レイ 想いの向こうに



綾波と出会って、今日で3日目・・・この3日間で結構なことがあった。あの衝撃的な出会いから始まった3日間は、風のように速く過ぎ去ってゆく・・・

その綾波に対して、特別な感情を抱くようになった。それはつい最近のことだ。
好き・・・というところまでは行かないけど、何か・・・暖かい気持ちが、彼女にはある・・・
最近の綾波を見ると何か言いたそうな表情をしている。

そして今日、物事が急速に進展する・・・
大波乱の一日が始まろうとしていた・・・



最終話  決意 シンジ一人称バージョン



「碇君、朝よ起きて」
「ん・・・ふぁ〜あ・・・・・・綾波、おはよう」
綾波に起こされて僕は目が覚めた。大きなあくびをする。綾波の笑った顔を見た。
「・・・・何笑ってるの?」
「え?・・・なんでもないわよ」
・・・笑っている以上、何でも無い訳が無いと思うのだが・・・それはなしとして、早くしないと遅刻しそうな雰囲気だった。


「碇く〜ん、置いていくわよ〜」
「まっ、待ってよ綾波〜」
もう・・・綾波は・・・
「遅刻したら碇君のせいよ!早く!」
なんて可愛いんだろう!


学校にて・・・・

「なんか今日も転校生が来るらしいぞ」
「本当?ケンスケは情報通である意味助かるよ」
「相田君の情報はよく当たるからある意味でも恐ろしいわね」
また転校生か・・・3日前に綾波が来たばっかりなのに・・・

キーンコーンカーンコーン

「チャイムだ!ミサト先生の怒る顔を見る前にみんな座れ〜」
ミサトさんは怒ると怖い・・・・僕と綾波がそれを一番よく知っている。まして、加持さんの話になると、怒りが爆発しそうだから・・・


「おはよう!さて、今日はすでに知っている人も多いけどまたしても転校生を迎えています、さ、入って頂戴!」


ガラガラ〜

「げっ!」
夢だ・・・夢に決まってる・・・なんでアスカがここに・・・・
「惣流・アスカ・ラングレーです!よろしく!」
「ヒューヒュー」
この後何を言われるのか、頭にはもう浮かんでいた。間違いなく「下僕」という言葉は出てくるだろう・・・

「碇君、何かあったの?」
「実は・・・・あの転校生、この間まで、僕の家にいたんだ・・・まさかここに転校してくるなんて・・・」
「けど見た感じ、そんなに悪い人には見えないけど」
「すぐ分かるよ」
そうか・・・・綾波は何も知らなかったっけ・・・


休み時間・・・・



「シンジ!久しぶり!」
「ひ・・・久しぶり・・・」
「陰気くさい顔して、せっかくこのアタシが声をかけているのに・・・ところで・・・・」
とほほ・・・やっぱりこうなると思ったよ・・・すると、アスカは綾波のほうを見た。

「この子は・・・・」
「あっ、綾波レイよ、・・・よろしく・・・惣流さん」
「『アスカ』でいいわよレイ。お互い、仲良くしましょ」
「うん!」

アスカの奴、わざと悪いところを見せないようにしてるな・・・

「で、レイとはどういう関係なの?」
「うん・・・・実は・・・・今一緒に暮らしているんだ」
「ほう・・・・で、どこまで行ったの?」
「どこまでって・・・変なこと聞かないでよ!」


・・・アスカ・・・この数日間で結構成長してる・・・


「ま、いいわアンタにはアタシの下僕になってもらうんだから!レイからあんたを取るなんてことは出来ないしね」
「・・・ねぇアスカ、それってどういうことなの?」
綾波とはまだそんな関係まで行っていないのに、僕の胸が熱くなった。

「あれ?あんた達、付き合ってないの?」
「あ、アスカ!僕と綾波はは今一緒にいるだけで、まだ、付き合うところまで入ってないよ!・・・(だけど・・・)」
僕は最後のほうであることを言いかけた。ここで言うのもまずいのでその言葉を飲み込んだ。
「碇君、どうしたの?」
「いや・・・なんでもないよ・・・」


「ひとつ気になることあるんだけど・・・一緒に暮らしているのになぜ呼び方が苗字なの?」
「え?」
「最低でも、シンジが「レイ」って呼んで、レイは「シンジ君」って呼ぶくらい出来ない?」
「で、出来なくも無いけど・・・そうでしょ?いか・・・・・・シンジ・・・・・・君・・・」
女子から名前で呼ばれるのはあまり慣れていなかったため、恥ずかしさがあった。

