MIDE SUMMER NIGHT DREAM




この話を読むに当たって


この小説は、携帯アプリ「エヴァンゲリオン外伝 真夏の夜の夢」を題材にした小説です。
このゲームは、アスカルート、レイルートの二つに分かれていますが、この小説ではレイルートで進みます。

内容をそのまま使うので、ネタバレ的な内容となります。

また、実際のゲームをプレイしている人で尚且つレイルートでプレイしている人で

「何度やっても同じエンディングにしかならないよ〜」
と迷っている人はぜひ読んで貰うとうれしいです。

この小説で書いてある通りにやると、レイルートで見たことの無いエンディングが見れる...かもしれません。

自力でやりたいという人は、一通りプレイしてから見るもの悪くはありません。
いつ見るのかは当然その人自身ですので^^

では、ご覧ください。






ある日の夜、アスカのいない部屋の中、僕はミサトさんにある話を持ちかけられた。

「キモだめし...ですか?」
「そ、キ・モ・だ・め・し」

そう。突然キモだめしの話を持ちかけられた。

「けど、どうしていきなりそんな話を?」
「ま、細かいことは気にしないで。聞いたことはあるでしょ?」
「まぁ、名前は聞いたことはありますけど実際にやったことは...」

僕がそう言った瞬間、ミサトさんの目が光った。

「やったことが無い!?だったら尚更やるべきだわ!」
「え!?」
「夜の建物の中で二人で歩く少年と少女...吹き付ける隙間風に......『キャアーー』って抱きついて...グフッ、グフフフフフ」

ミサトさん...そんなエロ親父みたいな発想を...

「さっ、そうと決まったらこのマニュアルを読む!」

いつ決まったんだ?と思いつつ、マニュアルを受け取る。

「本当にやるんですか?」
「そうよ、いいからや・り・な・さ・い!」
「は、はい!」

波乱に満ちたキモだめしの幕が開かれようとしていた。



エヴァンゲリオン外伝
             真夏の夜の夢



翌日...市立第壱中学校

「けど...何をどうすれば...」
「おう、シンジ。何を読んどるのや?」
「もしかしてそれは...ネルフの機密書類?」

僕が一人でいるときは当然のようにトウジとケンスケ近寄ってくる。
この二人には話しても大丈夫だよね...

「別に機密ってわけじゃないよ。その...キモだめしの...」
「「キモだめし?」」
二人の声が綺麗にユニゾンする。

「な〜んだ。別に重要なことじゃないのか」
「けどおもしろそうやな。ちょっと見せてみぃ...」
「ちょっと鈴原!何やってるの!」
「い、いいんちょ...」

委員長...それはクラスメートの洞木さんのこと。クラス委員長をやっていることから「委員長」と呼ばれている。

「さては...碇君とケンカしてたでしょ!」
「し、してへんで!なぁ、シンジ?」
「う、うん...」

どんどん騒ぎが大きくなる。その後、とうとうアスカまできてしまった。


「アタシは昨日全部聞いちゃったからね〜確か...キ・モ・だ・め・しってミサトが言っていたわね〜」
「し、知ってたの?」
「当然でしょ〜ただ同居しているわけじゃないのよ。ほら、そのマニュアル見せなさいよ!」

強引にマニュアルを取られた...

「へぇ、結構しっかりしている内容なのね...」
「キモだめしの心得...一つ、キモだめしは夏にやるべし」
ケンスケが読み上げる。
「それは問題なしやな。毎日夏やし」
「二つ、キモだめしは夜にやるべし」
「当然ね。真昼間にやっても怖くもなんとも無いわね」

それはその通りだ...こんな当然のことをなぜ書くのか...

「三つ、キモだめしは男女のペア二人で行うべし」
「男女のペア...グフフ...」
「ちょっと鈴原、何笑ってるのよ!」
委員長がなぜか顔を赤くして言う。

「四つ、行う際はネルフ特製ゼッケンをつけること」
「シンジ、そのゼッケンってどこで手に入るの?」
「ミサトさんのことだから、言えばもらえると思うよ」
「なら今日の夜に言いなさい!あさっての夜ここでやるわよ!」
突然アスカが叫ぶ。

「大丈夫なの?生徒会や先生たちに許可を取らないと...」
「あのミサトさんが許可を取るから大丈夫だよ」
ケンスケの言うとおりだ。確かにミサトさんは三佐ということもあるから、あっさり許可を取ってくれるだろう。




そんなわけで翌日...




