空は青く晴れ、この欲望と幸せがうずまく世界を遥か昔から見続けてきただろう青さが、今日もまたどこまでも広がっている。 その青はあったかく、全てを包みこんでくれるような気分にさせてくれる。 青く晴れた空の下を、セイジはNERVの医療施設へと歩いていた。 確実に地面を踏みしめるその足は先に続く道を軽快に進んでいく。 理由は簡単、この前助けた少女が意識を取り戻したと、NERVの者から電話があったからだ。 ちなみに、セイジの家はシンジの住むヒカリの家からちょっと離れたところにある、かなりの高級マンションだ。 目的地へと歩くセイジの顔はどこか嬉しそうな感じがあり、 やはり少女が助かったという事がセイジの気分をよくしているのだろう。 セイジはNERVの入り口まで来ると、どこからか持ち出したカードを手にとり、 そのドアの鍵であろうところに差し込むと、機械が反応してドアはすんなり開いた。 それからもいくらか分からない所はあったものの、 まあ、そこらにいた職員などに聞き回って少女のいる病室までたどり着いた。 その病室には『高山 ハルカ』というプレートが書いてあった。 (ここか・・・・、さて、一仕事するかな・・・・・・) コンコン、とドアを軽快にノックして、中からの反応をみる。 「はい、だーれ?」 ノックの後に聞こえた声は幼さがとても感じらえる少女の声。 聞いた感じからは元気なのだろう、という事がセイジに分かった。 部屋の中に入って見ると、小さな少女がちょこんとベッドの真ん中で寝ていて、そばには絵本がおいてあった。 ネルフの中の職員などがお見舞いに来てくれたのか、それとも看護婦や看護士の人がハルカと遊んでくれているのか、 どちらにしても、セイジにとって、そんな心遣いや思いやりのある人がこの組織の中にもいるのは、とても嬉しい事実だった。 セイジは少女のそばに近づいて、いすにすわった。 「お兄ちゃん、どうしてこんなところにきたの? わたしおにいちゃんのこと知らないけど、あそんでくれるの?」 少女からセイジにかけられた一言一言はとてもセイジの心を幸せな気持ちにしてくれた。 それはハルカの純粋無垢な心から発せられる言葉がそうするのだろう、と、セイジは心の中で思った。 「ああ、その前にお兄ちゃんの事が怖くないか?」 セイジは微笑みながらハルカに聞いた。 その笑顔にはどこか寂しそうな、悲しそうな思いが見え隠れしている。 だが、そんな不安は無駄な取り越し苦労だった。 「なんで?わたしおにいちゃんの事怖くないよ?」 ハルカは首を傾けて、セイジに聞き返した。 「だって、お兄ちゃんの髪は白いぞ、普通の人の髪は白くなんかならない。」 「ううん、お兄ちゃんはこわくないよ。だって怖い感じがしないもん。」 この言葉、・・・・この瞬間こそがセイジの中で最も救われる瞬間なのだろう。 「じゃあ、ハルカちゃん、お父さんとお母さんに会いたいか?」 この話題こそが、セイジが今日ここにきた最も重要な理由であり、目的だった。 「うん♪お父さんやお母さん、このごろ会いに来てくれないんだもん、 とっても寂しかったけど、いろんな人が遊んでくれたから、泣かなかったよ。」 笑顔を浮かべながらハルカはセイジに言った。 「そうか、偉いな、ハルカちゃんは。 お兄ちゃんが今からお父さんとお母さんに会わせてあげるから、よおくお話を聞いとくんだぞ。」 そう言うと、セイジは部屋の角に行って両手を突き出した。 両手を突き出した空間から何かの長い棒のようなものが出てきた。 淡い光が集まって棒のような物の輪郭がはっきりしてくるなか、セイジの方まである白髪の神は宙に浮き上がる。 “邪魂を刈りとりし鎌よ・・・・・・、我の命により・・・、高山ハルカの父母の魂をここに召還す・・・” その言葉と共に、その長い棒のようなものが輝き、そして二つの黄色い魂がその場に現われた。 その魂は遅くもなく早くもなくといった速さでだんだんと人の形になり、最終的にはおそらくハルカの父と母だろう形になった。 いわゆる精神体・・・というものなのだろう、確かにその場には存在するのだが、どうも物質として存在しているものではない。 それは、その魂の下に影がない事や、直感的に感じられたから分かる事で、 まだ幼いハルカにそんな理論的な事は分かるはずもなく、父と母に会えた事をただ嬉しそうにはしゃいでいた。 それにあわせて、ハルカの父と母も、はしゃぐ娘とじゃれるように優しい笑顔でハルカの事をあやしている。 