若き恋の物語


高さ100メートルを超えると思われる光の巨人が現れたとき、シンジは家の窓からその光景を見ていた。

「あれは...夢で見たものそのまんまじゃないか...」
一人つぶやくシンジ。その瞬間、巨人は跡形も無く姿を消した。
夢にも思えたことだった。だが、テレビのニュースを見る限り、どこのチャンネルも巨人のことばかり。

『夢じゃないんだ...けど、いったい何が...?』



翌日...


「なぁ、すごくなかったか?昨日の光の巨人!」
ケンスケがうれしそうに話す。
「俺深夜の特番も見たんだけどさ!」
「...ケンスケ、僕が今何やってるかわかる?」
「数学のプリントだろ?」
シンジは宿題の数学のプリントをといている最中だった。
「...ふぅ、ねぇ、アスカ、アスカも昨日のあれ、見たの?」
隣の席にいるアスカに話しかけるシンジ。
「そんなの信じてるの?あんたも子供ねぇ...あんなの目の錯覚よ...あれ?」
「どうしたの?」
「ペンケース忘れちゃったみたい...」
シンジは自分の筆箱からシャープペンを一本取り出した。

「僕の貸してあげるよ二本持ってるし」
「シンジ...」
「あ...じゃ、俺も!」
ケンスケがあわててシャープペンを取り出す。
「2本もいらないって...じゃ、芯だけ頂戴。ありがと、二人とも」
「ど...どういたしまして...!」
ケンスケはなぜかうれしそうだった。
『ケンスケ、どうしたんだろう...』
ふとそう思ったシンジ、アスカはレイがいない机を見ていた。

「レイって今日休みなのかなぁ...」
「レイ!?」
驚いて目を丸くするシンジ。
「なっ、何よ...」
「名前だ!名前で呼んだ!」
「名前で呼んじゃ悪いの?」
「いや...そうじゃなくて...仲良くなったんだね。よかった〜」
アスカは少し表情を暗くした。
『シンジ君のことが好き...』
先日のレイの言葉を思い出した。
「シンジってさ...レイの事どう思ってるの?」
「え?」
「べっ、別にいいのよ。あんたがレイのことが好き...」
言いかけたところでアスカは自分の口を塞いだ。
『やばっ!』
「す!!何を言うんだよアスカ!!」
「ならどう思ってるのよ」
「なんというか...危なっかしくて放って置けない...友達だよ...」
なぜか顔が赤くなっているシンジ。

「そういえばさ、アスカって誰か好きな人とかいるのか?」
話に混ざりきれずにいたケンスケが聞く。
「やだなーケンスケ。アスカに限ってそんなのないない!」
シンジがきっぱりと否定する。
「どうしてあんたがそんな事言えるのよ!」
「アスカとは10年も一緒にいるんだから、何かあったら僕が一番最初に気づくと思うんだ」
「......バカ!!」
怒り出すアスカ。シンジとケンスケはそれを黙ってみていた。


放課後...                        


「えー、今日は午前中で終了ですが、寄り道はしないで、避難場所の確認をしながら帰るように。以上」

「はー...根府川のホームルームいつも長いって...」
「ね...」
「シンジ、今からうちに来ないか?新しいソフト買ってさ」
「先生の話聞いてたろ...ちょっと図書室に付き合ってくれないかな?」



そして...



「毎週来てるのか?」
「いつもはカヲル君と来てるんだけど...今日は休みだったし...」
「そういえば今日はいなかったな」

静かな時が過ぎる...

「アスカってさ...好きな人いるんじゃないのか?」
「え?」
ケンスケが突然聞いてくる。何も答えられないシンジ...
「いや...俺、先に帰るわ」
そういったケンスケは部屋から出て行った。
『どうしたんだろう...ケンスケ...もしかして...』
シンジはある予感をした。


数分後...


「あれ?」
教室に戻ったシンジは壁に寄りかかり床に座っている少女を見つけた。
「アスカ?」
「げっ!」
シンジを見てアスカはあわてた。
「げっ!って何だよ...体調悪いの?」
「どうしてよ...」
「顔、赤いよ」
「嘘!」
アスカはますます慌てる。シンジはアスカの左に座った。
「な...何よ...」
「顔色よくなるまで一緒にいるよ。どうせ家近いんだし」
「ありがと...」
『サイテ〜何もこんなときに会いたくなかった〜!!』
アスカは俯き気味にそう思った。

「ケンスケじゃないけど光の巨人って何なんだろうね?」
「知らないわよ!そんなの」
アスカはシンジが手にしている本を見た。「およげ!スイミー」と表記されている。
「そういうの小学校のうちに卒業したら〜?」
「うるさいなぁ!僕の勝手だろ!」
「見せてよ」
「今馬鹿にしただろ〜?」
二人で本を見る。
「結構きれいなのね」
「青の絵の具がきれいに使われているんだ」
「ふ〜ん...」


そして...


