「NERV...ですか?」
「そうよ」
「どうしてこんなことをするのですか?」
「それは言えないわ。後にわかるわよ」
「そう...ですか...」
シンジはなぜか焦っていた。
「じゃ、ちょっと質問に答えてくれないかしら?」
「はい...」
「就寝時間は何時くらい?」
「10時くらいです...」
「飲料水は一日にどれくらい飲む?」
「あまり飲まないです...あの...それって何か意味があるんですか?」
一通り質問の回答を終えたシンジがリツコに聞く。
「中学生を対象にした適性検査の一環なの、両親から聞いていないかしら?」
「聞いてないです。母さんも今朝早く出て行ったし...父さんはここの所つめているから...」
「そう...シンジ君知ってる?あなたのお父さんとは所内では同じ担当なの」
「は?」
(突然何を言い出すんだろう?)
シンジはふとその事を疑問に思っていた。
「私ね、あなたのお父さんが好きなの。びっくりした?」
「え......」
(びっくり...しました...)
第弐話 変わる心 変わらぬ心
校庭にて...
リツコの言葉を聴いてから一日中シンジは唖然としていた。授業にも熱が入らず体育の授業も鉄棒に身をとせてただ前を見ているだけだった。
「なんやなんや!このえっちぃ!何女子の体育に見とれとんねん!」
その様子を見たトウジがやって来る。
「えーですなえー眺めですな。やっぱブルマはサイコーですわ」
「トウジ...あれ?ケンスケは?」
いつも一緒にいるケンスケの姿がないことについてたずねる。
「あいつなら保健室に呼ばれとんねん。わいも昼休みに呼ばれてな...ほかにも呼ばれてな、例えば...」
トウジが指差す方向を見るとカヲルがいた。
「僕が終わった後に鈴原を呼んだんだ」
「うちのクラスだけ?」
「それに男ばっかやし、ムッサイのう...」
「そうでもないよ。僕を呼びにきたのは...惣流だったし」
「あんなやつを女子と区別してもしゃーないわ」
(言われてみればそうかも...)
シンジは心の中でそう思っていた。
10分後...保健室
「適格者の検査はすべて終わってますね。赤木先生...いや、赤木技術開発部副部長といったほうがいいのかな...」
「すでに全員分終わっているわ。後は放課後にシンクロテストだけよ...けど...あなたのことがシンジ君たちにばれるのは時間の問題よ」
リツコとマサトが話をしていた。
「それを承知の上です。仮に自分から言うとしたら、前々からNERVにかかわりのある綾波に話すつもりでいます。彼女ならきっと誰かにばらすことはないでしょう」
「それもそうね...けどいずれみんな知ることよ。そのことも考えておいてね、沖一尉」
「わかっています。学校では沖マサト、研究所内では...一応一尉としていきたいと思っています」
マサトはNERVの一尉であった。
「それと...これはさっき副司令から連絡があったんだけど...レイはあなたの家に住ませるって事になったらしいわ」
「そうですか...ってええ!?」
「上層部の決定には意見はできないわ。わかっているわね?」
「わかっています...俺も一人暮らしなんで、いまさら一人増えても問題はありませんから...」
「くれぐれも変なことはしないようにね...ってミサトからの伝言よ」
マサトは呆然としていた。
「葛城二尉...あなたは何を考えているんだ...ま、いいです。で、いつ来るんですか?」
「今日のテストが終わったらすぐよ」
「これまた仰天...ますます怖くなってきたぞ...」
それと共にマサトには嬉しさも少しあった。
同時刻、校庭
「シンジ、あんたこの後何も用事ないよね?」
「え?どういうこと?」
「さっき呼ばれた人は放課後にNERVの研究所に集まることになっているんだ」
理解ができないシンジにカヲルが教える。
「良かったら一緒に行こ!」
「え...ええ!?」
「約束だからね!」
アスカはどこかに走っていった。
「勝手に決めるなよ...カヲル君はどうするの?」
「一人で行くよ。惣流に絡まれると厄介だし」
40メートルはなれたところでは...
「洞木さん、NERVの研究所ってどうやっていくの?」
レイがヒカリに研究所への生き方を聞いていた。
「え、えっと...私はよくわからないんだけど...碇くんかアスカならわかるわよ。あの二人の両親は研究所の職員だし...」
その言葉を聞いたレイはシンジとアスカを天秤にかけていた。
(惣流さんとはうまく付き合えないかも...さっきのこともあるし...それに碇くんは優しそうだから...やっぱり碇くんかな?)
一方シンジ達は...
「あ、チャイム10分前だ。じゃあシンジ君、先に行くよ」
「わかったよ」
カヲルが戻り、シンジは一人になる。先ほどのことを思い出していた。
(私、あなたのお父さんのことがすきなのよ)
(どうしてそんなことを考えたんだろう...それに...あんなところに行っても...会えるわけじゃないし...)