「本当にあっさり許可を取れたな」
「どんな女子とパートナーとなるんかな〜」

トウジとケンスケがニヤニヤしながら話す。

「何よニヤニヤして。馬鹿じゃないの?」
「それはいいとして、ひとつ問題があるのよ...実は今日、欠席者が何人かいるから通知を届けないと...」
委員長の言うとおりだ。4人くらい学校に来ていない人がいた。

「そういえば、今日はファーストも来ていないわね」
「綾波の家なら知ってるよ。僕が届けようか?」
「おっ、早速いいところを見せるのかな〜?王子様〜」
なぜかアスカが急にからかう。

「ど...どうでもいいじゃないか...」
「じゃぁ、碇くん、よろしくね」
委員長から通知のプリントを受け取った。

「先走って抱きついたりしちゃだめよ〜」
「しないってば!!」


本当にアスカはいつもこうだ。何かと僕を使って自分の気を晴らしているように見える。
僕自身、それが日常だからもう慣れてはいるけど...
世界中から選ばれた3人のエヴァのパイロット。その一人がアスカだ。
アスカはエヴァに乗ることを誇りに思っているけど...僕は何も思ってない。

僕だって...エヴァのパイロットなのに......




ここは第3新東京市。エヴァのパイロットも、そしてクラスのみんなもここで暮らしている。ここに突如現れる使徒を迎撃するための要塞都市だ。
なぜ使徒がここに現れるのか...その理由は、僕にはわからない...



レイのマンション...



第3新東京市の片隅にあるこのマンモス団地。綾波はここで暮らしている。
今日来ていないということは...また検査に行っていたのかな?
帰ってきていることを願いつつ、階段を上った。


ドアをノックしても返事がない.....けど、ポストに入れても気づいてくれるような様子ではないので、もう少し待ってみることにした。

「綾波遅いな...あれ?ドアが開いてる...」
僕は、綾波の家の中に入った。

「相変わらず殺風景な家だなぁ...綾波〜いるの?」
しかし、返事はない。
「いないのか...覗くのは悪いから通知をおいて...」
「...碇君?」
後ろを振り返ると綾波がいた。

「綾波?今日は医者に行ってたの?」
「うん...検査だったから...」
「そう...あ、明日、学校でキモだめしをやることになってさ...これ、通知だよ」
綾波は通知を受け取り、一通り目を通した。

「キモだめしって何?」
「なんというか...夜の校舎を二人で歩いて...その...怖いものを見させられる...」

うまく説明できない自分に腹が立った...

「怖いもの...私には怖いって感覚がわからない...」
「え...」
「碇君、これはやらなくてはいけない物なの?」
「綾波が嫌なら無理にやれとは言わないよ。学校の行事といってもただのお祭りのようなものだし、みんなとの協調性を高めるという意味だけだからね」
「協調性?それってシンクロ率のこと?」  
「え?そ、そうだね」

綾波は突然俯いた。

「赤木博士に言われたわ...『最近シンクロ率が落ちてる...ほかのことにも感情を持つことが必要だ』って...」

しばらくの沈黙が流れた。

「私、行くわ」
「綾波...無理してないよね?」
「無理なんてしてないわ。明日の8時ね、必ず行くわ」
「わかったよ。待ってるからね。それじゃ」

僕は、綾波の部屋から出た。よく見えなかったが、その綾波の表情にはほんの少しの微笑が見えた気がした。

綾波の変わろうという気持ちが僕にもしっかりと伝わってきた。
ようし!明日は楽しくなりそうだぞ!



その夜...



「あ〜〜〜何か緊張と期待が混ざってるわね」
「そういうものなの?」
「そうよ!...あ!もしかして加持さんも来るの?」
「加持さんなら来ないよ。生徒だけのキモだめしなんだ」


当然、アスカというと...


「ええーーー!!もしあんたみたいなやつと一緒になったら最悪以外の何物でもないわ!」
「それはいいすぎだと思うけど...」
「それはそうと、あんた本当は怖いんじゃないの?アタシがドイツの長い髪の女の話をしてあげようか?」
「い、いいよ!!」

必死に拒否をするけど、アスカのしつこさに負けそうになった。
けど、何とか逃げ出し自分の部屋に入ったけど元気で長い髪の女の笑いが夜遅くまで響いたのはいうまでもない。



そして夜が開け...キモだめし当日を迎えた。



「さっ、とうとうキモだめしやで〜ワイのパートナーはあの子かな〜それともあの子かな〜」

トウジが異常ににやけている...ふと周りを見渡すと...

