若き恋の物語

気づいたら私はシンジくんのいる部屋の前にいた。

マサトくんと軽く会話して部屋のドアノブに手をかけた。

「シンジくんいる?入るわよ」

私はゆっくりとドアノブを回してドアを開けた。

部屋の電気はついていた。その中にシンジくんの姿を見つけた。

彼は私に背を向けて横になっている。

「寝てるの?いいわ。横に座るわね」

私はシンジくんのすぐ横に腰を下ろした。

そのとき、シンジくんの体がほんの少し動いていたけど、私は気づかない振りをしていた。

おそらく彼は私の口からどのような言葉が出るのかを気にしていると思う。

そんな彼に私は今シンジくんが一番聞きたいとは思わないことをいうことにした。

「シンジくん、私ね、さっきのことあまり気にしてないわ。
だって、シンジくんがした事じゃないもの。私にはわかるわ。シンジくんがそんなことをするような人には見えないの」

私は、さらに言葉を続けた。

「それに、さっきそこでマサトくんに会ったんだけどやった人、大体わかったって。
明日にもシンジくんの疑いが晴れるわよ。だから、自分が悪いって思わないで。ね?」


僕は綾波の言葉を一言も漏らさずに聞いていた。

綾波は本当に心から僕のことを心配している。

確かにあれは僕がやったことではない。

けど、誰もが僕のせいにしている。僕は信頼を失っている。

ここにいる価値なんてあるのか・・・僕はそう考えていた。

「やさしいね、綾波は」

僕はゆっくりと体を起こして綾波のほうへと体を向けた。

何とか綾波の目を見て話をしようと思った。

「けど、あの場に出くわした僕も悪いんだと思うんだ。きっとほかの女子だって僕が悪いって思っていると思うし・・・」

綾波は静かに首を横に振った。

「ううん、違うわ。ほかの人たちもね、シンジくんがあんな事をするくらいの度胸がないって笑いながら話していたんだから。きっと大丈夫よ」

「綾波・・・」

綾波のやさしさに僕は相応するのだろうか・・・

「けど、今は信頼を失ってるよ。一部の人は僕なんていないほうがいいと思ってるはずだよ。だったら、僕はどこにでも行く。その人の気がよくなるならね」

「・・・」

綾波は黙っている。当たり前か。

僕が今までこんなことを言った事なんて一度もないんだから。

「だから、僕はこれか・・・」

「これからでもどこかに行ってしまいたい」そう言おうと思ったけど、僕は言えなかった。

目の前には綾波の顔がある。

僕の口は綾波の唇に塞がれている。

綾波はゆっくりと僕から離れたと思うと強く抱きしめてきた。

「私にそんな事言って駄目って言ったのは誰?忘れたの?」

「あ、綾波・・・」

それ以上、僕は言葉を発することはしなかった。

綾波の言葉をじっくり聞こうと思ったからだ。

「今あなたがいた言葉は自分から逃げているようにしか受け止められない。そんなの、私が好きなシンジくんじゃない」

「綾波・・・僕はどうすればいい?」

「それはあなたが決めることよ。あなたが出した答えに責任を持ってこれから生きていけばいいの。けど、私を悲しませないで・・・」

綾波はそう言うと僕を抱きしめる腕の力を強くした。

お世辞にもいい状況ではないけど、僕の気持ちを言うには適していると思った僕は綾波を抱き返して口を開いた。

これが、僕の出した答えだ。

「綾波・・・」

「なに?」

