「で、誘われて群舞の練習に顔を出した…と?」 「………うん。見ているだけでいいからっていわれて…」 「の割には、見ているだけじゃなくて一緒に劇の練習をしているというのは何故でしょうか?」 次の日のお昼休み、祐巳は蔦子に誘われて中庭で一緒にお弁当を食べていた。 いつもならば教室で食べるのだが、昨日の事で流石に祐巳自身も昼休みは逃げた方がいいと思って、チャイムと同時に避難してきたのだ。蔦子は…どうやらそれを判っていたようで、祐巳が教室を出た直後に声をかけ『ここなら大丈夫』と場所を教えてくれた。 彼女にとっては構内全てを把握しているので、いつ、どこに人がいるか・逆に言えばどこにいけば誰もいないかも、ちゃんとわかっていた。 「…私がロザリオを受け取らないとしても、万が一のために練習くらいはしておいた方がいいって薔薇さまがたがおっしゃるから…」 「ふーん。 で、黄薔薇の蕾と一緒にダンスの練習をした・と?」 「え!? 何でそれを知ってるの!?」 びっくりした表情をする祐巳と裏腹に、蔦子はため息をつく。 「あのねぇ、ダンスの練習は演劇部と一緒にしていたのよ。つまりは山百合会以外の第三者の目がしっかりとあったのよ。 昨日の朝は2人で登校。そして放課後は一緒に来てダンスの練習。しかもお相手は黄薔薇の蕾。 ここまで揃っちゃうと、誰だってこう考えるわ。 『福沢祐巳は紅薔薇の蕾の妹になって、山百合会の一員になった』とね」 それは誰もが考え着く答え。でも、当の本人は、 「まさかぁ。私がそんな事できるわけないでしょう?」 キッパリと否定する。 「大体、妹になったりしたら、私がシンデレラ役をしなきゃいけないのよ?」 「まぁね。それを私は知っているから、祐巳さんが妹になったなんて考えないわ。 でも、その賭けを知っているのは私と祐巳さん、そして山百合会の幹部だけ。それ以外の生徒は賭けの事は一切知らない。 知らない以上は、紅薔薇の蕾と一緒にいる姿をたびたび見かける・しかも仲良く…ゆえに憶測する。 その憶測は…」 「私が祥子さまの妹になった・と?」 「その通り」 実際の所、この噂は既に全校生徒の中で囁かれている事だったりする。おまけに、今日の朝も祐巳と祥子は一緒に登校してきたのだ。誰だってそう考えるだろう。 「そう考えると、逃げてきたのは正解だったわね。 新聞部が必死になって原稿を書いてるらしいから、ちょっとでも目にとまったらインタビューされてもおかしくないしね」 「そ…そうなんだ」 「写真部にも問い合わせが多いのよ。『福沢祐巳さんの写真はないか?』って」 「ま・まさか」 「大丈夫。例の写真は見せてもいないし、それ以前に祐巳さんの写真は1枚たりとも出してない。出さないようにも指示してあるし」 その言葉にほっとするも……… 「………もしかしなくても、例の写真は公開するつもりなんじゃあ………」 「………………」 背筋に冷たい汗が流れる二人。 そしてしばらくの沈黙。 ……… 「ま・まぁ、紅薔薇の蕾に許可を貰わない限りは、公開したくても出来ないんだけどね」 「そ・それもそうだね。って、私の意見は?」 そして乾いた笑い。勿論メガネをかけた少女の口から出ているものなのだが。 「だって、昨日・今日の祐巳さんと紅薔薇の蕾の間柄を見てると、祐巳さんも紅薔薇の蕾もすんなりとオッケー出してくれる気がするんだけどな〜」 「私は………」 別にかまわないよ。そう言おうとして、言葉が出ない自分に気がついた。 自分にとって祥子さまは憧れの存在だった。いや、過去形ではなく今でも憧れの存在だ。 