騎士と妖精と熾天使の幻像
 
第2章
第8話.全てを焼き尽くす、真なる煉獄、
 
 
三日間にわたる空母オーバー・ザ・レインボウの旅
レイにとっては初めての船旅、おまけにシンジと一緒なら機嫌は良いはずだったが・・・・・・
 
「・・・・・・お兄ちゃん、何やってたの三日間も。」
「いや、色々と忙しかったんだ。」
「問答無用!帰ったら一緒に遊びに行くの、解った!」
「あ、あのさ、まだ参号機の納入で忙しいし・・・・・・それに初号機の改修も・・・・・」
「ダメッ!!」
 
レイはシンジの意見に全く取り合わない。
シンジががっくりと肩を落としている。
その後ろから綾とリツコも同じように肩をすくめていた。
 
レイが怒るのも無理はない。
実はシンジと綾の正体、バランシェ博士という事がばれてしまい艦隊は大騒ぎになっていたのだ。
おかげでこの三日間は艦隊に配備されていSAのチューニングを頼まれていた。
もちろん断れない事もなかったのだが、ドイツ支部が次から次に問題を起こし、そのお詫びの代わりに作業を無償で引き受けていたのだ。
おかげでこの艦隊に配備されていたSAの8割以上が市販機のスペックを大幅に上回るカスタム機顔負けの性能を示していた。
実はこの艦隊に配備されていたSAの殆どがなじみの深いフィルモアのサイレンシリーズやアトールのAトールシリーズ、初期設計から携わった機体だから作業はそれほど手がかからないはずだったのだが台数があまりにも多く、おまけに使用が複雑すぎた。
まず海兵隊使用のM型をメインに強襲用のA型や偵察用のSc型までは解るとして、何故か陸戦用のJ型や特殊部隊が使う電子戦用機や特注品のステルス機まであった。
おかげで時間がかかる事この上ない、さらに綾はリツコと一緒に参号機の整備をしていてあまり手伝えなかった事もありここ2日間、シンジは寝る間も削って作業にかかりきりだった。
 
そのせいでレイの機嫌は思いっきり悪かった。
おまけにドイツ支部の人間も目あり色々と行動を制限されてしまい、参号機の検査や整備は綾に任せっきりにしてしまった。
 
『はぁ・・・こりゃレイだけじゃなくて綾にも何か埋め合わせしないと行けないな。』
 
普段は鈍感だがこういった時だけは少だけ気の回るシンジだった、しかし帰ってから暫くはそのチャンスはなかった。
 
 
 
ようやく港に着いた空母から早速EVAを降ろそうとした。
弐号機はそのままNERV本部には運び込まれずいったん松代に持っていくことになった。
海水に浸かった機体を整備するのに、ミサト達が本部の目のある事を嫌ったのがその原因だった。
松代も本部の直轄なのだが、本部に比べて権限的に下位になるので自分達の好き勝手に出来ると判断したからだった。
リツコにしてみれば今更ながらという気はしないでもないが、無理強いしたところで言うことを聞くはずもなく説得は早々と諦めた。
 
一方、参号機も海中で活動したものの、シンジ達の参号機は標準装備で全天候対応ということなので綾とリツコが二人で簡単な整備と検査を行っていた。
基本的に初号器を始め弐号機以降も基本的には局地戦用装備は殆どがオプションになっているのに対して、参号機とアメリカで最終調整段階に入っている四号機に関してはシンジ達の設計により究極型と呼べる機体に仕上がっていた。
そのため標準装備であらゆる戦闘を可能として、オプション装備の方には殲滅戦用のフレイムランチャーを始め、地表から衛星軌道上を攻撃できるバスターランチャー等の特殊きわまりないモノ、いやおよそまともな考えで作られたとは思えない物ばかりだった。
 
 
そしてドイツ支部の人間達の動きはきわめてあわただしかった。
弐号機の処女戦でいきなりの敗北、おまけに海上輸送の為標準装備にしていたことが裏目に出てしまい。
さらに最悪だったのは海に落ちたことだった。
弐号機は海上・海中戦用の装備はオプションであり、標準仕様では海中に潜れるようにはなっていない。
その為ドイツ支部整備班もシンジと同じように昼夜を問わず突貫で作業に当たっていた。
 