「その・・・これからも僕の傍にいてくれるかな?」

「シンジくん、それって・・・」

「うん、好きだよ。綾波」


僕たちは互いを抱く力を強くした。

痛い。けど、うれしい痛みだ。

互いの気持ちを理解してこそのことだからねそう簡単にできるものじゃないよ。

しばらくそのままでいたけど、突然耳に何かが入り込む気配がした。

すごくくすぐったい。

眠った綾波が僕の耳に直接息を吹き込んでいた。

体のあちこちが反応してしまいクネクネと動いてしまう。

「・・・・・・シンジくん?」

声のするほうを向くとやはり紅い瞳が目の前に入ってきた。

「お、起きてたの?」

「・・・・・・」

綾波は横を向いている僕の耳に顔を近づけてきた。

「あのね、〜〜〜〜〜〜〜、〜〜〜〜〜、〜〜〜〜〜」

「あぁあぅあぉぅあう・・・」

綾波が僕に何かいっているのはわかる。けど、その内容は聞き取れない。

綾波の息が耳に入ってくるからそれどころじゃない。

ある程度はなしたところで綾波は僕の顔を覗き込んだ。

「シンジくん、顔真っ赤・・・どうして?」

「そ、それは・・・」

でたよ、綾波の上目遣いが。僕はこれに弱い。理性を失いそうになる。

そうしている僕に本の小さな悪戯心が芽生えた。

「綾波、耳貸して?」

「う、うん・・・」

散々やられたんだからいいよね?許してよ・・・

「・・・(ふーっ)」

「きゃっ!!」

綾波の体が激しく動いたと思うと僕に強くしがみ付いて来た。

「・・・意地悪」

「ははっ、けど、綾波もやったんだよ?5分くらいずっと」

「・・・ねぇ、耳貸して?」

「さっきみたいな事しない?」

「しないわよ。いいから早くっ」

「・・・」

しばらくの沈黙が入る・・・

「だ・い・す・き」

そう囁き綾波はやさしく微笑んだ。と思ったら・・・

「・・・(ふーっ)・・・」

「うわぁ!」

「・・・お返しよ」

「綾波だってずっとやってたのに・・・」

「だってやっていたことなんてわからないもの。寝てたんだから。許して?」

その綾波の上目遣いの前に僕はあっさりと許してしまった。とことんまで甘いよ・・・


結局この日は同じ部屋で眠った。

翌日、覗きの犯人がわかった。予想通りケンスケが主犯だった。

ミサト先生にこっぴどく叱られ反省したケンスケ。僕としてはどうでもいいことだった。



それからは何事もなく修学旅行が終わった。

これからも綾波とずっと一緒にいることができる・・・・・・はずだった。


第七話 Final Chapter
明日への架け橋


それから、数週間のときが流れた。


ある日のこと・・・綾波はアスカと一緒に近くのデパートに買い物に行ったときの事だった・・・

「シンジ、大切な話があるの」

「ん?どうしたの母さん?」

僕は母さんのほうを向いた。深刻な表情をしていた・・・

「このことは、レイちゃんには決して言わないでほしいの」

「・・・うん」

「父さんの仕事の都合上、3日後に引っ越すことになったの」

「待ってよ、綾波はどうするの?もちろん一緒だよね?」

「・・・・・・ごめんなさい。レイちゃんを一緒に連れて行くわけには行かないの」

僕ははその言葉に愕然とした。

「そ、そんな・・・」

3日後って・・・綾波が洞木さんの家に泊まりに行ってていない時じゃないか・・・

綾波に黙っていけってことなのか・・・

