「今朝の覗き魔!」 綾波は僕の顔を見るなり大声で叫んだため、周囲の人々は一斉に僕の方向を見た。 「おいおい、碇が覗きだってよ」 「碇君が?うそでしょ?」 あまりにも僕の行為が(本当にやってないけど)とても珍しいらしくどんどん騒ぎが大きくなる。そんな僕は綾波を連れて、逃げるように教室を出た。行き先は・・・・屋上だ。 屋上、偶然にも誰もいなく、僕と綾波の二人だけとなっている。 「な・・・・何もあんなところで言わなくてもいいじゃないか!」 「だって、ほんとに覗いたんでしょ?それに・・・・・ってその肘、どうしたの?」 僕の肘の擦り傷を見た綾波が問いかけた。 「さっきぶつかったときに出来たんだ・・・けど、なんとも無いから」 「ご・・・・・ごめんなさい!」 綾波が突然謝る。心配した顔で僕を見ていた。 「別にいいよ。僕も悪いんだし・・・ところで、綾波の家ってどこなの?」 「私の家?葛城先生の家に住ませてもらうの・・・・・」 「へぇ、ミサトさんの家かぁ・・・・・」 ん?ちょっと待って・・・・・それって僕の家じゃ・・・・冗談だといいけど・・・・ 「と・・・・とにかく、なんかの腐れ縁かもしれないから・・・仲良くしよう」 「うん・・・・よろしくね!」 その後、普通に授業が進み、放課後、僕はすぐに家に帰った。 第拾九話 事実 誰もいない部屋、僕一人で今この部屋にいる。ちなみに、もう一人の同居人であったアスカはすでに独立している。 ひとまず自分の部屋に入りベッドに倒れこむ。それから今日あった出来事を回想する。 2学期が始まって早々、転校生、綾波レイと衝突。しかも覗き魔扱い。しかし、そのことは和解したため、少しは仲が良くなっている。 それにしても・・・・ 『私の家?葛城先生の家に住ませてもらうの・・・・・』 本当にここに住むのだろうか・・・・考えるとなんだか怖くなってきた・・・・・そう思っているうちに眠る・・・・ 一方・・・・ 「どう?転校初日の感想は?」 「朝一にトラブルがあったけど・・・・大丈夫です。ところで・・・・・」 私は、あることが気になり葛城先生に聞く。 「碇君ってどんな人なんですか?」 「どういうこと?」 「碇君と一緒にいると、暖かさを感じるから・・・つい・・・」 「いい子よ・・・・とても・・・・もしかして、シンちゃんの事好きになっちゃった?」 「い・・・・いえ・・・そんな事は・・・・」 あるかもしれない・・・・そんな感じがして何故か胸騒ぎがした。 「それとも、今から本人に直接聞いてみる?」 葛城先生の言葉に私は少し黙った。「今から直接聞く?」どういうことなのか分からない・・・・ そう思っていると葛城先生の家の前に着いた。大型マンションの最上階にある一室に・・・ 「じゃぁ、これからお世話になります。葛城先生」 「『ミサトさん』でいいわよ、ただいま〜」 ミサトさんの声で目が覚めた。ドアの辺りから話し声が聞こえる。誰だろう? 「お・・・・お邪魔します・・・・」 「レイ、ここはあなたの家なのよ」 「た・・・・ただいま・・・」 聞き覚えのある声がする。しかも今のやり取りって数年前の僕と同じじゃないか・・・ それに「レイ」って・・・・恐る恐るドアを開け、隙間から部屋を見渡す。 ミサトさんとともに歩いている少女、間違いなく綾波だ。それを見た僕はあわててドアを閉めた。 不覚にもその時、音を出してしまった。 「今何か音がしたわね・・・・レイ、見てきてくれる?」 「は、はい・・・・」 足音が僕の部屋に近づいてくる。やばい!綾波が来る!声に出さずベッド隠れる。 ―――ガチャ・・・・バタン 綾波が入ってきた。そこから僕は一切動かず、息を殺して綾波に警戒していた。 「誰も・・・・いないわね・・・・ん?誰もいないのにベッドが膨れ上がってるわ・・・」 終わった・・・・・完璧に見つかる・・・このとき僕はふと疑問に思った。 同じ家に住むのに、どうして朝全く違う方向から綾波に出会ったのかと。 ―――バサッ! 布団をどけた綾波の姿を見た。 「や・・・・やぁ・・・」 「碇・・・・君・・・・?」 綾波の言ったことは冗談ではなかった。驚く所の問題ではない。今日であったばかりの女子と、まして一緒に暮らすとは・・・・ 今、僕の部屋にいるのは僕と綾波の二人だけだ。学校での出来事、屋上の場面が再び再現される。 けど、おそらくミサトさんがドアに耳をつけてこのやり取りを盗み聞きしているに違いない。そのことを綾波に告げて、小声で話すことにした。 