そして整備に携わらないミサトや加持も色々と動き回っていた。
もちろんそれは参号機に関する情報収集だった。
 
海に落とされてその力を見ていないアスカはともかく、ミサトと加持の二人にしてみれば参号機の力は驚異だった。
 
ここでミサト達は一つの勘違いをしていた。
参号機がアメリカ支部で作られたこと、開発責任者がシンジ・サードチルドレンということはNERV内でも有名になったが、本部がまったく関与していたに事は殆ど知られていない。
シンジは一時期ドイツで話題になっていたことがあり色々と注目されていた時期があったが、ここ数年消息を絶っていたことから完全にノーマークだった。
それらの事からミサトは、シンジがアメリカ支部を本部の支配下に治める為にゲンドウに送り込まれたと思いこんでいた。
加持も遠からず似たことを考えていたが、ミサトと違う点はシンジについてミサトのように敵対心を抱かず、一情報員として客観的な態度を崩さなかった事だった。
その為、加持はの持つ情報はミサトの情報よりも正確なモノが多かった。
 
 
 
 
ドイツ支部の面々は既に弐号機と共に松代に向かい、ミサトや加持達幹部クラスだけが着任の挨拶に本部に向かっていた。
ミサト達は着任の挨拶が終わると早々に松代に引き上げてしまいったのだが、加持は「ちょっと野暮用があるんで」といって一人本部に残っていた。
その野暮用とはミサト達の目を盗んでシンジに接触を取ることだった。
シンジを探し回りながら本部内で情報収集する事も怠らないは一流と言ってもいいのだが、その方法の殆どが女性職員に対してナンパと言うのが少し問題だった。
ただでさえドイツ支部の人間として目を付けられているのに、そんな事をしていたのですぐに本部内でも話題になっていた。
そしてシンジは加持の本性を知っていることもあり、何を企んでいるかも薄々気が付き始めていた。
だからこそシンジは加持の目的を正確知るために、直接接触することにした。
リツコと冬月を通じて合いたい旨を伝えると同時に、自分の研究室では綾まで席を外させ二人だけで交渉できるようにセッティングしていた。
 
 
「やあ、シンジ君。ずいぶんとがんばってるみたいじゃないか。あんまり無理はしない方がいいぞ。」
「加持さん・・・・そう思うのなら仕事を増やさないでくださいね。いい加減尻拭いや後始末にも疲れましたから。」
「ははは、こりゃ一本取られたな。悪いね、彼女は俺より階級が上だし、一応上司って肩書きもあるもんでね。」
 
早速、悪びれもせずに話しかけてくる加持だがシンジはその何気ない会話の中に加持がいわんとしていることに気が付いていた。
 
「そうですか・・・では日本政府内務省調査部加持リョウジさんとお聞きした方がいいんですか?それとももう一つの方がいいですか?」
「いやはや、まいったね。バレバレかい?」
「全てを本部で知っているのは僕と両親、冬月副司令、リツコさん、綾、内務省の方はそれ以外にもごく一部ですが幹部職員が知っています。」
「うーん、黙っといてもらえるかな?あんまり俺のことがばれてると五月蠅い年寄りが変な茶々いれてくるかもしれないんで。」
「その辺はご心配なく、口止めはしてます。でも内務省の方に関しては日本政府側から教えてくれましたので。ソレよりさっさと本題に入りませんか。」
「ふぅ〜、まったく君と話してると余計な手間がかからなくていいよ。ソレで本題なんだが君は何処まで知っているんだい?ああ、司令達は別にして『君自身が』と言う意味でね。」
「・・・・そうですね、『ほぼ全て』と言ったら信じてもらえますか?まあ『裏死海文書』とか『セカンドインパクト』に関しては『真実』だと思いますよ。」
 
そういった途端、加持の雰囲気が変わった。
表情は相変わらずヘラヘラとしていたが、気配は全く別物だった。
即戦闘態勢に入れるように神経を集中する、それでいて殺気は極限まで押さえ込み自分の仕掛けるタイミングを読ませまいとしていた
だがソレはシンジも同じ事だった、加持の気配が変わるのとほぼ同じくシンジの気配も一変した。
ここでシンジの変化に気が付いた加持は自分がとんでも無い勘違いをしていたことに初めて気が付いた。
 
『な、なんだよこりゃ。これが中学生・・・いや、ホントに人間かよ・・・・・・・・・・・・・どうやら、俺の命もここまでかな?』
 
シンジの放つ気は『超越者』、神の領域。
実際、地上のどんな生命体であれシンジにかなうモノはない。
たとえ立ち向かったとしても、生き残れる可能性は無い、0である。
野生の虎や熊であろうとも、もちろん人間も例外ではない
シンジは素手で鋼鉄を引き裂き、時速数百qで駆け、絶対障壁ATフィールドを持つ永遠の命を持つ『神』そのものだ。
そんな事を知らずに二人っきりでいることに今更ながら後悔した加持だったが、逆にここで思い切って開き直った。
 
