過去を思いに秘めて、僕達は改めて守るべきものを確認できた。 僕はレ・・・しまった。今日は綾波だっけ・・・・ 綾波を守る。それが僕に課せられた使命であり運命でもある。 けど、堅苦しいのはなしにして、今は楽しいときを過ごせるといい・・・・かな? 第拾八話 夢と現実 「碇君、久しぶりに苗字で私の名前を呼んでみた感想は?」 「少しぎこちない感じがするよ。あまり苗字になれすぎると名前で呼ぶときに緊張するから気をつけないとね」 それにしても綾波は慣れが早い。僕の苗字を呼ぶのに戸惑いが一切無い。家に着いた僕達は朝食をとることにした。 「綾波、アスカの前では名前で呼ばないといけないよ。驚いたりすると後が怖いからね・・・」 「ふふっ、そうね」 朝食後・・・午前十時 僕達は「暇」と言う理由で、駅前のゲームセンターに5ヶ月ぶりに行く。 ゲームセンターに入るとものすごい大音量が僕達の耳に入ってくる。僕は慣れていたからなんともなかったけど、綾波は耳をふさいでいる。 「綾波、耳をふさいでいると僕の声も通らないだろ?」 大音量のため、少し大きな声で言わないと話が通らない。綾波はようやく耳をふさいでいる手をはずして、再び歩き出した。 「碇君、あれ・・・何?」 僕と綾波の視線の先にあったのは「パンチマニア〜プロボクサーは君だ!〜」と言うゲームだった。 僕は過去に何回かやったことがあった。頭上のセンサーが、プレイヤーの動きを読み取り、それがゲーム画面と連動する。避けるなどの動作も自分で行う。 結構体力を使うゲームだ。3人くらいと戦うとものすごく疲れる。 「・・・・碇君は出来るの?」 「ま、まぁ・・・」 「じゃぁ、見てあげるわ」 「見てあげるわ」・・・・って・・・・性格元通りじゃないか・・・・案外、綾波って2重人格だったりして・・・・ が、期待にはこたえないといけない。僕は久しぶりにプレイすることになった。 何だかんだであっと言う間に最終戦、が、僕はヘロヘロだった。 「碇君、がんばって」 「は、はぃ・・・・」 まともに喋れる様な状態ではなかった。気合で相手の攻撃をかわす。相手の少しの隙を見つけて、拳を入れる。少しずつだが、相手の体力を削る。 相手の体力もなくなってきて、もう少しで勝利を決めるところで画面にある表示が出た。 『RUSH!制限時間内に100発打ち込め!』 ひゃ、100発〜?無理な注文をする・・・・・ 画面に表示された制限時間は15秒、一秒当たり約7回のパンチを繰り出さなければならない。僕は無心で画面に向かってパンチを繰り出す。 残り一秒で何とか100発を打ち終えた。画面には「FINISH!」と言う文字が出て相手にパンチマークが出た。 「こ・・・・これで・・・・決まり・・・だ」 ――――ガスッ・・・・ 画面の中の対戦相手が倒れる。「KO!」と言う文字が画面いっぱいに出てくる。 僕の中には達成感より、疲れのほうが多く残っていた。 ギャラリーにはたくさんの人がいた。かなり恥ずかしかったので綾波の手を引いてそそくさとその場を離れた。 ゲームセンター 2階 メダルゲームがたくさんある2階。僕はあるゲームを探してこの2階にやってきた。 そのあるゲームとは、僕や綾波など、過去にNERVと関わりがあった人をモチーフにしているパチンコの台らしい。 なんともエヴァも関わっているとか・・・・どんなパチンコだよ・・・・ そう思いながら歩いているとその台は見つかった。 「あ・・・あった・・・」 「これ・・・・何?」 「エヴァに関わっている人をモチーフにしているパチンコだよ・・・・・・やる?」 「・・・・見てるわ」 せっかく遊びに来ているのに・・・綾波はいまだに何もやっていない。 「だって、碇君のその姿かっこいいから・・・・・」 か、かっこいい?これが?・・・・そう思いつつ僕はいすに座る。隣に綾波を座らせる。 100円を入れると、中心にある画面のスロットが回りだす。ある程度の時間が経ったら・・・・見覚えのある人がきらきらと光る枠とともに出てきた。 リツコさん・・・・ミサトさん・・・・綾波・・・・アスカ・・・・・・・・そして僕のところで停止した。 「逃げちゃダメだ・・・逃げちゃダメだ・・・」 これまた聞き覚えのある言葉だった。そのとき、リーチがかかる。 絵柄に描いてあった絵は父さんだった。リーチがかかってしばらく経つと父さんと冬月さんが出てきた。 「勝ったな」 「・・・ああ」 懐かしい気分になる。まるで夢のような感じだ。結局そのまま大当たりとなり、ゲームを続ける。 すると僕に異変が現れた。目の前が突然ぼやけてくる。