「あれは...」

闇でよく見えなかったが、次第にはっきりしてきた。
綾波の姿だった。

「綾波、来たんだね」
「みんな結構騒いでいるのね」
「まぁ...まだバラバラって感じだからね」
「つまりシンクロしていないって分けね」
「まぁ...」

しばしの沈黙が流れる。まるで僕と綾波の周りだけ時間の進みが遅いような感じがした。

「シンジ!何やってるのよ!パートナーを決めるくじ引きが始まるわよ!」
遠くからアスカの声が聞こえた。僕と綾波はその場所へ向かった。

「みなさ〜ん、これからペア決めのくじ引きを始めま〜す!同じ番号の人とペアになります!それでは、出席番号順に並んでくださ〜い」

委員長がうまく進めてくれる...やばい...僕まで緊張してきた...誰とペアになるんだろう?

「はい、次は碇君よ」

僕は青のくじを引いた。番号には「1」という番号が書かれていた。

「1番...女子の1番ってだれ?」
「碇君、私よ」
「え?」

自分を呼ぶ声がして僕は振り返った。振り返ると綾波がいた。

「綾波...よろしくね」
「うん...」


そして...トウジは委員長と...アスカはまた別の人と...ケンスケは...


「どうして俺だけペアがいないんだよ〜」
どうやら抽選にもれたようだ...





こうして、僕は綾波とのペアでキモだめしが始まった。
この後とんでもないことが起こることなんて...このときの僕は、知る由もなかった。





「な、何か緊張するね...」
「そう?」
「綾波は怖くないの?」
「私には怖いって感覚が分からない...」

僕は昨日綾波が言っていたことをすっかり忘れてしまっていた...

「とりあえず行こうか?」
「ええ...私もドキドキできるのかしら...」

僕と綾波は...静かに校舎の中に入っていった。





第壱チェックポイント  
             玄関


平日の朝はあれだけ賑わっている玄関も夜になると下駄箱だけ...すごく場の空気を沈ませる...
次に進もうとしたときだった。


―――キィ―――


「ん?今何か音が聞こえなかった?」
「ええ、聞こえたわね」


―――キィ―――


「また!いったい何の音なんだろう?」
「さぁ?今のところは危険性は感じていないわ。けど碇君が気になるなら調べてみる?」
「う、うん...調べてみよう」

下駄箱周辺を歩く。2−Aの下駄箱を見て音の原因が分かった。

下駄箱のふた...が半開きになっていた。

「これって...」
「下駄箱が半開きになっているのね。それに風が吹き込んだから音が出た...そういうことよ」
「そう......」

とりあえずその場を去ろうとしたときだった。


タッタッタッタッタ...

誰かが走る音が聞こえた...そして...


「ん?...う、うわぁ!」


ドンッ!

走ってきた人とぶつかった...走ってきたのは以外にも...

「け、ケンスケ?」
「何だシンジか?」
「どうしてケンスケがここにいるのさ?」
「え?パートナーのいるやつには秘密さ」

ケンスケ...君が何をやりたいのかわからないよ...

「それよりもクラスのやつに何人か見たってやつがいたぞ」
「何をさ?」
「長い髪の女だよ。さっき校舎の中に入ったって話だぜ?じゃあな〜」

ケンスケはどこかに走っていった...

「長い髪の女...こんな時間に何のようなのかしら...」

長い髪の女...まさかね...
僕と綾波は、第弐チェックポイントの音楽室に向かった。




第弐チェックポイント
            音楽室




音楽室は月の明かりで照らされていた。何よりも照らされていたのはピアノだった。
その月の光でとても神秘的に見えた。


「碇君?あのピアノの上の紙に名前を書けばいいのね?」
「うん、そうだよ」
「碇君の名前も書いてくるわ」
「あ、ありがとう」

綾波はピアノに向かい、チェックシートに僕と自分の名前を書いた...
僕はなぜかピアノが気になった。

「あのピアノ...下手にいじらない方がいいよね...」
「じゃぁ、先に行くわ...」

音楽室を出ようとした...まさにその時だった。


―――ポロン

「え?」


―――ポロン...ポロン...


