「なあ、イインチョ、・・・・・・・今度の日曜、一緒に二人でどっかいてみいひんか?」 放課後の屋上、トウジのこの言葉が、この話のきっかけであった。 何が行われようとしているか?それはデート、恋人同士の触れ合い方のひとつ。 「え、えっ?・・・・・・」 ヒカリがトウジの突然の申し出に胸をどきどきさせて、上目づかいに聞く。 そのしぐさに、トウジは体が緊張で力むのを感じながる。 「・・・・あかんか?」 「ううん、いいよ・・・・・・」 うつむきながらヒカリは答えた。 うつむいていたのでトウジにはヒカリの顔が見えなかったが、 その顔は嬉しさで緩みきっていて、ヒカリの気持ちがよく顔にあらわされていた。 トウジはヒカリの顔を見るよりも何よりも、嬉しそうに笑うと、階段を駆け下りていった。 ヒカリがそのまま固まっていると、トウジが嬉しそうに運動場の下校生の中をつっぱしっていく。 ヒカリも緩みきった顔をあげると、いつもどうりの顔に戻して、心の中では踊るような気持ちで帰るために一歩を踏み出す。 今度の日曜が楽しみだ。 〜デートの前夜〜 洞木家の夜は早い・・・わけではないのだが、この日の夜は、ヒカリは早めにベッドに入った。 明日のデート、寝坊するわけにはいかないからだ。 約束の時間は朝八時になっていた、いつもどうり起きればそんな無理な時間ではない。 「でも、なんか早く寝たほうが良いような気がするのよねぇ。」 と、呟きながら、電気を消してベッドに入る。 リモコンで白の蛍光灯を消して、真っ暗な部屋を見ながら目をつぶる。 ・ ・ ・ ・ (・・・・・・・だめ、寝られないわ♪) 明日のために、できるだけ寝られるように心がけてみる。 いつも寝るときのように、体の感覚が揺らいでいくような感覚に入り込もうともする。 しかし、そんな行動も、明日のトウジとの時間のシーンが頭の中に入ってきて、眠りへと落ちていくのを邪魔するのだ。 自分とトウジが、待ちの人ごみの中で手を組んで歩いているところを想像する。 自分とトウジが話しながらファーストフードを口にする。 そんなシーンを思い浮かべるだけで、顔がだらしなく緩むのが自分でもわかる。 「・・・うう、寝られないわ、こうなったら、意地でも寝てやるんだから!」 そう呟くと、再びあの感覚に入ろうとして、また二人っきりの想像が浮かんでくる。 そんなことが何回も続いていくのだった。 さあて、こちらはトウジ、トウジはまだ起きているようだ。 手元には、『第三東京市を遊ぶ』と題された、小さめのガイドブックだった。 1ページ、また1ページと読み進めていって、明日のデートの行き先をあらためて検討する。 「う〜ん、・・・おっしゃ、ほんじゃあ、こうしよか。」 しばらくしてそう呟くと、パタン、と本を閉めると、そのままベッドへと入り込む。 (明日が楽しみやな・・・・) そう思いながら、ゆっくりと眠りに落ちていって、五分もかからぬうちにぐっすりとねてしまっていた。 翌日、デートの日 わいわいと活気あふれる『久我山通り』。 そこは第三東京市でも有数の歓楽街であり、人が遊んで楽しむのに必要なものが、すべて存在しているといっても過言ではないほどだ。 そんな『久我山通り』は、平日休日関係なく、観光客や遊びに来る人でにぎわっていた。 ひとごみの中、喫茶店の前で一人、恋人を待つ女性にまぎれて立っている少女。 もちろん、ヒカリ以外の誰でもない。 ヒカリは目の前を通り過ぎていくたくさんの人に目を凝らしながら、 (鈴原はどこから来るんだろう・・・・) と、ドキドキうきうきしながら、その待ち人の姿を探す。 しばらくたって、約束の時間になって、5分ほどすぎても、トウジの姿は見えない。 「・・・もう、どうしたのよ・・・・・・・」 ヒカリの胸が、トウジに何かあったんじゃないかと不安な心でいっぱいになる。 (・・・たった五分の遅れなのに、何考えてるんだろう・・・・) 心配しすぎている自分に呆れながらも、やはり、心の中から不安は拭い取ることはできない。 「おはようさん、イインチョ。」 ヒカリが思考の渦へと引き込まれていると、不意に自分を呼ぶ声が聞こえてきた。 すぐにヒカリが声がした方向へと振り向くと、そこには、相棒であるジャージを脱ぎ去ったトウジの姿。 色のあせたジーンズに、胸にドクロマークのついた黒い半袖のTシャツ、チェーンのついた財布、 緑色のアウトドアシューズを履いた、いつもとはまったく雰囲気の違ったトウジがそこにはいた。 