真っ白な光が僕を包みこむ。 何だ・・・?何が起きたんだ! アスカ!ミサトさん!綾波・・・・・ 「ここは・・・・」 僕は電車の中にいた。僕以外誰もいないが、どこからか声が聞こえた。 「君の夢の中だよ」 「夢・・・?」 「そう、君は長い夢を見ていたんだ。実際の君は、夢の中に出てきた『綾波レイ』とは一度も会っていないんだよ」 綾波と会っていない・・・?嘘だ、嘘に決まってる! 「けど、心配する必要は無いよ。君はこの夢のことは跡形も無く忘れるのだから・・・・」 「待ってよ!どういうことなの!?忘れるってどういうことなのさ!?」 声はもう聞こえなくなっていた。再び僕の視界が真っ白になる。 「う・・・うわぁあああああ!!」 僕は何も見えない空間で、一人叫んだ。 「シンちゃん!早く起きないと、新学期早々から遅刻よ!」 ミサトさんの声で僕は目を覚ます。最近になってからいつもこうだ。 中学3年になった僕は、2学期の初日から遅刻の危機に襲われていた。 「やばい!い・・・行って来ます!」 「いってらっしゃ〜い」 ミサトさんも同じ学校の教師で僕のクラスの担任だが、学校まで乗せていくことなど一切しない。猛ダッシュで学校へ急ぐ。 「よう、シンジ!初日からえらく急いどるな!」 後ろから友人の鈴原トウジの声が聞こえる。後ろを振り向くとトウジと一緒に相田ケンスケも一緒にいた。 「って、それどころじゃないよ!早く行かなきゃミサトさんにしかられちゃうよ!」 僕はそのまま走り出す。が、曲がり角で悲劇が起こる。 ドカッ!――― 「うわあ!」 「きゃあ!」 走っていた僕は少女とぶつかってしまった。その様子はトウジたちも見ていた。 「だ、大丈夫かシンジ?」 ケンスケが問いかける。ひじを擦りむいた位で済んだようだ。 「あたた・・・・」 僕はぶつかった少女を見る。僕達と同じ学校の制服を着ているが、今まで見たことが無い。 天使のように真っ白な肌と空色の髪、それを強調するような赤い瞳。別に充血しているわけではなかった。 「ああ!」 少女はいきなり大声を出す。その声に僕は身を引いた。 「私の朝ご飯!」 朝ご飯?とりあえず辺りを見渡した。見つけたのは地面に落ちた一枚の食パンだった。砂がついていてとても食べれるような状態ではない。 その瞬間、少女は恥ずかしそうにスカートを隠す。そして僕に話しかける。 「・・・・見た?」 「・・・へ?」 僕は何のことなのかまったく分からなかった。少女の次の一言で僕は・・・・ 「パンツ!」 「みみみみみみ見てないよ!」 「嘘!」 「本当だよ!」 つい口論になってしまう。 「ああ!8時12分?・・・・それじゃ、私。急いでるから!・・・・じゃ!」 少女は何事も無かったかのように走り去っていった。 「・・・・・シンジ?大丈夫か?」 「うん・・・・学校行こうか?」 大急ぎで学校にいく僕達は、その日のホームルームでとんでもないことが起こることは知る訳は無かった。 「おっはよ〜今日は遅刻もなし、欠席もなし、パーデキね・・・・・」 担任のミサトさんが元気に話している。 「さ、いきなりだけど・・・・・転校生を迎えているから紹介するわ」 転校生か・・・・僕の席の隣が空いているからおそらく僕の隣に座ることになるだろう。 「さ、入ってね」 ミサトさんの一言で転校生は教室に入ってきた ガラガラ〜 「おお〜」 一部の男子から歓声が上がる。 制服からして女子だった。白い肌に空色の髪・・・・あれ?これってもしかして・・・・・ 「シンジ、あれってさっきの娘じゃないか?」 ケンスケの言う通りだった。あの娘は、さっき僕とぶつかった少女だった。 「引っ越してきたばっかりでここのこと良く知らないからいろいろ教えてあげてね〜」 黒板に転校生の名前を書きながらミサトさんが喋る。黒板には「綾波レイ」と書かれていた。 「綾波レイです!よろしくお願いします」 「はい、じゃぁ席は・・・・碇シンジ君の隣が空いてるわね、じゃ、そこに座ってね」 や・・・・やばい・・・・・・これは気付かれるのも時間の問題だ・・・・ 僕は、隣に座った綾波と目を合わせないようにしようとした。しかし・・・・・休み時間・・・ 「碇君、よろしくね」 「う、うん・・・・・」 「ねぇ、何でこっちを見ないの?」 う・・・・本当に危険な状態だ・・・・ 「え?まぁちょっと訳ありで・・・・・」 「そういえば、碇君の声って聞き覚えのある声ね・・・・」 そう言った綾波は僕の頭をつかみ、自分のほうに向けた。いやな予感は見事に的中するのであった。 「あ!今朝の覗き魔!!」 続く あとがきへ