かくして、皆は暇を持て余していた。 「ふわぁぁぁ」 「ふわぁぁぁ」 「ふわぁぁぁ」 「ふわぁぁぁ」 「ふわぁぁぁ」 「ふわぁぁぁ」 空を抜いた全員が一斉に欠伸をする。 「倉成ぃ〜、だらしないぞぉ〜」 と言っている優だが、言っている本人がだらしない。 「とは言ってもなぁ・・・もうやることねぇじゃん」 まぁ、その通りである。 ほとんどのエリアの見回りを終わらせたので、マジでやることがない。 「とは言え、このまま何もしないってのもなぁ」 と怜が言いながら、しかし本人もだらけている。 「それじゃ、何をする?」 「わからないでござる・・・」 「・・・・・・・・」 頭を悩ませる全員。 もっとも、つぐみは何かをする可能性が低いが。 「そうだ!!」 沙羅が何かを思いついたように大声を上げた。 「どうした?」 「鬼ごっこをするでござる!」 閃いたとばかりに言うさらに、武はいかにも馬鹿にしたような顔をする。 「お、鬼ごっこって・・・そんなガキじゃねぇんだから」 「とは言え、このまますることがないって言うのもな・・・」 冷静に言う怜に武は少し考える。 たしかに暇である。 死ぬほど暇である。 この暇さを倒すには何でもやってみるべきだろう。 だとしても、 「いや、俺はやらねぇ」 どうやらすでにしないと言う選択肢しかないようだ。 「あ、私もする!」 「俺も」 「ぼくも」 皆がする気満々の中、武とつぐみのみがするとは言わない。 「私はしないわ」 「俺もしねぇ」 「武、やらずに逃げるつもりなんだな?」 「!! んなこたぁない!!」 そう言って武は勢いよく椅子から立ち上がった。 「お!! 倉成選手参加表明か?」 「え? い、いや。俺はやらねぇって」 「やらずに逃げるのか・・・はぁ」 そう言ってため息を吐いた怜に武は眉間に大量の青筋を立てた。 「わぁったよ!! やるよ!!」 こうして、武も参加する事になった。 「はぁ・・・まったく」 そう言ってつぐみは立ち上がり、部屋の電気を消した。 「ちょ、何するのよ!! つぐみ!!」 「あなた達が五月蝿いから、眠れないわ。悪いけど、やるなら静かにして」 そう言ってつぐみは部屋を出て行った。 「はぁ・・・・あいつのあの態度は相変わらずだな」 「まぁ、気にしても仕方が無い。電気をつけてさっさと始めよう」 と言うと、 「ちょっと待った!」 それを慌てて沙羅が止めた。 「どうした?」 「せっかくだから、このまましよう」 とんでもない提案をしてくる沙羅。 「つまり、この暗い中を鬼ごっこすると?」 「ん〜それじゃなんだから、この暗い中を缶蹴りにしたら?」 優がそう言うと、 「たしかに、そっちの方が面白そうだな」 「たしかに」 「たしかに」 「たしかに」 「たしかに」 皆がその意見に賛同する。 「じゃ、始めよっか。名づけて『ヤミオニ』!」 「・・・・・缶蹴りなのに・・・『ヤミオニ』?」 さりげなく突っ込みを入れる怜。 「細かい事は気にしないの」 「・・・・・・・・・」 特に何も言わない怜。 突っ込んでも無駄だと言うことがわかったからだ。 「それじゃ、いくよ〜。ちっけ・・」 「ちょっと待て!」 慌てて武が沙羅を止めた。 「なによ?」 「なんだそれは?」 どうやら掛け声を突っ込んでいるらしい。 「じゃんけんの掛け声よ。知らないの?」 「知るか!」 そりゃそうだ。 「まぁ、いいからさっさとやろう」 「わかったでござるよ」 「それじゃいくよ! ちっけっぴ!」 で、結果は。 武がグーで、それ以外全員がパー。 「ぐは!! 俺の負けかよ!」 「それじゃ、範囲はドリットシュトック全部!! かくれるぞぉ〜!」 「ちょっと待て!!」 それを聞き、武はかなり焦る。 「今なんって言った!?」 「かくれるぞぉ〜」 「違う、その前」 「範囲はドリットシュトック全部」 「マジかよ!?」 それを聞き、さらに焦る武。 「あ、もちろん階段とか使ってツヴァイトシュトックへ移動したりするのはなしね」 「だとしても広すぎるわ!!」 