新世紀エヴァンゲリオン
シミュレーションマシーン



それは放課後のこと。
帰宅部の生徒たちはそれぞれ中学校の門から家に、寄り道しに、帰っていった。

「さて、今日の晩御飯は何にしようか…」

碇シンジの寄り道は、ほかの生徒と一味違う。
よるのはスーパーマーケットが主。
時には卸売市場まででかけてしまうのである。

「今日はマルヤスでひき肉の特売だったよね?」



* シンジの内宇宙にある発令塔 *


「最終チェック! 進路をマルヤスに! よろしいですね?」
「もちろんだ。 買出しをしなければ、葛城家の食卓に未来はない」

ミサト風シンジが凶悪ヒゲ風シンジに確認を取る。

「発進!」

進路がヘックス(六角形)表示の地図に、赤線で表示された。




「さて、ひき肉、か。 ひさびさに餃子でも…」

ぼけぼけな感じだが、実は結構頭がフル回転しているシンジ。
もっとも、内容は…ちょっとぼけぼけかも知れない。

「シンジぃ? どこ行くのよ?」



* シンジの内宇宙にある発令塔 *


「パターン赤! アスカです!!」

ロンゲ風シンジが悲鳴を上げるように報告を行う。

「総員、第一種戦闘配備!」

重々しく、冬月風シンジの指令が発令塔内に響き渡った。

「ヒカリがいない間にアスカ来襲、か…」
「前回は昼休み、今回は放課後ですからねぇ」

冬月風シンジの指令に対して、ぼやくミサト風シンジと調子を合わせるメガネシンジ。

「こっちの都合お構いなしか…」




陶磁器のような白い肌に燃えるような赤い髪の少女が片手を腰にして立っている。
惣流・アスカ・ラングレー。 「可憐」よりも「威風堂々」が似合う少女である。

「ア、アスカ。 どうしたの?」
「聞いているのはア・タ・シ。 どこいくのよ?」



* シンジの内宇宙にある発令塔 *


「話題そらし、効果認められません!」
「くっ! 続けて! BTフィールドの中和は?」

ちなみに、BTフィールドとは「分厚いツラの皮」の略である。

「だめです! 視認できるほどの高出力なBTフィールドが!」




「スーパーだよ。 冷蔵庫にはたいしたもん残っていないし」
「ふ〜ん、それじゃ、今日はハンバーグに決定ね?!」

勝ち誇ったように告げるアスカ。
実のところ、スーパーに行くことはわかっていた。
どうも自分の好物を作らせるために呼び止めたようだ。

「え? ミサトさんが今日は中華が良いって」
「ア・タ・シはハンバーグが食べたいのよ?」

口元を少し吊り上げるアスカ。
心なしか、目も少し光っているような… かなりイヤな光り方だ。



* シンジの内宇宙にある発令塔 *


「シンクログラフ反転!」
「制御神経が反応していません!」
「回路遮断!」

ロンゲ風シンジやマヤ風シンジからの報告が響く。
ろくでもない状況報告ばかりだ。

「く… 作戦中止! 退却よ!」
「だめです! 後方にパターン青! レイですぅ!!」
「なんですとぉ!?」




「碇クン」
「あ、綾波?」

スカイ・ブルーの髪に深紅の目。 綾波レイである。
「綾しい」と表現されるその行動を把握するのは、常人には不可能とされている。

「ニンニクのたっぷり入った餃子…」
「う・うん?」
「肉は抜いて」
「は、はあ」

『こ、これは夕食を食べに来る、と言っているのかな?』



* シンジの内宇宙にある発令塔 *


「マギの判断は?」

・男としてのシンジ
『やっぱり最初に意見を聞いた − む、無理やり聞かされたんだっけ? − アスカを優先かなぁ
 でも、お客さん − あ、勝手に来るんだっけ? − レイを優先するべき、なのかなぁ?』

・エヴァパイロットとしてのシンジ
『アスカを怒らすとソニックグレイブあたりでずんばらりん…
 でも、綾波を怒らすと後ろからスナイパーライフルで撃たれるかも…』

・主夫としてのシンジ
『毎日ハンバーグじゃ栄養が偏っちゃうよ。
 餃子なら野菜たっぷりで…
 あ、でもせっかくの特売ひき肉は使えないのは痛いなぁ』

「保留3!」

金髪黒眉、白衣姿のシンジはマヤ風シンジの回答にため息をついた。

「無様ね」




「ハンバーグよハンバーグ!」
「餃子。 肉は抜いて」
「あうう」

と、そこへヒカリが買い物籠抱えてやってきた。

「あら、碇君どうしたの ? あ、そうそう!
 マルエツのひき肉、安かったわよ〜 これ、最後の300gだったの!」



* シンジの内宇宙にある発令塔 *


発令塔、大型スクリーンに



Mission Failed


と表示された。