「ど、どうして綾波が一緒に行って行けないんだよ・・・今までずっと一緒に暮らしてきたじゃないか・・・」

「私にもわからないの・・・けどね、シンジあなたがこのことを受け入れて、レイちゃんのことを忘れなければいつかもう一度出会うことができるから・・・」

「・・・わかったよ。僕が希望を捨てなければいいんだね」

「それはとても辛い事よ。大丈夫よね?」

「大丈夫だよ。だって僕は綾波を好きなんだから・・・絶対に希望を捨てない」

口ではああいったけど、実際はすごく辛い。

好きな人と離れ離れになることは今まで味わったことのない絶望を知ることになると思う。

けど、またいつか会えるという言葉が僕を勇気付けた。

綾波に黙って出て行くのだから、せめて手紙だけでも書こうと思った僕は鉛筆を動かした。

けど、全く進まない。こんなことで大丈夫なのか・・・


「ただいま〜」


綾波が帰ってきた。僕は手紙を机の中に隠した。そして、綾波が部屋に入ってくる。

「シンジくん、ただいま」

「綾波・・・」

僕は何も言わずに綾波に抱きついた。綾波はもちろん驚いた表情をしている。

「ごめん、暫くこのままでいてもいいかな?」

「うん・・・」

3日後には、この温もりを感じられなくなってしまう。

そう考えると悲しくなってきた。

けど、綾波の前で涙を流したくなかった。泣くのなら一人のときがよかった。


2日後・・・

洞木さんの家に泊まりに行く綾波を僕は見送ることにした。

「じゃ、シンジくん、行って来るわね」

「うん、いってらっしゃい」

「行って来ます・・・」


そして、暫くの別れ・・・綾波、またどこかで会おうよ。


その日の夕方から荷物をまとめ始めた。

思ったよりも荷物が少なかった。

綾波に宛てた手紙も、昼前に書き上げることができた。

僕は散歩に出かけた。通学路を一通り歩いた。

帰り道、僕はある場所で立ち止まった。

綾波と初めて出会った思い出の角。

そういえば、覗き魔って言われたよな・・・

自然と涙があふれてきた。

綾波と過ごした日々のことを思い出しながら・・・

翌日、僕はテーブルの上に置手紙を残して家を去った。




「ただいま〜」

私が家に入ると違和感を感じた。まるで誰もいないような気配だった。

いつもならシンジくんがいるはずなのにその姿がどこにも見当たらない。

トウジくんやケンスケくんの家に電話してもシンジくんの居場所は誰も知らなかった。


ふとテーブルを見るとひとつの手紙がおいてあった。

きれいに折られていてそれには「綾波へ」と書かれてあった。

私はその手紙を開いて読んでみた。




『綾波へ

この手紙を読んでいることはもう帰ってきたんだね。お帰り。

けど、この家にはもう誰もいないんだ。今日、父さんの仕事の都合で引越しをしたんだ。

これを綾波に伝えると綾波を悲しませてしまう。

僕は綾波の悲しんでいる顔を見たくなかったんだ。

だから、今までずっと言わないでおいたんだ。

ごめんね綾波。

こんな僕のことを好きでいてくれて本当にありがとう。

僕も綾波のことが好きだから。だから僕のこと忘れないで欲しいんだ。

僕はいつかまたきっと綾波と会えると思うから。

綾波も希望を捨てないでこれからを生きて欲しいんだ。

今度いつ会えるかわからないけど・・・そのときに大人になっていたらさ・・・その・・・
結婚・・・してくれないかな?