ただ、祥子さまの妹になりたいかと問われると…実際に問われたわけだが。しかも3薔薇さまの目の前で…答えはあっという間に霧の中に隠れてしまう。 『薔薇さまの蕾の妹』 憧れないリリアン1年生はまずいないだろう。目の前の『蔦子さん』ぐらいではないだろうか。 無論自分もそのひとりだという事は判っている。頭では判ってはいるが……… 「つりあわないのよねぇ」 ため息とともに言葉が漏れる。 と、 「何がつりあわないのかしら?」 「ほえ?」 後ろから第三者に声を掛けられて、声が聞こえたほうを振り返ると… 「ロ・紅薔薇さま!?」 「ごきげんよう、祐巳さん。蔦子さん。 こんな所でお食事?」 「ごきげんよう、紅薔薇さま。 祐巳さんはちょっとややこしい立場におかれちゃったもので、それを記事にしようとする新聞部から逃げてるだけなんです。 ちなみに私はただのおせっかいです」 「そう。ウチの新聞部も取材方法が強引だからね。でも、その心配はもう必要ないわよ」 「え?」 紅薔薇さまの一言に2人は首をかしげる。 「山百合会から新聞部に、苦言を呈しておいたから。 『福沢祐巳という生徒は山百合会のお手伝いをしてもらっているだけで、現時点では誰かの妹になったわけではありません。 そんな1生徒を記事にするのなら………』ってね♪」 「それって、脅しと同じじゃあ…」 言ってから、口を押さえる祐巳。しかし、紅薔薇さまはあっさりと、 「そうよ♪ でも、これぐらいしないとある事ない事かかれちゃいそうだから。 まぁ、山百合会の品位もリリアン女学園・生徒としての品位も落としたくない・ってのもあるけどね」 何かとってつけたような言い訳だな〜 と2人の1年生は思ったが、あえてそれを口にする事はなかった。 「ということで、祐巳ちゃん。これからは教室でお昼を食べても問題ないはずよ。 あ、もしよかったら、これからは薔薇の館で一緒に・なんてどうかしら?」 「え?」 一瞬何を言われたのか、頭の中判断するのに手間取った祐巳。 薔薇の館での昼食………それはつまり……… 「ああ、誤解しないでね。別に祐巳ちゃんを祥子の妹に・山百合会幹部にって考えてる訳じゃないから。 ただ単に、学園祭までは放課後は劇の練習をしなきゃいけなくなるから、その他の話し合い…まあ、劇の打ち合わせをしているの。 それこそもしも・だけれど、祐巳ちゃんが劇に出なくちゃいけない事になったら、今からでも出ておいて損はないでしょう?」 「それって………」 祐巳が祥子のロザリオを受け取る・という意味。 「それとここからはオフレコなんだけど…祐巳ちゃん。シンデレラ役はともかくとして、山百合会の劇のお手伝い・ううん率直に言うわ、劇に出て欲しいのよ」 「はい?」 「実の所はね………人手が足りないのよ。悲しい事にね」 微笑みながら言われても、あまり実感が持てないのですが。 「それで、例の賭け云々は別にして、山百合会の劇に出て欲しいのよ。もちろんそんなに難しい役をやってもらう必要はないから。 そうねぇ…ちょい役になっちゃうけど、姉Aか姉Bくらいを引き受けてくれると嬉しいのだけど…」 「えーっと…それって決定事項なんですか?」 そのままずるずると引きずられそうな予感がして、祐巳が聞きなおす。 「いいえ、わたくしからのただのお願い。学園祭が終わるまでの一時的なお手伝いさんということで。 もちろん、山百合会としてやるべき劇以外のお仕事なんて、やらなくていいからね」 「それで、受ける事にしたの?」 教室へ戻ってきてから授業を受けて…そして放課後。 