若き恋の物語

「まだ、ハッキリとしている訳じゃないんだ。けど、この返事はいつか必ずするよ。それまで待っていてくれないかな?」
「いいわ。私、待ってる。いつまでも・・・」

『とかいってしまったけど・・・僕はどうしたらいいのか全く分からない・・・』


レイからの告白から二日・・・
そのことに動揺を隠せなかったシンジは次の日、学校を休んだ。動揺しているままで学校に向かっても、表情が出やすいシンジに何があったか予想するものが出るからであった。
たとえば3馬鹿トリオの約二名とか・・・

『好きよ。シンジくん』

この言葉が、二日たった今でもはっきりとシンジの頭の中にある。シンジは、きっとその言葉を忘れることはないだろう。
自分が心に思っている人物から発せられた言葉・・・一番聴きたいと思っていた言葉・・・それがシンジに新たなる希望を与えようとしている。

『レイの告白に必ず報いる』

それが今のシンジの心の中の大部分を占めている。どのように返事をすれば、レイを喜ばせることができるのかをシンジはずっと考えていたが、なかなかまとまらなかった。

そして、大波乱の修学旅行を迎えようとしていた。


第七話 Chapter2  危機、迫るトキ


「よ〜し!!いよいよ今日から修学旅行よ!」

朝、起きるなりシンジの家へと向かったアスカはまだ早朝だというにも関らず思い切り叫んだ。

「あ、アスカやめなよ。朝早いんだから・・・」
「まぁ、いいじゃない。このマンションの住人は私たちと真上のマサトくんだけなんだからそんなに迷惑はかからないわよ」

と、ユイが真顔で言い放つとシンジは驚いた。

「そ、そうだったの?こんなに大きいのに?」
「そう、『ネルフ関係者の家族』が入居条件なの。この地区でネルフの関係者は私たちだけだから」
「そうなんだ・・・」
「それよりも、6時集合でしょ?そろそろ行かないと拙いんじゃないの?」
「そうだね・・・じゃ、二人とも、行こうか?」

そういって、家を出て行ったシンジたち。これから始まる3日間に何が起こるのか・・・それを知るものはいない。



「よう!いよいよ中学校最大のイベントがやってきたで!」
「最大なんて・・・大げさじゃないの?」
「シンジ、お前は本当にお子様だよ。修学旅行は思い出を作るためにあるようなものだよ。いっぱい思い出を作るぞ〜」
トウジとケンスケは肩を組んで踊っている。

(思い出か・・・今はそれどころじゃないかも・・・)

『好きよ。シンジくん』
先日のことがフラッシュバックする。

(『好き』か・・・綾波もよく言ったよな・・・それに比べて僕は・・・臆病だし・・・どこが好きになったんだろう・・・)
「シンジ、何黙ってるんだ?」
「マサト・・・」
「ったく、俺も久々の出演だよ・・・もう少しうまく設定しろっての・・・」
(スマンw)
「出演?何のこと?」
「ああ、今のは忘れてくれ」

黙り込んでいるシンジにマサトが声をかけた。

「それより、あれはうまく行ってるのか?」
「あれって?」
「はぁ、お前は勘が悪いな。お前とレイのことだよ。一応俺も『仕掛人』だからな」
「ああ、あれは・・・ちょっとここから離れようよ。本人が近くにいるといいにくいからさ」
「わかった」


教室集合だったが、まだ時間があったため屋上へと向かった。


「静かだな」
「そうだね。教室とは大違いだよ」
「で、何かあったのか?」
若干間がおかれた。そして、シンジが口を開いた。
「・・・告白されたんだ。ちょうど二日前にね。ちょうどその日の放課後にカヲル君と一緒にここにいたら綾波がほかのクラスの男子と一緒にここに来たんだ」
「・・・」
「その様子を見ていたんだけど、どうも危なそうだった。そしたら、いきなり綾波に殴りかかろうとして・・・僕はどうしても助けたくて・・・走ったんだ。ぎりぎりで間に合った」
シンジは無我夢中で話を続けていた。
「その時に『好きかどうかは関係ないから綾波を守りたい』って言って・・・けど・・・好きなんだよ。僕も、綾波が。告白されて『必ず答えるから少しだけ待ってて』て言って・・・けど、どう返事をしたらいいか分からなくて・・・僕は・・・」
「・・・強くなったな」
「え?」
「よくそこまで言ったじゃないか。お前はこの数日レイと一緒に住んで十分に成長した。アイツを幸せにしてやれる人間は一人しかいない。それがシンジ、お前なんだ。分かるか?」
「うん・・・」
力なく頷くシンジ。