「ふ〜ん、じゃあ、ちょいと俺にも教えてもらえないかな?あ、葛城達には黙ってるし、内職先にも教えない。」
「クスッ、面白い人ですね。じゃあ一つボクと契約を結びませんか?」
「契約?約束じゃなくてかい?」
「ええ、契約です。」
 
それから約五時間の後、シンジの研究室からは衰弱しきった加持とそれを支えるシンジの姿があった。
加持はそのまま病院へとかつぎ込まれて強制的に入院させられることとなった。
そしてこの研究室での会談の内容に関して、シンジはいっさい外部に漏らさなかった。
 
周囲はシンジからではなく加持から聞こうとしたが、加持は入院してから意識が戻らずしかも意識の戻ったその日はそれどころの騒ぎではなかった。
もっとも意識の戻った後もしばらくは加持は誰とも話そうとしなかった。
見舞いにきたアスカやミサトにも何も話さず、一度だけ見舞いにきたシンジと数分間話をしただけであった。
病院の監視カメラには会話のごく一部が残されていたが、その内容の意味は誰にも分からなかった。
 
「シンジ君、君はそれでも絶望しないのかい?俺は・・・・・・・・出来ない・・・・・」
「僕は、もう・・・・・ですから。だから・・・・・・」
「君は強いな・・・俺には・・・・・・・・・」
「これは僕の背負う業ですから、加持さんは自分の・・・・・・」
「ああ、ありがとう。君のおかげで何とかなりそうだ・・・・・・」
「では、僕はこれで。」
「ああ、君もがんばれよ。」
「はい、お大事に・・・・」
 
 
 
 
加持が意識を取り戻したその日・・・・・
 
「パターン青!使徒です。」
「使徒は後30分程で上陸の模様、既に戦自が海中の使徒に向けてN2魚雷を使用しましたが戦果は確認できていません。」
「先輩。松代、依然として連絡が取れません!初号機は丁度素体改修が終了したばかりですが準備中です、出撃可能までこちらも30分はかかります。」
「マヤ、シンジ君に連絡を取って!」
「はい!」
 
マヤは急いでシンジに連絡を取るがそちらも既に大騒ぎになっていた。
どうやらこちらも急な使徒襲来に慌てている様子だった。
 
「リツコさん、こっちも分解整備中だったんで出るのにもう少し時間がかかります。」
「どのくらいかかりそう?」
「1時間、いえ、45分下さい!それだけあれば最低限の武装なら何とかなります。」
「解ったわ、こっちはもう少し早く初号機を準備できそうなの。後詰めを頼むわ。」
「了解!」
 
NERV本部発令所は大変な事になっていた。
納入したばかりの弐号機はドイツ支部の人間と一緒に松代に引きこもり詳細不明。
一方、参号機も処女戦でのデータを元に整備と改修中、そして初号機もVer3にむけて大改装工事中であった。
EVAの数は三機になったのに実働できる機体は一機も無いという状況になっていた。
 
「レイ、聞いての通りよ。シンジ君が来るまで最低15分は時間を稼いで。」
「リツコ姉さん。私一人でも・・・・・・」
「だめよ、あなたの初号機は素体の改修が終わっただけで、装甲なんかは仮に付けてるだけなの。だから無茶できないのよ。」
「うぅ、なんて間の悪いときに・・・・・」
 
レイは少し不機嫌になっていたが、リツコの言葉を聞いて納得せざるを得ない。
確かにいつもに比べてシンクロ率が上がらない、だけでなく普段より反応が鈍く動きが悪い。
だがそれが整備中とは聞いて納得したようだ。
それにしても、前回といい今回といい使徒の来るタイミングの悪さにはレイだけでなく、NERV職員一同恨めしい限りであった。
 
そうしている内に戦自の奮戦も虚しく使徒に上陸を許そうとしていた。
そして使徒殲滅の命がNERVに出た頃には何とか初号機の準備がととのっていた。
 
「リツコ姉さん、15分粘ればいいのね。」
「ええ、気をつけて。武器は初期の標準装備しか使えないし、反応速度や落ちてるのよ。」
「了解、15分間逃げ切ってみるわ。鬼ごっこと思えば簡単!」
「くれぐれも気をつけてね・・・・・」
 
だがそんなレイとリツコの決意を裏切るように招かれざる客はもう一組やって来ることになった。
 
「邪魔よ、ポンコツは引っ込んでなさい!」
「なっ!!!」
 
レイの初号機が出撃したのを見計らったかのように、ウイングキャリアーで運ばれてきた弐号機が初号機の目の前に降り立った。
もっとも目の前に予告無しに落ちてきたと言った方が正しいのかもしれないが、レイにしてみればいい迷惑だった。
 
