レイ 想いの向こうに



それから数日、高校の学園祭が近づいてきた。メインイベントとして合唱コンクールがあるんだけど、

「じゃ、指揮者をやりたい人は手を上げて!」

と言うミサトさんの言葉を聴いて、無意識にも僕の手が挙がった。
そして、ほかに誰も立候補する人がいなく、指揮者は僕に決まった。
これは、合唱コンクールまでの期間を描いた記憶・・・・・





第拾参話  指揮者 碇シンジ





「シンジ、自分から立候補するなんて結構勇気あるやんか」
「ま、まあね。たまにはこんな事もやってみないと・・・・・・」
授業が終わるとトウジがすぐに僕に話しかけてきた。その後にケンスケが付け加える。
「・・・・・となると、伴奏者は綾波かな?」
ケンスケの言葉を聴いたレイが振り返って言う
「え?あたし、ピアノ引いたこと無いわよ」
「あほかケンスケ。委員長がおるやないか」
僕は確信した。確かに洞木さんは、以前からピアノを習っているらしいし、伴奏者の第一候補としてもあがっていた。
「す、鈴原、いきなりそんなこと言わないでよ・・・・・」
「ええやないか、このクラスの伴奏者はお前しかおらん」
そんなこんなで伴奏者は洞木さんに決まった。歌う曲も決まったし、残り2週間、精一杯練習あるのみだ!



・・・・とはいっても僕はあまり音楽は詳しくないから大部分は女子に任せてあるけどね。



その日の夜・・・・・・

ミサトさんの部屋には僕とアスカとレイが集まっていた。
3人とも同じクラスの生徒だから、これと言った対立も無く、この2週間の合唱練習のスケジュールを立てていた。

「それにしても、まさかこのバカシンジが指揮者になるなんて思いもしなかったわ」
「うん、けど、本当に僕でよかったのかなぁ?」

「あんたバカぁ?いまさらそんな事言ってもしょうがないじゃない。そうでしょ?レイ」
「うん!あたしはシンジが指揮者だと歌いやすいからシンジが指揮者になってくれてとってもうれしい!」

まぁ、前からレイに「指揮者になって!」と言われていたから今指揮者でいるんだけど、不安がいっぱいだった。

本当に僕がやっていいものなのか、みんな僕についてきてくれるだろうか、それを考えると頭が痛くなってきた。


「シンジ、どうしたの?」

そんな僕にレイがやさしく話しかけてきてくれると、自然と僕の心も和んでくる。

「ちょっと、頭が痛くなったかも・・・・・・」
「大丈夫?・・・・・だったら後はあたしとアスカに任せて、シンジはもう寝たら?」
「そうする・・・・・・じゃ、お休み・・・・」
「「おやすみ〜」」

そう言って僕は自室に入った。疲れのせいかすぐに眠りについた。




翌日、僕はアスカを起こすためにアスカの部屋に行く。部屋に入るとなんだかいつもとは違う感じがした。
アスカの部屋なのに、レイの匂いがした。


アスカが寝ているはずのベッドにはやっぱりレイが寝ていた。
「なんでだろう?」
と思いながらもレイの頬に軽く口付けをしてレイを起こした。

「うーん・・・・シンジ、おはよう」
「『おはよう』じゃなくて、どうしてレイがここで寝ているの?」
「それはね・・・・・」



昨夜、僕が寝ている横でレイとアスカがある話をしていた。

「レイ・・・・シンジと一緒に住みたくない?」
「え?・・・・・・うん、できればでいいから、シンジと一緒に暮らしてみたい・・・・・・」
「じゃぁ、アタシの部屋貸してあげるから、ここで暮らす?」