シンジがそう考えていたときだった。
「碇くん」
「綾波さん...」
「みんな行っちゃったよ。碇くんは行かないの?」
「行くよ」
(苦手だな...この子...)
朝のこともあったからそれもそのはずだろう。
「ふうん...碇くんも放課後に研究所に行くんでしょ?」
「綾波さんも呼ばれたの?」
「うん。惣流さんの前にちょっとだけ...」
「そうなんだ...」
(女子で呼ばれたのアスカだけだと思ってたら違うんだ...)
「洞木さんから聞いたんだけど...碇くんの両親って研究所の職員なんでしょ?」
「そうだよ...何回か入ったことはあるけど...別になんともなかったよ。面白いところもないし...みんな忙しそうだったし...」
「......」
「......」
二人の間にさめた空気が流れる。
((気まずい...))
「......じゃあ、僕は先にあがるから...」
「あっ!ちょっと待ってよ!」
戻ろうとしたシンジをレイが止める。
「なに?」
「あっ、あのね!私最近来たばっかりで、ここのことあまり詳しくないの!だからね...お願い!一緒に連れてって!」
「え?」
(困ったな...アスカになんて説明したらいいんだよ...)
その放課後...
アスカはなぜか上機嫌だった。
「アスカ、今日はすぐに帰るの?」
アスカも友達が問う。
「うん!今日はちょっと寄る所があるからね」
アスカが教室から出た瞬間、表情が険しくなった。
なぜならシンジの横にレイがいたからである。
「ど、どうしてこいつが一緒にいるのよ?」
「『こいつ』じゃないです。綾波です!」
レイも表情をこわばらせて言う。
「綾波さん越してきたばっかりでここのことあまり知らないんだって。だから一緒に連れて行ってほしいって...」
「冗談じゃないわよ!いやよ!せっかく少し寄り道して行こうと思ってたのに!!」
アスカが必死に反論する。
「惣流さん、惣流さん、惣流さんは場所知ってるんでしょ?」
「それは10年もいれば場所くらい...あ!」
「すぐ返すから!」
気がつけばシンジの手をとり走っているレイの姿をアスカは見ていた。
(う、うそ...あんな奴に...)
「お疲れ〜」
教室からケンスケが出てくる。
「ちょっとケンスケ!あんたも研究所呼ばれているわね!」
「そ、そうだけど...」
「一緒に来なさい!」
「なっ、何で俺がお前となんかと一緒に行かなきゃならないんだよ!」
「いいから来なさい!!」
ケンスケ...ご冥福を祈るよ...
一方シンジとレイはと言うと...
「ちょっ、ちょっと綾波さん!ストップ!ストップ!!」
まだ走っていた。するとレイは突然つかんでいた手を離した。
「わっ!」
顔から転んでしまったシンジ。
「ごっ、ごめんなさい!」
「え?」
突然謝るレイに驚くシンジ。
「その...私、あまり人と手をつないだことないから......」
ごみを払いとったシンジが手を差し出した。
「行こう。早く行かないとラッシュに嵌っちゃうよ」
「......うん!」
レイは笑顔いっぱいで答えた。
そして電車内...
「何かすごくいっぱいいるね...」
「うん...その...碇くん、体、くっついてるんだけど...」
「え?ご、ごめん...」
「碇くんが謝ることじゃないわ」
二人の間だけ、空気の流れが遅かった。まるで二人だけのために用意されたようであった。
そして...
用意された服に着替えたシンジは鏡の前にたっていた。
(これでいいのかな?変な格好だな...)
更衣室から出るとドアの前にレイが立っていた。
「私のほうが着替えるの早かったみたいね!」
「そうだね...とりあえずどこか行こうか?」
そして...自動販売機コーナーに来た。
「はい」
「ありがと」
シンジはレイにジュースをおごった。少し待っていると...
「あら?二人ともここにいたの?」
「「ミサト(葛城)先生...」」
「もうみんな来ているわよ、行くわよ」
ミサトに連れられ通路を歩いていると...
「お?シンジじゃないか?」
「マサト?どうして?」
反対側からマサトが歩いてきた。
「ちょっと訳ありさ...」
「沖くんも赤木先生から呼ばれたの?」
レイが尋ねる。
「いや、違う用事だよ...じゃ、葛城先生、先に戻るので後はよろしくお願いします」
「わかったわ」
再びマサトは歩き出した。
数分後、シンジたちを初めとする子供たちはカプセル状のものに入っていた。
『これから行う事は身体に影響は一切ありませんがもし気分が悪くなったらすぐに申し出てください』
スピーカーからリツコの声が聞こえる。
「テスト開始」
「シンクロ開始、ハーモニクスすべて正常位置」
5分位してリツコの口が開いた。
「あら?この子誰かしら?シンクロ率が高いわね...」
「レイだったら別に驚くことではないんじゃない?あの子はこの為に来たようなものだし...」
「レイではないわ。渚カヲル...レイを抜いてトップのシンクロ率よ」
モニターにカヲルの姿が映る。
「マヤ、カヲル君のシンクロ率は何パーセント?」
「...80パーセントを超えています...」
「「何ですって!?」」
その異常なシンクロ率に唖然とするミサトとリツコ。
「...調べておくわ。2、3日中にデータをまとめておくわ」
「頼むわ、ミサト」
そして...
