少年は秋原 怜という名だった。 別にドコにでもいる普通の少年である。 年齢は17歳、身長は172cm、体重は56kg、ルックスはいい方だろう。運動神経は抜群である。まぁ、そんなどこにでもいるごく平凡な高校生だ。 「へぇ、なかなか面白いな」 怜は現在、EVER17と言うゲームをやっている。 このゲームはジャンルから言うとギャルゲーに入るだろう。しかし、ギャルゲーと言われながらその実態は、サスペンスが多く含まれており、その上ギャグ関係も沢山あるので非常に面白い。ちなみに、このゲームは彼の友達に借りた物だ。 「まさか、主人公がBW(ブリックヴィンケル)なんて卑怯だよなぁ」 そんなことを呟きながら最後の真実のエンドを終わらせた時、時計はすでに午前2時を回っていた。幸い、今は夏休みの真っ只中なので誰にも迷惑はかけない。 「親父たちは旅行に言っちまったもんな。」 彼の両親は結婚10周年記念としてハワイへ8泊9日の旅行に行ったのだ。ちなみに、言ったのは今日である。 「さて、そろそろ寝るか。」 そう言って怜は布団の中に入った。これから体験する摩訶不思議な物語を知る由もなく。 ◆◆◆ 「ん〜ん」 怜は目を覚ました。しかし何かがおかしいと反射的に感じた。 「ん・・」 怜は恐る恐る目を開ける。そこは何故か、自分の部屋ではない。それに部屋が何故か揺れている。 「!!!」 声にならない悲鳴を上げながら起き上がった。どうやらそこは医務室らしい。 怜は慌てて周りを見回す。 「船?」 潮の香りがあり、何か揺られている感覚があるので怜はそこが船の上であることが分かった。 「ドコだ・・・ん?」 怜は自分の服装を見てみた。黒のTシャツに紺色のGパン。胸には長方形の形をして、下のほうに二つのギザギザ模様でその上にAQUARIUS(アクエリアス)と書かれたネックレスをし、右腕には完全防水性のGショックをつけている。それは怜が1番好んむ休日のスタイルだった。 「・・・で、ドコここ?」 今だにわけが分からない怜はとりあえずGショックの見てみることにする。そこにはとんでもない現実が記されていた。 「!!!? 2034年!!?」 怜は混乱の極みに達した。もうわけが分からない。自分はタイムスリップでもしたのだろうか。 「・・・・・落ち着け」 怜は自分に言い聞かせる。焦っても自体が好転するわけじゃない。そう自分に言い聞かせて他に何か手がかりがないか調べてみる。 「ん?」 ポケットに何か入っていることに気がつき、その何かを取り出してみる。 「!!!」 それを見て怜はさらに驚愕した。そこには《ようこそ、LeMUへ》と書かれていた。 「ま、まさか・・・ここはEVER17の世界か?」 そこでドアから1人の女性が入ってきた。怜は反射的に 「あら、もう大丈夫なの?」 「は、はい」 「いきなり倒れたんだから、心配して黒い服の少年がここに運んでくれたのよ」 「そ、そうですか」 とは言っているものの怜はその黒い服の少年が誰だかすぐに分かった。 (まさか・・・この体はこの世界の人間のものか?) 確かめなければならないので怜はベットの上から起き上がり、靴を履いて立ち上がった。 (・・・・別に何ともないな) 「大丈夫なの?」 女性は心配そうに聞く。 「大丈夫ですよ。それから、トイレはどっちかわかります?」 「トイレ?」 「はい・・・恥ずかしいんですがちょっと・・」 それを聞き、女性はクスリと笑うとトイレの場所を快く教えてくれた。怜は女性にお礼を言うとすぐにトイレへと向かった。 ◆◆◆ 「俺の顔だ」 怜は鏡の中に映し出された顔を見てそう呟く。見間違えるはずなどない、間違いなく自分の顔だった。少し耳に掛かる程度の黒髪、黒曜石の様な黒い瞳。