イタリアに留学して数日が過ぎたころ。 静の親戚宅にて、静は静かにため息をついた。 ため息の理由は他のなにでもない。 学校でのイタリア語に慣れていないことである。 日常会話はある程度覚えていたし親戚からも教えてもらっていたので何とかなっている。 ここらへんの街のことにもだいぶくわしくなった・・・と思う。 はたからみればた順調にいっているように思えるだろう。 でもそれでもため息をつく理由は「志摩子さんからの手紙がこない」から。 空港に行くときに志摩子さんあてにイタリアでの住所を書いた手紙を投函しておいたのだ。 それから何回かたわいのない話を書いた手紙を送りあったのだが・・・。 いつもなら来てもおかしくない時期に来てもなかなか来ないのだ。 彼女は学校をやめていなければ「白薔薇さま」になっているはず。しかも環境整備委員会にも所属しているはず。もしかしたら生徒会活動や委員会活動でいそがしくて手紙を書く時間がとれないのかもしれない・・・と納得させていたときもあった。 でも今回はあきらかにおかしい。そうかんじるほど遅いのだ。 と静が一人で悩んでいるとコンコンと扉をたたく音がした。そして「静、入っていい?」と声が聞こえた。 「どうぞ」 振り返りながら言うと扉が開いておばさんがでてきた。 きっと親戚がイタリアにいないと両親は留学を許さなかったと思う。 両親は心配性ではないけれど一人で留学させるのを不安がっていたから。 そういう意味で親戚がいてよかったと思っている。 「静に手紙が来ているわよ。『志摩子さん』から」 「ほ、ほんと?!」 静の少し上ずった声に少し驚きながらおばさんは手紙をさしだした。 「楽しみにしてたものね。もう少ししたらお菓子ができるから。できたら呼ぶわ」 「うん。ありがとう」 おばさんが扉を閉めて階段を降りていく音を聞きながら静はベッドに座りいそいで手紙の封をあけた。 中には三枚紙が入っていた。 一枚には何かの日程が書かれている紙のコピーらしい。 「これ・・修学旅行の日程・・?」 行き先はイタリアらしい。 二枚目は地図で赤い丸がしてあるためそこを読んでみると静の近くの街の名前が書かれていた。 もう一枚には志摩子さんの字でこう書かれていた。 『ごきげんよう、静さま。 返事が遅れてごめんなさい。最近、山百合会の活動で書く時間がとれなくて・・・。 今回の手紙は修学旅行の日程などをお知らせしようと思って書かせていただきました。行き先は見てのとおりイタリアです。火曜日に自由行動で斜塔のあるドゥオモ広場にいます。私は祐巳さんや由乃さんのクラスとは別クラスなのですこしつくのが早いのですが・・・。よかったら来てください。静さまの通っている学校のことなどのことについても聞いてみたいので・・・。』とあった。 静のときもイタリアだった。確かおみやげはボルチーニ茸だったような気がする。両親が買ってきてほしいとせがんだからだ。多分食べてみたかったのだろう。 そこで静はあることを思いついた。確かドゥオモ広場には洗礼堂があったはずだ。静は何回か中に入った事がある。時折歌わせてもらっことがある。 そこで志摩子さんや祐巳さん達を連れて行こう、と。 そう思うと来る日が待ち遠しくなってくる。そう思いながら静は日程表などを壁にクリップで張った。
黄薔薇放送局 番外編 志摩子「♪〜♪」 乃梨子「志摩子さん、今日はずいぶんご機嫌だね。なにかあったの?」 志摩子「ええ、静さまから手紙が届いたの」 乃梨子「静かさまってあの『歌姫』と呼ばれた?」 志摩子「そう、よく知ってるわね」 乃梨子「瞳子が『乃梨子さんも拝聴できたらよろしかったですのにぃ』って言ってた」 志摩子「あらそう(笑) ほんとうにすてきな方よ……(遠い目)」 乃梨子「(以前、何かあったのかな?)今度紹介してよ、志摩子さん」 志摩子「もちろん♪」 由乃 「……(もう何も言うまい)」