「ピアノが...誰もいないのに...」
「おかしいわね...誰もいないのにピアノが鳴るなんてありえないはずよ」
そういった綾波はピアノに近寄った。

「あっ、綾波?何をするの?」
「あの音の正体を突き止めるわ」
「そ...そんな!危険だよ!」

僕が綾波の元に近寄った直後だった。


チューーー!!


「へ?」
僕は、目を疑った。
「....ネズミ?」
「そう、ネズミね。弦の上を走っていたから音が出たのよ。それにこのピアノ、鍵盤の基盤が壊れているわ。これでは弾くことも出来ないわ」
「そう...なんだ...」


暫しの沈黙..........


「それにしても綾波ってすごいね...このくらい中でピアノが鳴り出しても、ぜんぜん驚きも怖がりもせず...」
「言ったでしょ。私には怖いって感覚が分からないの......碇君。怖いってどういう感じ?それは人にあるために必要なこと?」
綾波の突然の問いに、僕は少し動揺した。

「そ、それはうまく言えないけど...何て言うのかな...怖いときには心臓バクバクって言うか......そう、胸がドキドキして........っ!!」

僕は...そのときに起こした綾波の行動に...ただその姿を見ることしか出来ずにいた...

「......どう?私の胸、ドキドキしている?」
「あ......いや、その......」
綾波は、僕の手を自分の胸に当てさせた。怖いという感覚がない綾波の胸は静かなままだった。

「......どう?」
「ぜ....全然ドキドキしてないよ。静かなままだ...」
「そう..........それは...私の心が不完全だから?」
「そ、そんなことないと思うけど........」

綾波の問いかけにうまく答えることは出来なかった。
上目で僕を見つめる綾波を見ている僕の胸はとても速い鼓動を打っていた。

「碇君の胸は....すごくドキドキしてるのね」
僕の胸に手を当てた綾波が呟く。
「こ、これは...綾波が、突然こんな事するから......!」
「......ごめんなさい。......怖かったの?」
「い、いや...そう言う訳じゃなくて」
「じゃあ、どういうこと...?」
「も、もういいよ。...先に進もう」

どう答えればいいのか...全く分からなかった。下手な答え方をすると彼女を傷つけると思った僕は...何も出来なかった。

けど、そんな僕を綾波はまだ見つめている。

「..........?」
「き、気にしなくてもいいと思うよ...」

避けるように...音楽室を出た





......ドキドキなんて気持ち...厄介なだけだし....




NEON GENESIS EVANGELION

SIDE STORY#1 A MID SUMMER NIGHT DREAM




「次のチェックポイントは理科室だね。ほら、すぐそこだよ」
「理科室といえば歩く人体模型の噂....」
「わぁーー!!」
「どうしたの?」
「あ、綾波が言うと本当に起こりそうな気がするから...」
「けど、実際はそんなことあるわけがないわ」
「それは...そうだけど...」


そんな感じで...理科室に素直に行こうと思ったけど...無意識のうちに、ある言葉が僕の口から出ていた。

「綾波...」
「なに?」
僕と綾波は立ち止まる...

「その...手、繋がない?」
「え...?」
「だめかな?」
暫し、綾波は黙り込んだ...

「いいわよ」
「ありがとう...」

僕の左手が綾波の右手を握る...何となくだが、暖かさを感じた。
それ以外に...感じるものがあった。


...汗を感じた...きっと僕の手だろう。
手は繋いだが、黙ったまま...理科室に向かって歩き出す。



最終チェックポイント
           理科室



「すごく不気味な雰囲気だね...」
「見つけたわ」
「え?」
僕は綾波が何を見つけたのか一瞬分からずにいた。

「チェックシートよ。これでこのチェックポイントもクリアね」
「そ、そうだね。けど、これで全部のチェックポイントを回ったね。これで戻れるよ」



―――ガタン


物音が聞こえたのはその直後...僕がほっと一息をついた瞬間だった。
人影が見えたのもその瞬間だった。


「気のせいか...」

僕は辺りを見回した。何一つ変わったところはなかった。


僕の前に立っている人体模型を除いては...


「ぎゃーーーー!!」

思わず大声を上げる僕、人体模型は少しずつだが近づいてきた。

「...に、逃げよう!綾波!」
「あれの正体を調べなくてもいいの?」
「それ所じゃないって!」

僕はそのとき、自分から逃げている気がした。けど...これ以上彼女を危険な目に合わせないためにも...苦渋の決断でもあった気がした...



