけはとても印象的であった。
そしてそのビジョンはリナの企み通り、ペンダントを通じてマユミにも届いた。
一つの流れがここから産まれる。
「機能ダウン、機能ダウン」
「素粒子コントロール、安定シマセン」
「粒子発生装置、停止シマス」
「運命改変作業停止、システムチャック、システムチェック・・・・・・」
下のほう
暗闇の中で火花があちらこちらへ飛び散り
作業をしていたゴーレム達のかなりが爆発に巻き込まれ破壊され
あるいは二次災害まで起こっている。
そんな中をなんとか無事だったゴーレム達が復旧のため動き回っているのがかすかに見える。
「あらら、やっぱり壊れちゃったか」
予想通りのことでもあってリナはまったくあせる様子も無い。
エニシアン島の城地下ドーム
すでに張り巡らされていた立体多層魔法陣も消え、中央の光の柱もなくなり
ドームの装置が止まった今は最低限の魔法の魔法の光が辺りを照らすのみ
「しかし、これで問題点がわかりますね」
「とりあえず、機能したしね」
「修理と改良を頼みます」
「わかったわ。そして、これで上手くいったわ」
「・・・・・・・・ボクは痛いかな・・・・・・・・・」
「まぁ、勲章だと想って♪」
「誰が?何を・・・・・」
「まぁまぁ、ゴメンね。なんかアスカちゃんよっぽど恥ずかしかったのか動転してたのか?すごい衝動が伝わってきたのよ」
「まぁ、いいですけどね」
「大丈夫ですか?レン様、リナ!!あなたレン様に!!!!」
「御仕置きが必要?そう罰がいるの・・・・・・・」
自分を取り戻したリナと頬を晴らしたレン
そして不機嫌そのもので駆け寄ったマナとレイがドーム中央に並ぶ
四人は感情と浮かべる表情は違うが、そろって中空に映し出された二つの幻影を見ていた。
一つは馬で帰るシンジとアスカ
もう一つは部屋で俯くマユミを
「リナ、アナタ私達を使ってあのマユミって子に見せたんですね。イミテーションのペンダントと石を利用して」
「そうよ。上手くいったでしょう?面白かったでしょう?」
「でも、レン様の頬をひっぱたいたのは許せない!!」
「御仕置きなの・・・・・・」
マナとレンは上機嫌な様子のリナに詰め寄る。
バタンッ!
「きゃっ!?」
そしてリナを押し倒し、二人ががりで体を押さえ込む。
「ちょっとアナタ達、なんで顔を近づけてくるのよ」
「こんな面白いシチュエーションのレン様の唇・・・・・・・・・・どんな感触?」
「知りたいの、教えて・・・・・」
「や、やめて、アンタ達はかわいいけど、私襲われるのは嫌いなの・・・・ちょ、ちょっとっ!?」
「「問答無用」」
「たすけてぇ〜〜〜〜〜〜〜!!」
リナにレイとマナが飛びかかる
そんな3人を横目で
「さてと、ちょと出かけてくる。二人とも程ほどにね」
「判っています」
「大丈夫なの」
「ちょっと見てないで助けて欲しいんだけど・・・・・・」
「まぁ、しっかり二人の相手をしてあげて、“ご先祖様”」
「その呼び方・・・・・・やめないといつかヒドイ目にあわすわよ・・・・・・・」
「わかりました、『リナ』」
自分達より背の高いリナを左右からがっちり拘束してドームを出て行くレイとマナ
そしてレンもまた、ドームをでた。
そして長い階段を上がった後、レイとマナそして拘束されたリナと分かれ
レンは再び黒曜の間に向かっていた。
常とは違う輝きを見せる紅蓮の瞳で正面を見据えながら
狼精日記
第十話
「十六翼・真の黒色」
その1
レンは靴音高く城の回廊を進む
めざすは己の結界のもっとも強く力の働くところ
黒曜の間
金属のような木材のような、黒く巨大な扉が独りでに開いて主を迎える。
レンがその黒光りする床に足を踏み入れたと同時に広大な部屋全体に赤い光が走る。