少し違う点はない、この世界においてはさほど問題などないだろう。 「それにしても・・・なんでこんな世界に・・・」 それが1番の疑問だ。なぜこの世界に来てしまったのだろう。 「ん?」 そこで怜はあることに気がついた。 EVER17の世界において、四次元世界の住人であるBWは言い換えればゲームのプレーヤーと言う解釈が出来る。なら、この世界において自分はつまりBWと言えなくはない。 「・・・やってみるか・・・」 怜は意識を集中させた。イメージするはこの世界で起きた17年前の悲劇。 1つの愛が永遠に結びつき、永遠に別れを告げたあの瞬間へ。 ◆◆◆ 「武!! 武!!!」 1人の少女がガラスを叩いている。ガラスの外には1人の青年が座っており、その青年の後ろには1つの扉とその扉の後ろには永遠とも言える深海の闇が横たわっている。 「何やってるの!!! 開けて!!! 出てきて!!!!」 少女は狂ったようにガラスを叩きながら青年を引きとめようとしている。 「つぐみ・・・何を言ってるんだ? ガラスが厚くて良く聞こえないぞ?」 青年の言っている事は明らかに嘘だと分かる。 厚いとは言っても、このガラスは防音ガラスではないのだから。 「馬鹿!! 馬鹿ぁ!!! 開けろって言ってるの!!!」 少女はガラスを叩き続けている。その手は沢山の傷ができ、だがすぐに傷は癒えてしまう。 「何やってるのよ武!!!」 「そう言えば」 青年は笑顔のまま少女に向き直った。 「お前が教えたんだっけな。アルキメデスの原理。なら知ってて当たり前だな。そりゃすまんかった。ははは」 そう笑いながら青年は答える。それが少女を激しい悲しみの渦へと飲み込んでいくことを、この青年は薄々分かっている。だが、やめるわけにはいかないのだ。 「笑い事じゃないんだよ!! 冗談じゃない!! そういう問題じゃ・・・ないんだよ・・・馬鹿・・武の・・馬鹿ぁぁ!!!」 「そうだ。俺は馬鹿だとも。そんなことも知らなかったのか? つぐみ」 青年は笑いながら、最後のノブを後ろ手で回し始める。それに気がつき少女はハッとした顔で、驚愕の顔で青年を見つめた。 「ま、まさか・・まさか・・」 すでに少女の顔は涙でグチャグチャになっている。だがそんなことを気にするほど少女には余裕などないのだ。 「し・・ぬ・・・気なの?・・・」 少女の呟きが聞こえているのに、何も言わずに青年はひたすらノブを回し続ける。 「いや・・・お願い・・・ひとりにしないで・・・私を・・・ひとりにしないで・・・」 「安心しろ」 ノブを回すことをやめず青年は真っ直ぐ少女に向き直った。その強い光のある瞳で。 「俺は確かに馬鹿だが、そこまで馬鹿じゃない」 「うん」 「生きろ、つぐみ。生きている限り生きろ」 「うん」 そう言って次第に最後の時が近づいてきた。 「俺は、絶対に死なない!」 そういったと同時に、最後のドアが開き青年は深海の闇にへと弾丸のごときスピードで掘り出された。 「・・・・・・!!!!」 少女の最後の叫びは、青年には届かなかった。 ◆◆◆ それを見た怜は確信した。 自分にBWの特性が備わっている。BWは四次元世界の住人と言う関係上、この三次元世界を自由に行き来する事が出来る。それこそ、時間軸に縛られる事なく、全ての歴史を見ることが出来るのだ。 (もしそうなら、俺は彼らを助けるためにこの世界に召喚されたのかもな) 怜はそう思いながら、これからのことを考えた。 もしそうなら、今日は5月1日。そして、15時17分34秒に事件が起こると言う事になる。 (良く考えたら、17年前と微妙に時間が違うんだよなぁ) この世界で言う17年前の2017年でも同じ事件が起きたのだが、その時は12時51分に事件が起きた。