普通の者が見たならば、その様子からハルカとその父と母は幸せな家族としか思わないだろう。 誰が父と母が死んでしまっているなどと思うのだろうか。 これが幸せ、至福の時と言う言葉を再現したものなんだろうと思う。 が、現実という名の悪魔はかくも冷酷で冷たいものなのだろうか。 一度死んでしまったものを蘇らせる、・・・・そんな自然の摂理に反した事はできないのだ。 一度死んでしまえば、その魂はまた違う場所に生まれて、そしてまた違う人生を歩んでいく。 それはこの父と母の魂とて例外ではない。 そして別れの時間はすぐにやってきた。 「ハルカ、お父さんとお母さんは遠いところに行かなきゃならないんだ。」 父は寂しそうに、だけど微笑を忘れずにハルカに呟いた。 母も同じようにハルカに囁く。 「お母さん達はね、空の上に行くの。 ハルカには見えないかもしれないけど、わたし達二人はずっとあなたの事を見ているわ。」 そう言うと、二人はハルカの事をめいっぱい抱きしめた。 彼ら2人は、理論上、体が存在しないゆえに感触というものはなく、ハルカに触れているという事が分かることはできない。 が、しかし、触れているのだ。 理論などというちんけな物では計れない、心というもう一つの手で、彼らはハルカを感じている。 そして優しく、そっと割れ物を扱うようにハルカの心を包みこんでいった。 「お父さんとお母さんに、もう会えないの?」 ハルカの口から泣きそうになりながらあどけない声が漏れてくる。 「「ハルカが会えると信じてくれれば、必ずまた会えるよ。」」 そう言い残すと二人の体は、光の霧のように、どこともなく吹く風によって掻き消えていった。 ハルカの手の中には、いつの間にか、綺麗に輝く水晶のネックレスが握られていた。 「・・・・・・・おとうさん!!!おかあさん!!!」 ハルカは何もない空中にただひたすら自分の両親を叫ぶのだった。 もう会えないという事を、ハルカが心のどこかで感じた寂しさと悲しさの混ざる声は、なにもない空中をただ響いていく。 さっきまでいた答えてくれるはずの最も自分に近かった者ももういない。 何回かハルカは父と母を叫んだあと、子供ながらも何ともいえない孤独を感じて泣き崩れた。 まだこんなに幼く、そしてこんなに小さい少女が、自分がこれから一緒に悲しみ一緒に笑うはずの、両親という人生の一つのパートナーを失った瞬間だった。 そしてその後、ハルカをひきとってくれるような親戚は見つからずに、最後の手段としてセイジが彼女をひきとったのであった。 まあ、ひきとるならいろいろと聞かなければならない事もあり、セイジはハルカに最小限必要な事は質問した。 それによると、ハルカの両親は自営業で、小さな子会社の社長らしかった。 ついこの間、父は若くして持病の糖尿病が悪化して失明してしまったらしい。 この事をハルカ自身がそう言ったわけではない。 ハルカが言っていた事をセイジが整理してみた所そういう風になったのだ。 話は戻して、失明した父はこれ以上糖尿病が悪化してはいけないという事で、 日本でも有数の医療技術がある第三東京市立ネルフ医療施設(表向きは市立だが当然の事ながら本当の創設者はネルフである)に、 糖尿病の進行を防ぐ手術を受けるために入院していた。 ちょうど手術が成功に終わり、家族でお見舞いをしていた時にエレメンタリーの使者に遭遇して今にいたる。 ハルカ自身は今年ちょうど小学校に入学したらしい。 まだまだ愛情が必要な年頃だろう事はセイジは百も承知ながらも、 セイジはこれから自分が苦労するだろう事を踏まえた上で、ハルカを預かる事を決断した。 何より、セイジは自分が愛情を注ぎ、また自分が家族と言える者がほしかったのかもしれない。 まあ、そんな事はどうでもいい、理由はどうであれ、セイジのした事が間違っているはずがないのだから。 ひきとると決断できるところがセイジの隠れた優しさであり、魅力の一つなのである。 さて、ここはどこだろう? ヒカリの家でもなければセイジの家でもない。 聞こえてくるのは中学一年生の少女とその一つ上の兄の声だった。 なぜか、兄の方は一方的に妹に頭を下げ、肝心の妹はそんな兄の事を知らん振りして180度違う方向を見ているのである。 「ナツミ!!ほん〜〜まにすまんかった。兄ちゃん、お前が怪我した事でカッとなっとってな、碇を殴ってもたんや。」 この関西弁を操る少年は鈴原トウジ、鈴原ナツミの兄である。 トウジの言葉に反応はするものの、振り向いたナツミの顔は冷たく、そして白い目がトウジを見ていた。 