「碇君危ない!」 車にはねられそうになったシンジを助けるためシンジを突き飛ばしたレイ。 シンジは無傷だった。しかし、レイがはねられてしまい大怪我、意識もない。 すぐに病院に運び込まれた。 第拾話 純粋のガールフレンド 完結編 集中治療室に運び込まれたレイ、部屋の前でシンジが無事を祈るように待っていた。 「僕のせいで・・・僕のせいでこんなことに・・・・・」 シンジがそう呟くと扉が開いて主治医が出てきた。 「先生!綾波は大丈夫なのですか?」 「奇跡的にも命に別状はありません。ただ、意識が戻る気配もありません。」 『意識が戻る気配がない』という言葉にシンジは愕然とした。レイを乗せたベッドと一緒に病室に向かう。 病室内 「先生、綾波の意識はいつ戻るかわかりますか?」 「奇跡的に意識が戻るとすれば、早ければ一分後かもしれないし、一年後かもしれません。心拍、呼吸ともに正常なので死に至る可能性はまずないと言えます」 半ば聞く気になれなかったシンジ、深い殻に閉じこもってしまっている様だった。シンジは学校を休み、レイを見守ることに決めた。 2日後 午後5時 「ここね・・・・・」 シンジから知らせを聞いたアスカとミサトは見舞いのため病院に来ていた。 ―――トントン・・・・ 「シンジ?入るよ」 言い終えると同時に扉を開け、部屋に入ってきた。 「ミサトさん、アスカ・・・・・・」 シンジは、今までのいきさつを全て話した。 「僕のせいで、僕のせいで綾波がこんなことになったんだ・・・・全部僕が悪いんだ・・・・・・」 普段聞かないシンジの言葉を聞いた。 「シンジ、ちょっと来てくれる?」 アスカはシンジを部屋の外に出した。 「ここは・・・・・どこなの・・・・?」 レイは自分の心の中にいた。目の前には中学生の自分がいた。 「ここは3年前のあたしの記憶の中ね・・・これは・・・・・・碇君と2人で買い物に行ったときの記憶ね・・・・・・」 3年前・・・・・ 駅前付近の人ごみの中心付近に、シンジとレイが立っていた。駅前の大型デパートに行こうとしているのだがなかなか進めない。 下手をするとはぐれてしまいそうだったのか、レイはシンジの腕をつかんでいた。 デパートまでの道のり、100メートルを歩くのに6分かかってようやくデパートの入り口に到着した。 「ふぅ、やっと着いたね」 「途中、何回も足踏まれたわ」 微笑みながら言うレイにシンジは顔を赤らめた。 学校の制服しか着るものがないレイにシンジが服を買ってあげると言う理由でデパートにやってきた。 「思ったより高いんだ・・・・服って・・・・・」 売り場に着いたシンジは、服についている値札を見てふと呟いた。しかし、以前、ゲンドウからもらったカードがあるので金についての心配はする必要はなかった。 シンジはレイに似合いそうな服をとりあえず一着選び試着室にレイを連れて行った。 「碇君・・・・・・」 レイが呼ぶ声を聞いたシンジはレイの方向を見た。いつもと違っていたのはそこには下着姿のレイがいたことだった。 「うっ!ちょっ・・・・あ、綾波、公衆の面前でなんて事を!」 シンジはあわてて試着室のドアを閉めた。周囲の人々の視線を感じた。 「この服、どうやって着ればいいの?」 レイは、扉の向こうから、えらく初歩的な質問をした。 (じゃぁ今着ている制服はどうやって着ているんだよ・・・・・) シンジは心の奥でそう思っていた。 「えーと・・・・・今着ている制服と同じように着ればいいんだよ」 「わかったわ・・・・」 (ふぅ、いきなり下着姿で出てくるとは・・・・・・) 5分後、再び試着室のドアが開き、白のワンピースを着たレイが出てきた。 「か、かわいい・・・・」 シンジにとっては普段のレイもかわいく見えたのだろう、しかし、制服以外の服を着たレイは初めて見たから反射的にその言葉が出た。 結局、白のワンピース、薄い黄色のパジャマを購入した。ふと時計を見ると昼を過ぎていた。 「そろそろお昼にしようか?」 「・・・・・・・・・ええ」 レイは頷いた。二人は20階にあるレストランに向かった。 (こんな事もあったわね・・・・・・とても楽しそうね・・・・・) レイは、過去の自分とシンジの行動を見てそう思っていた。 病院 エレベーターホール付近 「なんだよ、話って?」 「今のレイがこうなっているの、本当に自分のせいだと思ってる?」 アスカは、シンジの顔を見ずに聞いた。 「当たり前だよ!僕が前を見ないで歩いていたから、こんなことに・・・・・・」 言い終えたシンジの目には、涙が見えた。 