それは無数の蛇のように床を壁を柱をそして天井を這い、やがて空間に踊る
かまわずにレンが足を進める中、赤い光の蛇達は次第にレンを中心に渦巻き始め
幾何学的な文様を宙に描き出した。
そして主が黒曜の間の中心にたったときにはそれは赤い光で紡がれた複雑な立体積層魔法陣となる。
「Ran」
レンの小さなつぶやきと空中に描いた一文字の印と共に積層魔法陣がいっそう輝きを増す
するとレンを、魔法陣の中心をめざすように風と力が渦を巻き始め
長身で美しい主は浴びるようにそれを受け入れていく
同時に城の地
かつては犯罪者を繋いでいた獄舎
そこに繋がれた様々な古い血と力を持つ者たち
レンがマナに命じて世界中から連れ去った者たちが贄として生かされている場所
拘束具に自由を奪われ、目隠しで視界を奪われ猿ぐつわをされて
首の血管に取り付けられ細い管から栄養を与えられ排泄物は下半身に取り付けられた装置に処理される
薄暗く誇りにまみれた中、赤いシリンダーに入った羊水の中
本当に生かされているだけの老若男女様々な者たち
一人一つ赤いシリンダー内の羊水の中、立ち姿のまま浮かんだようにいるその足
そこに赤い小さな魔法陣が現れる
そこから伸びた赤い光が哀れな捕らわれ人達をからめ取り
すでに時間も場所も解らなくなっている彼ら身体にまとわりつく光の糸
伝わる痛み苦しみに自由にならない身を捩り、逃げようともがく
悲惨な贄をからめ取った光りは彼らの苦痛を吸い上げそのまま魔力に変えつつ黒曜の間まで送る
彼らはまだ完全ではないレンの予備・・・・いわば生きた魔力のプールだった。
地下の悲しい者たちとリナがドームの魔法装置のために世界中に張り巡らせた非常に薄い結界
それらを媒介に集めた魔力がレンに集まる。
脈打つように輝く赤で紡がれた立体の魔法陣が次第に透明で強い光りに変化し
そして主を中心に爆発的な光りが黒曜の間を満たす
「ふぅ・・・・・・・・・・」
大きく深呼吸するレン
そこには両腕を左右にめいいっぱい伸ばしたレンの神々しい裸身
「上手くいったようだ・・・」
しかし己の手足を見回しながらつぶやくその姿は、何時とは明らかに異なっていた。
その背には四対の黒く大きな、レンの長身を覆うほどの猛禽の翼があり
さらにレンが手を降ろし顔を正面に向けると同時に腕と足の横に
これは海鷲ほどの大きさの二枚の羽根がそれぞれについていた。
合計十六枚の黒い翼を軽く折りたたみ、神々しい裸身にまとったレンはまた左手で小さく印を描く
すると飾り気のない黒い長衣が現れてそして銀の金具で輿の部分が止められた。
「こんなものかな・・・・・・まぁ、この姿になって服に拘ってもな・・・・」
完璧なまでの造形のその姿は美しくあったが、しかし全身からあふれ出す光りは赤く赤く彩られ
見るものに畏怖を、身体の奥底からの恐怖を感じさせるものだった。
さらに小さく右手を掲げると黒曜の間全体に空と雲と海が映し出される
その一角
丁度レンの足下よりも少し先
低くたなびく雲の間間より、大きな船団が写されていた。
「・・・・・・・・・・・まだ彼らからなにも聞き出せないの!?」
三隻の巨大な帆船と五隻の中型帆船、二十隻の小型船他からなる、明らかに戦闘用の艦艇群
それがレンの映し出した海に展開する船団であった。
種類こそバラバラだが決して素人でもその辺りのゴロツキ海賊とも違うのはその装備
大型、あるいは中型の帆船には巨大なアーバンレストやカタパルト
そして見たこともない筒のようなものが突きだしている
小型船の乗組員の装備も充実している
決して個人や小さな組織では扱いきれないほどの装備の充実があるからである。
その船団中心に陣取った一際大きな四本マストの戦艦の艦上
