若き恋の物語



第五話  晩  



ユイはその後、「用事がある」と言ってどこかへ出かけてしまった。つまり、家の中にいるのはシンジとレイのみである。

trrrr・・・

部屋の電話が鳴る。

「あ、僕が出るよ。皿、並べておいてくれるかな?」
「うん・・・・・・」

シンジはレイに軽く指示を出し、受話器を手に取った。

「はい、もしもし・・・」
『あ、シンジ?あたしよ。アスカよ』
「あ、アスカ!?どうしたのさ急に?」

あまりにも突然のことに驚くシンジ

『どうしたもないのよ!あたし、明後日帰ってくるから!』
「は!?」
『は!?じゃないの!たった3日なんだから何も変わってないでしょ?』

つい先日まで「半年帰ってこれない」と言っていたはずだが、急に「明後日帰ってくる」と言われたシンジは慌てた。

因みにアスカはシンジとレイが一緒に住んでいることを知らない・・・はずだ。

『あたしがいない間に愛しのレイを家に招いてイチャイチャしてないでしょ〜ね?』
「し、してないよ!」
「・・・シンジくん?」

レイのほうを振り向いたシンジは人差し指を口の前に立てた。黙っていろと言うことだ。

それもそのはず。レイの声を受話器のマイクが聞き取ってしまうとアスカにも聞こえてしまうからだ。

勘が鋭いアスカならレイが一緒に住んでいると考えることもあるのだ。

・・・だが、明後日にはアスカはその光景を直接見ることになる。つまり「バレる」と言うことだ。


レイは若干疑問を抱きながら黙っていることにした。


『・・・あんた、何か隠してるでしょ?』

「ど、どうして?」

隠し事をしているのはもちろん図星だ。

『見え見えよ。そんなに慌ててるんだから。ま、明後日にはその隠し事を暴いて見せるから覚悟しておくことね!』
「覚悟しろって・・・そんな・・・」
『あ!レイに会ったら言っておいて!』
「何だよいったい・・・」
『伝えたいことがあったら早いうちに伝えろってさ』
「は?」

シンジはその言葉を理解できずにいた。

「どういうことだよ?」
『あんたには関係ないの!本当にあんたは鈍感なんだから・・・あ!今のは忘れて!』
「忘れてっていわれても・・・」
『とにかく!明後日には帰るからね!じゃ!』
「あ、アスカ!」


t−t−t−・・・


「ったく、何なんだよ・・・あ」

シンジの視線には若干悲しそうな表情でシンジを見つめているレイの姿が見えた。

「・・・」

「・・・」


暫くの沈黙・・・


「ご、ごめん・・・」
「ううん、いいの。それより、アスカでしょ?今の」
「うん・・・明後日帰ってくるって」
「え!?」

レイもシンジと同じ反応をする。

「急すぎるよね・・・いくらなんでも・・・」
「そ、そうね・・・」

	

再び沈黙・・・



「あ、なんかアスカが綾波に伝えとけって言いのこしがあるんだ」
「え?」
「なんか・・・伝えたいことがあったら早いうちに伝えろだって。僕には何の事だかさっ
ぱりわからないけど,綾波ならわかると思うんだけど・・・聞いてる?」
「あっ、う、うん・・・」
「その・・・体調でも崩した?」
「ど、どうして?」
「・・・顔赤いよ」
(どうしてこんなことで顔を赤くするんだろう?綾波って不思議だなぁ・・・)

『鈍感』なシンジはその言葉の真相に気付くというのはまずない。その言葉の真相に気付
いたレイは顔を赤くして俯いている。

「わ、私、部屋に戻る!」
「って言っても綾波の部屋って僕の部屋なんだけど・・・」
「あ・・・」

さすがのシンジもそのことだけは覚えていたようだ。

『シンジとレイが同じ部屋で寝る』と言うことだけは。

「わ、私・・・どうしたらいいと思う?」
「うーん・・・とりあえずあのソファーで横になってたら?」
「う、うん・・・」

シンジはまだ食事前だということに気付く。

「あ!ご飯まだ食べてないよ!」
「そ、そうね・・・」
「ただいま〜」

と、言う所にユイが帰ってくる。

「あ、母さん」
「何やっているのかと思えば・・・シンジ、あなたレイちゃんに何かしたの?」
「な、何を言うんだよ!と、とにかくご飯食べようよ!」

シンジはその場を回避しようと必死だ。

「ま、いいわ。詳しいことは本人に聞くからね。いいわね?レイちゃん」
「は、はい・・・」


そして、あまりいいとはいえない空気の中、食事を取り、シンジはさっさと風呂へと向か
った。


「あの・・・ユイさん」
「なあに?」
「シンジくんっていつもあんな感じなんですか?」
「それはないわね。レイちゃんがいるから緊張しているんじゃないかしら?」
「そ、そんなこと・・・」
「ま、いいわ。それより聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
「?・・・いいですけど」