「あ・・・・」 その雰囲気の違いに、一瞬思考が止まるヒカリ。 「どうかしたんか?・・・イインチョ、」 トウジが不思議そうな顔をしてヒカリを見つめる。 我に返るヒカリ。 「あ、ううん、おはよう・・・・じゃなくて、約束の時間を過ぎてるのよ!!何かないの!?」 ヒカリがむすっとした顔で抗議する。 「ああ、すまん、イインチョ。」 「女の子はね、こういう時間はきちっと守らないと、・・・・その・・心配するんだから・・・・・」 抗議をしているはずが、ヒカリは顔をかすかに朱に染めて、だんだんトウジから目をそらしていってしまう。 よくわかっていないトウジは、今度は申し訳なさそうな顔になってまたあやまる。 「・・・・ほんまにすまん、イインチョがそこまで心配しとるとは思わんかったんや・・・すまん・・・」 「ううん、いいの、ごめんなさい、五分くらい遅れる事だってあるわよね、早く遊びに行きましょ!」 (はあ、あたし何やってるんだろう、たった五分遅れてきただけでトウジを責めて、 ・・・よく考えれば、五分くらい些細なことで時計がずれてたりするかもしれないのに・・・) よく考えれば、トウジにそこまで言うこともなかったかも・・・、と思うヒカリ。 いつものペースとまったく違っている自分をそこには感じた。 「どこに行きたい?イインチョ。」 とりあえず、二人で歩き始めていくらともたたないうちに、トウジがヒカリに聞く。 「う〜ん、いま8時15分くらいだから、・・・・・・鈴腹は朝ごはんは食べた?」 「いや、食べてへん。」 「それじゃあ、マックドナルドにでも行かない?確かブレイクファーストメニューみたいなのがあったと思うから。」 「そやな、それじゃあそうしよか。」 二人でマックドナルドへと向かう。 店の中へと入ると、ヒカリの記憶どおりのセットを頼んで、窓際の席に座った。 窓の外は流れ行く人ごみであふれかえっている。 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 二人の間に無言が続く。 さっきまで普通に話せていたのに、いざとなったら何を話せばいいのかわからなくなるものである。 「・・・えっと、・・今日はどっか行きたいところあらへんか?」 トウジが窓の外を見ながら話しかける。 「・・・・うん、映画・・・・とか・・・・」 「わかった、それで、何が見たいんや?」 セットに含まれていたホットケーキを切って、一口食べた。 「ラブストーリー系・・・・」 「よっしゃ、ほんで、いつぐらいに見に行く?今日、一番最初のやつを見るか?」 トウジがもう一口、ホットケーキを口に入れる。 ヒカリも同じ頼んでいたホットケーキを口に運んだ。 「・・・お昼を食べてからが良いわ。」 「そないか、そしたら、先にゲーセンでも行ってみるか?」 「ええ、いいわよ。」 トウジが、最後にセットのジュースを飲み干して、氷だけになった紙コップをトレーに置いた。 ヒカリが食べ終わるのを待つと、さっそく二人はゲームセンター街へと向かった。 「え〜っと・・・・ここや・・・」 トウジとヒカリが今立っているのは、前と後ろ、どちらも向こうまでゲームセンターが続いている地下街だ。 ピコピコ、ジャカジャカ、様々な効果音が入り乱れて、五月蝿いと言えない事はないかもしれない。 その中で、ヒカリは初めてこの場所を訪れるようで、珍しそうに周りを眺めている。 ヒカリの思いの中には、こんなところに入るの・・・?、というようなものもあるかもしれない。 「へえ・・・なんだか、凄い所ね・・・・」 「そうか?・・わしは別に気にならへんけど・・・・」 「絶対変よ、鈴原はよくこのものすごい音の中で平気でいるわね。」 「そないか、わしは慣れとるからなぁ、よく・・というか、来ることがあるし。」 トウジは苦笑しながら答える。 ヒカリは難しい顔をしながら、奥へと進んでいく。もちろんトウジと一緒に。 「さて、どれをやろか。」 トウジが並んでいるゲームに目を配る。 やはり、ゲームとしては一番ポピュラーだからだろうか、なんとなく格闘ゲームの椅子に腰掛ける。 ヒカリはというと、腰掛けたトウジの横で、物珍しそうにトウジの座ったゲームを見つめている。 