一人の妙齢の美女が声を張り上げていた。
紫が掛かった長い黒髪は無造作に後ろで一つに纏められており
その人並み以上豊かな胸を革製の胸当てで包み
ショートパンツで覆った下半身以下は金属製の臑当てしか付けていない
その成熟した太股を露にしている。
豊かで魅力的なボディーラインを隠そうとさえせず、むしろ武器にしているそぶりがある。
その腰には無造作に鞘に入ったブロードソードとショートソードをぶら下げていて
やはり金属製の籠手と手甲で覆われた腕を組んでいた。
たまに自由な右手で首から下げた鈍い輝きを放つロザリオをいじっているのは癖だろう。
葛城ミサト
本来王都近くの古く大きな神殿で代々神官長をつとめていた葛城家に産まれた彼女
実際、現在行方不明の彼女の父親もまた神官長だった。
しかし近いといえど王都からは半日離れており、神殿のある丘の曾野に広がる巡礼達の宿場ではいかにも寂しい
退屈に耐えきれず結局王都に士官に出てしまった彼女は皇国十将軍にまで上り詰めた。
ただ、長らく神殿を離れており、結果一年前のマナによる神殿襲撃にもその場にはいなかった。
軍上層部の噂でそのほか各地を襲わせたのはレンというエニシアン島にいる首魁だと聞いた。
今回の、密命とはいえ女帝ユイから勅命を賜ったこと
アドリア海、エニシアン島を中心とした現在レン支配下の島々を巡る航路の妨害活動は渡りに船だったといえる。
未だ敵の様子見ということもあり、正規軍がほとんど動かせない
だから半年前からシンジ等同様海賊、傭兵崩れ、自由主義を標榜するならず者達海の荒くれ者を力と権威と美貌で黙らせて大艦隊を作り上げたのだった。
現在はその半数を率いてきている。
今回はレンの根拠地たるエニシアン島を離れた場所で哨戒中だった総督府貴下の警備隊中型帆船を襲い
そこから情報を得ようとしたのである。
結果十二人の捕虜を得たのだが
「本当に喋らない、動じない奴らね」
「はい」
重傷軽傷を問わず皆それなりのけがをしており、しかも半日水も与えず炎天下の甲板に立たせているのである。
顔色もすでに悪いしとうの昔に倒れてもおかしくない
なのに彼らはまったく表情を変えず静かに目を閉じ立っているのである。
「いっそ拷問でもしようかしら、アイツラ以外何にも手がかり残ってないんだし」
父親の行方
勅命だけでなく私事も関わるだけにミサトは急いていた。
正規軍はこの旗艦『大海原の淑女号』の乗組員と五十名の戦闘員と魔法兵
さらに五名の魔導師から初めてここまでの手駒を作り上げるのに皇国と連邦の支援を受けても半年以上かかった。
そしてようやく半端でない実力を誇る総督府貴下の警備隊員達を捉えたのになんら情報が得られない。
期待は焦りに代わり、そして苛々して自然と発想が過激になる。
「それには反対です」
「なんでよ!?」
はっきりとした反論に今まで捕虜達に向けていた険しい瞳にいっそう剣呑な視線を載せて
何時も斜め後ろに控えている副官に振り返る。
「彼らは貴重な情報源です」
「そうよっ!!だから強情な奴らを喋らせるために拷問にかけるんじゃない!」
「そこが違うんですよ。すでに」
苛立ちが怒りに直結したのか、口調が自然と激しいものに変わる。
正面からそれを受け止めた副官はしかし答えた様子もなく話を続ける。
彼はすでに上司のこのようなところには慣れていた。
長袖の上着と長い裾のズボン、そして正魔導師を表す藍色で装飾のないローブを羽織った彼
ミサトの副官・日向マコトは全く動じる様子も無い
「拷問なんかとんでもないんです」
「どうしてよ?」
「そんなことをすれば彼らは死んでしまいます」
個人の戦闘能力は超人的、統率力と指揮能力は合格点だが補給や部隊の編成など