おそらく時間までは指定しなかったのだろう。あとは、あの時と同じような展開を起こし、同じような事件で同じような状況を作ればBWはこの世界に光臨するのだ。しかし、問題は光臨した手の時は記憶を失っていると言う点だ。もし失ったままだとそのまま死んでしまうかもしれないし、計画通りにいかず脱出したあとで逃げ出してしまう可能性もある。つまり光臨させるのは良いが問題は記憶を戻らせると言う点だ。 (俺も、手伝うしかないよな) そう思う。何しろ自分にはBWの特性が備わっているのだ。それを活用すれば、彼の記憶を戻る事も手助けできるかもしれない。 (今、この世界の歴史があの真実の歴史通りに進むとは限らない。それに、俺はこの世界にとって完全なイレギュラーだ。それを逆手にとってやればいい) 怜の腹は決まった。あとは、LeMUに着いて時間を待てばいいのだ。 ◆◆◆ LeMUにたどり着いた怜はすぐに入場券を係りの人間に見せた。この時点で、時間は15時4分17秒。 「あと、13分か」 時間がない。自分がLeMUにとどまるには、何処かで隠れていなければならないのだ。 1番良いのはエレベーターの中にいることだが、そう何度も何度もエレベーターに乗っていれば怪しまれるだろう。 「よし」 怜はしばし時間を潰す事にした。エレベーター辺りの壁に背中を預け、目の前を通り過ぎる人たちを見てみる。別に変わったことなどない。ここにいるみんなは、おそらく今から起きる事件など知る由もないだろう。 「ちょっと、すまんが」 怜に1人の青年が話しかけてきた。耳にかかる程度に伸びた茶髪の髪に長身と言わないまでもそこそこ高い背、白を主として赤のラインが入ったTシャツの下にオレンジ色の長袖のTシャツ。自分と同じ紺色のGパン。 「なぁ、知らないかな?」 「何が?」 「1人目は身長5,1フィート、体重17貫、サングラスが似合ってない、手は遅いが足が速くて3枚目。2人目はスーツで丸刈りネクタイなし、耳にピアスが3つ鼻に1つ、趣味は編み物、最後は紅一点、派手〜なフリルのたくさんついた地味〜な花柄ワンピース。と言う何処にでもいる3人組なんだけど」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 普通に考えれば何処にでもいない3人組なんだが、果たしてこの青年はそのことに気がついているのだろうか。 (気付いちゃいないだろうな) 「知りませんが」 「そうか。悪かったな」 そう言って青年は立ち去っていった。 「・・倉成 武・・・・・・桑古木 涼権(かぶらぎ りょうご)か・・・」 怜の呟きは、誰にも届くことはなかった。 ◆◆◆ 現在15時16分29秒。あと少しで事件が起きる。 怜は迷わずエレベーターの中に乗った。しばらくして、 ギャァシャァァァァァン!!! 何かが崩れる音とともに、エレベーターは止まり、さらにエレベーター内に設置されていた蛍光灯なども全て消えてしまった。 「・・・・・・・始まったか」 怜はただ、それだけを呟いた。鬼神「え〜、主人公である秋原 怜のプロフィールを」 名前:秋原 怜 年齢:17歳 身長:172cm 体重:58kg 性格:積極的。少し明るく冷静。仲間思い。 誕生日:2月7日 誕生石:アメジスト 趣味:パソコン 特技:なし(基本的になんでもできる) 備考:現実世界からEVER17の世界に紛れ込んでしまった少年。物事を冷静に見抜く洞察力と行動力も合わさって学校ではそれなりに人気がある。実は、結構容姿がいいのだが、本人は鈍感でそのことに気付いていない。 鬼神「こんなものですね。それじゃ、今回はこれで」