ヒカリ自身は、ゲームの内容・・・・つまり格闘自体にまったく違和感がないのだが、ゲームとなると違うらしい。 「なあ、イインチョもやらへんか?」 トウジがそんなヒカリの方を向いて誘う。 「え?ええ、いいわよ。でも、わたし初めてだけど・・」 「大丈夫や、わしかてヒカリ相手に本気なんかださへんわ。」 「じゃあ、ちょっとだけ・・・・」 トウジの反対側の椅子に座ってみる。 そして、ふところから財布を取り出すと、小銭入れの中から100円玉をいくらか取り出してつみあげる。 意外なところで結構ゲーマーな雰囲気があるかもしれない・・・・・(苦笑) (ええっと、まずどうやるんだろう・・・・?) ヒカリがゲームをあまりやらないのには訳がある。 それは、家事・炊事、学校の主要5教科、副教科5教科を勉強して、 (技術・家庭科、美術、音楽、体育、それにコンピューター学がある。 この時代には、パソコンの使用でき、さらにかなりの高度な技術を持つ者が必要で、中高生にその技術を育成するため国が処置したのだ。) さらに風意流体拳道場の師範としての指導もする必要があって、多忙な毎日を送っているのだ。 もちろん、コダマとヒカリ、シンジ夫婦が手伝ってくれるのだが、そういう日はゆっくりと休みたいためどこにも出かけない。 そういうことがあって、ゲームをあまりやらないのだ。 (ええっと、[このゲームはあなたの身体能力をベースとして使うキャラクターを作ります]・・・・?) ([あなたの気づかない、普段眠る無意識の領域をコンピューターが読み取り、キャラクターを作ります。]ですって?) ([そのキャラクターの能力値が高すぎると扱いが難しくなり、弱いとゲームに支障がない範囲で能力値の修正がされます。]・・・か。) ヒカリはその説明に少しの不安がよぎった。 が、とりあえず、プレイヤーの能力値決定のためらしい、ゲームをやっていく。 トウジはそれを見越して、先に一人でプレイしているようだ。 五分ほどでゲーム形式の物は終わり、最後に画面に手型のようなものが出てきた。 ([この手形に手を合わせてください]か。) pipipi・・・・ 電子音の後に、ヒカリのキャラクターが現れた。 そのキャラクターは、金髪のストレートを後ろでくくった、いかにも格闘家という感じの姿だった。 [能力値・・・攻撃力:860 防御力:980 素早さ:910 使用難易度:SSS・超高度] 「こ、これは・・・・・・」 ヒカリは驚いた。 それは、このゲームがあまりにも現実に近い結果を導き出したからだ。 (・・まさか・・・・ね・・・・) 現実にあまりにも近い数値に驚きながら、挑戦と書いてあるボタンを押した。 すると、すぐに向こう側、トウジの座るゲームとの対戦画面が現れる。 『Are you ready? Fight!!』 ゲームから聞こえた声とともに、速いテンポで始まる対戦。 トウジが使っているのは、ゲームの中で元から記録されているキャラで、コントロールが難しいが強いキャラクターだった。 トウジは待ってましたとばかりにキャラの傍へと回り込んで、とりあえず、下弱キックで攻撃する。 いきなり迫ってきたトウジのキャラにどう対処すればいいか分からず、 ヒカリはめちゃくちゃにボタンを押しまくるも、すべて交わされてしまう。 同じようなことが繰り返されて、時間切れでトウジの勝ちだった。 第二ラウンド、こんどは開き直ったかのようにヒカリはトウジのキャラへと攻撃をあてにいく。 一撃・・・二撃・・・・・ 順にかわすトウジだが、三撃目はもろに攻撃を食らってしまう。 「あ、当たってしもた・・・・・・って、なんやて!!」 トウジが思わず声を出す。 ヒカリにやられた一撃がどの程度かゲージに目を向け、そのダメージの大きさに驚いたのだ。 (な、なんちゅう攻撃力や・・・いち必殺技と同じ威力やないかい!!) いわゆる超必殺技に次ぐ、間合いを取ったりするときに使うやつだ。 それに相当する威力を、ヒカリの基本攻撃は持っている。 まさに、トウジにとっては驚くべきことだった。 そうと分かったからには、ヒカリ相手とはいえ、もう遊びでやるわけにはいかない。 これをやり始めて結構になる自分が、 初めてであるヒカリに負けるわけにはいかない、自分にも多少ながらプライドがある。 トウジがそんなことを考えているとき、ヒカリは、ちらりとゲーム台の上のほうを見た。 