事務処理はからっきし駄目で、しかも感情的なミサトを支えてきた彼はこんな時
彼の上司が暴走しかけているときは努めて冷静になるようもはや慣らされている。
「彼らはあんな風に見た目平然と立っているようですが、本当はみんなそれなりに危険な状態なんです」
「危険な状態?」
「はい、それぞれ出血、傷の痛み、それらか来る疲労。そんな理由でいつ倒れてもおかしくない状態です」
「ホント?」
「うそなど言って何になるんです?」
「・・・・・・・・・・」
疑わしげに聞いてみたがマコトに更に念を押されてミサトは捕虜達に向き直る。
確かに彼らの顔色悪く、一見平然と立っているが、その実足がふるえていたりふらついているものもいる。
「・・・・・・・そうみたいね」
「ええ、私たちに死者の魂を呼び戻したり止めたりして情報を聞き出すなど不可能ですし」
「・・・・・・・・・じゃぁ、拷問はだめなんだ」
「はい」
「でも、だったらどうするの?」
ミサトは、本来ゼーレ連邦の若手魔導師である己の副官を頼りにしていたから
それなりに代案があるのだろうと聞いてみる。
しかし、マコトは間を置くつもりなのかもったい付けてしばらく話そうとしない。
「じゃぁ、どうすればよいのよ」
ミサトはもったい付けるマコトにじれて再び聞き返す。
「まだしばらくは待つことです。彼らの体調は酷いものなんですから」
「そう?確かに怪我はしてるけど、結構平然と立ってるわよ。脚がふらついてようがに三日は持つんじゃない」
「二三日、怪我から言うと持つか微妙ですね。だから治療もしなくてはいけませんが」
「治療?」
「もう一度見て下さい、彼らを」
言われて、ミサトは再び甲板中央マストの下に立つ捕虜達を見やる。
一見、なんら様子も変わらない何処にも問題の無いかのように静かに立ってるように見える。
しかしよく見れば一応傷からは今も包帯には血がにじんでおり、やはり顔色は皆すこぶる悪い
何事もないように立っているようで実際には相当応えているのである。
「彼らがいくら精神力が強いといえども、いずれ限界が来ます」
「その前に死んでしまうことはないの?」
「そこはこちらで調整すればよいでしょう。なんでしたら私が彼らに治療を施してもよい」
「全快させるの?」
「いえ・・・・」
興味を持ち出したらしく、改めて己の副官・マコトを振り返り質問を投げかけるミサト
そのミサトの様子を少し嬉しく感じながらマコトはさらに答えていく。
「全快させたのでは意味がありません。基本は生かさず殺さずです」
「いたぶるのね、じわじわと」
「え、幾ら彼らが精神的に強くてもかなり磨耗しているはずです。これは少々傷を癒そうがどうにもならないものです」
「それで?」
「彼らが死なないギリギリの治療は続けます、そして後はあんな風に炎天下の下で立たせればよいでしょう」
マコトはあえて人の悪そうな笑みを浮かべる。
しかし童顔でいかにもお坊っちゃん風の彼にはまるで似合っていない。
「そして彼らが精神的に限界に来たとき、麻薬と魔法を使って彼らのこころを縛ります」
「そうすれば彼らは労せずして情報を喋ってくれるというわけね」
「そうです。そんなに時間はかからないでしょう・・・・・まぁ、一週間もあれば」
ミサトも納得したらしくえみまでうかべてマコトの主張を受け入れる。
そんな表情に一瞬マコトは見入ってしまう。
が、慌てて己を取り戻し
「彼らが重要な資料や情報源を自分たちの船ごと鎮めてしまった以上彼らは今唯一の情報源です」
「そうね、大事にしないと」
円形に並んだ船団
その取り囲んだ中央の海に木の切れ端、布、旗など様々案ものが浮かんでいる。
ミサト達の船団がつい前に襲った中型帆船の成れの果てである。