「みんなお疲れ様、あなたたちにはこれから頻繁にここに来てもらうことになるからそのつもりでいてね」
「あの〜質問ええですか?」
「何?鈴原君」
「あのカプセルに人を乗せる実験って...車みたいなものを作ってるのでっか?」
「それに近いわね。けど、今は言うことはできないわ。その内わかるからそれまで待っていてね...じゃ、後は解散するわ」
それぞれ帰宅する中レイだけ残った。
「レイ、これが今日からあなたが住む家の住所よ」
「はい...あの...ここって他に誰か住んでいるのですか?」
「沖一尉が住んでいるわ。けど、すぐ慣れるわ」
ミサトはなぜかニヤニヤしていた。
「あの...慣れるってどういうことですか?」
「いや...それは...兎に角!早くこの家に慣れてね」
「はい...」
そして...
「住所は...ここね...本当にここでいいのかな...」
ドアの前で一人つぶやいているレイ。その頃...その10メートル後ろでは...
「ん?嘘!いくらなんでも早すぎやしないか?」
時計は午後5時30分を指していた。
「ま、いいか、一応俺の家だし、帰ろうっと」
「...沖くん?」
いち早く気配に気付いたレイ。
「ん?綾波か。どうしたんだよこんなところで立ち止まって」
「その...私が住むってなっている家がここなんだけど...」
「そうか...」
レイが立っているドアから家に入るマサト。
「え...え!?」
「ここなんだろ?早く入れよ」
「....ひとつ聞いていい?沖くんの親って...NERVの...」
驚きながら尋ねる。
「俺には親なんていないよ。ま、簡単に言えば...俺の階級は一尉。葛城先生や赤城先生より上の階級にいる」
「......つまり、研究所に関わりがあるってこと?」
「そういうことだな」
「それで...どうして私が沖くんの家に住むことになったの?」
「そればっかりは俺に聞かれても困るよ。俺も昼過ぎに赤木先生から『上からの決定』って聞かされたばっかりなんだよ」
会話が止まる...
「...と、とりあえず入れよ...」
「うん...」
一方その頃シンジはというと...
「アスカ!」
必死でアスカを追いかけていた。
「ごめん!約束破ったりして!」
「......シンジ、目、閉じてくれる?」
「え...うん...」
シンジが目を閉じた瞬間、アスカの強烈な平手が飛んできた。
「......すっきりした?」
「一応ね。けどあいつって見かけによらず強引ね」
「そうかも...けど、綾波さんも悪気はなかったと思うから...許してあげてよ」
「うん...」
それから3ヶ月のときが経過した。あの日にネルフに言ったシンジたちは月に一度ほどネルフの研究所に行くことになっている。
学校...
「ごめんねアスカ。本当は私だけでやるんだけど...」
「いいのよ。どうせ家に戻ってもやることがないし、暇つぶしには最適よ」
アスカとヒカリがプリントを持って階段を上っていると同じクラスの女子3人がカバンを持って階段を駆け下りてきた。
(あのカバン...どこかで...)
「アスカ?どうかした?」
様子がおかしかったアスカを見てヒカリが問いかける。
「ううん。なんでもない。行こっ?」
二人は教室に入った。誰もいないはずの教室に人影が見えた。
服装が違うためすぐにレイだとわかった。
「綾波さん...何やってるの?」
「洞木さん...惣流さん...」
「あれ?あんた、カバンは?」
レイの机にカバンがないことに気付くアスカ。
「探しているんだけど見つからないの...」
『そういえば...』
アスカはさっきの階段でのことを思い出した。下りてきた女子は3人だった。だが、カバンは4つあった。おそらくは...
『レイの...カバンなのかな?』
アスカはプリントを机に置いた。
「ヒカリ!先に帰ってて!」
「アスカ!」
ヒカリが呼び止める前にアスカは教室を出て行った。
その頃...