「ちょっと何考えてんのよ!落ちてくるのなら何とか言ってよ。」
「五月蠅いわね、アンタはそこであたしの活躍を見てればいいのよ。」
「活躍?見たわよ、海に沈んでお兄ちゃんに助けられてるところ。」
「う、うるさいわね!!何の事、私はそんな事知らないわ。」
 
だが、使徒の目の前でそんなやりとりをしていればリツコだけでなくミサトも大人しくはしていなかった。
 
「「二人ともいい加減にしなさい!!!」」
「「はい・・・」」
 
二人とも言い争いをやめて不承不承使徒に向かっていくのだが今度は二人で先陣争いを始めた。
 
「ちょっと引っ込んでなさいよ!」
「そっちこそ邪魔しないで。」
 
さすがにリツコとミサトがもう一度切れるよりも早く、使徒が動き出した。
 
さすがに攻撃されてはケンカをしているわけにもいかず、二人共回避に専念する。
使徒イスラフェルは長い手のような部分を伸ばして鋭い爪で斬りかかってくる。
二人とも最初はその動きに翻弄されて回避する一方だったが、すぐに二人はその動きに慣れ反撃を仕掛けるようになっていた。
だが、初号機は無理に出撃させたことがたたって動きが鈍くなり始めていた。
 
「レイ、無茶はやめなさい!弐号機に任せて少し下がりなさい。」
「で、でも・・・」
「赤木博士、初号機は下がらせた方がいいでしょう。後は弐号機が引き受けます」
「葛城大尉、すみませんがお願いします。」
「アスカ、聞いての通りよ。」
「任せなさい、こんなヤツ私一人で!」
 
威勢の良いアスカだが実際は攻めあぐねていた。
原因は初号機に向けられていた攻撃が全て弐号機に回ってきたからだった。
それでも必死にその攻撃をかわしながら、隙を見いだそうとしていた。
結局無傷では勝てないと判断したアスカは、自分からわざと隙を作ることでカウンターを狙った。
 
「さあ、来なさい!」
 
アスカはわざと足を止めて両手で持っていた斧から片手を離し地面につけた、さすがにイスラフェルもこの隙を逃さず襲いかかってきた。
両手で一気に斬りかかってきた、弐号機は左腕を盾にしてその攻撃を防ぎきったが左腕はずたずたに切り裂かれている。
もちろん中のアスカにも凄まじい激痛が走った、だがそれに耐えきったアスカは腕を縮めようとするイスラフェルの力を使って一気に接近した。
 
「よくもやってくれたわねぇ!!」
 
真っ正面から体当たりのようにして思いっきり斧を使徒にたたきつける。
そしてアスカのねらい通り弐号機の斧は体ごとコアまで両断した。
 
「ふふん、まあデビュー戦にしちゃあいまいちだけど。どう?ファーストこれが私の実力よ!」
 
そういって自信満々に初号機の方に振り返ったアスカだが、肝心のレイはアスカの弐号機よりその後ろを注目していた。
 
 
NERV発令所
 
「先輩!使徒の反応は依然として健在、生きてます!」
「何ですって!レイ、気をつけて使徒はまだ生きてるわ!」
「うそ!ちょっと・・・・・アスカ、使徒はまだ生きてる!」
 
いち早く事態に気が付いた発令所だったが、レイを介してからではアスカに対して指示が遅すぎた。
 
「はっ、何言ってんのよ。アイツは私が真っ二つに・・・・・うそぉ!」
 
レイに言われて初めて後ろを振り返ったアスカが見たのは、二つに分断されたそれぞれがよく似た形に変形したイスラフェルの姿だった。
とっさに身構えようとするアスカだが完全に油断しきっていたが災いした。
二体の使徒の目から放たれた光線に吹き飛ばされ、後ろに下がっていた初号機のすぐ近くに落ちてきた。
 
「ちょっと、だいじょうぶ?」
「う〜〜〜ん・・・・」
 
さすがに派手に吹き飛ばされたのが応えたようで、意識を失っていたようだ。
そんな弐号機を庇うように前に出たレイの初号機だったが、二体になったイスラフェルに対して有効な手があるわけでもなく徐々に押されていった。
そして弐号機と同じように光線の一撃を受け吹き飛ばされた。
アスカと違い十分に身構えていたレイは何とか受け身を取ることが出来、それほどの痛手を被らなくてすんでいたがダメージを受けすぎていた。
レイの体は大した怪我はなかったものの初号機のダメージはかなり酷かった。
このままでは動けなくなるのは時間の問題だった。
 