そりゃ広いだろう。 「鬼が不利すぎる!! 絶対誰かにやられるぞ!」 と言いながら、武は訴える。 「え〜?」 「お前はどうにかできるのか?」 「・・・・・・・・」 武がそう言うと、途端に優は無言になった。 自分では無理なのだろう。 「まぁまぁ。確かに、それだと鬼の倉成さんが不利ですね」 そう言って空がなにかを思案する。 「それでは、このドリットシュトック全エリアに足音を反響させやすいようにしておきましょう。私の足音も同様にします・・・・あ」 そこで空は困ったような顔をした。 「缶にたどり着いたとしても、私はどうしたらいいでしょうか?」 「あ、そうか」 失念だった。 空は実体を持たないので、缶に触れることが出来ない。 「それじゃ、私が一緒にいてあげるよ」 沙羅がそう提案したおかげで、この問題は解決された。 「それじゃ、缶を蹴るから100数えてね」 「は?」 「それ!!」 唖然とする武を尻目に優は置き負いよく缶を蹴った。 「お、おい!!」 そう叫んだとき、そこには誰もいなかった。 「・・・・・マジかよ」 そう言って武は缶を拾った。 「・・・・・とりあえず、予定通りだな」 誰とも無く、武はそう呟いた。 ◆◆◆ とりあえず会議室から離れた5人は通路で立ち止まった。 「とりあえず、ここで一度作戦会議ね」 「作戦ねぇ」 かなり疑わしそうな顔をする怜。 「なによ、その疑わしそうな顔は?」 「いや・・・」 大体何を考えているのか知っている怜は、あえて何も言わなかった。 「それより、作戦って?」 「ふふふ。倉成になくて私たちにあるものは何?」 逆に質問する優。 「武になくてぼく達にあるもの・・・」 「数ですね。倉成さんはどんなに頑張ろうと1人だけです」 空がそう言うと、優は笑みを浮かべた。 「そうよ。誰か1人捕まっても、次の誰かが缶を蹴る」 ニヤリと優が笑う。 「そのヒット&アウェイで勝利は私たちのものよ!」 「ようは数の暴力だよね?」 「民主主義作戦って言って」 「でも、数の暴力だよね?」 さりげなく少年が突っ込みを入れる。 「そんなことはないわよ! 物量作戦は兵法の基本よ! デフォルトよ!」 「意味わかんないよ」 まったくです。 「民主主義、多数決・・・つまり、少者は弱者よ!」 「・・・・その発言自体民主主義じゃないと思う」 さりげない怜の突っ込みは無視された。 ◆◆◆ とりあえず、怜と少年は一緒に通路を歩いていた。 「そろそろ100数えたんじゃないか?」 「うん」 「いい加減、隠れないとやばくないか?」 「そうだね」 と言いながらもノンビリしている怜と少年。 「ん?」 足音が聞こえてきた。 「おい」 「うん」 通路の向こうでかすかに人影が見える。 「武!?」 「やばいよ!!」 そう言って逃げ出そうとする2人だが、 「おら誰だ!!」 凄いスピードで武が追ってきた。 「や、やば!!」 「逃げろ!!」 そう言って走り出したが。 「うわ!?」 少年が足を滑らせる。 そして、 ザバァァァァ!! 盛大にこけた。 「・・・・・・・・」 「うわぁぁぁ・・・」 ガックリと項垂れる少年。 「お前らか」 そう言って武は怜と少年を見る。 「あはははは、見つかっちゃったな」 「それより、どっちを先に見つけたんだ?」 「ああ、少年だな」 「ど、どうして!?」 「お前が倒れた時の水しぶきのせいで怜より少年の方が姿が完全に確認できた」 「まいったなぁ・・・それじゃ、次は僕が鬼か」 「たぶん、そうなるな」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「ねぇ武。『缶踏んだ』しにいかないと、僕と怜が蹴りに行っちゃうよ?」 「・・・お前って、『缶蹴り』のルールは知ってるんだな」 と感心したような声で武が言うと、 「とおぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉ!!!」 