「ならいいじゃないか。後はお前しだいだ。俺はそれを黙ってみてるしかできない。けど、お前にはすべてを決める権利を持っている。だけど、後悔の無い様にな。それだけは気をつけてくれ」
「わかった。ありがとうマサト。たまにはいい事言うじゃないか」
「ま、たまにはな」
(だが何だ・・・すごくいやな予感がする・・・この3日間で何が起こるって言うんだ?)

そして、バスに乗り、目的地の「山形」へと向かう・・・


数時間かかって、山形に到着し、自由行動となった。
「一人でなければどこへでも行ってもよい」という、何とも身勝手な条件をつけた教師たちはどこかへと向かった。

シンジをはじめとした・・・いつもの面々はやはり一緒に行動していた。


「で、どこへ行くつもりなのよ」
「ここなら任せとけ。一応、ここは前に住んでいた所だからな」
マサトの意外な発言に一同が驚く。
「そ、そうだったのか?」
「ああ、ま、事の成り行きってやつだ。案内は任せろ・・・と、言いたいけど・・・ちょっといきたいところがあるんだけど・・・いいか?」
「行きたいところ?それってどこや?」
「・・・親の墓だ。小さいころに死んでな。向こうに行って以来墓参りしてないんだよ」
マサトが暗い表情で言う。
「いいぜ。せっかく故郷に来たんだからな。顔を見せてやれよ」
「ケンスケ・・・ありがとう。決まったら早く行こう。ここからそう遠くないからな。歩いてもいけるよ」


数分後・・・


「なんだか殺風景なところだね・・・」
「当たり前だろ。墓地なんだからな・・・あっ、あった」
両親の墓を見つけたマサトは、花を手向け、静かに手を合わせた。それに合わせてシンジたちも黙って手を合わせる。
「親父、お袋・・・7年ぶりだな・・・修学旅行でここに来たからな。久しぶりに見たかったんだよ・・・引っ越してからこんなにたくさんの仲間ができたんだ。だから・・・ゆっくり・・・休んで・・・くっ・・・」
そうつぶやくマサトの目からは涙がこぼれていた。
「ごめんみんな・・・少し、外してくれるか?」
マサトの願いにシンジたちは黙ってその場から離れた。
「・・・もう、あんなことは繰り返さない・・・沖家唯一の生き残りとして・・・絶対に誓う・・・だから・・・ずっと見ていてくれよ」


7年前・・・


小学校に入学して間もなかったマサト。その日も、学校が終わり、両親の待つ家に帰ろうとしていた。

「ただいま〜」
いつもなら返事があるはずの家の中にその声が聞こえない?
「いないのかな・・・親父〜お袋〜」
部屋に荷物を置いたマサトは居間へと向かう。
「まったくどこにいるんだよ・・・っ!!」
その光景にマサトは目を疑った。マサトの両親が血を流して横たわっていた。
「お、親父!お袋!どうしたんだよ!!」
マサトはすぐにその場へと駆け寄った。
「ま、マサト・・・」
「親父!!しゃべるな!傷口が開く!」
マサトの父が口を開いた。今にも消えそうな声で・・・
「逃げろ・・・早く・・・」
「どういうことだよ?」
「やつらはお前を狙う・・・このチケットで第3新東京市のネルフ本部に行け・・・じゃないとお前は・・・」
「どうなるんだよ!なぁ!いったいどうしたんだよ!」
「・・・マサト・・・お前は・・・」
父は目を瞑る。とうとう力尽きてしまった。
「親父〜〜!!お袋〜〜!!」