『こうなったら、限界までシンクロするしかない!』
 
レイは奥の手とも言える最後の手段に出ることを決めた。
レイは自分の分身ともいえる初号機とは最大で400%までシンクロする事ができる。
確かに過剰シンクロすればEVAの能力を何倍にも引き出すことが出来る、だがそれはあくまで初号機の状態が万全の時に限る。
まして今のようにダメージを受けすぎた状態ではシンクロした瞬間何倍にも増幅された痛みで気を失うかもしれない。
過剰シンクロはレイに普段の数倍の感覚を与えてくれるが、それは痛覚も同じでちょっとした怪我でもとんでも無い激痛のように感じる。
 
「リツコ姉さん、一か八か過剰シンクロを仕掛けてみるわ。」
「だめよ!今の状態じゃ100を越えた途端に痛みで気絶するわ。」
「でも、もう手がないの!」
「やめなさい、レイ!」
 
発令所からのリツコやユイの制止の声も今のレイの耳には入ってこなかった。
 
『集中して、EVAと一緒になるようにイメージして・・・・後は・・・・・』
 
既にレイは集中し始めていたが、そこに別のところから通信が入ると一気に集中が解けた。
 
「レイ、無茶をするんじゃない。」
「レイさん、今の状態では命取りですよ。」
「お兄ちゃん!綾さんも、遅いよ。」
 
予定の時間を少しオーバーしてシンジと綾の参号機が到着した。
だがその姿は太平洋上の戦闘の時とは少し異なっていた。
背中にあった翼が無く、代わりに大型のユニットが取り付けられていた。
あの凶悪な火炎放射器は以前と同じように右手に持っていたが左手の盾はなく両腰に差していた刀も左腰のみとなっていた。
 
「すまない、少し時間がかかりすぎた。」
「ちょっと、その格好・・・・・」
「ああ、時間がなかったんでシーザスベイルや予備の実剣はおいてきたんだ。」
「そんな状態で・・・・もう少し私が時間を稼ぐから!」
「いや、これで良い。綾、時間がもったいない一気に片を付ける、フレイムランチャースタンバイ、インフェルノナパームモード!」
「イエス、マスター。『周囲の艦船、各機に告げます。直ちに使徒から半径1q以内から撤退してください。』」
「そういうことだ、レイも早く下がるんだ。今度はあの時の比じゃないぞ、フルパワーでいく。」
「ま、まさか・・・」
 
レイの頭の中には太平洋上での出来事が思い返された。
目の前で海が燃え、凄まじい衝撃波が走る、あの信じられない光景が。
既にシンジと参号機はイスラフェルを牽制しながら海岸線へ引きずり出していた。
しかし、シンジが時間稼ぎを初めてしばらく経っても、まだに洋上に残っている艦船がいた。
 
「何処の船だ!綾、すぐに撤退するように・・・!」
「無理です、アレは戦自の船です。リツコさん達の説得も無視しています。」
「・・・・ったく、ちょっとは痛い目を見ないと解らないのかアイツらは・・・」
 
さすがのシンジも少し頭に来た、参号機の危険性を理解していないことは解るが、これでは戦えない。
シンジはここに来る前にゲンドウや冬月と相談して周囲の被害は大目に見てもらえるようには許可を取っていた。
もちろんそれはNERVだけでなく自衛隊や戦自も含まれる。
 
「レイ、弐号機を連れて下がって。」
「でも・・・・」
「邪魔よ、余計なことはしないで!」
「「なっ!!」」「あら?目を覚ましたんですか。」
 
大人しく気絶していたと思っていた弐号機のアスカまで目を覚まし、状況は一気にややこしくなってしまった。
さすがにシンジもこの状況で二人に言い争いをされては面倒と判断して二人に協力して貰うことにした。
 
「二人とも、数秒で良いからアイツを海岸に足止めして欲しい。」
「わかった!」
「ちょっと、何でアタシがアンタの言うことを聞かないといけないのよ!」
「そのボロボロの状態でなに言ってんのよ。大人しく言うことを聞きなさいよ。」
 
さすがに二人の言い争いに我慢が限界にきたシンジは二人にも最後通告を出す。
 
「二人とも早く下がれ。言う事を聞かないのなら好きなようにしても良いよ。その代わりこっちも勝手にやらせて貰う、巻き込まれて丸焼けになっても文句は言わないでくれ。」
「なっ、なにふざけたこと言ってんのよ。」
「うん!すぐに退却しま〜す。」
「今回は周囲の被害も大目に見るって言う父さん達のお墨付きまで貰ってきたんだ。このまま引き下がるつもりはないんだ。」
「・・・お兄ちゃん、それが本音ね。」
 