凄まじい掛け声。 僅かにだが怜と少年の視界に豪快に助走をつけ華麗にドロップキックを武に喰らわす優の姿が確認できた。 ドカァァ!! 「ぐはぁぁ!!」 顔面に優のドロップキックを喰らい、盛大に吹っ飛ぶ武。 「ゴボゴボゴボゴボ」 「なっははははははは!!」 倒れている武を指差しながら大声で笑う優。 そんな2人を、呆然と見続ける怜と少年。 「ゴボゴボゴボ。ぷはぁぁ!!」 全身ずぶ濡れで武は優を睨んだ。 「お、おばえだぁぁぁ!!」 少し言葉遣いがおかしい。 「ふふふ、この勝負もらった!!」 そう言ってすごい勢いで優が走り出した。 「ちょ、待ちやがれ!!」 「ふっふっふ、待てと言われて待てますか!!」 「おのれ!! 蹴られた恨み!! はらさでおくべきぁあぁぁぁ〜!!」 優をすごい勢いで追いかける武。 そんな2人を、やはり呆然と見る怜と少年。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「缶・・・蹴りに行かないとな」 「・・・・そうだね」 そう言いながらも、完全にノンビリとしたスピードで武と優の後を追う怜と少年だった。 ◆◆◆ で、怜と少年が会議室にたどり着いたとき。 「少年と怜見っけ! 缶踏んだ!」 そう言って武が缶を踏んだ。 武の傍らにはガックリと項垂れている優の姿がある。 「あっちゃぁ〜」 ヤレヤレと言う感じで怜が肩を落した。 「ふふふ、甘いぞ優。俺を出し抜くことは出来ん!」 「倉成ぃ〜! 缶の場所を変えるなんて卑怯よ!」 「変えてはいけないなんて言うルールは無いからな」 「・・・・・・・・・ちょっと少年と怜!」 「まぁ・・・たしかにないな」 「そうだね」 あっさり武の意見に同意する怜と少年。 それを聞き、優はガックリと肩を落した。 「はぁ、作戦は失敗か」 「は? 作戦?」 ワケがわからない顔をする武。 丁度その時、会議室のドアが開いた。 「あれ?」 「あら?」 そこに現れたのは沙羅と空だった。 「お、沙羅と空見っけ! 缶踏んだ!」 そう言って武が缶を踏もうとしたとき、 バカァァァン!! 缶が蹴られる音。 それからしばらくして、 カランカラン 缶が転がる音が会議室に響き渡った。 「へ?」 何が起こったのかわからない武は呆然とする。 「・・・・チャンス?」 優が呟く。 「みたいだな」 と怜が言った瞬間、皆が一斉に走り出した。 「お、おい!! ちょっと待て!!」 慌てて止めようとするが止めれるはずも無く、怜たちは一斉に逃げてしまった。 ◆◆◆ しばらく走り会議室から離れた一同。 「にしても・・・誰が蹴ったんだろ?」 少年の呟き。 最大にして最高の謎だった。 「俺じゃない」 「私じゃないよ」 「私も」 「私もです」 「僕もだよ」 少なくとも、全員が蹴るのは不可能なのである。 「小町さんではないでしょうか?」 「え? つぐみも参加してるの?」 「そうとしか考えられません」 たしかに現実的に考えればそうだろう。 「でも、つぐみは会議室にはいなかったぞ」 怜がそう言うと皆は驚いた顔をして怜を見た。 「マジ?」 「マジ。それに、武の足と缶との距離は僅か数cm。その距離を武に気付かれずに蹴るのはちょっと無理じゃないか?」 怜の正論に皆が押し黙る。 「まぁ、続きをしよっか?」 優の意見に皆はとりあえず賛成した。 ◆◆◆ で、怜は現在1人で憩いの間に来ていた。 「隠れる場所が少ない・・・」 1人呟く怜は、少し虚しい。 「ん?」 足音が聞こえてきた。 怜は赤外線視力でその方向を見てみる。 「げ!」 武だった。 「やば・・・」 しばらく悩んだ挙句、怜は泳いで移動する事にした。 この暗闇だから、ばれないだろうと踏んだのだ。 で、泳ぎながら武の横を横切ろうとする。 だが、 「・・・・・・・・おい」 見られているようだ。 