その場でマサトは泣き続けた・・・

翌日・・・マサトは叔父の元へ向かった。

「そうか、行くのか」
「はい。他の人にもよろしくお伝えください」
「墓はあの場所に立てて置くからな」
「分かりました。必ず行くので待っていてください」

マサトはそういうと振り返り歩き始めた。

「マサト!必ず・・・必ず戻ってこいな!」
マサトは黙って手を振って再び歩き始めた。

それから5年間、マサトはネルフで過ごし、中学校へ入学したら一人暮らしを始めて今に至っている。


「・・・もう犯人は捕まっているみたいだけど・・・忘れないぞ。あの日の悲劇を・・・じゃあな。また会おうな」
涙を拭い、もう一度墓に手を合わせて戻っていった。

「もう、いいの?」
レイが心配そうな顔でたずねる。
「ああ、みんなごめんな。せっかくの修学旅行なのに・・・」
「堅苦しいことはなしよ。あたしたちは仲間なんだからさ」
「あらら、珍しいことを言う。明日は雪でも降るのかな?」
「な、なんですってーー!?」
マサトの一言にアスカは怒り出す。
「ははっ、マサトらしいや」
シンジがそういって場の空気が和む。
「さ、行こうぜ。せっかくここに来たんだ。あっちとは違うところにいろいろ連れてってやる!」

(親父・・・お袋・・・俺は頑張るぞ)

そして、その後はマサトに山形をいろいろと案内してもらい、宿舎へと向かった。


二人で一室の部屋で、シンジはカヲルと一緒になった。なぜかマサトは一人部屋である。
「はぁ、疲れたな・・・」
「けど、今日はいろいろと楽しめたね」
「そうだね。マサトも久しぶりの故郷でとっても嬉しそうだったし」


そして、刻一刻と時間が過ぎている中・・・入浴の時間を迎える。

「さて、行こうか」
「うん」


浴室内・・・


「おい、ケンスケ」
「分かってる。やるんだろ?
「おう!ここでやらな男とちゃう!」
トウジとケンスケはニヤつき笑いを浮かべる。

結構長く入っていたシンジは気が付けばひとりとなっていた。

そのころ他の男子は・・・


「おい、あんまり大きな声出すなよ」
「おーーー」
やはり・・.といってもいいのか、女湯の脱衣所を覗いていた。もちろん・・・
「まずい!見つかった!逃げるぞ!」
あっさりと見つかってしまい逃げ出す。悲劇はここから始まる・・・


「ずいぶんと遅くなったな〜早く戻らないと・・・」
と、シンジがドアを開けて廊下へと出ると、そこには怒りの表情を浮かべた女子(レイ、アスカ、ヒカリ除く)がいた。
「やっとお出ましね・・・」
「な、何のこと?」
「ふざけないでよ!勝手に覗いておいてそれで住むと思ってるの?」
もちろん、覗きのことなどまったく知らないシンジはというと・・・
「し、知らないよそんなの!」
「隠しても無駄よ。やっちゃいましょう」
女子はシンジの周りを囲み一部の女子はシンジを動けないように押さえつけた。
そして、いきなり全方向から殴り始めた。


何も知らないレイたちがやってきたが何がおきているのか分からずとりあえず止めることに専念した。

「ちょっとやめてよ!何があったっていうの?」

レイが叫ぶがやめる気配がない。

そのころマサトは風呂へと向かっていた。

「あれ?トウジ、何やってるんだ?」
「ああ、マサトか。今風呂には行かん方がええ。殺されるで」
「そうか・・・」
そのまま風呂のほうへと歩むマサト。風呂場へと近付くほどに騒がしくなる。
女子か丸くなって何かをやっている。その中心でシンジが苦しんでいるのが見えた。
マサトはその様子を見て愕然とした。


「何が・・・あったんだ・・・うっ!」
過去のことがフラッシュバックされる。


『お前なんて生まれなきゃよかったんだ』
『お前などこの世に要らないんだよ』
『嘘だ!みんな、どうしてそんな事を言うんだよ!』
『だって事実だろ?』
『そうだ。お前なんて・・・消えてしまえばいいのに・・・』
過去のマサトも、今のシンジのように暴行を喰らう。

「う・・・や・・・やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

一同が動きをとめてマサトのほうを見た。

「やめろ・・・やめろ!何故そんな事をするんだ!やめろ!!」

しばらくの沈黙が流れる。

「・・・お前らはもういいから部屋にもどれ・・・あとは、俺が処理する・・・」
「何よ。偉そうにして。そんなこと言ったって私たちが・・・」
「戻ろうよ。みんな・・・」

以前のことがあったのかそのことを知っている女子が戻るように促す。そして、レイ、アスカ、ヒカリを除いた女子が部屋へと戻って行った。

「・・・酷いな・・・何があったんだ?」
「それが・・・分からないの。来て見たらこんな事になっていたから・・・その・・・」
「まぁ、いいや。部屋にもどれよ。俺は先生のところに行ってから戻るよ」
「で・・・シンジくんはどうするの?」
「俺の部屋で保護するよ」
マサトは気を失っているシンジを担いで教師がいるところへと向かう。