「そう・・・・・・アンタのレイに対する想いって、その程度なの?」 「そ・・・・・・それは・・・・・・」 アスカの突然の言葉に、シンジは動揺する。 「だってそうでしょ?確かに、アンタの不注意もあるけど、レイは自らアンタを助けるために車にひかれた。そうでしょ?だったら、『早く直ってくれ』とか思うのが普通じゃないの?」 「そう・・・・・・だよね・・・・・・僕だって、早く直ってほしいとは思っているんだ・・・・・けど何をやったらいいかわからなくて、自分の殻に閉じこもっていた・・・・・アスカ・・・・僕はいったい何をやったらいいの?」 立ち直ったシンジはアスカに聞いた。 「今はとにかく、レイの意識が一日でも速く戻るように祈るのよ」 「祈る・・・・・か・・・・・・」 シンジは天井を向き、腕で涙をぬぐった。病室に戻るシンジの顔は真剣だった。 レイの3年前の記憶 デパートの最上階である20階にある大型レストランに到着したシンジとレイ。昼過ぎと言うことで比較的席は空いていた。 二人は、窓のすぐそばの席にに座った。 「ご注文はいかがにしましょう?」 店員が注文をとる 「僕はミートソースにするけど・・・・綾波は?」 「碇君と同じもの・・・・・・」 店員がメモを取り、厨房に戻るのを確認し、「ふぅ」と深いため息をついたシンジ。 そんなに間もおかず、注文した料理が二人の前に並んだ。それを見たレイが、シンジに話しかける。 「碇君、これどうやって食べるの?」 「え?これはね・・・・・・」 シンジはレイにミートソースの食べ方を教えつつ食事を進めた。普段なら15分で食べれるような量も今日は30分近くかかった。 食事を終えた二人は、デパートの外に出た。帰りの道、シンジの腕にしがみつき離さなかったレイ。シンジはとても歩きにくそうだったが口にはせずにただ淡々と歩いた。 「じゃぁ、今日はこれで・・・・・またね綾波・・・」 「今日は楽しかったわ、ありがとう・・・・・・」 二人は、曲がり角で別れた。 (こんなに楽しいことが、3年前にあったのね・・・・・・これからも生きている限り、こんなに楽しいことはあるのかしら・・・・・・) レイは回想を始めた。 (本当に、碇君といた日々はとても楽しかった・・・・・でも、ここで死ぬとその楽しみが永遠に奪われてしまう・・・・・死にたくない・・・・・) そう思った瞬間、レイの目の前に光が見えた。 (何かしら・・・・・) レイはその光に触れた。 病院 レイの病室内 シンジはレイの意識が戻るのを待ち続け、5日間レイの病室にいた。 「綾波・・・・・早く目覚めて・・・・」 シンジがレイの手を握ってそう言った。まさにそのときだった。 レイの目が開いた。 「・・・・・・ここは・・・・?」 レイは辺りを見回した。自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。横を見るとシンジがいた。 「碇・・・・・君・・・・・・・?」 誰にも聞こえないような小さい声で呟いた。シンジは下を向いていてレイの意識が戻ったことにまで気付いていない。レイはシンジが握っている右手を動かした。 さすがのシンジもようやく状況に気付いた。 「綾波!」 部屋に響き渡る大きな声で叫んだ。叫んだ瞬間に涙が零れ落ちた。 「あたし・・・・・・生きてるのね・・・・・」 「そうだよ・・・・・・生きているんだよ・・・・・・」 泣きながら話す二人、タイミングよく状況を知らないアスカとミサトも入室してきた。 シンジの涙を見てミサトは驚いた口調で聞いた。 「ちょっとシンちゃん、何泣いてるの?」 シンジは何も言わずにレイの方を指差した。ミサトとアスカが見た先にはシンジの顔を見てないているレイの姿があった。 「レイ!意識が戻っんだ!」 「う・・・うん・・・すごくうれしい・・・・・」 シンジが代わりに話す。しかし、涙のせいでうまく話せない。 数週間後、レイは無事退院した。 2ヵ月後・・・・・ 「いつも遅刻ぎりぎりだから、久しぶりに早く出てみたけど・・・・・早すぎたかな?」 いつもより15分早く家を出たシンジはそう独り言を言った。そして、2ヶ月前にレイとぶつかったあの曲がり角に差し掛かる。 同じ学校の制服を着ている少女を見た。 「おはよう、碇君」 「綾波、おはよう」 そして、その日はレイと一緒に登校するようになった。話が途切れることは無く、時折笑いも出ていた。 楽しい日々の始まりでもあった。 続く