「うわぁ!日差し強いわぁ!日焼けしちゃう!」
「女子ってみんなそういうよね。クリーム塗ってるけど面倒じゃないの?」
「日焼けしてそばかすできるくらいなら塗るくらい平気なの!見て!この玉のお肌!」
アスカは自分の顔を指差して言う。
「自分で言うかな〜」
「あんたは言わないとわからないでしょ?」
「......はぁ...おなか減ったぁ...」
「じゃぁ、コンビニ行こうよ!部屋でクーラーガンガン掛けてさ!」
「わかったよ」
「じゃぁ、急ぐわよ!」

少年と少女は手をつなぎ歩き始めた。誰もいない昼下がりの下り坂を軽快な足取りで降りていった。


第参話  揺れる想い


同日13:00 ネルフ本部


『本日13:00をもって、第一種警戒態勢を解除します。各自通常体制に切り替えてください。繰り返します...』

放送が管制室内に響き渡る。あちこちから徹夜で警戒していた職員のため息があふれる。
もちろん、レイも


「お疲れ様、レイ」
「葛城先生」

プラグスーツ姿のレイにミサトが話しかける。

「あの巨人の正体はわかったのですか?」
「それが、まだわからないのよ。わかったらすぐに伝えるから。シャワー浴びてきたら?」
「はい」



女子更衣室 シャワールーム



レイが一人でシャワーを浴びていた。その表情はどうも暗かった。
『学校...行けなかった...。シンジくんに会えなかった...』
レイの脳裏には普段どおりのシンジの姿が駆け巡っている。
『後どれくらいここにいられるんだろう...』



『......好き......』



第三新東京市 郊外



ネルフから出たレイは家へ帰る道を歩いていた。誰もいないはずの道だったが、レイの視線にある一人の少年が入った。



「渚...くん?」
「今までネルフで待機だったんだ。綾波さん」
「う、うん......」
レイは照れながらうなずく。

『どうして...そのことを知っているの...?』
思考を変え、早くこの場を立ち去りたいと思ったレイはそのまま歩き出した
「徹夜だったの。家に帰って休むから用があるなら明日学校で...」
「もっと、騒ぎが大きくなれば...転属もなくなってシンジくんと一緒にいられる」
「え!?」
カヲルの言葉にレイは戸惑う。

「そう思ったんじゃない?」
「なっ、何を言い出すの!?私、そんなこと思ってない!」
頑固を持って否定する。

「......思った。君は望んでいるんだよ。波乱をね」
「あなた...何者なの?敵なの?見方なの?」

暫くの沈黙。

「僕は、シンジくんの味方だ」
「...!」
「シンジくんだけの...味方だ」






その日...レイは夢を見た。

自らがまだ小さかったころのことだった。



「レイ、早くいらっしゃい」
自分を呼ぶ女の許へと駆け寄ろうとする。しかし、足がもつれて転んでしまう。
「レイ、起き上がれるでしょう?」
ゆっくりだが、レイは起き上がる。
「よくできました。レイ」
女はレイの頭をなでる。レイの表情が緩む。しかし、その表情はすぐに暗くなった。

「今の脳波の測定を...」
「前回のモニターから言うと...」
「もう少し発達していたと思っていたのだが...」


レイの瞳から涙がこぼれそうになる。

「...行こう」
突如目の前に現れたシンジが手を差し出す。レイはその手に手を伸ばす。

気が付いたら朝だった。ここで自分が夢を見ていたことに気付く。そして昨日のカヲルの言葉を思い出す。


『君は望んでいるんだよ。波乱をね』


『...そんな事...そんなことで...本当にずっと一緒にいられるの?』

「...おい」
「え?」
レイは自分を呼んだマサトを見た。

「昨日帰ってきてからどうも暗いようだけど...何かあったのか?」
「それは...」

『望んでいるんだ。波乱をね』

レイは再びカヲルの言葉を思い出す。
『そんな事いえないわよ...』

「ううん...なんでもない...」
「なら、いいんだけど...あのな、一応一緒に暮らしているんだからさ、何かあったら相談してくれよ?力にはなるつもりではいるからよ」
「うん...ありがと。心配してくれて」
「じゃ、俺は先に学校行ってるぞ」
「え?学校?」
マサトは時計を指差した。ふと見れば転校初日に起きた時刻と全く同じ時刻だった。

