騎士と妖精と熾天使の幻像
 
第2章
第3話.束の間の休日、次なる戦い。
 
 
 
NERV本部
司令室
 
サキエル殲滅から一夜が明け、その日は朝からNERVの主だった者が司令室に集まっていた。
そこではシンジと綾の紹介が行われ、その場で技術部に三課を新設することが告げられた。
今まではユイの一課がエヴァの開発、運用を研究し、リツコの二課はそれら以外のマギやクローン技術と言ったNERV占有のテクノロジーの研究・管理してきた。
なぜわざわざ三課が新設されたかというと、昨夜シンジ達から告げられた内容はとても現行の一課と二課だけでは対応出来るモノではないと判断したゲンドウとユイは夜の内に冬月とリツコに連絡を取り対応を練っていた。
二時間ほど電話越しで相談していたが結局現状では対応しきれないと言う事になり技術課の大幅な規模拡大と言う事に話が落ち着いた。
責任者の候補としてシンジと綾の名前が挙げられた、これはアメリカ第一支部での実績を買われての事だった。
特にこれから本部に移送されるアメリカで開発中の参号機、四号機に関しても詳しいと言う事もあった。
結局技術部は一課、二課は今まで通りで三課は新技術・兵器の開発といった形に落ち着いていた。
 
しかしこのことを急に告げられた他の職員達は驚きっぱなしであった。
だが古参の職員達はシンジの実績に関しては昔の事を知っている為すんなりと受け入れてくれた。
だが、新しい者達との軋轢を回避する為、三課の設立は参号機が到着してからと言う事にし、それまでは準備期間として初号機のバックアップに徹すると言う事になった。
 
実はシンジは既に動き出していたのである。シンジは第一支部に連絡して参号機用に開発していた新兵器を取り寄せる様に連絡していた。
殆どが参号機用に専用設計されていたモノばかりで初号機に装備させようとするとかなりの改修を施さなければならなかった。
その為にシンジは参号機が届くまではユイの元で初号機の改修に携わる事になった。
 
 
技術部
 
「それでは今日からお世話になります。」
「これからも色々とよろしくお願いします。」
そこではシンジと綾がみんなに紹介されていた。
 
技術部でも古参の者には懐かしかった。
それにアメリカ支部でのDrバランシェの噂はここにも届いていたが、まさかそれが自分たちの上司の息子とは夢にも思わなかったのである。
 
「みんな、二人ともレイと同じようによろしく頼みます。」
 
ユイからも二人の事をみんなに紹介していた、しかしユイの口から二人が婚約している事を告げたときにはさすがにみんな呆れかえっていた。
一部の女性職員からはため息が漏れていた、確かに絵になる二人であった。
若い女性職員の目から見るとシンジ達はまさに漫画の中に出てくる様な美少年・美少女である。騒がない方が無理である。
 
「一応しばらくは中学校の方に行く様になるけれども、参号機が届いたらそっちの方のメインに入ってもらう様になるからその辺の所は心得ておいてね。」
 
リツコはこれからのシンジ達の予定について説明していた。だがここでも職員達は驚いていた。
なぜならシンジ達がわざわざ中学に行く必要はないはず、既に数多くの研究で博士号を取っていても不思議ではない程の天才がなぜ中学校に通わせるのかが理解出来なかった。
 
「みんなの疑問も解るけどね、実はシンジ君達は小学校すら満足に行ってないのよ。さすがに義務教育のある日本ではそれはまずいと思うのよ。」
「ええ、リツコちゃんとも相談したんだけど、やっぱり同じ年頃の友達は居た方がいいと思うのよ。」
 
さすがに母親達の言葉には説得力がある。現に妹のレイの方は既に高校卒業程度の学力はあるのに、情操教育・集団生活と言った面から学校に通わせているのである。
そんな理由からシンジ達も同じ中学に通う様になったのである。
 
「しばらくは学校が終わってからの参加になりますが、よろしくお願いします」
「なにぶん不慣れな事もあると思いますがよろしくお願いします。」
 
二人は技術部の全員に挨拶した後続いてエヴァ初号機の方に案内されてそこでも全員に紹介されていった。
そこでも色々と驚かれたりされながらまた次の部署、次の部署へと結局シンジと綾はユイ達に連れられNERVをぐるり一周してくる羽目になった。
 
そうやってユイ達がNERVをぐるぐる回っている内にゲンドウは冬月に協力してもらってシンジ達の戸籍の偽装を手伝ってもらっていた。
さすがに10年とはいえ失踪していた人間ならともかく、全く存在していないの戸籍をでっち上げるのはさすがに苦労していた。
おまけにその筋の有名人となるとさすがに大変である。結局は西田を通じて日本政府に手を回してもらい何とか日本国籍を取得する事が出来た。
 