「明らかに僕のは恥ずかしいを超えていると思うんだけど・・・名前を呼び捨てだなんて・・・」
「何事も経験よ!恥ずかしがっていたら、レイが可愛そうじゃない!」
「分かったよ・・・レ・・・レイ・・・」
やっぱり恥ずかしい・・・けど嬉しさがあった。結構、アスカがここまで引っ張ってきたと思うと、感謝の気持ちがあった。
「なんかムカつくわね・・・」
それもそうだ。だって名前で呼び合った後、互いに見詰め合ったのだから・・・

放課後、僕はアスカに呼び出された。


「どうしたのアスカ、話って何?」
「シンジってさ、好きな人とかいるの?」

「え・・・別に・・・いないけど・・・」
「本当は、ミサトの家から出る前に言いたかったんだけど、恥ずかしくていえなかったのよ・・・」
「・・・・」

アスカ・・・

「シンジ・・・・アタシはあんたの事が好き。ずっとそう思っていた・・・だから・・・付き合わない?アタシ達・・・別に無理にとは言わないから・・・・」
しばらくの沈黙が流れる。その沈黙を僕が破った。

「・・・・・アスカ、ごめん・・・僕には、心に決めた人がいる・・・だから・・・」
「そう・・・・すっきりしたわ。あんたにも、好きな人がいるってわかって嬉しいわ。その人を大事にしてね・・・」
そういったアスカは、走ってその場を去った。僕ははっきりと見た。

「アスカが・・・泣いてる・・・傷つけてしまったのかな・・・」

僕はアスカに言うのを忘れていた「これからも、友達でいよう・・・」と・・・



そして・・・・



家には僕とレイとミサトさんの3人がいた。しかし、ミサトさんは今風呂に行っていて、この部屋の中にはいない。
部屋には僕とレイの二人だけ・・・気まずい・・・
レイの一言で、沈黙は破られた。


「・・・・シンジ君、ちょっといい?」
「え?何?」
「その・・・・・ちょっと、話したいことがあるから・・・・」
レイの表情は真剣だった。まるで何か言いたそうな・・・
もしかして・・・


「その・・・・昨日はごめんなさい・・・足を引っ張って・・・」
「ああ、別にいいよ。それに、少し指を切っただけじゃないか」



昨日・・・自宅にて・・・・


「碇君、何か手伝うこと無い?」
僕が夕食を作っていると、レイが近づいてきた。
「そうだなぁ・・・じゃぁ、玉ねぎを切ってくれないかな?カレーで使うから」
レイは僕に言われるがまま、包丁を使って、たまねぎを刻み始めた。しかし・・・


「痛っ」
「どうしたの?って血が出ているじゃないか!」
レイは、左手の人差し指から出る血を、見つめていた。しかし、僕はそれどころではなかった。
「早く流さないとバイキンが入るよ」

僕ははレイの手を引いて流しに行った。水道から流れる水にレイの手を入れる。
その瞬間、レイの体がピクッと動いた・・・気がつくとレイの体が僕に触れていた。レイの暖かさが、僕に直接伝わる・・・

「し・・・しばらくこのままでいようか・・・」
「うん・・・・」

顎の下に位置するレイの髪の匂いが僕の鼻をくすぐっていた。

(綾波の匂い・・・)



1分後・・・


「じゃ、バンソウコウ持って来るからちょっと待ってて」
僕は、救急箱からバンソウコウを持ってきてすぐ戻ってきた。
そして、レイの左手の人差し指にバンソウコウを張った。そのとき、手が触れ合う。
さっきまで水につけていたとは思えないくらいレイの手の暖かさを感じた。



そして・・・・



「ううん・・・そんなに心配してくれるなんて思うと、つい・・・優しいのね。シンジ君」
「なんか照れるな・・・」

僕はつい顔を赤らめた。

「私ね、ついこの間まで、研究所にいたの。周りには大人だけで、毎日が隔離されていたような時間だった・・・だから、集団で、同じ年の人と生活するのは初めてなの・・・」

研究所・・・そんなことが・・・
「そんな風に・・・・言って欲しくない・・・・そんな事は無くても・・・僕達は、友達だから・・・」

「本当に優しいのね。そんなに優しいから打ち明けたら困ると思っているんだけど、もう黙っていられないの!」
「レイ・・・・」

レイ・・・何が言いたいんだ?


「私、ここにきて本当に良かったと思ってるの。ここに来て、シンジ君と出会ってたくさんの友達が出来た。ちょっと始まりは急だったけどね。
アスカは私のことを妹のように見てくれるし、シンジ君といると、暖かさを感じる・・・
シンジ君に出会えて、本当に良かった!」

「レイ・・・・・・」


「だから・・・・・・・私は、シンジ君のことが・・・・」

ここまで言われると、この先何を言うのか大体予想はついていた。

「大好きよ・・・」



REI FANCIED  THE  POTENTIAL    
                EPOSODE FINAL  ONE'S RESOLVE   



「・・・・・・・・・・ふぅ・・・」
僕は、椅子から立ち上がり、レイに背を向けた。
「昼間、アスカにも同じようなことを言われたんだ。『アタシはアンタの事が好き。ずっとそう思っていた』って・・・」
ふと、放課後の出来事を思い出す。アスカは僕が泣かせてしまったと思うと、やりきれない気持ちがあった。