綾波のことはアスカに任せてるからこれを読み終わったらアスカの家に行ってくれないかな?この家の隣だからね・・・

僕は君を失いたくないんだ

君のことは絶対に忘れないから・・・

また会える日まで・・・さよならは言わないからね。

約束だよ。また会おう

碇シンジ』

「シンジくん・・・」

私は読み終わるとベランダに走った。ドアを開けて身を乗り出した。

「シンジくーーーーーん!!!」

私は愛する人の名を思いっきり叫び、その後部屋に戻り、まだシンジくんの温もりがあるシンジくんがいつも座っていた場所に崩れ落ちた。

「行っちゃやだ・・・シンジくん・・・」

その日、私はずっと泣いていた。




引越し先に向かう車の中、僕はずっと涙を流していた。

綾波から離れ、あふれ出る涙。その涙は止まることなく流れ続けた。



シンジくんが引っ越して数ヶ月が経過した。

春休みを迎え、私たちはもうすぐ3年生になる。

そんな中、私はアスカからものすごく意外なニュースを聞いた。

「私、ケンスケと付き合うことにしたから」

「え、ええ!?」

「なに、そんなに意外なの?」

「ううん、そうじゃないの。けど、羨ましいなって」

「羨ましい?どうして?」

「だって、いつでも会えるじゃない。私は・・・遠く離れた所にいるんだもん・・・」

そんな私の顔をアスカはじっと見ていた。

「大丈夫よ。また会えるからそのときまであの馬鹿を信じて待とうよ!」

「アスカ・・・うん」

「何〜女の子同士で恋の話〜?あたしも入れて欲しいなぁ〜」

「ちょっとミサト!こんな状況に入り込むものじゃないでしょ!」

「まぁまぁ〜いいじゃないの。あ、そうそう、明日ネルフに集まるようにほかのみんなに言ってくれる?洞木さんにも言うのよ?」

ミサトさんも一緒に暮らしている。

さすがに少女二人だけで暮らすのは拙いと思ったらしい。

けど、家事はほとんど私とアスカでやっている。

親しくなってアスカはミサトさんのことを呼び捨てにしている。

ミサトさんはまったく問題ないように振舞っている。

「ヒカリも?今までずっと関わりがなかったのに?」

「まぁ、いいじゃない。明日集まる理由は人事異動の発表よ。ネルフに関わる人は全員ね。もちろん、あなたたちもよ」

「そうですか・・・」


翌日・・・


「これから言うことは決定事項よ。あなたたちの意見は受け入れません。いいわね」

リツコ先生が話を始める。 

「あなた達には、2日後に福岡に転属してもらいます。福岡に行くのはレイ、アスカ、トウジくん、ケンスケくん、カヲルくん、マサトくん、ミサトと私の8人と、洞木ヒカリさんを含めた計9人よ」