最近になってようやく荒くれ者、ならず者の集まりだったこの船団もようやく戦闘集団としてなりたち
己の手足の如くとまでは行かないものの使えるようになった。
そして今回初めて、このアドリア海で並ぶものが無いと言われるまでに強いエニシアン島の総督府所属の警備船である中型帆船一隻を襲ったのである。
敵の首領たるレンの本拠地・エニシアン島から遠く離れたところで任務中だった帆船を船団で囲み襲ったのだ。
そして実際彼らは強かった。
最近報告で聞いた報告
ミサトもよく知っている惣流家のアスカが率いている海賊団”紅の風”との戦闘時よりさらに魔法面が強化されたらしい
警備船からはひっきりなしに強力な魔力弾が打ち込まれ
一方こちらの魔力弾は敵船を多い尽くしている防御結界に阻まれる。
結局、大型のアーバンレストやカタパルトなどの大型兵器と今回の任務を承ってから友人の研究所から持ち出した新兵器
そしてなにより徹底的な物量攻撃で相手を沈黙させ
さらにこの近海に魔導師立ちが臨時に貼った多層結界によって相手の魔力を削ぎ
よいよ敵船に乗り込もうとしたのだ。
数十人しかいないだろう警備船に対して100人の手練れの戦士を橋桁を渡して送り込んだ。
すると、彼らはその戦士達と自分たちごと船を鎮めてしまったのだ。
結果送り込んだ兵士全て失い、十二名の捕虜をえただけで未だに情報も引き出せていない。
自分たちの船団の訓練を一層進める必要性を感じると共に、なんとしても成果を得たいところなのだ。
二人は未だ立ち続けている捕虜達に目をやる。
それでも、ミサトにもはや焦りも憂鬱もなければ、マコトに対し取り乱したりしていない
「彼らにたいする処置はあなたにまかせるわ。あなたがよいと想う方法で対処して頂戴」
「わかりました。おまかせ下さい」
「じゃ、私ちょっとこれからのことについてまだ考えないといけないから」
「ごゆっくりどうぞ」
頭を下げる副官をしばらく見てから、ミサトはさっそうと船内に入っていく
目指すは己の船室
これからの方針について、情報無しで決められるところについての思考を重ねなければならなかった。
これでも彼女は二十隻以上の大型、中型帆船からなる船団の頭目なのだから
「ふんっ」
レンはミサ茶自分の端末たる部下達の様子をみて珍しくイライラする。
一見対して表情は変わらないのだが、時折内心の不満等を表すように十六枚の黒翼を乱暴にはためかせ
その度にあふれでるオーラが一掃激しく赤くなる。
それはまるで太陽のプロミネンスの如く熱で把握威圧感でまわりを圧し焼き尽くすようだった。
「ふーーーーー」
レンは大きく息を吸い込み、そして羽根を一掃広げ
そして静かに息を吹き出した。
目を閉じて己を鎮めると、同時にオーラの色も透明に近くなる。
やがてその唇が言葉を紡ぎだした。
いつもと違い、それはいくつもの音階に別れて
そして交わり多層の響きのある、人間とは完全に異質な声となる
「空を駆けめぐる鳥達の王よ。海原を統べる水界の王者よ。我は汝等の古き盟約者」
いくつにもの音程に別れた声が複雑に絡み合い、調和しつつ空と大海原とそらを写しただした黒曜の間に響く
「我は「はじまりの竜」「十六翼・真の黒色」の二つ名を持ちし者」
その美しき唇から紡がれる言葉
「今代の継承者。和が名レンの名と力ある声に答えよ」
レンの呼び声と共に広間に映し出された空と海に異変が現れる。
空は映し出された実際の映像からかけ離れて雲が強く渦巻き始め
海には何本もの大型船舶ほどもある太さの水柱が天に向けて立ち登る。
「我・レンが古き盟約にもとづきソナタ等を呼ぶ。空と鳥達の王・クァードよ。そして海の王ストラーシャ。我が声に答えよ!!」