そこには、最初から登録されているキャラクターの必殺技のコマンドが、シールで貼ってあった。 一番簡単な目に焼きついたものを、実際にコマンドで入れてみる。 二回・三回とやってみるがでない。 一度できれいに出そうとするからだと、次は丸いコントロールバーを何回も同じように動かし、同じボタンを連打する。 今度は出そうと思っていたものとは違うものが出た。 超必殺技というやつで、ヒカリもなんとなく分かった。 その超必殺技は、気弾とでもいうのだろうか、弾状になって、トウジのキャラクターへとぶつかっていく。 突然の予想外の出来事に、避けられなかったトウジのゲージはいっきに削られていき、やがてすべてなくなってしまった。 第二ラウンドの終わりだった。 「・・・・こら、マジでやらんとやばいわ・・・・・」 トウジはせっぱづまった様な気分でゲーム機の画面を見つめる。 ゲームは、自分を無視してすでに第三ラウンド・最終戦の始まりの合図を告げる。 負けられないトウジは、自分のもてる最高の攻撃で、ヒカリのキャラクターを圧倒する。 必殺技に必殺技をつなげ、相手が怯んだところで強キックで反撃を完全に不可能とし、最後は超必殺技で止めをさす。 その様子は、まるで水が流れるように優美で、もはや文句のつけようがないコンボだった。 ゲージが四分の一まであっという間に減ったヒカリは、またさっきのように超必殺技を出そうとするが、 すんなり出るわけもなく、トウジに背後に回られると、一撃も攻撃することなくやられてしまった。 「あ〜〜、負けちゃったわ・・・・・」 ヒカリは思わず声を出す。 結構いい感じにできていたのだが、負けてしまったのだ。 「ま、しょうがないかなぁ・・・鈴原のほうが強いんだし。」 向こうの台からトウジが来た。 「イインチョ、めっちゃ強かったで。」 トウジは驚いたような、見直すような眼で、ヒカリに話しかける。 「う、うん、そうかな・・・」 凄いと思われたのがヒカリには分かった。 自分の好きな人から見直されたように見られるのは、なんだか嬉しくて、少し頬を赤く染める。 ヒカリは、トウジに赤くなってるのを見られるのが恥ずかしくて、 見られないように、違うゲームの所へとトウジの手を引っ張ってゆく。 「次は、あのゲームをやってみましょ。」 適当に歩いていった先は、二・三台ずつ固まって並べてある、いわばクレーンゲームゾーンだった。 まわりには、いろんな商品を入れたクレーンゲームが置いてあって、中には一般的な人形からアイドルのキーホルダーなど、様々だ。 「なんや、クレーンゲームか、わしがとったるさかいなんでも言ってええで。」 トウジの言葉に甘えさせてもらうことにして、 ヒカリは周りの商品を見回すと、向こうの台にあるあるアニメキャラクターの人形を指差した。 その人形は、茶髪のお下げにメガネをかけた女性キャラで、 メガネが、そのキャラクターが勉強好きか読書好きなんだろうと、大方予想させてくれた。 今はやっているアニメで、キャラクターの個性・心情がよく表されて、 巧みなカメラワークに、斬新なロボットの格闘シーンが視聴者の心を釘付けにしている。 内容は18歳の三人の男女がある日出会い、日本に襲来する怪獣と戦うというものだった。 怪獣と戦う中で、それぞれが過去のトラウマ・悩みにつまずきながら、成長していく。 ヒカリが選んだのは「リィナ」というキャラクターだ。 主人公格というわけではないのだが、主人公に恋をしているが想いを伝えられず、 自分のできる範囲で主人公のサポートをしていたが、偶然精神攻撃を得意とする怪獣の餌食になって、 その心をもてあそばれ、恋心の中にある拒絶の恐怖に押しつぶされて、最後は植物人間のまま終わってしまう。 「何でこんなキャラがええんや?女キャラやったら、あっちのやつのほうが人気あるのに。」 ヒカリがトウジに答える。 「私はこのキャラクターが好きなの。」 「さよか、まあええけどな。」 「最初は私がやってみるわね。私が取れなかったらお願い。」 そう言うと、ヒカリが100円を台に入れる。 ピーン、という電子音とともに、上下の二つのボタンが点滅し始める。 「イインチョ、やり方わかるか?」 トウジのあまりにも失礼な質問に、ヒカリは少し怒る。 「あたりまえでしょ!鈴原、まさかわたしが知らないなんて思ってたの?」 ヒカリがトウジをジロリと見る。 