「ちょ、ちょっと!早く起こしてよ!」
「あまりにも気持ちよく寝てるから起こすのが申し訳なくて」
「そんなの関係ないわよ!」
「ま、いいけど...それと...」
「何よ?」
「......いや、やっぱりいいや」
「もう!」

マサトの表情が緩んだ。

『やっぱりこいつはこうでなくちゃな。鈍感なシンジはいつこれに気付くのだろうか...』



12:42  市立第壱中学校



「......そんなわけで、昨日から研究所付属の先生は殆ど学校に出られない状態で〜す!よって今週は午前授業で、それにあわせて購買部のパン販売はお休みね〜」
「「「え〜」」」
「はぁ...」
クラスからいろんな声が聞こえる中、レイはため息をついていた。
「午前だけかぁ...折角出てきたのに...」
レイは斜め右にいるシンジを見た。
『......二日ぶり...』
「はい!今日はここまで!委員長!」
「起立!礼!」
『あ゛っ!』
レイはこのとき思い出した。


『どうしよう!まだシンジ君と一度もしゃべってない!何か...何か話さなきゃ...』

「し...」
レイがシンジの名を呼ぼうとした時だった。
「シンジ君、今日これから用事ある?」
「カヲル君!ううん。別にないよ」

『先越された!』

「だったらこれから音楽室に付き合ってくれないかな?」
「ちょっと寄る所があるけどそれからでもいい?」
「いいよ、誘ったのは僕だたらさ」
シンジはカヲルの後ろにいるレイの姿を見つけた。

「綾波さん?どうしたの?何か用だった?」
「う、ううん!なんでもないの!」
「そうだ!綾波さんもこれから音楽室に来ない?」
「えっ?」
シンジの誘いにレイは戸惑う。
「いいよねカヲル君?」
「いいよ。聞いてもらってアドバイスとか欲しいし」
「で、でも...私...」
「あっ、時間なかった?ごめんね。どうしてもって訳じゃないから...」
「う、うん...誘ってくれてありがと...」
『どうして...?』
「じゃ、行こうか」
「うん」
「また明日ね、綾波さん!」
「うん!また明日!」


レイは教室を出て行くシンジとカヲルの姿を見ていた。

『どうして行かなかったの?行けば良かったのに...けど、渚くんが...』

「ねぇ」
レイは声のする方向を見た。
「アスカ...」
「あんたこれからヒマ?」
「え?」


数分後  生徒昇降口付近


「ちょっとアスカ!こんなことしなくてもいいわよ!」
「何言ってるのよ!折角のお祝いなんだから少しは喜びなさいよ!」
「え?洞木さん、何かしたの?」
レイは小首を傾げてアスカに尋ねる。
「ヒカリ、昨日告白したの!」
「え!洞木さん、誰に告白したの!?で、どうなったの?」
驚いてヒカリに聞くレイ。

「お祝いって言ってるんだから結果はわかるでしょ?これでめでたくトウジとハッピーエンドよ」
「あ、アスカ...」
ヒカリは顔を赤らめている。とても恥ずかしそうだ。
「お...おめでとう!...でいいの?こんなときって」
「ありがとう。綾波さん」
ヒカリが礼を言う。

「何よ。改まっちゃってさ......まぁいいか、さっ、行くわよ!ヒカリの恋愛話たくさん聞くんだから!」
「ちょっと!勝手に決めないでよアスカ!」
レイは一人校舎を見ていた。

『音楽室から何か音が聞こえる...シンジくんのかな?』
「レイも早く〜!」
アスカの呼び声が聞こえる。それでもレイは少しの間校舎を見ていた。

「......うん!」
レイはアスカとヒカリを追いかけるように走り始めた。



そして...