「全く、公私混同もいいところだぞ碇。おまけにこの貸しは大きいぞ、後でやっかいな事にならんか?」
「かまわん、借りれる時に借りておかんとな、「後で」と言う事があるとはかぎらんのでな。」
「そうだな、わかった残りはこっちで何とか出来そうだな。後は中学への転入届が残っているがこれぐらいは自分でやった方がいいだろう。」
「すまんな」
 
 
 
数日後
 
ゲンドウは結局転入届を自分で作る事が出来たが、仕事が入ってしまった為シンジ達に付き添う事が出来なくなってしまった。
かわりにユイとリツコがシンジと綾の転入手続きをする事になった。
学校側もNERV要人の子供とあってはかなり神経質になっていた。既に通っているレイの時もそうだったが、何かあったときには文字通り首が飛ぶだけでは済まないのである。
その辺はレイの時によく解っているユイ達である。穏やかな笑みを浮かべながらも無言の圧力をかけていく。
 
「ではこの子達の事をよろしくお願いします。」
 
大人達の空々しい会話を聞きながらシンジ達は学校の様子を窓から眺めていた。
 
『またここに戻ってきたんだ。でも既に歴史は大きく変わっているし、いったいどうなってるんだろう。』
『ここが学校、初めてですねこういった所は。早く慣れないといけませんね。』
二人ともそれぞれの思いにふけっていた。
 
そうしている内に大人達の会話も終わってユイ達は帰っていった。
二人はその後紹介された初老の教師に案内され教室へと向かった。
 
「シンジ君は碇レイさんのお兄さんだそうです。」
「ええ、妹がお世話になっています。」
 
たあいも無い会話をしている内に二人は教室にたどり着いた。
そこは既に騒がしくなっていた。
 
 
 
 
時間は少しさかのぼる
 
「レイさん、クリスさん、おはよう」
「「おはよっ、委員長」」
 
委員長のヒカリに元気よく挨拶を返していた。
今日も元気な二人であった。
二人が今朝登校してきたときから教室の様子がおかしかった。
 
「どうしたの?なんか朝から慌ただしいみたいだけど」
「そうだね、何かあったの?」
 
レイとクリスは早速委員長に聞いてみる
 
「うん、なんかうちのクラスに急に転校生が来る事になったらしいの。さっき先生から連絡があってその準備をしてるの、みんなはただ転校生って事で騒いでるだけみたいだけど。」
「「転校生?・・・・な〜るほど」」
レイとクリスは納得していた。ここ数日ゲンドウやユイだけでなくシンジ達まで何か忙しそうにしていた理由がやっとわかった。
 
「二人とも心当たりあるの?」
「まあね、転校生って二人でしょ。それも男子と女子。」
「ええ!何でそんな事まで知ってるの。先生からは私しか聞いてないはずなんだけど・・・」
「まあ、二人とも身内だからね。」
 
このレイの言葉にクラス中の注目が集まった。それもそのはず、レイとクリスはこのクラスだけでなく学校中の人気者であり、そのレイの身内となれば期待されても不思議はない。
 
「まあ、残念ながら二人とも売約済みってことだけどね。」
「レイさん、売約済みって・・・・」
「まあ、二人が来るのを待ってればわかると思うわ。」
「そうね、さっさと一時間目の準備しましょ。もう予鈴がなるわよ。」
 
そう言ってレイとクリスは周囲の質問には取り合わず授業の準備を進めていく。
仕方なくクラスのみんなも授業の準備を進めていく。
そこへ隣のクラスの相田ケンスケが忍び込んできた、それをめざとく見つけたクリスは早速排除しようとしていた。
この歴史の中においてNERV要人の娘であるレイのことを考えて、学校内の要注意人物であるケンスケを遠ざける様にしていたのである。
この世界のケンスケも以前の歴史と同じように学校内で盗み撮りをしたり、その写真を販売したりと何かと問題になっていた。
もちろんその要注意人物をレイの護衛をかねているクリスが見逃すはずもなく、早速当て身を食らわせて気絶させ肩に担いでいた。
 
「まいど〜、またコレが忍びこんできてたよ。」
 
クリスはケンスケを肩に担いで隣のクラスに返しに来た、最初の頃はその光景に驚いていた生徒達であったが今では当たり前と思われていた。
クリスとレイは学校でも評判の美少女であり、他校にもその噂は届いて校門に待ち伏せて告白しようとする者までいた。
ところが一年の夏休みの時に町で絡んできたチンピラ10人を二人で病院送りにしたという事実が知れ渡ってからはそうした連中も殆どいなくなっていた。
今でも二人につきまとっている男子はケンスケをはじめとした極少数だけであった。
実はこの事実が発覚して以来男子がつきまとう事はなくなっていたが、逆にその人気は高くなっていた。
コレにケンスケが目を付けないわけがなかった、それ以来ケンスケは事あるごとに二人の写真を盗み撮りする様になっていた。
さすがにコレに辟易してきた二人は発見次第に即排除する様になっていた、もっとも実行しているのはクリスであったが。
 
