若き恋の物語

11月12日(金) 第壱中学校


もうすぐHRの開始のチャイムが鳴り響くころであった。いつもどおり学校に来たシンジ達。教室には遅刻ぎりぎりだがほぼ同時に来るレイとマサト以外全員いた。
アスカはドイツにいる両親のところへ帰っている。なんとも急に両親の具合が悪くなったらしく、半年は戻れないという。

『...トイレにでも行こうかな?』

シンジは立ち上がり、廊下に出た。そこはいつも通り変わらない風景のはずだった。
「おはよう!シンジくん!」
「お、おはよう。綾波さん...」
『あれ?いつの間に制服買ったんだろう?昨日とは打って変わってる...』
「せ、制服買ったんだね...」
自分の中学校の制服を着たレイを前にして緊張するシンジ。
「うん。けど、正確に言えばもらったんだけどね」
「も、もらった?誰に?」
シンジに聞かれたレイは周囲を見回した。結構人が多い。
「......マサトくん」
レイはシンジに近づきそっと囁いた。シンジは動揺しないわけはない。

「ま、マサトが?」
「うん...」

気がつけば二人は人ごみから離れてあまり人気のない所に二人だけでいる。
「けど、どうしてマサトが?」
「実はね、私とマサトくんって、転校初日から...同じ家で暮らしてるの...」
「え、ええ!?」
『やっぱり、驚かないわけないわよ』
「あのね、このこと、誰にも言わないでほしいの。騒がれると...その...」
「わかったよ。けど、どうして僕には言ったの?」
「それは...シンジくんって口固そうだし...」
「固いってわけじゃないけど...ま、これは誰にもいえないことだね。誰にも言わないよ。約束する」
シンジは今日始めて笑顔を見せた。


第四話  ユイとマサトの変な企み


「シンジくん」
「何?」
「...今日、一緒に帰らない?」
「はっ!はい!?」
シンジ、再び動揺。

「だって、一人で帰るとさびしいの...駄目なの?」
レイ、必殺技発動。
『か、かわいい...こんな目をされて断ったら嫌われるよ』
「わかったよ。一緒に帰ろう綾波...」
レイはシンジの言葉に変化を感じた。
「シンジくん、今『さん』付けなかったね」
「あ、ごめん。つい...」
「いいわよ。私自身『さん』で呼ばれるの慣れてなかったし、みんなだって『綾波』って呼んでるのにシンジくんだけ『さん』で呼ぶなんて不自然よ。だから......これからそのように呼んでくれる?」
「う、うん...」
「じゃ、もう一度私の名前を呼んでみて?」
「綾波...」
「ふふっ、ありがと」
『なっ、何がだよ...』
シンジは心の奥底でそのように思っていたとかいなかったとか...

「そういえば...アスカがいないみたいだけど...」
「アスカだったらドイツに帰ってるよ。両親の具合がそろって悪くなったからって。半年は戻れないって言ってたよ?」
「そうなの...」
レイは表情を暗くした。
『無理もない...か。ここに来て初めての友達だったからね...』



10:04  ネルフ本部



「はぁ、早くあがるとはいえ、なんだか最近疲れてるよな〜」
マサトがふと独り言を漏らす。すると...
「マサトくん、ちょっといいかしら?」
「ユイ博士、どうかしたんですか?」
「うん、ここで話すのもなんだから食堂に行きましょ?」

ネルフ本部 食堂

「話って何ですか?」
「いや、今、アスカちゃんがいないでしょ?」
「ええ、ドイツに戻っているんですよね?」
「そうね。今までシンジってずっとアスカちゃんを頼りにしていたのよ。けど、半年はいないからこれを機にもう少したくましくさせようかと思ってるの。いま、あなたの家にレイちゃんがいるでしょ?レイちゃんをアスカちゃんのいない間こっちで預かってもいいかしら?」
「いいですよ。多分あいつは少し喜ぶと思いますし」
どうやらマサトは納得したようだ。
「え?それってどういうこと?」
ユイは何のことだかわからないようだ。
「...ほかの人に言わないなら言ってもよろしいですよ」
「ええ、言わないから教えてくれる?」
「そのですね...あいつ、どうやらシンジのことが好きになったらしいんですよ。あいつが認めたので間違いないですよ」
「え、そうなの?なんかシンジも最近になってからレイちゃんに特別な感情を抱くようになっているのよ...」
そのユイの言葉にマサトはあることを思う。
「それって...」
「あ、わかる?」
「なんとなく...」

『両想いなのか?』


13:52  生徒昇降口付近


「じゃ、帰ろうか?」
「うん!」
HRが終わった瞬間、ほかの人から見られないように急いで教室を出てここまで走ってきた。
二人は黙って歩き出す。

結構長く歩いた。だが、二人の間に会話はない。
重苦しい空気を破ったのはレイだった。

「シンジくん?」
「なに?」
「私達...友達よね?」
「も、もちろんだよ...それどころか、親友...って呼んでも良いんじゃないかな?」
「親友?」
「うん...」
『しまった!せっかくいい空気にしようと思ったのに自分のせいでまた元通りじゃないか!ああ、どうすればいいんだ!...そうだ!』

シンジはあることを考えた。
「あ、綾波...」
「どうしたの?」
「その...僕の家に来ない?」
『よく言った。僕!』
シンジは心の中で小さくガッツポーズをしていた。
「...いいの?」
「いいよ!綾波がさっき一人で帰るのが寂しいって言ったように、僕だって家でずっと一人でいるのは寂しいんだよ。それに...」
「それに?」
「僕達は、親友...なんだから...」
「シンジくん...そうね。私達は親友よ」
「じゃ、家に帰ったらあの公園で待ち合わせね」
シンジは近くの公園を指差した。レイは静かに頷いた。
が、この必要が一切なくなることをまだ知らなかった。