参号機が構えた右手には凶悪な破壊力を秘めた武器がその力を振るう時を待っていた。
だがレイに言わしてみればシンジが許可を取って堂々と発明品の実験をしようとしている様にしか見えなかった。
 
「レイさん、既に実戦データは前回取りましたので今回は耐久試験も兼ねているです。」
「・・・・やっぱり」
 
レイの予感的中、だがそれでもアスカの機嫌は良くならない。
 
「ふざけんじゃないわよ!実験のついでにアタシまで燃やそうって言うの。」
「邪魔するのなら容赦なくやるよ、アスカ。君はここに何をしに来ているんだい?戦う気がないのならさっさと帰ってくれ、邪魔される方がもっと迷惑だ。」
「アタシが何時、アンタの邪魔を・・・」
 
シンジのきつい言葉にアスカが切れかかっていた時、本部のそれもゲンドウと冬月から三人に連絡が入った。
 
「弐号機と初号機は直ちに撤退しろ。シンジ、戦自は気にするな。」
「シンジ君、既に国連と日本政府には了承は取った。彼らは命令に背いて無断であそこに停泊している、よって何があろうと一切関知しないとのことだ。」
「了解、他の避難は?」
「残っているのはレイ達で最後だ。」
「レイ、聞いての通りだ。すぐに下がるんだ。」
「う、うん」
 
レイが初号機を退却させようとしたその瞬間、アスカが切れてしまった。
シンジがレイに気を逸らしていたので反応が遅れてしまった。その隙にアスカは弐号機をイスラフェルに特攻させていった。
左腕は相変わらずのボロボロ、胸部装甲も光線を受けて吹き飛ばされた時にヒビだらけになっている。
とても戦闘を続けられる状況ではない。
 
「要するにアンタより先にアイツを倒せば良いんでしょ!」
 
だが威勢のいいのは言葉だけ、今度は攻撃範囲に入るよりも前に再び光線で吹き飛ばされていた。
勢いよく砂浜にたたきつけられた弐号機、慌ててレイが回線を繋ごうとするがアスカは気絶したままだった。
 
「レイ、ATフィールドはまだ張れるな?」
「うん、動き回るのは無理でもフィールドだけなら何とか。」
「なら前方にフィールドを収束して熱波と衝撃波を防いでくれ、もういい加減しとめないとまた上陸されてしまう。弐号機も頼む。」
「了解、気をつけてね。」
「ああ、心配するな。綾、いくぞっ!」
「イエス、マスター」
 
レイの初号機は弐号機の前に立ち、庇うようにATフィールドを展開する。
それと同時にシンジは参号機をイスラフェルに突っ込ませる、そしてなにも持たない左腕で無造作に殴りつけた様に見えた。
もちろんただ殴りつけただけなのだが、シンジが参号機で殴った場合それは初号機や弐号機とは比べモノにならない凶器となる。
左腕の動きは霞んで見えない、そして当たったと思われるより先にイスラフェルが吹き飛ばされる。それも二体同時に。
あまりの早さにイスラフェルはフィールドを展開できなかったようだ、しかも相手にふれずに巻き起こる衝撃波だけで二体を同時に吹き飛ばしたのだ
 
「綾、フレイムランチャー出力最大」
「敵捕捉完了、フレイムユニット正常に稼働中、シャッターおろします。インフェルノナパームモードスタンバイ、トリガーをそちらに回します」
「了解、・・・・いけっ!」
 
淡々とした調子のシンジと綾、行動に全く無駄がない。手慣れた作業を手順通りに行うように。
そしてフレイムランチャーの砲口がイスラフェルに向けられた。
その瞬間、イスラフェルは本能でその危険を察知したのか分離していた二体が元のように融合を初めた。
 
だが既に遅かった。一体に戻ったイスラフェルのATフィールドでも参号機のフレイムランチャーは止められない。
瞬時にフィールドは炎に呑まれイスラフェルの姿もその炎の中に姿を消した。
そしてガギエル戦と同じように海が燃え、その瞬間爆発が起こった。
衝撃波が雪崩のように参号機に襲いかかる。
 
「・・・水蒸気爆発確認、衝撃波来ます。マスター、フィールドをお願いします。」
「了解、使徒は?」
「イスラフェル98%の炭化を確認、衝撃波で体の殆どを消失。コアだけが残っているようです。」
「解った、コアを回収する。マギへの偽装を頼む。」
「了解。」
 
