2人の天使と雷皇

◆其の八


目の前に広がるのは、EVAの中から見渡す景色とその中心に捉えている第四使徒シャムシェル。
 
シンジはサヤカ達と病院で別れてそのままNERVへと向かった。

シャムシェルはすでに第三東京内に侵入していて、シンジはその目の前に射出されたのだ。

「ちっ、シャムシェルか・・・・、どう攻略しようか。」
 
シンジは目標を目の前にしてどうやってシャムシェルを攻略するかを考えはじめた。

シンジは絶対にある程度シャムシェルとの間をおいて、攻略法を考えながらただよける事だけに没頭した。

シャムシェルはシンジの存在に気付くと、そのイカのような体をこちらに向ける。

その瞬間は何もない、が、数秒を置いて嵐のように初号機のいたはずのところに打ち据えられる。

≪ヒュン、ヒュヒュ、ヒュヒュヒュンバゴ!!バキャバキャズキャ!!!!!!≫

その鞭の嵐は初号機のいた辺りをてあたりしだい破壊していき、

ビルが鞭の起動を阻めばそのビルは鞭のあまりの早さに切断され、

地面に衝突すればその部分が抉れ、コンクリートは飛び散り、地面は陥没していく。

シンジは片方ではシャムシェルの倒し方を考え、
    
その一方で頭をフル回転させながら初号機をかなりの速さで走らせており、すぐ後ろをシャムシェルの鞭の嵐がシンジを追いかけ続ける。

(どうする?シャムシェルは鞭が得意武器だったから、このおもちゃは鞭しか持っていないはず。

ただでさえリーチがあって攻撃範囲が広い。

鞭の弱点は接近戦だけど、おそらく、そんな簡単に気付く弱点が補強されているのはほぼ確実だね。)

『シンジ君!!!何してるの!!!!いつまでも相手の攻撃をよけていたってなんにもならないでしょ!!!!!!』

発令所とつながっているスピーカーからミサトの怒鳴る声が聞こえてきた。

シンジは、目の前に立ちふさがった巨大なビルを初号機の異常な跳躍力で飛んでよけながら、発令所から怒鳴る無能者に逆に怒鳴りつける。

「五月蝿いですね!!!!!そんな所でギャアギャア怒鳴る暇があったら!!!!この使徒に対する作戦でも考えてくれませんか!!!!!」

その声には明らかに怒っている事がうかがう事ができ、ミサトはその声にさらに反発する。

『なんですって!!!!あなたは私の命令さえ聞いてればいいの!!!!!わかったならはや・・・・・ブツッ!!』

ミサトが意味の分からない事を口走る途中に、シンジは無駄な事に気を止めていても意味はないので、即座に通信を切った。

そんな事をしている間も使徒が攻撃の手を緩める様子はなく、容赦なく初号機を打ち据えようと攻撃してくる。

はっきり言って、初号機に乗ってるままだとかなり危険な状態だろう。

それは誰の目からみても理解できる。

確かにシンジが出れば、いや、シンジ以外のセイジでもマナミでも倒せる事は倒せるが、

シンジ達の『力』は、五帝三皇それぞれが自分への戒めとして心の中に境界線をおき、出すべき時を決めているのだ。

自分のフィールドをはると決めた瞬間、シャムシェルの鞭の嵐が迫る途中で立ち止まり、A・Tフィールドを出した。

「はあっ!!!!!!!!」

シンジはEVAのA・Tフィールドに自分の素のA・Tフィールドを乗せて展開、

そしてシャムシェルへとガラスの欠片のような形に作ったA・Tフィールドを飛ばした。

シンジ自身が素のA・Tフィールドを乗せた事による展開で、

シャムシェルの鞭と衝突すると同時に鞭は砕け、その周りにあったビル郡は跡形もなく消滅した。

「あまり力は使いたくなかったけど、これぐらいなら大丈夫・・・・・だよね?」

≪ヒュン・・・・・・、ズシャ!!!!ザシュ!!!!ズドドドドド!!!!!!≫

シャムシェルに飛ばされたA・Tフィールドはシャムシェルの体をずたずたに引き裂き、

しかしその起動自体は一寸も変わらずに空中を突き進み続ける。

シャムシェルの体はすでに原型はとどめられてはなく、体の隅々に穴が空き、コア自体にも反対側が見えるほど凄まじい攻撃だったのだ。

第四使徒シャムシェルはここに殲滅は完了した。

「な・・・・・なんなの・・・・・・?あの凄まじいとしか形容できない力は。

初号機にあれほどの力があるはずが・・・・・、それにシンジ君はあれを意図的に出した・・・・・?」

シンジから通信を切られ、ただ傍観するしかなくなった発令所で、リツコは声にならないほどの驚愕を覚えた。

それはほかのスタッフについても同じ事だった。

自分達が普段整備し、使徒という名の悪魔から逃れるために使っているEVA初号機がこれまでに強い力を持っているとは。

初号機の攻撃で一瞬にしてその命を絶たれた第四使徒シャムシェルを見て、

初号機に対しての頼もしさや使徒殲滅の嬉しさより、自分達はとんでもない物を使っているという恐ろしさがスタッフ全員の心を満たしていった。

「リツコ、・・・・・あたしが乗る弐号機や零号機パイロットの乗る零号機も、・・・・なんていうか・・・・あんなに恐ろしい力を持っているの?」

さすがの惣流・アスカ・ラングレーも今現実に起こっている光景にただ呆然と疑問を呟くしかできなかった。

自分達が敵にしている使徒より、初号機という味方の方がよっぽど危険なのではないだろうか?