何のことだかわからないレイは首を傾げる。

「質問は簡単よ。シンジのことどう思ってる?」
「な、何を言うんですか?」

シンジのことになり急に慌てるレイ。

「そんなに慌てなくてもいいじゃない。で、どうなの?」
「・・・いい人だと思います・・・」
「そんなこと聞いてるんじゃないの。私が聞きたいのは『好き』か『嫌い』かということ
なの」
「・・・・・・」

流石にそのことを話す事はレイにとっては難しいことだった。

素直に「好き」と言えば済むことなのだが、それを言う相手がその好きな人の肉親であることにレイは戸惑っていた。

「あ・・・無理して言わなくてもいいからね・・・その・・・あとからでも・・・」
「好きです」

ユイの言葉をさえぎるようにレイが言葉を発す。それはまたはっきりした物だった。

「あ・・・」
「うふふっ。よく言ったわね。えらいわよ」
「あ、いや・・・その・・・私は・・・」

自分のした事に気付いたレイは顔を真っ赤にして俯く。

「いいのよ。私、応援してあげるから」
「あ、ありがとうございます・・・」
「で、ひとつ、お願いがあるんだけど・・・」
「?」

レイはユイの顔を見た。やけにニヤニヤしている。

「どういうことだかわかる?」
「全然・・・」
「ふふっ、じゃぁ、説明するわ」



浴室内・・・



「・・・・・・はっ!ついぼーっとしてしまった・・・」

シンジは急に我に帰ったかのような表情をした。レイの事でも考えていたのだろうか。


「・・・随分長く入ってるよな・・・そろそろ出ようかな・・・」

シンジは浴室から出て、寝巻きを身に着け髪を乾かす。これはシンジのいつものリズムであ
る。

そして衣類を身につけて部屋へと戻る。



「・・・お風呂空いたよ〜」
「あ、わかったわ・・・レイちゃん、あの事よろしくね」
「は、はい・・・」

ユイはレイにそう言い残し浴室へと向かった。

「し、シンジくん・・・」
「何?」
「その・・・明日、どこかに出かけない?」
「え?」
「えーと・・・私ね、実は着る者って制服と寝巻きしか持ってないの。今だって制服でしょ?」
「う、うん・・・」

確かにレイは今日会ってから今までずっと制服を着ている。

「でね、ユイさんが好きなの買ってきていいから一緒に行って貰えって言ったから・・・
その・・・」
「ぼ、僕なんかが付いていっていいのかな?」
「うん・・・」
「じゃあ、付いていくよ」

(よかった・・・シンジくん、来てくれる・・・)



「・・・」

「・・・」



またしても沈黙・・・



数分後・・・



「レイちゃん、お風呂空いたわ〜」
「は、はい!」

レイは荷物がある部屋へと行き、着替えを持って浴室へと向かった。

室内にはシンジとユイの親子がいる。



「ふう。シンジ、あなたも幸せ者ね」
「何のこと?」
「鈍いわね〜あの人と同じだわ」
「あの人って・・・父さん!?」
「それ以外の何があるのよ」

(と、父さんって鈍感だったんだ・・・)

シンジは父の意外なところに驚きを隠せなかったとか・・・


「・・・で、どういうこと」
「何が?」
「女の人の服なんて選べるわけないでしょ!」
「あ・・・一緒に行ってあげるだけでいいのよ。本当は一緒に行きたいくせに意地張っちゃって〜」
「い、意地なんて張ってないよ!」
「そうやって一生懸命否定するところも怪しいわね〜」

(母さん・・・何処まで嵌める気なんだ・・・)

シンジはその後、部屋に戻りさめざめと泣いた。


翌日・・・


「ふう、いつもより随分と遅くおきたわね・・・9時か・・・」

ユイが起きて来て部屋の中に誰もいないことを確認する。

「あの子達はまだ寝てるのかしら・・・ちょっと覗いて見ようかな?」

ユイは気付かれないようにシンジの部屋のドアを開ける。

(あれ?レイちゃんがいない・・・ん?シンジの布団がやけに盛り上がってる・・・
レイちゃんがいなくてシンジの布団が盛り上がってる・・・これは保護者として確かめる義務があるわね。けど・・・)

ユイは進めようとした足を止めた。

(まさかレイちゃん、昨日のことを本気でやっているわけじゃないでしょうね・・・)



事は昨日シンジが眠ってからに遡る・・・



午後9時



「・・・あれ?シンジくん、もう寝たんですか?」
「ええ、何故かわからないけどね」

レイが風呂から戻って来ての第一声がこれだった。

「ま、いいわ。シンジが寝てくれてこっちとしては考えを伝えやすくなったし・・・またお願いがあるんだけどいいかな?」
「は、はい・・・」
「実はね、この家に今まで人が泊まったことがないからその人用の布団がないの。つまり、この家族の人数分しかないの」
「は、はぁ・・・」
「私と父さんはベッドだから動かせないからけど、レイちゃんはシンジの部屋で寝るんだし・・・」
「な、何となくわかった気がします・・・」