「碇君・・・ちょっといい?」 綾波は僕の耳元に顔を近づけて小声で囁いた。 「碇君って、自分のことどう思ってる?」 「どうって言われてもなぁ・・・・僕には答えられないよ。綾波は僕のことどう思っているの?」 「え?・・・・その・・・・暖かさを感じると言うか・・・・一緒にいると楽しくなって・・・・ごめんね。今日会ったばかりなのにこんな事言って・・・・・・」 遠まわしに告白されていると思っているのは僕だけなのだろうか・・・・・・いや、ダメだダメだこんなこと思っていたら今後が不安だ。けど・・・・ 「別にいいよ、そんな風に思ってもらえて僕もうれしいよ。それと・・・・改めてよろしくね」 お礼は言わないといけないね・・・それと、今後一緒に住むんだから・・・と思い、僕は右手を出した。 「よ・・・・よろしく・・・」 僕達は握手を交わした。その瞬間、笑い声が聞こえた。ドアを見るとミサトさんが顔を覗かせて僕達を見ていた。僕は慌てて手を離した。自分でも分かるくらい、顔が赤かった。 「お二人さ〜ん初日からずいぶんと仲がよろしいようで・・・それはともかく、今何時か分かってるの?」 僕はふと時計を見た。6時をさしていた。今日は僕が食事当番だった。 普通の食事を取る。しかし、綾波は肉だけを食べなかった。どうやら肉が苦手のようだ。 食後・・・ 「あ、そうそう、今度、レイの歓迎会やるから」 「へ?」 僕のときはやらなかったのに・・・・どうして・・・ 「なんか恥ずかしいな。私が主役みたいで」 「・・・・・「主役みたい」って、綾波が主役なんだけど・・・」 「ふふっ、碇君ってそういうところに敏感ね」 「ま、まぁ・・・・」 いやみと取られているのか、褒められているのか、よく分からなかった。 「あ、アタシ、お風呂行って来るからね!」 ミサトさんは風呂に向かった。部屋には僕と綾波の二人だけ。今日で3回目・・・・ 「ところで綾波って前はどこに住んでいたの?」 「・・・・・秘密!」 ま、それはそうだよな。女の子の前の住所を聞くなんてあまりしないから・・・ その後、普通に過ごし、翌日、学校に向かう。 僕と綾波は同時に家を出たのだが、僕が家を出た瞬間、綾波は僕の腕にしがみついてきた。 半袖だから手の暖かさを直に感じる。 「ごめんね・・・・なんか、こうしていたいから・・・・」 僕は綾波の顔を見た。その甘えた目を見ると、断るにも断れない。よって・・・・・ 「し・・・・シンジ!おまえ早すぎるんちゃうか?」 「ま、まぁ・・・・」 トウジに出会うと当然のように僕と綾波が一緒にいることについてツッコミを入れた。 「しかし、こうして見ると、いかにもカップルって感じだな」 「け、ケンスケ!なんてことを言うんだよ・・・」 「ははは!冗談だよ冗談。ところで、どうして一緒にいるんだ?」 「それは・・・・綾波、言っていいの?」 「言って恥ずかしいことは無いでしょ?碇君がいいなら言ってもいいわよ」 「うん・・・・実は・・・・」 僕は、昨日あった出来事を話した。 「ええな〜シンジは、美女二人と囲まれて生活を送れるとは、かなりええことや〜」 「美女って・・・・私が?」 「ほかに誰がおるんや?」 「もう・・・・そんな事を言っても何も出てこないわよ!」 ―――バシッ! 「痛っ!」 綾波の振りかざした手が、僕の背中に当たる。 「ご・・・ごめん!大丈夫?」 「大丈夫だよ・・・それより、早く行かないとまた遅刻だよ?」 そう言った僕は一人走り出す。トウジ、ケンスケ、綾波も後からついてきた。 学校・・・・ 「みんなおはよう」 と、洞木ヒカリ、通称「委員長」が言うと、 「おっす委員長」 と、トウジ 「よう、委員長」 と、ケンスケ 「やぁ、委員長」 と、僕 「おはよう、洞木さん」 と、綾波が言った。 「おはよう、シンジ君」 その後、渚カヲル君がやってきた。 「シンジ君、あの宿題やってきた?」 「あの宿題?」 宿題なんてあったっけ?僕はふと疑問に思った。 「数学の教科書86ページの問題演習よ、もしかしてやって来なかったの?」 委員長が付け加える。全く知らなかった・・・ 当然のように授業中ではそのことで絞られ、クラスのみんなから笑われていた。 放課後・・・・ 「そういえば、ミサトさんが綾波の歓迎会やるって言っていたんだけど・・・みんな来る?」 トウジ、ケンスケ、委員長、カヲル君が来ることとなった。歓迎会か・・・・何もトラブルが無いといいけど・・・・ つづく あとがきへ