「・・・・・お兄ちゃん、わたしに謝っても仕様がないでしょ? だいたい、なんでわたしが勝手に出ていって怪我したのに、 そのわたしを守った碇さんを殴るわけ?信じられないわよ、もう。お兄ちゃんなんて嫌い!!!」 その発せられる口調は厳しく、その言葉は聞くたびにトウジの中の心を大きく動揺させる。 (!!!!!?????・・・わ、わしは・・・・・ナツミに嫌われてもうた・・・・・これからはどうやって生きれば・・・・) トウジの顔はまるでこの世の終わりのように虚ろな感じになり、もう何を考えているかさえ窺えないような状態だった。 ちょっとオーバーな気もするが、 一つの心のよりどころである妹の事を、 何より大事に思っていたトウジにとって、その妹に嫌われるのはかなりの衝撃になったのだ。 おそらく、今トウジの頭の中はどうすればナツミに嫌われないかでいっぱいだろう。 ここで付け加えておくが、トウジとてシンジを殴った事を後悔していない訳ではなく、 ナツミに言われてどれだけ自分が失礼極まりない行動をとったか自覚して反省はしているのだ。 だが、なかなかシンジに話し掛ける事もできずに、数週間が経ってしまったのである。 普段気が強く元気なトウジがこうまでなるとは珍しい。 まあ、それほどシンジに対して、負い目みたいな物を感じていたという証拠かもしれない。 「なあ、ナツミ、どうすればワイを許してくれるんや? わいもな、碇に対してあやまろあやまろ思うとるんやけど、なかなか言えへんのや。」 トウジは手をあわせて下げた頭だけを上げてナツミを見る。 「はあ、まったく情けないお兄ちゃんね。 今から一緒に行ってあげるから、お兄ちゃんなりに碇さんに謝ってきて、碇さんが許したらわたしも許してあげるわ。」 そうな罪が言うと、トウジの顔がまばゆいばかりに輝いた。 「ほんまか!!??ほんまに許してくれるんか!!?? ならちょうどええ、わいも碇に謝りたかったんや、ほならすぐ行こう。わいが碇のすんどる家を知っとる。」 トウジはそう言うと、疾風のごとくナツミを引きずってその場を去っていった。 さて、ここはヒカリの家、もといシンジ夫婦の住んでいる家。 ただいま三時、シンジは今、おなかをすかせた三人のお姫様のためにクッキーを作っている最中で、 形こそ違えど昭和から続くこの家の台所でエプロンをしたその姿は、まさに子供のためにご飯を作る母親にそっくりだ。 シンジは手でクッキーの生地をこねてさまざまな形にし、そしてオーブンにいれた。 そこまでできれば後数分ほどでクッキーは出来上がる。 シンジは腰に手をまわすと手馴れた手つきでエプロンの紐をとき、エプロンを脱いでいった。 「ふう、やっと出来上がるな・・・・。」 そう言うと、後はクッキーが焼きあがるのを待つのみなので、台所から離れて自分の大切な妻達がいる居間へとむかう。 ちなみにヒカリの家はかなり広い。 部屋も日本旅館並のものがずらりと並んで、廊下は長くかなり先の方に曲がる所が見える。 シンジ達とヒカリの家族が居間に使っているのはその内の一つで一番玄関に近い所の部屋を居間に使っている。 居間につくと、目の前にあるふすまを開けて、シンジは木製のテーブルのところに腰を下ろした。 そのテーブルにはサヤカ・マナミ・レイがそれぞれ話をしながら座っていた。 「あ、シンジ、おやつできたの?」 マナミはシンジが来たのに気がつくと早速お待ちかねの物がきたのかを聞く。 「ううん、あと15分ぐらいじゃないかな。今、焼いてる所だから休みにきたんだよ。」 「そう・・・・もう少しでシンジ君の作ったクッキーがくるのね。」 レイは、シンジが作ったクッキーというものに乙女心をときめかせて期待を膨らませる。 「そう言えば、レイ様はシンジ様の作ったクッキーを食べた事がないのですね。」 「ええ。」 「シンジの作ったものはクッキーに限らずおいしいわよ、食べだしたら止まらない・・・ってね♪」 「はあ、いつもマナミの分は多めに作らなきゃいけないんだよ。 食べすぎると太るからやめなよって言ってるのに、言う事聞かずに食べすぎちゃうんだよ。」 シンジはため息とともにまんざらでもない顔をしている。 「うっ、・・・・・大丈夫よ、だってわたしはすでに永久就職してるもの。 多少太っても将来の心配をする事もないし何も問題はない・・・と思うわ。」 マナミの額には一筋の汗が流れ、 目はあちこちにおよぎまくり、どうやら自分に言い聞かせているようである。 ≪すいませーーーん、碇シンジさんはいますかーーーーー?≫ マナミとシンジがコントのような事をしていると玄関から声がした。 「は〜〜〜〜い!!!!!!あ、僕が出てくるから、あとちょっとしたらオーブンからクッキーをとって食べてて。」 そう言うとシンジはその場を後にして、 部屋からすぐ近くにある玄関に向かって、せこせこと少し早歩きであるいていった。 「あの声はどっかで聞いた事があるような・・・」 そう口に出しながら玄関に出た。 すると、そこには病院で助けた鈴原ナツミとその兄のトウジが立っていて、トウジの方はどこかぎこちなくきょろきょろしている。 多分、勢いで来たはいいが目の前まで来て少しビビっているのだろう。 シンジは2人を見てちょっと顔を暗くして話しかけた。 「あ・・・・、鈴原君とナツミちゃんだよね。 ・・・・・・どうしたの?もしかしてまだ怪我した所が痛かった?」 「いえ!!!違うんです!! 今日は家の兄が失礼をしたみたいでどう言ったらいいか申し訳ないのですが、とにかく兄に謝らせに来ました。」 そう言うと、ナツミはぼうっとそばに立ってるトウジの尻を引っぱたいた。 ひっぱたかれたトウジは最初はビックリしたものの、その意味に気づくと、すぐさま自分なりの行動にでた。 その行動とは・・・・・土下座・・・だ。 「碇、すまんかった!!!!お前はわるうないのに、あの時屋上でどついてもうたりて、ほんまにすまん!!!!!!」 やられたシンジの方はあっけにとられて何を言えばいいかわからず、 ナツミの方も、あまりに予想外の行動をとったトウジをため息を漏らしながら見ていた。 「すみません、こんな兄で。 お恥ずかしい限りですが、こんな謝り方ぐらいしか知らないような不器用な兄なんです。」 ナツミが言い終わると、トウジはシンジの前に立った。 「碇!!!!わいを殴ってくれ!!!!」 「そ・・そんな事できないよ。」 シンジは手の平を前に出してジェスチャーしながら断る。 ・・・が、変な所で芯の強いトウジがそんな事で引き下がることがあるはずがなく・・・・。 「いや、わいを殴ってくれ!!!そうせんとわいの気がすまんのや!!!!」 シンジは困った。 殴れと言われても、あの時殴られた事は、自分の中では注意が足りなかった自分への制裁としてうけとめている。 これはシンジがナツミを傷つけた事への自分への制裁とも思っている。 実際はシンジが殴られる理由などないのだが、シンジの中で整理してしまっているのだ。 「じゃあ、僕の友達になってくれるかな?」 シンジはある考えを思いついた。 トウジが殴ってくれと言ってるのは自分への申し訳なさがあるという事で、何かでわびたいと思っているのだと思う。 ならば殴るより、シンジにとって友達になってくれた方がより嬉しいし、相手も納得してくれるだろう。 それはシンジの真剣な悩みでもあった。 シンジが親しい者といえば、裏の世界で名の知れた者がほとんどなのだ。 その者達に不満があるわけではない、 だが、裏の知り合いがほとんどというような自分の交友関係はいけないと思うのだ。 やはりいろんな友人がいてこそ自分の成長にもつながるし、一方面のみに染まった人間にはなりたくないのである。 自分の体は駄目でもせめて、交友関係だけでも。 「・・・・そんなんでわいを許してくれるんか?」 「うん、僕は君を殴るより君と友達になれた方が嬉しいよ。」 シンジは微笑みながらトウジに言った。 「ようし、ほんなら今からわいとセンセは親友や、 今から碇の事をセンセと呼ばせてもらうから、センセはわいの事をトウジで呼んでくれ。」 トウジはそう言うと、ニカッと笑いながらシンジの方に手を回した。 「うん、よろしくねトウジ。」 シンジも何か幸せな気分になり自然と笑みがこぼれた。 そんな様子をナツミはほほえましげに暖かく見つめている。 ≪シンジ〜〜〜!!!!次のクッキー作ってーーー!!!!!≫ 居間の方から聞こえてきたのはマナミの声。 シンジは苦笑いしながら、しょうがないなという感じで再びクッキーを作りに台所へとむかった。 もちろん、トウジとナツミを誘う事も忘れずに。 そんなこんなでいろいろあって、今日も一日がすぎていくのであった。
あとがき こんにちわ、マーシーです。 いやいや、この頃まったくもって不適切な文章を書きまくってしまっております。 あうあう、恥ずかしいは余計疲れるわ。 もっと気を引き締めねばなりませんな。 てな事で遅くなりましたが其の九公開です。