(つまり一緒の布団で寝てくれって事ね・・・)

「あ、わかった?」
「は、はい・・・」
「じゃあ、私、部屋に戻るからね」
「あ、お休みなさい」
「お休み〜」

ここからはユイも知らない内容である。

部屋にはレイひとりとなった。

(何もすることがないし・・・寝よう)

レイはシンジの部屋へと入り辺りを見回した。布団を見るとシンジが体を窓のほうへと向けて眠っている。

(・・・・・・流石に拙いと思うんだけど・・・仕方ないわね)

気付かれないようにシンジが眠っている布団へと入り込むレイ。シンジをしっかりと抱き締め眠りに付く。

(シンジくん、ごめんなさい・・・けど・・・あたたかい・・・)

レイはその日、ものすごく安心して眠れたとか・・・



時間を元に戻そう。



(うーん・・・拙いわね・・・どうしよう・・・)

ユイはその布団を前にして迷っていた。

(ええい!行け!)

ユイは布団へと近付きそっと布団を捲った。

(あら〜やっぱり〜)

ユイが見たのはシンジにがっちりと抱きついて静かな寝息を立てて眠っているレイとそれにまったく気付いていないシンジの姿があった。

ユイは手に持っていたカメラでその様子をしっかりと撮影した。

(これで碇家に大きなメモリーがひとつ増えたわね)

そして静かに部屋を出て行った・・・が、半開きにして部屋の様子を伺っていた。



数分後・・・



(・・・あれ?いつの間に寝ちゃったんだろう・・・ん?何かに掴まれているような・・
・)

目覚めたシンジは何かの気配を感じた。腹の辺りを探ってみると明らかに自分のものではない手があった。

(うーん・・・僕は夢を見てるのかな・・・・・・か、体が動かない・・・)

動こうとしたシンジだが、その体は何かに捕まっているかのように動かない。視線だけ横を向けると水色の髪が見えた。

(酷いな〜僕も。絵の具でも被ったのかな〜髪の毛がこんな色になるなんて・・・)



―――ゴソッ



(ん?今何か動いたよね・・・あ、体が動く・・・)



シンジは体を横に向けた。



(え・・・あ、あれ?これって・・・痛い。夢じゃないよね・・・)



「う〜ん・・・」



(あれ?綾波の声だ〜どこから聞こえるんだろう・・・)

シンジはすべての思考を元に戻した。そして気付いた。

(あれ?そうなるとこれって・・・水色の髪・・・この声・・・綾波・・・だよね・・・ほぁあああああ!!)

シンジは声に出さず、心の中で叫んだ。

―――ゴソッ

レイは体を半回転させてシンジのほうへと向けた。だが、まだ眠っている。

(綾波の寝顔って可愛いな〜見惚れそう・・・ってそんなこと考えてる場合じゃない・・・お、起こさなきゃ・・・)

「あ、綾波〜綾波さ〜ん」

シンジはレイの耳元で囁く。

「う、う〜ん・・・」

(良かった〜起きた〜)

「あ、シンジくん。おはよう」

どうやら何もわかっていないらしいレイは普通に挨拶を交わす。

「『おはよう』じゃないよ。どうしてこんなところで寝てるの?」
「だって一緒に寝るんでしょ?」

(い、一緒の意味が違う・・・)

シンジは「一緒の部屋で寝る」と考えていたようだが、レイはユイの言葉をそのまま信じてしまったようだ。


「あ、あのね・・・一緒の布団で寝る・・・じゃなくて一緒の部屋で寝るって意味で言ったつもりなんだけど・・・」
「いい。シンジくん、温かいから」
「へ〜僕って温かいんだ〜ってそんなことどうでもいいから!」
「ご、ごめんなさい・・・」

レイは顔を真っ赤にして俯く

(かわいいな〜・・・ん?)

シンジはふとドアを見る。すると、半開きのドアから人影が見えた。

人影はシンジの視線に気付くと姿を消した。

(母さん・・・本当にどこまで嵌める気なんだ・・・)

その後もシンジはさめざめと泣いた。




続く






あとがき


「アスカをどのように扱おう」という考えから第五話に入り、「ミサト同様に扱えば不幸にはならないかな・・・」と考え、当初半年のドイツ帰国の予定を3日に変更して、アスカを返すことにしました。

流石に何話もいないというのもあれなので七話からは話に入れようと思っています。

アスカの設定は
二人(シンジ、レイ)の良いからかい役・・・つまりミサトと同じような設定ですね。
ですが、この話ではミサトの出る幕はあまりないと思うので・・・

がんばってツッコミまくれ!アスカ!


・・・と、言うような感じですが・・・

ぐだぐだになってきたのでこれで終わりにしたいと思います。

・・・次回のレイは最初っから甘えモードです。

第六話から抜粋
「・・・甘えてもいい?」
さて、何をするのでしょうか^^;

では・・・