あれから5日、レイのおかげで記憶も戻り、普通の高校生として生活できるようになった碇シンジ。 しかし、そのときにはとんでもないことが起こることを知っているのは当然誰もいなかった。 第九話 純粋のガールフレンド 前編 シンジとアスカがほぼ毎日のように行っていた口論、通称「夫婦喧嘩」は、シンジがレイの彼氏となってからはあまり行われなくなっていた。 「碇君、お弁当一緒に食べない?」 レイは5日前の出来事をきっかけとして、以前よりはよくしゃべるようになっていた。とはいっても、男子の中でレイとまともに話せているのはシンジだけなのだが。 「ええな〜あの二人、まさに青春やな」 トウジがそんな二人を見てふと呟く。 「3バカトリオの一人が抜けて、悲しんでいるかと思えば・・・・・」 アスカがすぐにからかう。 「悲しむわけないだろ!むしろ祝ってやりたいくらいだよ・・・で、惣流は彼氏出来たのか?」 ケンスケが反論すると同時に聞き返す。アスカは「プイッ」といい首を横に向けた。 (けど、今のシンジ本当に楽しそうね) アスカはシンジとレイを見て微笑んだ。 午後10:24 ミサトの部屋 「ふぅ・・・・・すごく疲れたなぁ・・・・・」 シンジがふと呟く。 「だったら寝たほうがいいんじゃない?下手に遅刻するとレイに嫌われるかもよ〜」 ミサトの恒例の子ども扱いのからかいが入る。 「うん・・・・・もう寝るよ・・・・お休み・・・」 シンジは言い終わると部屋に入るとすぐベッドに倒れこみ眠りについた。 翌日 午前8:00 「やばい!遅刻だ!アスカの奴わざと起こさなかったな!」 「起こしたわよ、それでもシンちゃん起きなかったから怒って先に行ったわよ」 あせるシンジを横目に冷静に言うミサト。 「そうだ!ミサトさん学校まで乗せていって!」 シンジが急ぎ口調で頼む。 「今日出張だから学校には行かないのよ〜」 あっさりと断られる。仕方なくシンジは猛ダッシュで家を出た。 同時刻 レイの部屋 レイの部屋には目覚ましの音が鳴り響いていた。レイはまだ起きていなかった。 「・・・・・・今何時なの?」 目覚まし時計を手に取り時刻を確認したレイ。しばらくして遅刻寸前であることに気付いた。 「どうしよう・・・・遅刻しているところ碇君に見られたら・・・」 レイは制服に着替え、パンを一枚口に食わえて大急ぎで家を出た。 「やばい!あと5分だ!」 シンジは時計を見て走るスピードを上げた。そして、曲がり角を曲がろうとしたときだった。 ――――ドカッ! 曲がり角を直進してきた誰かにぶつかってしまった。 「ご、ごめんなさい!」 シンジはそういうと、ぶつかった人が落とした荷物を拾い集めた。その中に入っていたひとつの本に書かれていた名前を見た。 「綾波・・・レイ・・・・・もしや・・・・」 覚えのある名前を見たシンジはその人の姿を足元から少しずつ確認していった。首の辺りまで見たとき、聞き覚えのある声が聞こえた。 「碇君・・・・・・スケベ・・・」 明らかににレイの声だった。 「チュンチュン!」 レイが落としたパンを小鳥が持っていってしまう。学校まですぐそばだが、時間的には間に合わないから二人とも歩いていくことになった。 学校前の交差点に差し掛かったが、そこまで二人とも顔を真っ赤にして互いの顔を見ようとしなかった。 信号は赤、レイは止まったが、シンジは信号を見ないでそのまま歩道を渡ってしまう。周りには誰もいない。 「碇君・・・!!」 シンジの右側から一台の車が近づいてきていた。シンジはまだ気付いていない。そのシンジを見てレイは走り出した。 車はシンジを見つけ急ブレーキをかける。しかし、シンジにぶつかるのは避けられない。そのときだった。 「碇君危ない!」 レイがシンジを突き飛ばす。シンジは間一髪助かった。しかし・・・・・ ―――ドシャァ・・・・ いやな音がシンジの後方から聞こえた。シンジは辺りを見回した。同じ学校の女子が血を出して倒れているのを見た。気がつけばレイがいない。 「綾波ィ!!」 シンジの声がむなしく響いた。 続く