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・バレバレだぞ」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・・(怒)」 背中を踏まれた。 「ぐは!」 水面から顔を出し、怜は背中をさする。 「踏むな!!」 「無視するな!!」 お互いに2人はしばらくにらみ合う。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 二人一緒に走り出した。 現在、互角。 「おらぁ!」 怜は武に足をかけられ転倒する。 「ぷはぁ! てめぇ!! 卑怯だぞ!!」 「ふん!! 勝負に卑怯もクソもあるか!!」 そう言って走り去ってしまった。 「あ、あの野郎!!」 かなり眉間に皺を寄せながら怜は歩き始めた。 ◆◆◆ で、缶踏んだ所に会議室に怜が現れ高々と笑う武に怜は一撃を喰らわせた。 「なにするんじゃい!!」 「いくらなんでもアレは卑怯だろ!!」 「勝負に卑怯もクソも無いわ!!」 「なんだと!?」 「なんだよ!?」 真剣に睨みあっている2人。 その時、 バカァァァン!! 蹴られる音がした。 「あはははは・・」 缶の方を見ると、笑いながら少年が缶を蹴飛ばし終えた動作に入っていた。 「ごめんね武」 そう言って逃げ出す少年。 「悪いな武」 そう言って怜も逃げ出す。 「お、おのれぇ〜!! 卑怯だぞ!!」 「勝負に卑怯もクソも無いんだろ!?」 そう言いながら逃げる怜に、武はガックリと肩を落した。 で、結局武が正式に全員見つけ出したのは、それから1時間後のことだった。 ◆◆◆ 「それじゃ、次は僕の番だね」 そう言って少年が数を数え始め、皆は一斉に走り去った。 ◆◆◆ 「それにしても、なぁ」 とりあえず、逃げていた皆はレムリア遺跡の前に来ていた。 「つぐみがこんなところにいるなんて」 なぜかは知らないが、つぐみがレムリア遺跡に来ていた。 「いいでしょ、別に」 そう言っていつものように腕を組むつぐみ。 「おいつぐみ、お前だろ? 缶を蹴ったの」 「私じゃない」 そう言って武の質問に答えるつぐみ。 相変わらず仲が悪そうだ。 「とりあえず、そろそろ隠れた方がいいんじゃないか?」 『83・・・84・・・85・・・』 怜の言うとおり、声ではすでに80を越えている。 「そうだな」 「そうでござるな。それにしても、どこに隠れよう?」 「じゃ、一斉に散ろうか」 「うんうん。そうだね」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 皆が黙って一斉に声のほうを見た。 そこには、なぜか少年が立っていた。 「おい少年」 「うん?」 「自分が鬼だってこと、分かってるよな?」 「?」 少年がワケがわからないと言う顔をした時、 『98・・・99・・・』 「ねぇ、今の誰の声?」 その瞬間、周りの電気がついた。 「お、おい! 誰だよ電気点けたの!?」 「私です」 そう言って空は周りを確認する。 武、つぐみ、優、沙羅、空、少年、怜。 全員がいた。 「全員いますね?」 そう言って空はスキャンを開始する。 「館内に動体反応、および生体反応はありません」 確かに、ないだろう。 だって皆がここにいるのだから。 その時、 バカァァァン!! なぜか、缶が蹴られる音が響き渡った。 「おい、誰だよ? 缶を蹴ったの?」 「さぁ?」 怜はこの瞬間、少年へ視線を向けた。 ほんの一瞬だが、呆然となっている。 (・・・・飛んだか) 内心呟く怜。 「とりあえず、お開きにしようか」 皆が怜の意見に賛同した。 結局、誰が缶を蹴ったのか、誰が数を数えていたのかは謎のままに。あとがき 鬼神 「はい、久々に書きました。気付いている人は気付いていると思いますが、かなりの部分が削除されています。やっぱり、書くのは難しいですねぇ。では、次回をご期待ください」