なんだかんだ言って、綾波って結構大胆だということがわかった。
いくら母さんが吹き込んだ冗談でも、それを思いっきり実行するなんて並大抵の人ではできない。
それをして見せるのだ。たいした者だよ・・・と、褒めてあげたいけど・・・
僕はそれどころではない。朝起きたら布団の中に綾波がいるなんて・・・
考えるだけでとんでもないことが起こりそうで怖いよ。
今日は綾波の誘いで出かけることになる。
つまりデートだ。
そう考えてもいいだろう。何せ明日にはアスカも帰ってくることだろうし、アスカがいない間に少しでもいい思い出を作りたい。
傍にいてあげたいという気持ちが次第に強くなる一方だった。
第六話
ア
ス
カ、再来日
「あの・・・綾波」
「何?」
「その・・・今日ってどこに行くか決めてる?」
「あ・・・」
レイは俯いた。どうやら何も考えていなかったらしい。
(あちゃ〜こんな事だろうと思ったよ・・・考えておいてよかった気がするよ・・・)
「じゃ、じゃあ、駅前のデパートに行こうよ。あそこになら服だって売ってるし」
「う、うん・・・ごめんなさい。何も考えてなくて」
「いいよ。初めてのことだから誰だって落ち着かないよ」
シンジはそういうと軽く微笑んだ。
「あ、ありがとう・・・」
レイも微笑む。その表情は天使の表情に見えた。
(か〜わいい〜!はっ!見惚れると失神する!落ち着くんだ・・・)
「は、ははっ・・・とにかく・・・何時ごろに行く?誘ったのは綾波なんだからこれは綾波が決めてよ」
ちなみに今は午前9時42分である。
「・・・10時半ごろでいい?」
「いいよ。じゃ、ご飯食べようか?」
レイはコクリと頷いた。
碇家の今日の朝食はスクランブルエッグに食パンといういたって普通の朝食だった。
シンジはユイの昼食をあらかじめ作っておく。昼前に帰ることは間違いなくないと思うからだ。
ここで着替え・・・と、行きたい所だが、シンジはあることに気付いた。
(綾波って制服しか持っていないんだよね・・・と、なると綾波は制服だよね・・・僕も合わせたほうがいいのかな?)
シンジは暫く考えた。
(・・・ここは合わせよう。綾波だけ制服だと不自然だよ)
と、言う事で・・・シンジは自室に戻った。一緒についてきたレイを居間で待っているように必死に説得してからであった・・・
シンジが部屋から戻りレイの反応は予想通りであった。
「シンジくん、どうして制服なの?」
「うん、綾波って制服以外の服持ってないから今日だって制服で出かけるでしょ?」
「うん・・・」
「綾波だけ制服って何か不自然かな〜って思ったからさ・・・って綾波?」
「な、何・・・?」
レイは肩を震わせていた。
「泣いてるの?」
「し・・・シンジくん・・・」
レイはシンジの胸に飛び込んできた。
「あ、綾波!?」
「うれしい・・・私、今までそんなことされたことなかったから・・・嬉しいの・・・」
「うん・・・泣きたかったら僕の胸でいつでも泣いていいからね」
「・・・ありがとう・・・シンジくん・・・」
(僕は、とんでもない男だ。けど、綾波でも泣くことってあるんだ・・・当たり前だよね。女の子なんだから)
が、この様子をユイに見られると流石に拙いだろうとシンジは思った。
「へ、部屋に行こうか?」
「うん・・・」
シンジとレイはその場しのぎの為に部屋に戻った。
「・・・シンジくん」
「何?」
「・・・甘えてもいい?」
「なっ!」
あまりにも唐突にいわれたため、驚くシンジ。
(甘えてもいい?って言われても・・・僕に断る理由なんて無いしなぁ・・・)
シンジは返事をどうするかどうか迷っていた。
「駄目なの?」
レイは上目づかいでシンジを見つめている。
(はうっ、そんな目をされると断るものも断れなくなるじゃないか・・・断る気は無いけどね)
「うん。いいよ!」
「本当?」
「うん・・・」
「ありがとう・・・」
レイはそう言うと、シンジの胸に飛び込んだ。
(あっ・・・けどこう言うのもいいかも・・・)
シンジはレイの頭を撫でる。暫くその状態が続いた。
(・・・あれ?今何時だろう・・・11時!?予定より30分もずれているじゃないか!)
