レイ 想いの向こうに

それから何日か経って、何事も無く10月も終わりを迎えようとしていたけど、どうも僕の気持ちがギクシャクしている。
何か、綾波に対してやり残していることがあった。僕は、3年前に初めて綾波と出会ってからずっと「綾波」と呼んでいるけど、一度も「レイ」と呼んだことが無かった。
できれば、この年が終わる前に綾波の前で「レイ」と読んでみたい今日この頃、放課後に綾波からあることを聞いた僕は偉く動揺するのであった。
同じ日に、2つの出来事が起こるなんて思ってもいなかった。




第拾弐話 絆 その想いと共に




「碇君、明日何かあるんだけどわかる?」
「わ、わからないな・・・・・」
僕は最近綾波と話す事ですら若干緊張していた。
「今この席にいるあたし達にとってはあまり来てほしくないイベントね」
「え・・・・・あ!席替えか!」
僕はようやく気付いた。確かに、今僕は綾波の隣に座っているが、席替えで席が離れてしまうことを考えると確かに来てほしくないイベントだ。
「それと・・・・・あたし、引越しが決まったの」
席替えの話から突然話題を変えていきなり引越しを僕に告げてきた。
「え?それって、転校って事?」
「違うわ、学校は同じ。」
転校はしないことを聞いた僕はとりあえず安心した。けど、どこに引っ越すまでは教えてくれず、綾波いわく、今日のうちに引越しの作業を終えるらしい。

そのまま帰った僕は、家に着いた矢先、アスカに綾波の引越しのことを話した。
もちろん、どこに引っ越すのかも聞いた。けど・・・・
「あんたバカぁ?そんな事あたしが知っているわけ無いじゃない?」
口癖の「あんたバカぁ?」あっさり片付かれてしまった。結局その夜は綾波の引越しのことばかり頭に残り、あまり眠れなかった。




翌日、いつものようにアスカは洞木さんと一緒に学校に行くために朝早く家を出た。僕もそろそろ行かないと遅刻になるかもしれないから急ぎ気味で家のドアを開けたらその光景に唖然とした。
「碇君、おはよう」
僕の目の前に綾波が立っていたのだ。何か特別なことでもないのに、どうして?
「ふふっ、驚いたでしょ?あたし、碇君の家の隣に引っ越したの」
「へ?」
僕は綾波に言われるがまま、隣の部屋の表札を見た。確かに「綾波」と記されてあった。
驚くで済む問題ではなかった。引っ越すとは聞いていたけど、まさか僕の家の隣に引っ越すなんて・・・・・

「が、学校行こうか?」
「ええ」
そして僕は、いつもならあの曲がり角で出会う綾波とマンションから学校に通うことになった。普段通り腕を組んで歩く。

「ねぇ碇君、今から互いの呼び方変えない?」
「呼び方を変える?」
「うん、あたしが碇君のことを『シンジ』って呼ぶから碇君はあたしのことを『レイ』って呼んでほしいの」

「別にいいけど、そんなこといつ考えたの?」
「今よ。悪い?」

「悪くは無いけど・・・・・」
「で、どうするの?」

「・・・・・・わかったよ。綾・・・・じゃなかった。レイ・・・」

こうして僕は、初めてあy・・・レイと呼ぶことができた。さすがに今は緊張したけど、しばらくすれば慣れるだろう。

「ふふっ、これからもよろしくね、シンジ!」

それにしてもレイが僕のことを『シンジ』って呼ぶようになってからやたらと今までのレイとのイメージが大きく変わったのは気のせいだろうか?
それはともかく、願いがかなってよかった〜


「今日は席替えね・・・・・」
「きっと僕とレイは隣になるよ」

「どうして?」
「・・・・・・絆だから」

そう言った僕は、レイの手をよりいっそう強く握った。
再び隣の席になれるよう祈りを込めて。




そして学校では授業が始まった。一時間目は担任のミサトさんの授業。と言うことは席替えだ。

「はーいみんな静かにして〜じゃ、今日は予告どおり席替えを行います。やり方は簡単、このくじを引くだけですべてが決まる!」

やたらと昨日の夜に物音がすると思ったらくじを作っていたのか、それにしては長くかかったけど何があったんだろう?

「じゃ、みんないっせいにくじを引いてね〜」

「また隣になれるといいね。シンジ」
「そうだね。レイ」

僕とレイは、言い終わると席を立ち、教卓にあるにくじ向かって歩き出した。そして、くじを引き、早足で席に戻る。

「緊張するわね」
「じゃ、あけるよ、せーのっ・・・・・」
僕達は一斉にくじを開いたが僕はくじを見ようとしないでレイの顔を見ていた。くじを見たレイの顔が曇ったのがはっきりとわかった。

「1と40・・・・・端っこか・・・・」
「シンジ・・・・・・」
レイの顔を見ると涙が浮かんでいた。やりきれない気持ちがあったのだろう。がっかりしたまさにそのときだった。


「みんなくじを引いたわね、それを踏まえて席順を決めるんだけど、まさかこれだけで決まったとは思っている人は誰もいないわよね?」

ミサトさんは一枚の紙を黒板に貼り付けた。

「これがくじの番号の対応表よ。みんな目を通すように」
ミサトさんの言葉と同時にクラスのみんなが黒板に群がる。喜びの声や、落胆の声があちこちから聞こえたが、僕とレイのみ座っていた。すると、ミサトさんがつかつかと歩み寄ってきた。

「良かったわね、あなた達二人とも同じ席よ」
その言葉を聞いた僕は、レイの手を引いて対応表を見に行った。確かに、今座っている席に僕が引いた1番、レイが引いた40番が記されていた。

「シンジ!」

あまりにもうれしかったのか、レイは僕を抱きしめた。僕も手をレイの背中に回し、互いに抱き合う。


「おーいお二人さーん、クラスメートの前で抱き合うなんてええ根性やな!」
トウジの声で我に返った僕は辺りを見回した。他のクラスメートが僕達の姿を見て笑っている人もいた。

「れ、レイ。いくらなんでも、みんなの前でやるのは恥ずかしくない?」
「いいの!とってもうれしいんだから!」

ま、それもその通りだね。確かにこれはうれしいことだから・・・・・
しかし、このことをきっかけとして、僕とレイはクラスでも有名なカップルとなったのは言うまでもない。



その帰り道・・・・・

「れぇレイ、絆って本当にすごいことだね」
「ふふっ、そうね」

「けど、その絆もいつか切れることがあるかもって考えると、こわいなぁ・・・・・」
「大丈夫よ、あたしとシンジの絆はきれることは無いわ」
「あ!僕が言おうとしていたことを先に言ったな!」
「シンジの考えていることなんてお見通しよ!」
楽しい会話が飛び交う。マンションに到着するまでずっと・・・・・

「じゃ、またねレイ」
「じゃあねシンジ」

僕とレイは同時にそれぞれの家に入った。家に入った僕は真っ先にドアが一つ増えていることに気付いた。

「あれ?何だろう、このドア・・・・」
僕はそのドアに手をかけてドアノブを回す。ドアが開くと今朝と同じような光景がよみがえった。
わかっているとは思うけど、レイが僕の前に立っていた。

「「え?」」
僕達は互いに顔を見合わせた。すると・・・・・

「あちゃ〜少し遅かったか」
突然アスカの声が聞こえた。

「あんた達せっかくカップルで家も隣だからちょっとぐらいお祝いしないと・・・・・ねっ?」
「アスカ・・・・・・もうっ」
レイが言うと僕の腕を強く握り締める。痛い反面うれしい気持ちもあった。





続く