シンジと綾は荒れ狂う衝撃波の中を何もなかったかのように進み、爆心地に居るはずの使徒目指して参号機を走らせた。
そしてそこには使徒の姿はなく、綾の報告通りコアだけが残されていた。
参号機はそのコアを左手で掴むと握りつぶそうとした。
途端にコアはその姿を消した。
 
「ふぅ、これで五つ目か。」
「ご苦労様です。」
「さて帰るか。」
「はい。」
 
シンジと綾は参号機を海岸へと戻した。
 
 
 
NERV本部発令所
 
海岸での大爆発は本部でも監視していたが、そのすさまじさに職員の視線は集まり全ての作業がとまった。
だが一度その光景を見ているリツコはすぐに現状を把握するべく指示をとばした。
 
「マヤ、シンジ君とレイは?」
「すいません先輩、爆発の余波があまりにも大きくて・・・」
 
焦るリツコはシンジとレイの心配をするあまり肝心なことを忘れていた。
すかさずフォローをいれたのはユイだった、いくらシンジ達が無事でも使徒が生きていたのでは何にもならない。
 
「マヤちゃん、使徒の反応は?」
「パターン青消失しています。使徒は殲滅されています。」
「そう、それじゃあ、レイとシンジを探すことに専念させて。あの爆発じゃあ使徒の体はおそらく残ってないでしょうから。」
「解りました・・・・ユイ博士!シンジ君から連絡が入っています。」
「!繋いで、シンジ無事なの?レイは?」
「大丈夫だよ、母さん。僕もレイも、それにオマケも無事だよ。」
「お母さん、こっちも大丈夫だよ。この子は相変わらずのびてるけどね。」
 
シンジからの通信を受けた発令所はわきかえった。
そして発令所のモニターにも参号機の無事が確認できた。
そしてすぐ横には横たわったままの二号機と、それを庇うように跪いている初号機の姿があった。
 
「3人ともご苦労様、すぐに戻ってきなさい。それと・・・・・・・」
「ユイ博士、松代から葛城大尉が。」
「葛城さんが?解ったわ、みんな後始末は他の人に任せて戻りなさい。」
「「「了解」」」
 
ついさっきまでシンジ達と嬉しそうに会話していたユイだが、すぐに真剣な雰囲気になって通信を始めた。
前回のガギエル戦でのトラブルをリツコから聞いていただけにユイも真剣にならざるを得ない。
ましてリツコではなくユイを指名してきたということは何らかの要求である可能性が高い。
 
「碇ユイです。葛城大尉、何か様ですか?」
「すみません、お忙しいところを。」
「いえいえ、それよりも二号機はどうしましょうか、ウチで回収しましょうか?」
「いえ、二号機はこちらで回収します。それで・・・・・」
 
ミサトがわざわざリツコではなくユイに連絡をいれてきたのは、ユイに頼み事があったからだった。
そしてミサトの頼み事とは・・・・・
 
「・・・良いでしょう。ただし、その間のトラブルの責任はそちらで取ると思って良いのかしら?」
「はい、それはもちろん。こちらからお願いしているのですから。」
「解りました、ですが我々には我々のやり方があるのでその辺は我々のやり方に従って貰いますよ。」
「・・・・・よろしくお願いします。」
「それじゃあ、明日にでも誰かそちらに送りますので。」
 
通信を終え一息つくと心配そうに見守るリツコやマヤ達に何でもないと告げ、先頭結果の報告に司令室に向かうため発令所を後にした。
その様子に不審を感じたリツコも同じように席を立ち歩きながらユイにさっきの件を確認してみた。
 
「やっぱり、リッちゃんにはばれてたのね。」
「やはり何か言ってきましたか。」
「ええ、じつは・・・・・」
 
そこから先を聞いたリツコは顔を思いっきりしかめた。
 
「ユイさん、何でそんな事を引き受けたんですか・・・・」
「仕方ないじゃない。この程度のこと一々断ってたんじゃきりがないでしょ。」
「はぁ、胃が痛くなりそう。」
 
そうやって普段と変わらぬ足取りのユイとは対照的にリツコの足取りは非常に重かった。
 
 
 
司令室
 
 
戦闘の光景をゲンドウと冬月はここで見ていた。
戦闘が始まる直前のシンジの不可思議な行動を気にしつつも、各機関との連絡など相変わらず忙しい二人だった。
だが今は二人とも作業の手を止めモニターに見入っていた。
 