シンジとレイはそのままの状態で1時間近く過ごしたようだ。
「あ、綾波・・・そろそろ出かけない?」
「うん・・・そうね」
学校の制服を身に着けた二人は外へと出て行った。
駅前は予想をはるかに超える人だかり・・・かと思われたが、それほど人はいなかった。
が・・・
「あれ?トウジ?それに洞木さんも」
「げっ、シンジ、何でお前がこんな所におんねん」
トウジとヒカリに遭遇してしまう。
「洞木さん、鈴原君とデート?」
「え、ええ・・・けど、綾波さんも碇君とデートしているんじゃない?」
「それは・・・その・・・」
レイは赤面し、俯く。そしてシンジの所へと寄る。
「ねぇ・・・」
「ん?どうしたの?」
「あの事・・・言ってもいいのかな?」
「うーん・・・絶対に秘密とは言われてないから・・・言っても大丈夫じゃないかな?」
「そうかな・・・シンジくんが言って?」
「どどどど、どうしてだよ!言い出したのは綾波だろ!?」
「だって・・・」
トウジとヒカリはその二人の様子を見ていた。
「あの二人、さっきから何をやっているんや?」
「さぁ・・・」
呆然としていた。
「・・・わかったよ・・・どうなっても知らないよ」
「わかってるわ。さっ、行こ?」
(なぜ僕がこんなこと・・・)
「あ、来た」
「洞木さん、鈴原君、ちょっと聞いてくれる?」
「ああ、ええで」
「ほら、シンジくん」
「う、うん・・・その・・・僕と綾波は・・・今一緒の家で生活しているんだ」
「な、なんやて!!(何ですって!!)」
(あ〜あ・・・やっぱりこうなると思ったよ・・・なんでこんな事言う事になったんだろう・・・)
愕然としているトウジとヒカリ。赤面しているシンジとレイ。口を開いたのはヒカリだった。
「不潔よっ!二人とも!」
「ああ!誤解しないで!保護者はいるから・・・けど、このことを考えたのはその保護者だけど・・・」
「ほ、保護者って誰のことや?」
「・・・母さんだよ」
(し、シンジの親も大変なこと考えるの〜)
トウジとヒカリは唖然としている。まして、考えたのがシンジの親だということを知ったから尚更だ。
「そ、それはいいけど、二人とも、修学旅行の準備してるの?」
「へ?そんな事いったっけ?」
「あほ!来週の金曜日にからやで?」
「あ、そういえば・・・」
(綾波が転校してくる前に言ってたな・・・特に準備することはないから自分でやれ・・・だったっけ?)
「修学旅行?」
何も知らないレイが首を傾げる。
「も、もしかして、碇くんから何も聞いてないの?」
「うん・・・」
「はぁ、お前はとことん甘いやつや」
トウジがため息をつく。
「は、はははは・・・ふぅ・・・」
そんなシンジはぎこちなく笑った。
トウジたちと別れたシンジたちだったが、ぎこちない空気が流れていた。
「で、どういうことなの?私に黙ってたなんて」
「そ、それは・・・その・・・」
(忘れてたなんていったら怒るだろうし・・・)
「い、急ぐ必要がなかったんだ。だだ、だから3日前くらいに言おうかと・・・」
シンジの声はドモっていた。
「・・・嘘ね。バレバレよ」
「は、ははは・・・」
「誤魔化さないで」
「はい・・・すっかり忘れてました」
レイの目は普段見るものとは明らかに違い鋭い目つきをしていた。それに完全に引いたシンジ。
「もう、最初からそのように言ってくれれば私もこんなに怒らないのよ?ま、いいわ。服買いに行くついでに旅行に必要なものを買いましょ?」
「うん・・・」
そして、先に旅行品を買ったところで、服を買いに来た。
「ねぇ、どれがいいと思う?」
「そうだな〜って、男の僕に聞く?」
「それもそうね。けど、参考にはなると思うし・・・」
「うーん・・・これなんてどう?」
シンジは目に入った白をベーシックにして、若干青みがかかっているワンピースを取った。
「・・・試着してみていい?」
「いいよ。待ってるから」
