レイ 想いの向こうに

某金曜日 放課後


「碇君、一緒に帰らない?」
レイは授業が終わるとすぐにシンジの席に行きそう言った。
「うん、いいよ」
シンジは快く返事をすると、鞄を持ってレイと一緒に教室を後にした。
帰り道・・・・・・

「碇君、明日・・・・ヒマ?」
「明日はヒマだけど、何?」
「もし良かったら久しぶりにどこかに出かけない?」
レイとシンジが二人で出かけたのは、2ヶ月前以来一度も無かった。
「いいけど、どこに行くの?」
「駅前のゲームセンター・・・・・」




第拾壱話  バトルユニゾン




「ゲームセンター?」
レイの言葉を聴いたシンジは思わず聞き返す。
「あまり覚えてないかもしれないけど、3年前に碇君とアスカと一緒に行った時に、なんというか・・・・その・・・・」
レイは言葉に詰まる、シンジが口を挟んだ。
「キスしたんでしょ?」
シンジはあの光景をはっきりと覚えていた。
「お、覚えていたの?」
「当たり前だよ!綾波とはじめてキスしたんだから・・・・・」
シンジは、顔を真っ赤にして言った。レイもそれにつれて顔を赤くする。

「・・・・・・で、明日何時に行けばいいの?」
シンジは明日の待ち合わせの時間を聞く。
「9時にあたしが碇君の家に行くから・・・・・」
「わかったよ」
気付けば二人が別れる曲がり角についていた。
「それじゃ、また明日」
シンジが言うと、レイは手を振って答えた。







翌日・・・・・・  午前8:58 シンジ宅



「ふぅ、普通のデートなのにやたらと緊張するなぁ、何でだろう?」
そう独り言をもらした瞬間だった。

―――ピンポーン


「・・・・・・碇君、いる?」
ドアの外からレイの声がした。シンジはあわてて荷物をまとめ、ドアに走った。
「おはよう、綾波」
ドアを開けると同時にシンジは言った。レイも同じような言葉で返す。周りを見てアスカがいないことに気付いたレイはシンジに話しかけた。
「そういえば、アスカは?」
「アスカならさっきミサトさんと出かけて行ったよ」
「そう・・・・・・」
二人は会話を終えると、ゲームセンターに向かって歩き出した。



20分後 駅前


「ふぅ、やっとついたね・・・・・・」
少し息を切らしながらシンジが言った。
「とりあえず入らない?ここにいても何もできないし」
そう言ってつかつかと前に進むレイ。それを追ってシンジも走っていく。
入り口のドアを開けたそのときだった。
「あれ〜?シンちゃんにレイ!何やってるの!?」
「ミサトさん!それにアスカも!」
いきなりアスカとミサトに遭遇してしまったのである。
(とほほ・・・・せっかく二人でデートの予定が・・・・・・)
気付けばミサトとアスカと一緒に行動していた。ほぼミサトとアスカのペースで進んでいる。
「ね!あれやってみない?」
アスカは近くにあったパチスロゲームを指差した。
「うん・・・・・いいよ」
そう言ったシンジは金を入れる。普通にプレイしていて10分後・・・・・
「あれ?碇シンジじゃないか!」
自分を呼ぶ声を聞いたシンジは後ろを見た。
「君は・・・・・」
「あっ、自己紹介がまだだったな。俺の名前は井上ナツキ。ナツキと呼んでもかまわん。すごく存在が薄いけど、これでもお前達と同じクラスだ。な!ミサト先生!」
「ええ、そうよ。あなた達、仲良くしてやってね」
シンジたちは頷いた。ナツキも隣に座り、ゲームを再開する。しばらくするとやたらと大きな音が自分達の目の前から聞こえた。その瞬間、ナツキの顔が真剣になった。
「どうしたの?」
「いや・・・・・なんでもない」
シンジに話しかけられたナツキは動揺しながらも顔を背ける。
(なんか、あいつら運いいかも・・・・・)
ナツキが心の中でそう言った瞬間「ボーナス確定!」と言う声が聞こえた。
「え?これ、どういうこと?」
驚きながらシンジが言った。
「これが揃うんじゃない?」
レイは台の下部分にあった『7』の絵柄を指差していった。シンジはとりあえずやってみるが・・・・・・
「・・・・・・ダメだ!動きが早くてうまく狙えない!・・・・・・ミサトさん、やってみる?」
シンジは席をミサトに譲る、ミサトもやってみるが揃わない。同様にアスカも、レイもやってみたが、やはり揃わない。
「ナツキ、やる?」
シンジはよそを見ていたナツキを呼んだ。ナツキは無言で椅子に座ると真剣な顔つきで回転しているスロットのリールを見た。
「まったく、お前達はこんな簡単なことができないのか?『7』の絵柄はほかの絵柄よりは目立つから絶対簡単だと思うけど・・・・・・」
シンジたちは改めて回転しているリールを見た。よく見ると確かに『7』の絵柄だけ一瞬だがはっきりと見えた。
「じゃ、行くか・・・・・・ほい」
左のリールを止めた瞬間、激しいフラッシュとともに大きな音が響き渡る。シンジは驚いて身を引いた。
「おいおい、こんなことでビビッてたら綾波との恋はうまくいくか心配だな・・・・・ほいっと!」
ナツキは至って普通に『7』の絵柄をそろえた。すると「BIGBONUS!」と言う文字が液晶画面に表示される。
「ありがとうナツキ!で、どうやればいいの?」
礼を言うと同時にシンジはナツキに質問した。
「左から押せば問題なく進むと思う。じゃ、俺はもう帰るからな」
ナツキはそういうと帰っていった。シンジたちは続けてパチスロをしていたのだが、獲得メダル枚数は1000枚を超えたとか・・・・・