火線が走った途端に起こる爆発。
そのすさまじさから、衝撃波が周囲の木々や戦自の艦艇を木の葉のように飛び交う
衝撃波で海水と砂が飛び交う海岸線が穏やかになりその姿を現した。
その光景を見た二人は唖然とした。
 
そしてようやくシンジの言っていた事の意味を理解するのであった。
 
「・・・碇、これは・・・・・・」
「・・・ああ、シンジはこの事を・・・・・・」
「だが、これは・・・・・」
「ああ、まさかこれ程とは・・・」
「また地図を書き換えねばならんな。N2兵器でもこうはならんぞ。」
「だから、我々に許可を取りに来たんだろう。かまわん、国連も日本政府も了承済みだ。」
「うむ、だが次はおそらく無いと思うぞ。」
「ああ、二度と許可が降りんだろうな。」
 
二人ともモニターの光景にあきれた様な落ちこんでいるような複雑な表情を浮かべた。
同じ頃発令所や現場で事後処理に当たっていた人間もその光景を目の当たりにして、シンジの駆る参号機の恐ろしさを改めて認識した。
 
海岸には巨大なクレーターが出来上がり、そこに周囲の海水が流れ込んで入り江になりつつあった。
海岸の周囲は吹き飛ばされた木々だけでなく、戦自と思われる船の残骸がバラバラになって発見された。
もちろん原形をとどめているはずもなく見事なまでに木っ端みじんに破壊されていた。
 
この事態に現場と発令所では情報交換に忙しく、ユイとリツコの不在は非常に悔やまれたのである。
 
 
そして司令室ではユイとリツコが先程のミサトからの連絡の内容を伝えていた。
それはゲンドウと冬月も困惑させるモノだった。
結局ゲンドウ達はユイの意見を尊重することにして、ミサトの提案を呑むことにした。
 
それが自分達に直接関わることになるとはつゆ知らず、シンジ達は帰還していた。
そして本部に戻ってきたレイの表情は・・・・・・・・・・最悪だった。
 
 
 
 
 
 
後書き
 
最近にどんどん遅筆になりつつあるふぇいです。
この話もかなり急いで仕上げたので見直しが不十分で誤字脱字や推敲が十分に出来ていません
忙しい仕事の合間に試験勉強をしたり、他にも色々やることが出来たりとなかなか書く時間がとれないです。
何とか1話につき一体のペースで使徒を潰していっていますが、この調子では完結するまでまだまだ時間がかかりそうです
 
それはさておき、今回の話ですがやっちゃいました。
結局、冬月先生にアノ台詞を言わせちゃいました。
おまけにミサトやユイもなんだか色々と動き出したようですし、アスカは暴走したあげくの不発。
加持も原作とは違い目的が大きく食い違っています。まあ、それでもあの性格は変わらないと思います。
これからは加持に関しては完全に第三者、傍観者として物語に関わってくるようになります。
契約の内容に関しては初期バージョンに入れていたのですがどうにも納得行かないため削除しました。
契約の内容に関しては後々断片的に出しますが内容全部をかくことはないと思います
 
徐々に新しい歴史が動き出してきました、おかげでキャラによっては現在の動きを忘れてしまったり予定を変更しまくったキャラまでいます。
 
たとえばレイの初号機に関しても依然少し書きましたが、実はこの話を書きながら改修後の姿をまた変更する事にしたんです。
機体色もブルーから、オペラ色に変更して最近のレイの戦闘方法にあった武器もチョイスしました。
まあ、FSSに詳しい人ならオペラ色の強襲用MHと言えばすぐに解ると思います。というかバレバレですね。
マトリエル戦前後での登場を予定していますが、詳しいことはまだ未定です。
かなり綺麗なデザインで機体の改修に会わせてレイのプラグスーツのデザインとカラーも変更する予定です。
まあ、お楽しみに。
 
さて次回ですが・・・・・何にも考えていません。
すいません、考えて無いどころか書き出しすら思いついていません。
実はバルディエルやゼルエル戦のことばかり考えていてこの辺の話を全く考えていませんでした。
しかし、その分他の予定が煮詰まってきたこともありマユミとマナの登場シーンが大まかな考えながらまとまってきました。
マユミはバルディエル戦、マナはアラエル戦でそれぞれのEVAのお披露目の予定です。
 
他にも色々と決まっていますがバルディエル戦までは駆け足で行こうと思いますが、しばらくお待ちください
続きの方は二ヶ月ほどかかるとは思いますが、遅くとも年末までに何とかアップしたいと思います。
 
それではみなさん気長にお待ち下さい