みんな驚いてはいたが、意見はしなかった。



別に今このようになっても問題はなかった。

だから2日後、私は何事もなかったかのように福岡に行った。



目が覚める。僕の一日がまた始まる。

3年になって今日が初日、つまり始業式がある。

「ちょっとシンジ!何やってるの?新年度初日から遅刻しちゃ恥ずかしいわよ!」

「わ、分かってるよ母さん!」

母さんの怒鳴り声で僕は目が覚めた。

「綾波、おはよう」

机の上に飾っている綾波の写真(引っ越す前の日にケンスケから買った物)にそういった。

これで僕の気を紛らわしている。

ここに引っ越してきてから半年が経った。

綾波のことを思い出すたびに涙があふれそうになる日々が続いた。

「行って来ます・・・」

僕は今、前に住んでいたマンションと全く同じ構造をしているマンションに住んでいる。

周囲の部屋は空いている。

大急ぎで走って学校へと向かう。



「やばい〜初日から遅刻って前と同じじゃない!はっはっはっ・・・」

私は転校初日から遅刻寸前でダッシュで学校に向かっていた。

曲がり角に差し掛かって曲がろうとしたとき、急に目の前に人影が見えた。

「きゃっ!」

「うわっ!」

もちろん、成す統べなくぶつかってしまう。

私はその人に謝ろうと顔を上げると見覚えのある顔が視界に入った。

「もしかして・・・シンジくん?」

「綾波・・・だよね?何でここに?」

それを聞きたいのは私のほうだった。けど、今は質問に返答する。

「ここの近くの中学に転校するから・・・」

「ここの近くって弐中?」

「うん・・・」

「へぇ・・・実は僕もそこなんだよ。また一緒だね・・・ってそんな場合じゃないよ!早く行かないと遅刻しちゃうよ!ほら、行こうよ!」

「え?」

私はシンジくんに手を引かれて走っていた。

半年振りにシンジくんの手を触ったけど、本当に暖かい・・・シンジくん、なんだか走るの早くなってる・・・

そして、すぐに学校に着いた。

「私、職員室に行くから・・・」

「分かったよ。じゃ、また後でね!」

「うん・・・」

私は走っていくシンジくんの背中をずっと見ていた。

そして、私はうれしさとともに職員室に向かった。



「シンジ、おはよう」

「おはよう、タカシ」

この中学に来て最初にできた友達「山本タカシ」彼はすごく情報通だ。

「な、聞いた話なんだけどよ、今日転校生が来るって話だぜ?このこのクラスに2日間で9人も」

「だからこんなに空席があるんだね・・・9人って多すぎない?」

「まぁな、かわいい子だといいな〜」

その転校生のうちの一人にはさっき出会った。

また綾波と同じクラスか・・・嬉しいな・・・

「さて、始業式だぜ。行くか?」

「うん」


始業式の前に毎年恒例の親任式がある。

予想外の先生が新任として入ってきた。


「それでは、新任の先生方が入場します」

司会の先生がそう言うと、教頭の後ろに並んで新任の先生が入ってきた。

僕はその先生の中に見覚えのある人を見つけた。

一人は前の学校で最も人気があった先生・・・その後ろには白衣を纏った金髪の先生・・・

僕はちょっとだけ驚いていた。

そして、新任の先生の挨拶で僕はすべてを確信した。

「第3新東京市立第壱中学校から来ました。葛城ミサトです。よろしくお願いします」

「同じく、赤木リツコです」

間違いなくミサト先生とリツコ先生だった。でもどうして二人同時にくるんだ?

あまりにも都合がよすぎる・・・

結局、ミサト先生は僕のクラス3−Aを担当することになってしまった。



私たちは、転校するクラスの3−Aの教室の前にいた。

なぜかみんな同じクラスに転入することになっている。

「・・・緊張するわね〜」

「あれ?アスカらしくないわよ?」

「別にいいじゃないの。あんたはシンジと久々に会えるんだからいいじゃないの」

「・・・もう会ったわ」

「え?嘘!?」

「その・・・ここに来る時、走ってたら曲がり角でシンジ君とぶつかって・・・」

「ちょっと待って・・・前のアンタそのまんまじゃないの!」

「べ、別にいいでしょ?」

そんな話をしているとミサトさんがやってきた。

「みんないるわね。じゃ、わたしが合図したら入るのよ・・・。シンジくんを驚かせてね♪」

ミサトさんはそういって教室に入った。



ミサト先生が入ってきてホームルームが始まる。

「はい、おっはよー今日からこのクラスを担当する葛城ミサトよ。よろしくねん♪」

その元気さは今までと変わりない。

「気軽に「ミサト先生」って呼んでくれればいいからね。それと・・・」

ミサト先生は僕のほうを見て、近づいてきた。

「シンジくん、久しぶりね。元気にしてた?」

「え、ま、まぁ・・・」

「何が「まぁ」よ。新年度早々から運のいい子ね〜くのくのっ!」

運がいい?僕はその言葉を理解できずにいた。そんな僕をミサト先生は肘で小突く。

「せんせーい!シンジとはどういう関係なんですか?」

「ああ、シンジくんはね。前の学校で私のクラスにいた子なのよ。またこうして会えるなんて思っても見なかったけどね」

先生は教卓へと戻っていく。

「早速だけど喜べシンジくん!今日は転校生を紹介する!」

は、僕に喜べ?ミサト先生、あなたが何を言っているのかわからないです・・・

「シンジくん」

「な、何ですか?」

「驚いて気を失わないようにするのよ」

「な、何を言っているんですか!」

「ま、いいからいいから・・・さ、みんな!入っていいわよ!」

ミサト先生はそう言うとドアが開き転校生がゾロソロと入ってきた。

みんな見覚えのある顔だった。綾波は今朝ぶつかったからここに来るというのは分かるけど。

「おおー」

「みんなわたしの前の学校の生徒だからわたしが紹介するわね。左からスゥー・・・綾波レイと惣流アスカラングレーと洞木ヒカリと鈴原トウジと渚カヲルと相田ケンスケと沖マサトよ・・・はぁ・・・疲れた・・・」