「先生・・・」
「あら、どうしたの。マサト君?」
「ちょっと訳ありで」
「し、シンジくん!?どうしたのよこんなに傷を負って!」
そのシンジの姿を見たミサトはシンジに声をかける。だが、返事はない。

「気を失ってるから無駄ですよ。まぁ、原因は大体予想できますね」
「どうしてこんな風になったか分かるの?」
「ええ、俺が風呂に行ったらこいつが女子から暴行を受けていました。おそらく、覗きをして見つかったんでしょう」
「覗きねぇ・・・」
「ですが、こいつが覗きをするほど勇気があると思います?ないでしょう?」
「そ、そうね・・・」

ミサトは苦笑した。

「おそらく、他の誰かが覗きをして女子に見つかり逃げ出し、たまたま出てきたシンジがやったと女子が勘違いをしたのでしょう。ですが、あの場所付近には監視カメラが設置されているのでそれを見れば犯人はすぐ分かります。ですので、そこの確認をお願いしたいのですが・・・」
「あなたは確認しなくてもいいの?」
「はい。俺はこいつを連れて部屋に戻ります。おそらく、見舞いがくると思いますので」
「見舞い?」
「まぁ、そういうことです。こいつも、プライベートではいろいろとあるみたいで精神的に参ってるみたいで・・・ま、そんなやつを心から思ってるやつがきっと俺の部屋まで見舞いに来るでしょう」
「そ、そう・・・」
「じゃ、戻ります。葛城先生。後はよろしくお願いします」
「ええ。わかったわ」

そして、マサトは部屋へと戻った。


349号室 レイ達の部屋


「シンジくん、大丈夫かな・・・」
「ま、アイツの事でしょ。ちょっと危ないかもね・・・」
「・・・私、行って来る!」
「碇君がいる部屋に?大丈夫なの?」
「ヒカリ、あいつに任せましょ」
「アスカ?・・・うん。分かったわ」
「二人共、ありがとう・・・」
レイは深く頭を下げてお礼を言った。
「いいって。なんだったら一晩中居てもいいわよ」
「も、もう・・・じゃ、行ってくるわね」

レイは部屋を出て行った。

332号室 マサト達の部屋


「う・・・」
「目が覚めたか」
「マサト・・・ここは・・・」
「俺の部屋だ。あの後お前は気を失ったんだ」
「あの後・・・」
「お前はあの時女子から暴行を受けていた・・・それを見つけて運んできた」
シンジは終始くらい表情をしている。
「僕がやったんだね・・・きっとそうだよ」
「それに関してはおおよその犯人の想像が付く。俺が風呂場に向かう前に・・・いや、後に分かる。今葛城先生があの場所にあった監視カメラを調べている。俺は今からそっちに行くからここで休め・・・多分、あいつがくると思うからな」
「あいつって?」
「ま、直に分かるさ。じゃ」

出て行くマサトの姿をシンジは見つめていた。

(あいつって誰だろう?)


「はぁ、これからが大変だな・・・どうしよう・・・あ」
「あ・・・」

部屋を出たマサトはレイと鉢合わせした。

「どうしたんだ、こんな時間に?」
「ちょっと、シンジくんの様子が気になって・・・」
「あ、そいつはちょうどいい。行ってやってくれ」
「うん・・・」
「あいつを守ってやれるのは・・・お前しかいないよ。絶対な」
「え?」
レイはよく聞き取れないようだった。
「なんて言ったの?」
「いや、なんでもない。俺はちょっと出掛けるから・・・この部屋で寝てもいいぞ。じゃ」
「ちょ、ちょっと・・・」

マサトは行ってしまった。

「いざ目の前に来ると緊張するわね・・・・・・」
レイは部屋のドアをたたいた。
「・・・シンジくん・・・いる?入るわよ」



この瞬間から、シンジは決断を余儀なくされていた。



続く



あとがき

さ、ようやくここまで来ました。「投稿作」としてのこの話は後1つとなりました。

もうここに書くことはありません。ラストに向かって進んでいきます。
ですが、このまますんなり終わらないのが僕のスタイルです。
投稿最終話の次回は、一人称を交互に繰り返して書きたいと思います。
では・・・