数十分後、

「レイ、シンちゃん、チョッチあれやってくれる?」
ミサトがプレイを促したゲームは、3年前にもプレイしたあの「パッペソミュージック」だった。さすがに3年もたったため、バージョンアップしていた。
「いいですけど・・・・・何をやるんですか?」
シンジが聞くとすでに100円を入れていたミサトは説明を始めた。
「まぁ、このバトルモードをレイと二人でやってもらうんだけど、ただ単にバトルするだけじゃつまらないから、そうねぇ・・・・・・『バトルユニゾン』でもしてもらおうかしら?」
「「バトルユニゾン?」」
レイとシンジは声を合わせて言った。
「そう、簡単に言えば、『どれだけ点差をつけないで勝利できるか』を測る・・・・テストね」
(テストか・・・・・・気が進まないなぁ・・・ま、綾波とできるからいいけど)
そう思ったシンジはレイと共にボタンの前に立つ。
「綾波、大丈夫?」
「何が?」

「何がって・・・その・・・・」
「嘘よ、大丈夫。心配してくれてありがとう・・・」
久々にレイの笑った顔を見たシンジ、プレイに俄然気合が入る。
レイも黙っていたわけではなかった。シンジがいなかった3年間、たまにゲームセンターに来れば、このゲームをやっていて、実力はシンジとそれほど変わらなかった。

「み、ミサト・・・・これって・・・・・」
驚いたアスカが感嘆の声を上げる。
「ええ、確かにすごいわ」
息を切らしながらゲームを終えたシンジとレイ、結果は1曲目800点差でシンジの勝利、2曲目は400点差でレイの勝利、3曲目はごくまれにしか起こらない引き分けだった。
「う、うまくなったね、綾波」
「ふふっ、油断してるとすぐに追い抜かれてしまうわよ」
二人は、笑いながら会話をする。その日は、もう日も暮れかけていたので帰ることにした。
さすがに帰り道まで一緒だと厄介なことになりそうなので、レイはシンジと二人で帰ることにした。

「綾波、どうだった?今日のデート」
「ええ、楽しかったわ」

「ま、ナツキがあの険悪なムードを破ってくれたからかな?」
「井上君が?」

「うん、正直ね、今日の行動にいまいち自信がもてなかったんだ、そこでナツキに会って、パチスロで助けてもらったときから、一気にムードが高くなったから」
「いわれてみればその通りね・・・・・・今後も、井上君に助けてもらうかもしれないわね」


話し終えたところで角に差し掛かる、二人はそれぞれの家路に着いた。



続く