ミサト先生は一息で言い切った。決して急ぐ必要は無いと思うけど。

「男子諸君には申し訳ないけどこの3人の女子全員には彼氏がいるからあしからず」

男子のため息がいっせいに流れる。

「じゃ、席はさっき渡したプリントのとおりね。さっ、席について〜」

みんなちりちりに席に着く。

なんとなく予想していたけど、綾波の席はやっぱり僕の隣だった。

その綾波の顔にはすこし赤みがかかっていた。

「綾波・・・ごめんね。何も言わずに出て行って・・・」

「いいの。またこうして会うことが出来たんだから・・・ずっと会いたかった・・・」

「それは僕も一緒だからね」

僕らは、ほかの人に聞こえないように話をしていた。

「さ!て!これでもまだ空席が二つあるけど明日はさらに二人の転校生を迎えるからね!お楽しみに〜」

まるで次回予告のようにミサト先生はしゃべっていた。


HRが終わった後、僕は綾波と一緒に屋上に行った。

クラスメートの野次がうるさかったけど。

「けど、どうしてここに?」

「ネルフの人事異動よ」

「そうなんだ・・・けどさ・・・」

綾波は小首を傾げる。半年振りに見たけどすごく新鮮だ。

「夢みたいだね。今こうしてるの」

「けど、夢じゃないわ。この半年間シンジくんのことを忘れなかったわ。そしたら、本当に会うことが出来た。それだけでも本当にうれしいの」

「あの・・・綾波?手紙読んだよね?」

「うん・・・」

「あれに書いてあった事、本気だからね」

「うん。私、うれしい」

綾波はそう言うと僕に抱きついた。

僕も抱き返す。永遠にこの時間が続いて欲しいと願った。


「バカシンジ!半年振りの再会でいきなりそんなもの見せるんじゃないわよ!」

「あ、アスカ」

「『あ、アスカ』じゃないわよ。全く・・・ま、あんたらしくていいけどね」

「ははは・・・」

「シンジくん、アスカも今幸せよ」

「え?どうして?」

僕は今の綾波の言葉を理解できずにいた。

「アスカね、今ケンスケ君と付き合ってるのよ」

「え、ええ!?」

「おいおい、そんな派手に驚くなよ」

「そ、そうだね。ごめんねケンスケ。それとおめでとう」

「いや〜アスカのやつ人使いが荒いこと・・・なんかお前の気持ちがわかった気がするよ」

「何変な事言ってるのよ!これでもまだあたしとしては抑えてるほうなのよ!もっときついから耐えなさい!このあたしと付き合うんだからそれなりの覚悟はしてるでしょ?」

「ま、それはそうだけどな・・・加減してくれよな。全く・・・」

本当に・・・夢のようだよ・・・

「久しぶりだねシンジくん」

「カヲルくん!久しぶり!」

「どうだったかい?僕たちがいなくて」

「なんかすごく辛かった。心に穴が開いた感じで。けど、今こうして一緒にいることでまた新しいことが生まれそうな気がするんだ」

「そうか、それはよかったよ」

けど、夢じゃない。現実なんだ。

「シンジ、久しくだな」

「マサト!」

「ったく、何も言わずに姿をくらましやがって。どれだけ心配したかわかってるのか?」

「そうよ!碇君がいきなりいなくなって本当に悲しかったんだからね!」

「洞木さん・・・ありがとう」

「せやけど、今こうして会っておるのも何かの縁やな」

「そうだね、トウジ」

もう会うことのないと思っていた人たちに今こうして会うことが出来ている。

アスカ、ケンスケ、トウジ、洞木さん、カヲル君、マサト、そして綾波。

今いるところが違うだけで後は何も変わらない。

今までどおりの生活に戻ることが出来そうだ。


「ちょっと!俺を忘れるなよ!」

タカシが勢いよく入ってくる。

「・・・あんた誰よ?」