「はぁ、今日は楽しかった!」
「じゃ、またね!二人とも!」
「「バイバイヒカリ(洞木さん)!」」

手を振ってヒカリを見送るアスカとレイ。

「...洞木さんうれしそうね」
「うん...」
アスカの表情はどこか暗い。

「気持ちを伝えるのって難しいのかなぁ...けど...私は伝えてみたい。伝えてあのように笑ってみたい...アスカも伝えたいよね?」
アスカの反応は意外なものだった。
「そんな事いっても...自分が望んでいない返事が返ってきたら、次の日からどんな顔をして会えばいいのよ。だから、あたしはこのままでいいの」
「うん...」

少女たちは手を取り合う。

「怖いね」
「うん...」

「「やり直しなしの一度きりだからね」」



18:42  マサト宅



「ふぅ、ただいま〜」
マサトが家に帰ってくる。
「おかえり...ねぇ」
「どうした?」
「その...壱中の制服って今から作ることできるのかな?」
珍しいレイからの頼み事であった。
「ああ、それなんだけどな...」
マサトはバッグから何かを取り出した。
「ほら、開けて見ろよ」
「うん...」
レイは包みを開けた。その中にはまた包みがあったが「市立第壱中学校女子生徒用制服」と表記されてあった。
「これって...」
「ああ、いつまでも違う制服だとお前もいやかなぁ...と思ってさ。予算も余ってるから買ってきたんだよ」
「マサトくん...うれしい...」
レイはおもむろに立ち上がりマサトに抱きついた。
「え...」
『『い、意外すぎる...』』

そのとき、マサトとレイはうれしいようで辛いようで...どうも複雑なときをすごしたとか何とか...



我に返ったマサトはとりあえずレイから離れる。

「と、とにかく、一回着てみろよ。サイズ、とりあえず合わせてきたから問題ないと思うけど...」
「う、うん...」
数分後...
「マサトくん?」
「わっ!な、何だよ...」
脱衣所から顔を出すレイに驚くマサト。
「着替え終わったけど...」
「じ、じゃ、出て来いよ...」

レイは脱衣所から出てきた。マサトは毎日ほかの女子の制服姿を見ているのでそちらに関しては何等問題はなかったのだが、レイの場合のみ違っていた。
ほかとは違う。何か特別なものを感じる結果となった。

「ど、どうかな...?」
「どう?って言われても...」
『いや、素直に「とても似合ってる」といえない俺が恥ずかしいって!』
マサトはどぎまぎしている。
「マサトくん?」
レイは上目づかいをして小首をかしげてマサトを見つめる。
「あっ、いや、その...」
『まずい、このままじゃシンジだ。ああ〜いったいどうすれば...』
「と、とても似合ってるよ...」
『何とか言えた〜けど、いったいどうすればあのような表情ができるんだよ』

「けど、これでお前ももっともてるようになるんじゃないのか?」
「そう?」
「お前もアタックできるようになるって」
「へ、変な事いわないでよ...」
「だってよ、お前がシンジの事好き...」
『やばい!言い過ぎた!』

ここまで言ってマサトは自分の失言にようやく気付いた。今のレイなら何をしてもおかしくない。マサトは覚悟していた。

「......なんでわかるの?」
「あ、当たり前だろ!この一ヶ月一緒に暮らしてきてなんとなく勘が芽生えたんだよ!」
「そう...」
『た、助かった〜』

結構マサトはほっとしていた。だが、まだ自分の気持ちには気付いていない。ある意味、シンジと同類に鈍感なのかもしれない。



その日のレイの日記にはこのように記されている。



今日、マサトくんに壱中の制服をもらった...もらったというより買ってもらったって言ったほうがいいのかな?
あまりにもうれしくて、ついマサトくんに抱きついた...互いに気まずい時を過ごしたと思う...
マサトくんは制服に着替えた私を見て「とても似合っている」って言ってくれた...
本当にうれしかった。思わずもう一度抱きつきそうになった。
マサトくんは、私がシンジくんの事が好きだということを分かっていた...誰から聞いていたのか知らないけど、「おそらくこの一ヶ月一緒に暮らしてきての勘だと思う。」って言っていた。マサトくんの勘は鋭いってことがわかった

これで碇君は私をどう思ってくれるのかしら...?




続く

あとがき

今回は前半がシンジ、後半はレイ中心のお話となり、最後にマサトが加入して...といった内容です。

だんだん漫画から外れています。レイは誰と幸せになればいいのか...

もはや漫画の内容とはかけ離れています。もう、「終わりよければすべてよし!」といった考えで書いています。漫画とはまったく逆の展開になる可能性も...限りなく高いです。MAGIも99,999999パーセントの確立でそうなるといっているので...

大体たった数日の間で気持ちって変わるものなのか?と思えてきますが、進行上仕方のないことです。

次の話からアスカは当分いません!彼女はドイツに流します!(ごめんなさい、本当にごめんなさい)

もうここからは漫画は参考にしか使わず、ほとんどオリジナルでいきます!

...となる使徒の出現は絶望的?それはうれしいのかな^^;

エヴァは存在だけ。ネルフも存在だけ。アダムも存在だけ...


楽だ^^;

では...