その後も歩いていたが、ずっと二人が歩いてきた道は同じだった。

『あれ?ここからってひとつも家がなくて...しかもマンションまで一本道だよね...もしかして...』
「綾波って、どこに住んでるの?」
「あのマンションよ」
『あのマンションって...ひとつしかないよね...同じマンションなの?いや、そんなはずは...』
いくら鈍感なシンジでも、同じマンションに人が引っ越してきて気づかないことはなかった。
「シンジくんはどこに住んでるの?」
「そ、そのうちわかるよ」
「え?」
「と、とにかく歩こう」
「うん...」


なんだかんだでマンションの前についてしまった。


「シンジくんってここに住んでるの?」
「そうだけど...綾波も?」
レイは黙って頷いた。
「じゃ、待ち合わせなんてする必要ないよね?」
「ふふっ、そうね」

『あとあと気がついたんだけど、僕の家は、綾波の家の真下だったんだ。僕は相当鈍感だ』


シンジ宅


「あら、お帰り」
「か、母さん、今日はずいぶんと早いね?」
「そうね。今日は早番だったからね」
「あ、そうだ!今日これから綾波が来るんだけど...」
シンジは思い出したことを言う。するとユイの表情が明るくなった。
「え、そうなの?だったらシンジが迎えにいってレイちゃんの荷物はこぶの手伝いなさいよ」
「へ?」
もちろんシンジは何のことかさっぱりわからない。そのことを知っているのはマサトとユイだけだからだ。
「レイちゃん、今日からここに住むから」
「へ〜そうなんだ〜...え、ええ!?」
「そんなに驚いてどうするのよ?レイちゃんに聞こえるわよ」
『あっ!』
シンジは改めて真上がレイの家だと思い出す。
「...けど、どうしていきなりそのようなことになったの?僕は別に...」
「別に何よ?本当は嬉しいくせに〜母さん知ってるのよ。あなたが...」
「わっ、わーーー!!言わなくて良いよ!」



マサト宅


「ん?」
「どうした?」
「いや...いま下から叫び声が聞こえたような...」
「気のせいじゃないのか?」
「そうかな...」

レイとマサトは少し離れて休んでいた。

「あ、ひとつ報告」
「なに?」
「ユイさんからの提案で『今』からお前はシンジの家にすむことになるから」
「い、今!?」
「やっぱりその反応か」
「けど、どうしてそんなことを...」
「詳しいことは後からユイさんから聞いてくれよ。荷物まとめとけよ。もうすぐシンジが来ると思うから」

「シンジ」という言葉を聞いてレイはあわてて荷物をまとめ始めた。


一方シンジは...


「...けど、綾波が寝る部屋なんてないよ?」
「そうね...私の部屋は極秘事項がいっぱいあるから...シンジ、あなたの部屋で一緒に寝なさい」
「ど、どうして!?」
「しょうがないじゃない。同じ布団で寝るよりはまだましよ?」
「...わかったよ...」


そして...


「はぁ、どうして綾波と一緒に住むことになったんだろう...そりゃ嬉しいけど...嬉しいけど...」
『好きって何なんだろう?』
気がついたらレイ(マサト)の家の前まで来ていた。
『...考えても仕方ないか』

「綾波〜いる〜?」
「い、今行くわ!」

30秒待ってレイが出てきた。

「あ、あの...」
「?」
「よろしくね。シンジくん」
「うん...」

暫くの沈黙。

「い、行こうか...」
「うん...」
「行ってきな〜」

その様子をマサトは見送った。

「...ユイさん、今そちらに向かっています。後はよろしくお願いします」
『わかったわ。後は任せてね♪』

シンジ宅

そんなわけでシンジの家に来たレイ。動揺している。当たり前のことだが。

「シンジ、あのことはあなたが言うのよ」
「わ、わかってるよ...あ、あのさ...この家あまり部屋がないんだよ...母さんの部屋には極秘事項の書類がたくさんあって入れないから...その...夜は、僕の部屋で一緒に寝ることになるんだけど...それでも良いかな?」
レイは再び動揺する。もちろん、当たり前のことだが。
「...う、うん...」
「ごめんね。変に迷惑かけて...」
『綾波(シンジくん)と一緒に寝る...こんなチャンス二度とないよ(わ)この家が狭いことに感謝感謝♪』

内心では二人とも嬉しかったとか。



続く

あとがき

作者です。第四話をお届けしました。
えー、今後の物語の進行上、アスカを消しました(爆)
私のLRS魂が真っ赤に燃えるのです^^;
そして何かと短めな第四話、これもこれからの話に大きく関わる事だろうと思います。
だって同居ですよ^^;いくらユイの「企み」だとしても大きすぎますよ^^;
と、書き終わった後に思います。ですが、これを変えてはいけません。
なんせこの段階で「両想い」が確定していますので^^;
後はいつこれに気づくか...という問題になります。
引っ張ります。大きく引っ張ります。最悪終わりが弐拾話になったりして...
もちろん、いつまでも優しいままではいけませんよ。少しは問題を作らなければ^^
例えばバレンタイン。一工夫でレイがシンジに説教したり...
ま、これはあくまでも一例です。いろいろ考えればネタの数は無限大です。
じゃ、次回の始まりはその日の夕方という設定からと予告して...
またお会いしましょう。