薔薇の館へ行こうとした志摩子が『祐巳さんも一緒に』と誘ってくれたので、祐巳も一緒に行く事にした。 途中で志摩子にかけたれた質問に、 「う〜ん…正直迷ってる」 と、正直に答える。 「何故か聞いていいかしら?」 「つりあわない・ってのが本音なんだよね〜 紅薔薇さまも祥子さまも、白薔薇さまも黄薔薇さまも黄薔薇の蕾も、容姿端麗・成績優秀………完璧な人ばかりじゃない。それに比べて私なんて全て中間・本当に平均… そんな人間が山百合会主催の劇に出るなんて、絶対につりあわない。 志摩子さんならともかく…」 「わたしだって、そんなんじゃないわ。 ただお姉さまのお手伝いをしてるだけ」 そういって志摩子は微笑むが、その姿はとても自然で美しく見えてしまった祐巳は、肩を落とすしかなかった。 「充分、志摩子さんは山百合会に馴染んでると思うんだけどなぁ…」 「それは本当に慣れているだけ。祐巳さんよりも早く薔薇の館へ招かれたから、そんなに緊張しないだけよ。 祐巳さんも、しばらく薔薇の館へいらっしゃれば………」 そこで志摩子の言葉が詰まる。 薔薇の館へ招かれる=後々山百合会幹部になる の方程式は今の所崩れていない。ということは、ここで無理やり招くという事は、彼女を紅薔薇の蕾の妹に推薦するようなもの・と考えが行ってしまった。 それを察したらしく、 「ああ、気にしないでいいわ。 今日は『紅薔薇さま』に招待されているんだから。あくまで…ね」 祐巳はそういって、志摩子に微笑をかえす。 その微笑みは、志摩子さえもびっくりするほど綺麗なものだった。いや『綺麗』というのも何かしっくりこない。どういったらいいのだろうか…『暖かい』微笑だった。 (祥子さまが彼女の事を妹にしたいと思うのも、なんとなくわかる気がするわ。祥子さまと祐巳さんって、もしかすると合うかもしれない…) 志摩子はふとそんなイメージを持った。
黄薔薇放送局 番外編 由乃 「ごきげんよう、黄薔薇放送局のお時間です」 乃梨子「……なんか今日もハイですね、由乃さま」 令 「今日もお姉さまがいらっしゃらないこと知っているからじゃないかな」 由乃 「そこそこ、二人でひそひそ話していない!」 令 「ごめん、ごめん(苦笑)」 乃梨子「申し訳ありません。 今回は『祐巳さま演劇に出演?』というのがテーマでしたね」 由乃 「こちらの祐巳さんは原作以上に微妙な立場だから大変よねぇ」 令 「祐巳ちゃんは自分のことを小さく見がちだからね。 祥子の想いが空回りしかけている節もあるしこれから少し危ういかも」 乃梨子「祥子さまの動き共々今後ますます目が離せませんね」 由乃 「それでは次回予告行ってみよー!」 次回予告 令 「薔薇の館での練習はすんなり終わる」 由乃 「そう思い、安堵した後に大きな出来事はやってきた」 乃梨子「一方、祥子さまの危うさを三薔薇様は危惧する」 令 「結末はいばらの森かはたまた……」 三人 「いよいよ暗雲立ちこめ始めた 第六話『安堵と不審』 お楽しみに!」 由乃 「しかしあの方がいないと話がここもスムーズに進むわよねぇ」 令 「(苦笑)」 乃梨子「……。 続きが早く読まれたい方は是非ともkeyswitchさんに感想を送って差し上げてください」 由乃 「あ、乃梨子ちゃん、今の間なによ!」 令 「まぁまぁ由乃……」 乃梨子「それでは次回またお会いしましょう、ごきげんよう」 由乃 「……乃梨子ちゃん、私のこと無視してない?」 乃梨子「そんなことありませんよ」 由乃 「本当?」 乃梨子「本当です」 由乃 「本当の本当に?」 乃梨子「本当の本当です」 …… ……