レイは試着室に入った。
数分後・・・
「・・・どう?」
「あ、ああの・・・」
「?」
レイは不思議そうに首を傾げる。
「・・・綺麗だ・・・」
「・・・何を言うのよ」
レイは顔を赤くして俯く。
そんなわけで、互いに気に入ったこの服をはじめ、いくつかの服を購入し、買い物を終えた。
そんな一日が終わり、いよいよアスカの帰国する日を迎える。
翌日・・・
とある空港・・・
「まったく!パパもママもいい加減なのよ!会いたいなら「会いに来い」って言えばいいのに・・・」
アスカは独り言をつぶやきながら空港のロビーを歩いていた。
どうやらアスカの両親が体調を崩したというのは嘘で、ただアスカに会いたいだけのためにわざわざあのような嘘をついたのだという・・・
「まっ、今日からあのバカシンジのところに戻るけど・・・あのお二人さんはうまくやってるのかしら・・・心配ね」
アスカはどうやらシンジとレイのことを心配しているようだ。
「虐めがいがあるわね・・・くくくっ」
と、不気味な笑みを浮かべたのは放って置いて・・・
「タクシー!!コンフォートマンションまで!そう!第3新東京市のね!」
アスカはタクシーに乗ってシンジとレイの待つマンションへと向かった。
とりあえず言っておくがアスカは修学旅行のことは覚えているらしい。
シンジ宅
「今日アスカが帰ってくるのね」
「そうだね、もうすぐ来るんじゃないかな?」
「そう・・・」
なぜかレイの表情は暗い。
「・・・どうしたの?そんな陰気くさい顔して」
「な、何でもないわ」
シンジは俯くレイの顔を覗き込む。
「なっ、何?」
「本当に何でもない?何か隠してないの?」
「・・・ごめんなさい・・・ちょっと・・・変なこと言っていい?」
「変なこと?別にいいけど・・・」
「ありがと・・・」
(アスカが来る前に言わないと・・・アスカが来ると言い難くなるわ)
数日前・・・
アスカがドイツに行く前の日、レイとアスカは二人で帰っていたときのことだ。
「ドイツに戻る?アスカが?」
「そう。なんかパパの体調がまずいことになってるからね。見舞いに行くのよ」
「どの位ドイツにいるの?」
「分からないわ。バカシンジには適当に「半年」って伝えとくけど・・・その事シンジに言っちゃだめだからね!?」
「わかったわ」
少しの間を置いてアスカが口を開いた。
「じゃ、あたしが帰ってくるまで宿題を出すわ」
「え!?」
「あたしが帰ってくるまでシンジに気持ちを伝えること!」
アスカは何も迷いもなく言い張ったのでレイはあわてる・・・
「どっ、どうして?」
「だってアイツ鈍いんだもん。早いうちに言わないと後から苦労するわ」
「・・・頑張って見るわ」
「そう、頑張ってね。応援してるから」
(せっかくアスカが私のこと応援してくれているのに・・・アスカの期待に背きたくない・・・)
レイは決心を決めた。
「シンジくん、私・・・「ただいまーー!!」・・・え?」
何か言おうとしたところでアスカが帰ってきてしまった。
「あっ、やばい!綾波、僕の部屋に隠れて!」
「え、ええ・・・」
レイを部屋に入れたところでアスカが居間へと入ってきた。
「お、お帰り・・・けど、どうしていきなりここに来たの?」
「ま、何と無くね・・・それより、ユイさんは?」
「母さんなら今日は研究所に仕事に行ってるよ」
「ならいいけど・・・居るんでしょ?」
「誰が?」
「あたしを誤魔化そうとしたって無駄よ。レイ!」
アスカが呼ぶとレイがドアの隙間から顔を覗かせた。
「もう、そんなところに居ないで出てきなさいよ」
「うん・・・けど・・・」
「どうして私がここに居るのが分かったの?って言いたいんでしょ?教えてあげるわ!よ〜く聞きなさい!」
シンジとレイは一度顔を見合わせアスカのほうへと顔を向けた。
「あんたたち二人の同居を考えたのはこのあたしだからよ!」
続く