アスカのその言葉を聴いたレイはたいそう驚いたようだ。

「え?じゃぁ、アスカはどうするの?」
「レイの部屋に住む、それなら大丈夫でしょ?」
「そうね・・・・・・・わかったわ、あたし、ここで暮らす!」


それで、アスカの部屋にレイが、レイの部屋にアスカが住むという、いわば「交換生活」をしている。

そして、僕達は朝食をとって、いつもどおり学校に行く。
放課後には合唱練習が控えていた。




伴奏者の洞木さんをはじめとする女子を中心にして順調に合唱練習が進んでいった。


1週間が経ち、最初はやる気が無かった男子も次第に声が出るようになっていった。僕の指揮にも熱が入るようになった。



合唱コンクール本番まで後3日となったある日、大きなトラブルが発生する。



「なんやと!もういっぺん言うてみぃ!」
パート練習中にいきなりトウジの怒声が教室内に響いた。
「トウジ、どうしたんだよ」
「シンジ、こいつが全く歌わんからちょっと注意したんや、そしたら急に怒り出したんや!」
トウジの言う「こいつ」とは坂本ジュン、確かに僕から見てもいつも口をあけていない。けど「いつか歌ってくれるだろう」と言う考えから見逃していた。

「だから俺が歌っても足手まといになるだけなんだよ!」
そう言ったジュンは教室から出て行った。トウジは自分の机を蹴り飛ばした。教室に険悪なムードが漂う。

(まさか・・・・・もう3日前だよ・・・・・・)



二日後、女子も交えての最後の合唱練習、相変わらずジュンは歌っていなかった。トウジが注意するも無視していた。すると、僕の近くにいたケンスケが僕に向かって言った。

「悪い、もう我慢できない」
そう言ったケンスケはジュンの近くに歩み寄る。すると、ケンスケはジュンを殴った。

「・・・・・お前にとってはこんな行事さっさと終わってほしいと思っているだろうな、別にどんな結果になっても自分には関係ない顔しやがって。
けどよ、そんなことをやったら、この2週間、死に物狂いで練習したほかの連中はどうなるんだよ、本気で最優秀賞目指していた女子はどうなるんだよ!」
「ケンスケ・・・・」
僕は、ただ見ていることしか出来なかった。

「シンジにも恥をかかせる気かよ。あさってのために、指揮者と決まった日に、綾波と惣流と相談して、練習スケジュールを組んだのはシンジなんだぞ?あそこまでマジになったシンジは見たことが無かった。
だからよ、そんなシンジのためにも、俺は、絶対に最優秀賞をとりたいと思っているんだよ。それが何だよ、お前一人のせいでクラス全体のムードが悪くなっているじゃないか!」

「かっ・・・・勝手に言ってろよバーカ!」
ジュンはケンスケの言葉を聴いていたが、教室を出て行ってしまった。
「くそっ・・・・くそっ・・・・・」
ケンスケは、ひざをがっくりと折って、泣いていた。

「ケンスケ・・・・・・・みんな、今日の練習は中止にしよう」

僕は、今日の練習を打ち切りにした。本当に、これで良かったのだろうか、再び、頭が痛くなってきた。






翌日、合唱コンクール本番を迎えたけど、実力を発揮できずに、最優秀賞になることは出来なかった。





その夜、ふさぎこんでいる僕に、レイが話しかけてきた。

「シンジ・・・・・」
「僕は・・・・僕は、指揮者として何も出来なかった。自分から逃げていたんだよ、きっと・・・・・・」
僕が言い終わると、レイは僕を抱きしめた。強く、また強く、痛いくらいに。

「ねぇシンジ、あたし達、まだ2年生だから、また来年もあるでしょ?だから・・・・・来年もっとがんばって、それで結果を残そう?ね?」
僕は泣いていた。久々に肌で感じる自分の涙。悔しい気持ちがいっぱいだった。
「うん・・・・・ありがとう、レイ・・・・・」
「もう、悲しい顔を見せないでってこの間言ったばっかりでしょ?シンジ、笑った顔を見せて・・・」
レイは微笑みながら僕に言ってくれた。僕は。今出来る精一杯の笑顔をレイにして見せた。

「うん、やっぱりシンジに涙は似合わないわよ・・・・・シンジ、ちょっと目を閉じてくれる?」


言われるがままに僕は目を閉じた。何も見えない。すると、レイの唇の感触が僕に伝わってきた。目を開けると、レイは顔を赤らめて微笑んだ。



この子悪魔め!!