「俺は山本タカシ。シンジの新しい友達だよ。ここのことは俺に任せてくれよ。かなりの
情報通だからな」

「え!?それじゃ俺の出番がなくなるじゃないか!」

「ケンスケ、ここは我慢や」

「そ、そんなぁ〜」

屋上に笑い声がこだまする。懐かしい雰囲気・・・僕の価値を改めて知った。

僕を大事に思っている人がこうして何人もいることを知った。

そんな人たちのためにも僕は行き続ける義務があるんだ。

そう、思い続けたい・・・


そして結局、綾波とはまた一緒に暮らすことになった。今こうやって一緒に帰ってる。


「綾波?」

「なに?」

「僕たち、これからずっと一緒だね」

「うん。そうね」

「ずっと傍にいてくれるよね?」

「シンジくんは?」

「ずっと傍にいるよ」

「なら、私も傍にいる。ずっと・・・」

腕を組んで歩く僕たち。恥ずかしさはなかった。

だって僕らの人生は、ここから始まるんだから・・・



そして・・・



「レイちゃん、久しぶりね」

「ユイさん、またお世話になります」

「いいのよ。家の間取りも前と同じだしきっと住みやすいわ。部屋は前と同じね?」

「わかりました」

なんか懐かしい気分だ。またこうして綾波と一緒に生活できるなんて思っても見なかった。


「あ、シンジ〜ミサトちゃんからペットが届いてるわよ」

「ペット?ミサト先生から?」


僕はその包みを開けた。


「クァ〜クアックアッ」

「う、うわぁ!ぺ、ペンギン!?」

「本当、ペンギンね。けど、何かかわいいわ」

綾波は驚きもせずにそのペンギンの頭を撫でた。

それを見た僕はとんでもない事を口にした。

「いいな〜僕も綾波から頭を撫でられたいよ」

「あら、心配しなくてもいつでも撫でてあげるわよ・・・後でやるから・・・ね?」

その綾波の顔には赤みがかかっていた。何とも可愛らしい・・・

結局、そのペンギンは「ペンペン」と名前がついた。

何ともペンペンは普通に風呂に入ることも出来るそうだ。


その夜、僕と綾波が同じ部屋で寝ようとしていたところ。

綾波からの視線が感じられた。

「綾波、どうしたの?」

「あ、いや、その・・・」

僕は綾波が横になっている布団に入り込んだ。今思えばすごく恥ずかしい。

「あ・・・」

「ごめん、今日はこうしてもらっていいかな?」

「うん・・・」

今日だけでいいよね・・・だって、嬉しいんだから・・・

綾波の体温をじかに感じる。とても暖かい・・・

けど、緊張しているのかなかなか寝付けずにいた。


「綾波、起きてる?」

「起きてるわ」

「眠れないね」

「うん・・・ねぇ」

「何?」

僕は綾波のほうを向いた。すると突然、綾波の顔が近づいてきた。

僕と綾波の唇が重なり合った。半年振り・・・

「・・・お休みっ」

綾波は離れると同時に僕に背を向けて静かな寝息を立てて眠り始めた。

「・・・お休み、綾波・・・」

もちろん、緊張していたから眠りにつくまで何時間かかかったけど、何とか眠りにつくことが出来た。

次の日の朝・・・

ゲンドウがふとシンジの部屋の中を見た。

「ユイ・・・」

「わかってるわよ」

ユイは持っていたカメラでシンジとレイの寝顔を撮影した。

「全く、中学3年生なのに・・・」

「ふっ、問題ない」

「けど、何か新鮮ね」

「ああ」

「ほら、起きると悪いからここから離れましょう?」

「わかってるよ、ユイ」

ユイとゲンドウはそっと部屋のドアを閉めた。

『レイちゃん、シンジをお願いね』

ユイの心は、シンジとレイの幸せを願っていた・・・



Fin...



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