「暇だなぁ...非番の時はなぜ暇なのか...」
学校の外を歩いていたマサトは3人の女子が焼却炉で何かしているのを見つけた。
「あいつら...何やってるんだろう...?」
マサトは耳を澄ました。
「何これ〜いっぱい入ってるよ〜」
「みんな綾波のものでしょ?どうせ焼却炉に入れるんだから踏んじゃえ!」
レイのカバンから荷物を出して踏みつけていた。
「まずいな...」
マサトは携帯を取り出した。
「....諜報部か?沖だ。綾波レイの所有物が同クラスの女子生徒によって盗まれた。市立第一中学校の焼却炉だ。すぐ来てくれ」
携帯の電源を切るマサト。
『諜報部が来るまでの時間を稼ぐか...NERVを甘く見るとどんな目にあうか証明させてやる...』
マサトは焼却炉に向かう。
「おい、その荷物、どうしてこんなに汚れているんだ?」
教科書を一冊拾ったマサトが女子に向かって言う。
「それ?あの綾波のよ。一人だけ制服が違っていて目立つし男子としかと話さないからね。懲らしめてあげるのよ」
「なるほどね...知ってるか?あの綾波が何処に属しているのかを」
「知るわけないじゃない。それがどうかしたの?」
マサトはニヤリと笑った。どうやら諜報部が来たみたいだ。
「綾波は特務機関NERVに属しているんだよ。そしてそこに属す子供は最優先で保護される。仮にそいつの所有物を盗んだり紛失、焼却したりするとどんな目にあうか...」
「なっ、何よ...そんな事いっても...っ!」
3人の女子の周りは黒服に囲まれた。
「NERV諜報部のものだ。チルドレン私有物窃盗の疑いで君たちを連行する」
「お...脅しよ!こんなことは信じないわ!」
女子の一人が必死に反論する。
「信じる信じないはお前たちの勝手だよ。今回だけは見逃す。けど、また同じようなことをやってみろ。次は本当に連行する。その時はいつここに戻ってこれるかわからない...それが嫌ならさっさと帰れ!!」
女子は猛ダッシュで帰っていった。
「沖一尉、本当に連行しなくてもよろしかったのですか?」
「構わないよ。何も知らないやつには警告が必要だからな...戻っていいぞ」
諜報部はマサトに軽く一礼をして帰っていった。
「......さて、焼却炉から荷物を取り出すか...」
数分後...
「これで全部...かな?ん?」
アスカが走ってきたのが見えた。
「マサト?それって...」
「これか?綾波の荷物だよ。あの連中が盗んで焼却炉に入れてたんだ。もう全部取り出したけどな」
「そう...」
「悪いけど、俺今から用事があるからあいつのところに持っていってくれないかな?」
「わかったわ」
マサトはアスカがあっさり引き受けたことに驚いた。
「お前...あいつのこといやみに思っていなかったっけ?」
「まぁ...今後NERVであいつに関わることが多いと思うから少しくらい仲良くしないと...」
「それはいい!じゃ、これ、頼むぞ!じゃあな!」
アスカに荷物を渡したマサトは帰っていった。
そして...
「はい!...とはいっても見つけたのはマサトだけどね」
「マサトくんが...私...なんとなくこんなことになった理由がわかる気がする...」
「だったら早く直しなさいよ。ただ一人制服が違うから目立ってるのに...」
アスカが言い終わった瞬間、レイの表情が暗くなった。
「私...本当はここの制服作ってないの。ここのいる期間がそんなに長くないからって作らなかったの...」
「え...」
その帰り道...レイとアスカは並んで歩いていたが、会話が発せられることは全くない状態が続いた。
「惣流さん」
レイの口が開いた。
「あっ、アスカでいいわよ」
「じゃあ、アスカ...アスカは...シンジ君のこと、どう思ってるの?」
「どうって...」
アスカは突然何を言い出すのかと思っていた。そして、レイがこの後何が言うのか、そのことが脳裏をかすめた瞬間、胸が痛くなった。
「私は...シンジ君のことが好き...かもしれない...シンジ君と一緒にいると、胸がドキドキして...とても暖かくなるの。一緒にいてとてもうれしくなる...だから、私はシンジ君のことが好き...」
「......」
アスカは黙っていた。
「アスカは...どう思ってるの?」
「わ...私、こっちだから!」
レイとは全く逆の方角にあるアスカの家をめがけてアスカは走り始めた。
『シンジ君のことが好き』
その言葉が何回も脳裏をかすめる。
『やっぱり!そんな予感がしてた!けど...どうしてだろう...』
走っていたアスカは突然足を止めた。
『どうして...こんなにも胸が痛むの...?』
アスカが思った瞬間、辺りがいきなり明るくなった。
およそ100メートルくらいはある大きな人の形をしたものが現れたのだ。
「何よ...これ...!」
そのころレイは...
―――プルルルル...
「はい...」
『マサトだ。第一種警戒態勢が出された。すぐに研究所に来てくれ』
「わかったわ。今行くから」
レイは大急ぎで研究所へ向かった。
続く