力強い声と共に大きく十六の黒翼から強い光りが広間を満たし
そして再び静かになった。
「久方ぶり・・・・・・そう数千年ぶりになるのだろうか、こちらの世界では」
「ああ、そして懐かしい顔が揃ったものだ」
幾重にも響く、人のもので無い声が
すると幻影の空から下りてくるように大きな影が表れ
同時に水柱が一つのところに集まり、海水自体が圧縮されて人影となる。
「ひさしぶりだ、『はじまりの竜』よ。そなたとは四千年ぶりになるのか」
空から下りてきたものがそういってレンに話しかける。
巨大な金色の鷲の翼を広げ腕はなくその胸を大きく逸らした人の胴と足、そして鷲の頭と鍵詰めを持つ空の王者
クァードはその威風堂々とした巨大な体躯を金色の翼で覆い、鷲の頭が口を動かすことなく声を響かせる。
「本当に、前回とはまた自分と違った印象だな・・・・・・・女性なのか今回は・・・・?」
「しかし母体となった人間は男性のようだ。まぁどちらであろうとそなたはいつも美しいがな」
「いい加減そのあたりにして置いてくれない?クァード、ストラーシャ」
レンは背の八枚の翼で半ば己の姿を隠すようにしながら言った。
「目の前で堂々と批評されるのは好きじゃないよ」
海水が集まって産まれた人影は、そのまま藍色の髪と薄い水色の肌を持ち
深い知性を表す瞳をやはりレンに向け目を細める。
水界の王者、海を統べる者・ストラーシャ
現れるなり早速レンの全身を品定めするようにじろじろと見渡しクァードと喋りだした。
目の前で堂々と批評会を始められ、さすがのレンも少し恥ずかしく抗議する。
「それはすまないことをした。ともあれまた会えてなによりだ。『はじまりの竜』よ」
「ああ、本当にソナタとまた会えたことは嬉しい。空を生きる者たちはいつもソナタを愛しているよ」
「ありがとう。しかし今度からボクのことは”レン”と呼んでほしい。ボクが決めたボクの名だ」
「わかった。レンよ」
「ああ」
古き友人と再会したような、そんななごやかな空気が広間を満たす。
その存在の大きさが世界を歪ませかねない程の者たちが揃ったにもかかわらず
レンの結界の中止たる黒塗りの広間はどこまでも静かだ。
そしてレンは静かに話し出す。
「ボクも会えて嬉しい。クァード、ストラーシャ」
レンは透明な笑みを浮かべ古き王たちに語りかける
「でもボクは君たちの知る『はじまりの竜』じゃない」
それは決してゆずれないこと
「何代も表れては消えていった〜とボクは別人だ。例え多少記憶を受け継いでいても、少なくとも今は違う」
強い意志のこもったその言葉にクァードとストラーシャは多少戸惑ったような空気を醸し出す。
「・・・・・・・・確かに今代は随分と自己主張が激しいようだ」
「前はただ定められた戦いに赴くだけだったのにな・・・・・・・・」
「以前はむしろこの現実世界と界の法則に縛られる我らに近しい者だと感じていたが」
「まぁ、それはそれで良いのではないか?」
「そうだな、むしろ楽しみが増えたと言うべきだ」
「やはり召還者が面白いと我らも楽しいしな」
「だから、そのように本人の前で批評をするなと言っているのに・・・・・・」
自分はこれまで彼らが出会い協力してきた『はじまりの竜』とは違う
そう主張するがレン自身もどうしようも懐かしさと親しみをこの二柱の界の王達に感じており
自然特徴が親しい者に掛ける様になる。
「ともあれ、早速だが力を貸してほしい。お二方」
「ほう?」
「いかように?」
「解っているとは想うが現在ボクは己の結界内以外では満足に力が振るえない」
「そのようだな」
「だから力を貸してほしい、ボクは結界内でないとこの姿を保つことすらかなわない」
「ふむ・・・・・・力が満足に振るえない訳か、しかしならなぜそうも無理をして外に出ようとする?」