「本当・・・なの?」
「うん・・・・けど、僕はその気持ちにこたえなかった。もちろん、アスカのことが嫌いなわけじゃないよ。僕には、今のアスカを守る力が無いから・・・」
「・・・・・・・」

僕は、小さいころに死んだ母さんの言葉を思い出した。

「小さい頃に死んだ母さんが言っていたんだ。『自分を信じて歩き続けるのが本当の自分を見つける道だ』って。
初めて聞いたときには何がなんだかぜんぜん分からなかったんだ。けど、今気付いたんだ。
自分を信じる人を信じ続けることで、真の自分の見えてくるって」

「シンジ君・・・・」
もちろん、僕のことを好きって言ってくれるのはとても嬉しい・・・だけど・・・

「けど・・・・少し、考えさせてくれないか?ちょっと、気持ちが混乱しているから・・・それと、アスカのことを悪く思わないで欲しいんだ。アスカはアスカなりの考えがあると思うから・・・」
「分かったわ・・・ごめんね。急にこんな話をして・・・」
けど、気持ちを知ってしまったからには、今までどおりの顔で接することができない・・・どうしよう・・・


翌日の放課後・・・・

帰ろうとした僕にカヲル君が近寄ってきた。
「シンジ君屋上に行かないかい?」
僕はカヲル君に誘われて屋上に行った。教室にかばんを置いて・・・


「さっきから浮かない顔してるけど、どうかしたの?」
僕は、昨日あった出来事を話すことにした。

「昨日、レイに好きだって言われたんだ。ただそれだけなんだ。けど、レイの気持ちを知ったら、どうしたらいいか分からない・・・変わらない日常なのに・・・僕のほうが変わってしまう。
一度気づいたらもう同じようにはできない。僕って、そんなに器用じゃないから・・・
どんな話し方をすれば傷つかないとかそのことばかり考えると・・・
苦しいだけなんだ・・・」

「そう・・・僕は先に戻るけど・・・シンジ君も戻るかい?」
「ううん、もう少し考えてから行くよ。ありがとう、僕の話を聞いてくれて・・・」

10分間、一人で屋上にいた。レイにどんな顔をしていけばいいのか、どのように話しければいいのか、必死に考えていた。そして、僕のこれからも・・・

「さ、行こう。僕のこれからに向かって・・・」

僕は、教室に鞄を取りに戻った。
机に伏せている一人の少女を見つけた・・・

間違いない。レイだ。

「・・・レイ?」
「シンジ君・・・」
僕は鞄を取ってきてレイの席にいく。レイの席に着いたら僕は右手をレイに差し出した。
「え?」
「帰ろう。明日は歓迎会だからいろいろ準備しなきゃね」
「うん・・・」
レイと手をつないで帰るわけなのだが、どこか複雑な思いだった。
いくらレイがいないときだったとしても、あれは言い過ぎではなかったのか・・・

帰り道・・・

「シンジ君、ごめんね。渚君から聞いたの。シンジ君が、私のせいで苦しい思いをしているって聞いたから、申し訳ないと思って・・・」

カヲル君、あの事言ったんだ・・・・

「そんなこと無いよ、ただ、ちょっと迷いがあっただけだよ。それと、ありがとう。僕のことをそこまで思う人がいるなんて、今までいなかった。だから、嬉しかったんだ」
「うん・・・・」
「それで・・・実は僕も話しておきたいことがあるんだ・・・」
僕の気持ち・・・レイに伝えたい気持ち・・・

「僕は・・・僕は・・・レイのことが・・・好きだよ・・・だから・・・君の思いは、しっかり受け取ったよ・・・本当にありがとう」
「シンジ・・・君・・・・」
レイは、僕の言葉を聞くと、大粒の涙を頬に伝わせていた。
泣いている顔は見たくない・・・笑っている顔がみたい・・・だから!

「レイ・・・」
僕は、レイと唇を合わせた。迷いは・・・無かった。
「・・・シンジ君、こんなとき、どのような顔をすればいいの?」
僕が唇を離すと、レイはそう聞いてきた。ふと思いついたことを言ってみる。
「・・・・笑えばいいと思うよ」
そういうと、レイは微笑んだ。顔を薄く染め、恥ずかしそうに・・・

「やっぱりレイは笑っている顔が一番可愛いよ」
僕は本心を言った。互いに腕を組み、並んで帰る・・・
「シンジ君・・・」
「何?」
「・・・・大好き・・・」
「僕もだよ・・・」
夏のある日、夕暮れ時のことだった・・・・


完

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