その視線にトウジはうろたえながらも、何とか自分から話題を変えようとする。 「イ、 イインチョ、はよせんと、勝手にゲームが動いてまうで・・・・」 「もう・・・・」 ヒカリは不満げな顔をしながらもクレーンのボタンを押し始めた。 そんなヒカリを見ながら、内心ほっとしたトウジだった。 ウィィィィン・・・・ クレーンが横に動いていき、「リィナ」の人形のちょうど直線状に止まった。 「おっ、結構ええところに止まったんやないか?」 ウィィィン・・・・・ ヒカリが縦の動作をコントロールするボタンを押して、人形のちょうど上で止めようとする。 が、後ちょっとのところで、微妙に位置がずれてしまった。 この前後の位置の取り方が、難しいのだ。 クレーンはヒカリの不安をよそに、ゆっくりと、リィナ人形へと降りていって人形の首を挟みこんだ。 クレーンが人形を引っ張りあげると、ヒカリの不安は的中して、案の定クレーンを引っ掛ける位置がずれていたようだ。 「あ〜あ、とれなかったわ。」 ヒカリが残念そうに肩を落とす。 どうやら、トウジにいいところを見せたかったらしい。 「まあしゃぁないがな、ワイがとったるさかいに。」 そう言うと、トウジがクレーンゲームに100円を入れようと手を伸ばした。 しかし、トウジが100円を入れるよりも早く、ヒカリが入れた。 「なんや、またやってみるんか?」 「ううん、私がほしい人形なのに、鈴原に出してもらうわけにはいかないわ。」 「なんや、そんなこと、別に100円ぐらいかまへんのに。」 ウィィィン・・・・・ トウジがクレーンを操作し始める。 横の動作はヒカリと同じぐらいいい所に止まった。 トウジは少し中をじっくり見ると、縦の動作のボタンを押す。 ウィィィン・・・・ 「ここらへんやろ。」 トウジは呟くと、ボタンからゆびを話す。 クレーンは寸分の狂いなく、リィナ人形をつかみ、垂直に持ち上げていく。 機械が動かすため、動くときに多少のブレが生じるが、人形のほうは何の危なげもなく運ばれている。 「鈴原、すごいわね。」 ヒカリが感心するように言う。 「そ、そおか?」 トウジは少し照れながら、人形が運ばれ終わるのを見ていた。 どさっ 音とともに、人形がついに最後まで運ばれた。 クレーンの中とつながっていて、人形が落ちてくるところにトウジが手を突っ込む。 突っ込んだ手で人形をつかむと、当時はヒカリへとそれを手渡した。 「ありがとう、鈴原。」 「なんや、そ、そんなたいしたことやないで。」 ヒカリからお礼を言われ、少し照れるトウジ。 トウジは自分が胸がどくどくと高鳴っているのを感じた。 ヒカリは、自分がトウジと一緒に、こんなに楽しい時間を過ごしていることに幸せを感じた。 それから、うまいと評判のラーメン屋に言って昼ごはんを食べた。 ヒカリがすねたように、トウジを睨んでいたが、 ラーメンをいざ食べてみるとなかなかおいしかったらしく、黙って食べていた。 どうやら、デートにラーメン屋につれてくるなんて・・・・、と思っていたらしいが、 ラーメンがうまかったので、まあいいか、となったらしい。 第三東京市の超大型デパート『クラウド』の中にある映画館で映画も見た。 ヒカリが恋愛物がいいと言ったので、そのとき上映されていた、恋愛映画を見た。 映画の途中、トウジがとなりで寝てしまったため、ヒカリがため息をついたとか・・・・・ とにかく、その後もたっぷり遊んだ。 トウジもヒカリも、二人とも、時が経つのを忘れていた。 気がつけば、夜の8時半だった。 中学生とはいえ、ヒカリとトウジの家庭の事情では、こんな時間まで遊ぶのはさすがにまずい。 ヒカリはまだ遊びたいという気持ちに引かれながらも、当時とわかれて帰途につく。 トウジも同じように岐路についた。 その晩、二人はまったく同じ事を考えながら眠った。 『今日の私たちって、周りから見たら、恋人同士に見えたのかな・・・・・・』『わしとイインチョは、少しでも、恋人同士に見えたんやろか・・・・・・』こうして、二人の一日は静かに幕を下げた。
あとがきだぴょん どうも、こんにちは、マーシーです。 ・・あ、あはははは・・・・・・・どうでしょうか・・・・・? 初めて「デート」というものを書いてみました。 自分は一回もしたことがないのに、です。 身の程をわきまえてない小説書きですが、許してください。 つまんなかったら、苦情待ってます(笑)