昨日は温室からどうやって帰ってきたのだろう? 思い出そうとしても何も思い出せない…まるですっぽりと抜け落ちたように記憶がない。 ふと気がついたときには、自分の部屋で涙を流していた。 祥子にとって祐巳に嫌われるのはこれが2度目だが、前回は自分がそう思い込んだだけで、結局は祐巳は祥子の事を嫌ってなどいなかった。 そして、そのことで自分にとって『福沢祐巳』という妹が、どれだけ大切なものであるかをいやというほど思い知った。 『包み込んで守るのが姉・妹は支え』 紅薔薇さまの言葉だが、その言葉の意味が痛いほどよくわかった。もし自分に祐巳という妹の支えが無くなれば………自分は倒れてしまう・そして、二度と立ち直れないだろう。 依存しているといわれてもかまわない。自分には妹としての『福沢祐巳』が必要なのだから。 しかし…今回ははっきりと言われてしまった。 『妹ではない』と・『自分の事をちっともわかっていない』と。 前回とは違う、彼女の口からはっきりと聞いてしまった。それは祥子の心を貫いていった小さな矢。 不振・不安。そして、拒絶。 ………でも、それも自業自得だと思う自分もいる。 未来から還ってきた・そんな事を信じる人間が一体どこにいるのだろう? 例え口にしたとしても一笑に付されてしまうのがオチだ。 しかし自分は確実に昔の事を覚えている。祐巳という少女に出会って…学園祭でその少女に心を救われて…時にはすれ違い、時には二人きりの時間をすごしてきた。 彼女は、自分にとっての『マリア様』だったのかもしれない。 そんな彼女にすがっていた・助けてほしかった・一緒にいて安心していたかった。 全て自分勝手な要求。もし彼女の立場だったら………拒否して当然。 それさえも気づかずに、自分は彼女に押し付けてしまった。 のろのろと、制服に着替えようとして…ふと、いつもは起こしに来るはずのメイドが来ていない事に気づく。 ああ、そういえば今日は日曜日・休日だったっけ。 そんな事にさえ気づかないなんて………どれだけ気が抜けてしまっているのだろう。 自分自身に笑ってしまう。 ………メイドに朝食の準備が出来たといわれたような気がした。 でも、食欲が湧かない。いや、全てに置いて『やる気』が生まれてこない。 ただここにいるだけ。なにもしない・なにもできない…彼女がいない限りは。 ふと考える。 自分は過去へ戻ってきた。しかも未来であった出来事を覚えて。 そしてそれを使って、福沢祐巳という1人の少女と一緒にいられることを願った。 が…自分が取った行動は一体なんだったんだろう? 未来がわかっている。そして、そこから導き出されるであろう結末を回避するために、違う方向・良い方へと選択して来たつもりだった。 しかし、結果は………自分の思い通りに行かないばかりか、大切な祐巳にも迷惑をかけてしまう結果になってしまった。おまけに祐巳の弟である祐麒さえも。 このまま行くと前回よりも更に酷い結果になってしまう。 一体自分のとった行動は何だったのだろう? ………マリア様……… 貴方は私に何を求めていらっしゃるのですか? 私に何をしろとおっしゃるのですか? 何を……… お教えください、マリア様………