そしてこのあと...とんでもないことが起こるのであった。




「いろいろあったけどこれでキモだめしも終わりだね」
「......待って」

突然立ち止まる綾波...

「どうしたの?」
「シッ、耳を澄ましてみて...」

目を閉じて...すべての神経を耳に集中させた...


カツーン...カツーン...


「足音!?」

カツーン...カツーン...

その足音は少しずつこちらに近づいてくる...

「あの音はハイヒールね...そうなると女の人...」
「まさか...」

僕の予感は的中した。前方から長い髪の女のシルエットが見えた。

「なっ、長い髪の女...!」
「碇君、これは、もしかしたら怖いって言う状況なのかしら?」
「怖いよ!申し分なしに!」
「逃げたほうがいい?」
「逃げよう!綾波、こっちへ!」

僕は綾波の手を引き来た道を走って引き返す...どれくらい走っただろうか...


「屋上だ...」
「どうするの?逃げ場はないみたいだけど...」
「待って、確か非常階段があったはず...」



―――バキィッ!


「え...?」
「碇君!」


......僕が非常階段を探そうと屋上の手すりに手を掛けた時、古くさびれていた手すりが折れ、僕の体は中に投げ出された。
このまま校庭に落ちて死んじゃうのかな...このときの僕はずっとそう思っていた...


「碇君!」
綾波...?





......気がついたら僕はさっきと同じ場所...屋上で目が覚めた。


「あれ...?僕...生きてる...」
「気がついたのね」
「綾波...」



何が起きたのか僕にはわからなかった。ただ、これだけはわかった。


「綾波が助けてくれたんだね」
「ええ」
「ありがとう...けど不思議だな...さっき落ちそうになったとき、ぜんぜん動揺してなかったんだ」
「......?」
「本当に怖いときは怖がってなんかいられないんだ。案外怖いってこんなものなんだね」
僕は少し笑いながら言った。

「けど、私は今ドキドキしているわよ」
「え?」
「ほら...」


綾波はもう一度僕の手を自分の胸に当てた。その胸には、小さく鼓動が波打っていた。
命の鼓動...心の鼓動...それが僕にも伝わってきて僕の胸も高鳴り始めていた...

「碇君が落ちそうになったとき...自然と胸が高鳴り始めたの。目の前で人が死んでいくのは見たくなかったから...」
「......」
「.....碇君の手......暖かいのね......」

僕は、ずっと黙っていた...

「よかったわ。あなたを守ることができて...」

そういった綾波は軽く微笑んだ。そのときの僕は、月明かりに照らされる綾波の姿をずっと見つめることしかできなかった...




「碇君...ちょっと...横を向いてくれる?」
「え?う、うん...」

綾波の言うとおり、僕は横を向いた。何を言うのか...僕はそのことばかり考えていた。


「......!!」

僕が感じたのは綾波の言葉ではなかった。
感じ取ったのは唇の感触...綾波は僕の頬に軽くキスをした。

「ありがとう、碇君......」

ありがとう......綾波からこの言葉を聞くのは今が初めてだった。改めて綾波のほうを向くと、赤面した綾波の姿が目に映った。
「.....帰りましょう?」
「う、うん...」
屋上からゆっくりと降りてゆく...自然に手が繋がれていた。互いが望むように...


「ねぇ、碇君、これが...ドキドキするっていうこと...?」
「......うん、そうだと思うよ...」


大波乱のキモだめしは...このような形で幕を閉じるのだった...










数日後...





「行ってきます!!」
「ほら、バカシンジ!急がないと遅れるわよ......あら?」
アスカがドアを開けて立ち止まった。遅れて僕も出た。
......綾波がドアの前に立っていた。


「ファースト?どうしてここにいるのよ?」
「今朝、早く家を出たから少し遠回りしてみたの。そしたら、あなたたちの家の前に出て...」
「綾波...」
「つまり一緒に行こうって訳ね。道連れが増えるっていいことね。さっ、行くわよ!」
「あ、アスカ!」
先走って行ったアスカ...取り残された僕と綾波...

「ご、ごめんね。アスカも別に悪気があるわけじゃないから...」
「いいわよ...碇君、これが...楽しいって言うこと?」
「......うん!きっとそうだよ!」


楽しいか...たまにはこういうのもいいよね...
みんな...特に綾波...ありがとう...



Fin

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