「ああ、今は力を蓄え、己の城を復活させることこそが先務なのではないか?」
二柱の王達はもっともな疑問をレンに向ける。
するとレンは多少言いにくそうに、滅多に見られないことだが再び気恥ずかしそうに呟く
「ちょっと前にボクの端末である部下達が襲われた。敵に捕らわれている。それに・・・・」
「「それに?」」
魔法の法則に縛られ、定命の者たちとは違う時間を過ごす超越者達は興味深そうに聞き返す。
彼らとレンが被支配者と支配者の関係に無い以上
その関係は対等でありつながりが深いほどその間で偽りやごまかしは許されない。
とうぜん、その応対も己自信をさらけ出さなくてはならない
「・・・・・・少しイライラしているから気晴らしがしたい」
「・・・・なるほど」
「そういう理由か」
「未だ満足に力をふるったことがないんだよ。それに怒りがこみ上げてきて解消する相手がほしいんだ」
「そうか」
恥ずかしげに俯くレン
マナが見れば思わず駆け寄って頬ずりを始めるだろう
まるで嘗ての”碇シンジ”を想わせる様子だ
しばらくその様子を楽しげに見ていた二柱の王達はおもむろに答えた。
レンの様子を好ましげに見ているその様子は大人が子どもの様子を温かく見守っている様子さえある。
「解った。力を貸そう」
「我らの力と我らの眷属で一時的にソナタの結界を創り出そう」
「ありがとう。お二方」
「なに気にすることはない。それに制限がある」
「なに?」
レンは当然だろうなと聞き返す
ふつうこのような召還には制限とそして代償が付き物である
「条件、というか代償は我らが久方ぶりに揃い呼び出されたことでほぼ良しとする」
「久方ぶりに我らの界の力を現実世界に呼び込み、そして新たな息吹を生むことが出来た」
「しかし、もともと我らがこの世界に直接影響を及ぼすのは限界がある」
律と法則に縛られた偉大なる者達はむしろ淡々とその事実を告げていく
「結界が保たれるのは一時、夕刻、これから沈み始める太陽が完全に西の海に隠れるまでだ」
見れば映し出されている船団の浮かぶ遠方の海では、すでに日が傾き始めている。
すでに約束の時間は近づいていた。
「それに更に別に条件もあるのだ」
召還し、力を行使してもらう以上何らかの代償が必要となる。
レンはそれをよくわきまえていた。
「解ってる。ストラーシャ。これから向こう三日間この島の漁師達に漁にでることを止めよう」
「よかろう」
「クァード、今季のワクル島の開発は延期しよう。夜光カモメの繁殖地はそのまま残そう」
「契約成立だ、ただ欲を言えば少し足りぬ」
「そう、あの海域にはすでにソナタの敵が結界を貼っている。それを破りソナタの力を支える新たな結界を貼るには大きな力がいる」
「ソナタの力を増幅する以上、そなたと何らかのかかわりのある者が必要だ」
「そうか・・・・・」
ストラーシャとクァードが言うと、レンは翼を震わせた。
すると今までただの一つも抜け落ちることの無かったことの無かった羽根が散っていく
それはやがて二人の王のまえに集まった。
「これに幾らか我が力が宿っている。ボクの身体の一部だ。媒介として役立つと想う」
「条件は揃った」
「契約は結ばれた」
「ならば我らは力を示すのみ」
「では、我らは行く。また用向きが在れば呼び出すが良い」
界の王達は口々にそう告げると幻影の空と海に消えていった。
「さて、これでやるべきことは終わった・・・・・・・」
再び己の端末たる部下達が捕らわれたミサトの船団を幻影に映し出したレン
そして己の出番が来るまでしばらく、今まで会ったことものない彼らを調べて見るべくより多くの幻影を移しだし
そして観察を始めるのだった。