ロサ・カニーナの嬉々な一日

生徒会役員選挙の余韻と熱気がさめた頃のある日。
ロサ・カニーナこと蟹名静はマリア様の前にいた。
今日はイタリアへ留学する前日なので準備をするため、合唱部を早めに抜け出した。
もちろん部長や顧問は知っている。
このリリアン女学園にも未練はない。
佐藤聖様の眼の中に自分を収めるという目的をはたしたから。
マリア様には『今までありがとうございました』というお礼と『留学が将来に役に立ちますように』とお願いをした。
マリア様を全面的に信じているほど敬虔なクリスチャンじゃないけれど、やっぱりこういう事をしておかないと落ち着かない。
リリアンの生徒だからという事もあるけど、留学という形で海外へいくのは初めてだから。
「静さま!」
そう思いながら銀杏並木を歩いていると誰かに呼び止められた。
何秒か待ってからゆっくり振り向くとそこには祐巳さんがいた。
「どうしたの?祐巳さん」
静は正直驚いていた。音楽室以外で会うのは初めてだったから。
「は、はい。あの、薔薇の館に来ていただけませんか?」
「薔薇の館に?」
静にとって憧れの場所だった。
聖を遠くからではなく近くで眺める事のできる場所だから。あわよくば親しくお話できる場所。
「はい。理由は聞かないでください。来てからのお楽しみですから」
「そう?楽しみね」
フフッと笑いながら静は答えた。
祐巳さんは聞かないでいてくれた事にほっとしているようだった。
祥子さんから厳しく「言わないように」っていわれたんだろう。
それから静と祐巳さんは仲良く並びながら話をしながら薔薇の館へ向かった。

ここ、薔薇の館の二階に足を踏み入れた、静はうろたえた。
テーブルにはケーキや豪華な料理が並び、折り紙を切って作ったイカリングのような鎖。
このように飾りつける趣旨はなんなのだろう?、と真剣に静は悩んだ。
いや、もしかしたら内輪の「薔薇様方お疲れ様会」みたいなものかもしれない。
でもだからってどうして自分がここにいなければいけないのだろう。
確かに。生徒会役員選挙で広い意味では山百合会に関わってはいたが。
正式に山百合会の方々に迎えられたわけでなし・・・。
そんな事を悶々と考えていると聖様が口を開いた。
「何、考え込んでるの?主人公がそうじゃ周りは困るよ?」
「聖!この会の趣旨を伝えていないんだから当然でしょ?」
「この会の趣旨?」
どうやら蓉子様は静に趣旨を伝えていないのを知っているようだ。
「そう。今回、あなたを驚かせようと思ったのよ。
この会の名前はね『イタリアでも頑張ってね!』・・かな?」
「はぁ」
つまり激励会兼送別会ということらしい。
でも静はこういう事はやってほしくはなかった。
理由はイタリアに行くまで今までどおりの「日常」でありたいから。
でも今回はそうはいかないみたいだった。
ここまで来て断れるわけがない。
なにより聖様の目の前に自分がいられるチャンスのこの会を。


「あ、そろそろ帰らないと」
「そうですね。私達もそろそろ帰らないといけませんね」
会は辺りが暗くなり始めるまで続いた。
守衛さんが見回りに来る時間帯になっていた。
「後片付け、どうする?」
「今日はやめて明日しませんか?もう暗いですし」
「でも殆ど、すぐ片付けられますよ?」
「・・・そうね。でも静さんは先に帰ったほうがいいんじゃない?」
由乃さんと江利子様の話を聞いている静はいきなり自分に話を振られ動揺した。
「え、ええ。そうですね。明日の準備もありますし・・・」
「じゃ、私も帰るよ」
「えっ?!」
急に聖様が言い出した。予想していないだけに間抜けに反応をしてしまった。
「そうね。一人じゃ、あぶないし」
「祐巳ちゃんと間違えて抱きつくとかいうのは無しよ、聖」
「わかってるって。静、一緒に帰ろう?」
「は、はい」

静は紅薔薇様や黄薔薇様にからかわれた聖さまと帰った。
もちろん、パーティーも楽しく想い出になったが、聖様と帰路が同じになることがなによりも嬉しいプレゼントになった。

その後のことも少し報告。
翌日の空港にも山百合会の一団が現れた。
どうやら静の母が出発する時間を教えたらしい。
その事態に静は少々驚いたようだったが静の母曰く「始終顔がニヤけていた」らしい。


黄薔薇放送局 番外編

祐巳 「うぅ……」
由乃 「あれ、祐巳さんどうしたの?」
祐巳 「今日呼ばれたんだけど……」
由乃 「ははぁ。祐巳さんここでは静さまにやられっぱなしだものね」
祐巳 「せっかく黄薔薇さまが卒業されてもあの方が残るかと思うと……」
由乃 「嫌いじゃないんでしょ?」
祐巳 「うん、そうなんだけど…… 由乃さんだって黄薔薇さまのこと嫌いじゃないでしょ?」
由乃 「う、そう来たか。 私にとってはライバルかなぁ?	それも一方的な。
	それをさらにあの方が楽しんでいるってのもわかっているんだけど……」
祐巳 「でも引けないよね?」
二人 「はぁ……」


乃梨子「お二人ともたそがれていますね」
令  「二人ともここや原作の立場を再認識しちゃっているみたいだね(苦笑)」
乃梨子「私はお会いしたことがないのですが静さまはどんな方だったんですか?」
令  「すてきな人だよ。私はそこまで知らなかったんだけど……
	祐巳ちゃんの話を聞く限り、茶目っ気もある楽しい人みたいだね」
乃梨子「私も会うことになるのですかね?」
令  「そのうちそうなるかもしれないね」
乃梨子「私もからわれる対象に……ってないか」
令  「まぁそうだろうね(苦笑)」
二人 「だって祐巳さま(ちゃん)がいるから(笑)」