そういう思いを残してその場は沈黙したままだった。

ただ、レイの中に流れる思いだけは違った。

(あんな攻撃、いくら初号機といえどもできるわけがないわ・・・・・・あの時シンジ君から感じたこの波動、

あれはわたし達と同じ、いえ、それ以上の力・・・・・・・・・・そう、シンジ君はロストエンジェルなのね、でも、わたしには関係ないわ。

わたしが持っているこの『力』はわたし自身が望んだ物ではないわ、それにシンジ君を裏切る理由なんてどこにもないもの・・・・・)

≪シュン・・・・≫

発令所の扉が開いた。

そこに立っていた人物、それは病院から少女を抱いてやってきた天野セイジだった。

「おい、ここに医療機関があるだろう?この子を連れて行ってくれねえか?今は俺が何とかしてるけど、このままだと死んじまうからな。」

その腕の中に抱いているのは、あの病院で母親が命をはって守った今にも消えそうな命だった。

「すまないけど、どなたかしら?」

「なんだ、金髪のおばさん。んな事どうでもいいだろ?今にも死にそうな子供がいるんだぞ、この子を早く助けてくれねえかな。」

「ごめんなさい、たしかにこの施設の中に医療施設はあるけど、不振人物に使わせるわけには行かないわ。」

こんなやり取りをしている間のも女の子の命は今にも尽きそうになっている。

その事がいつも異常にセイジの苛立ちを大きくさせた。

「なんだと・・・・?もう一回いってみろ、このクソ尼。

一つの命が消えかかってんだ、そんな事どうでもいいだろうが?それ以上言うんだったら、この俺が・・・・殺す!!!」

セイジが最後の言葉を言い放った瞬間、発令所にいる者の全てに悪寒が走り、背中に氷をあてられたように冷たく感じた。

発令所という名の巨大な空間は凍りついて、その中の空気は恐ろしいほど張り詰めている。

それは全て天野セイジという人間一人が起こした事だった。

「わ、わかったわ、その子の治療には全力を尽くします。・・・・・日向君、マヤ、その子を連れて行ってあげて。」

マヤとマコトは一瞬静止したが、セイジに睨まれて早足に怪我をしている女の子を連れて行った。

「ふん、最初っからそうすればいいんだ。」

「ところで、あなたは何者なの?」

「おれか?『殺戮の死神』・・・・とでも言えば分かるか?」

その言葉にリツコとアスカ、ミサとはサイド驚愕を覚えた。

「『殺戮の死神』!!!!?????なんでそんなのがこんなところにいるのよ!!!???」

ミサトはいっぱしの軍人だから、リツコは科学者としての幅広い知識で、

アスカはドイツでも耳にタコができるほど噂を聞いてその存在を知っていた。

ミサトが叫んだのに対して、あたりまえのようにセイジは言い返す。

「なんでって、シンジがここにいるからに決まってるだろ?」

「だから、なんでそんな理由になるのよ!!!!!!」

アスカとミサトは、シンジのジェノサイドでの立場を知らない・・・・、そして、セイジの立場も知らない。

「・・・・・・そうか、下っ端には教えてねえのか、それともわざと教えなかったのか・・・・・・。

なら教えてやるよ、俺もシンジもジェノサイドの五帝三皇が一人『闇皇』セイジ、それに元『雷皇』シンジだ。

それに言っておくがな、俺を避けるのはいいがもしシンジを避けてみろ?その時は男女容赦なく殺す、それだけは覚えている事だな。

シンジはすぎるほど優しいやつだから、・・・・・・いろんな点で・・・・な。」

セイジの姿はそう言うと共に闇の空間の中に消えていった。

アスカとミサトは、セイジの言葉に大きな動揺を残していた。

あのシンジが『雷皇』と言う事実。

確かに、シンジにはあまりにも特異な点は多かったしミサトはジェノサイドから来た事を聞いていただろう。

それにしても、ジェノサイド・シティーにてそれほどまでの地位を持っている者が、こんな外界に出て来ているなどと一体誰が予測しただろうか?

誰も予測はできないはずだ。

「そういえばさっきのやつ、学校の屋上で初号機パイロットと親しそうに話してたやつだわ。」

アスカが密かに呟いた言葉は誰に聞かれる事もなく消えていった。

そしてその日は終わり、次の日のニュースには、セイジが病院で戦った相手が殺した家族の話題がワイドショーにのぼっていた。

その主な題は、セイジが遺体を影に沈め、少女をネルフに抱いてきた事から、血痕だけが残った神隠しと話している。

だが誰も知らない、その少女は無事に一命をとりとめ、ネルフの病院で静かに眠っている事を。

 


あとがき

どうも、マーシーです。

これで二話目・・・・・きつい・・・・・・、三話は無理そうです。

後一話の埋め合わせはいずれしますので、いまはこれで許してください。(ああああ、怒らないで〜〜〜)

そういう事で次の更新時に会いたいと思います。

それと、ワードで書いてみたんですがどうでしょうか?ご感想いただければ嬉しいです。