「すいませんね、毎度の事ながら。」
「いいのよ、いつもの事だから。まあ、今回は解らないでもないんだけどね。それじゃあ後はよろしくね。」
「わざわざありがとう。」
 
クリスは隣のクラスの委員長にケンスケを預けると自分のクラスに戻っていった。
既に予鈴が鳴りみんなは席に着いていた。その中を気付かれないようにこっそりと自分の席に戻っていく。
暫くすると担任の教師と一緒に二人の人影が現れる、もちろんレイとクリスの良く見知った顔だったが二人を見た他の生徒達はどよめいた。
それも無理からぬ事だった、二人とも絵に書いたような容姿をしていたのである。だが暫くすると二人の顔立ちが何処かで見た事があるような気がしてきた。
少しづつ気が付きだし、暫くするとクラスの殆どがレイの方を見ていた。
 
「あ〜あ、気づかれちゃったか。」
「ほらね、絶対ばれると思ったんだ。」
「「レイさん(碇さん)!知り合いなの?」」
 
クラスの殆どが驚きの声を上げた、さすがにコレには担任の教師も驚いた。隣のクラスでもこの騒ぎに驚き担任の教師がのぞきに来た。
 
「あの・・・いつまでこうしてればいいんですか?」
 
さすがに話の進まなくなる事を恐れたシンジが自分から口を開いた、本当は教師に紹介されるまで大人しくしているつもりだったがどうやらそうも行かないようだった。
 
「ああ、すみませんね。それでは碇君、バランシェさん自己紹介をしてください。」
 
事態の収拾を付ける為担任の教師は全てをシンジに押しつけてしまった。
 
「はあ・・・今度この街に来ました碇シンジと言います。」
「綾・バランシェと言います、よろしくお願いします。」
 
二人とも当たり障りのない自己紹介でその場を凌ごうとしたが、さすがにみんなはそれで納得しなかった。
 
「碇君は、レイさんの親戚なんですか?それにバランシェさん?どうして碇さんにそっくりなんですか?」
「ねえ、どこから来たんですか?」
 
「あ・あの・・・・」
 
二人は周りから次々と質問を浴びせかけられた。
結局、委員長のヒカリが質問をとりまとめて代表して二人に質問する事となった。
 
「それじゃあ、まず碇さんとの関係なんだけど・・・」
「ぼくとレイとは兄妹です。でも綾とは全く血のつながりはありません。」
「えーと、次は前に住んでた所なんだけど・・・」
「以前は二人ともアメリカに住んでいました。」
「あ、そうなの。えーとそれから・・・・その・・二人の関係なんだけど・・・・ひょっとしてお付き合いしているの?」
「へ・・・ちょっと、そんな事まで聞くの・・・・・・」
 
さすがにこんな事まで聞かれるとは思ってもいなかったシンジはうろたえた、これまでの質問は予想される範囲だったので問題なかったがさすがにここまで聞かれるとは思っていなかった。
 
「えーと、そこまで答えなきゃいけないの?」
 
シンジが周りを見渡してみると、いつの間にかこのクラスだけでなく隣のクラスの生徒までが見に来ていた。
しかもその様子は有無をいわせぬものがあった。
答えられないでいるシンジ達にとんでもないところから答えが出てきた。
 
「お兄ちゃん達、別にいいんじゃないの父さん達も了承してるんだし。全部話しちゃった方がいいんじゃない?」
「レイ!」「レイさん!」
「碇さん(レイさん)!なにか知ってるの?」
「はぁ、仕方がないわね。私の方から言ってあげるわよ、じつは二人とも婚約者同士なのよ。」
「「婚約者ぁ!!」
「レイ・・よけいな事を・・・・・」「はぁ・・・・どうしましょう・・・」
 
既に授業がどうとか言えるような状態ではなかった。結局この喧噪は昼休みまで尾を引く事になった。
しかも昼休みの頃には既に学校中に広まっていた、おかげで学校中で注目されてしまった。
だが、事はそれだけではすまなかった。
翌日の登校時には他校の生徒までがシンジ達を見物に来ていた。
確かにレイとクリスの時もすごかったが今回はそれ以上である。以前の時は男子生徒ばかりであったが今度はシンジ目当ての女子生徒が多かったからである。
 
レイとクリスは自慢そうにシンジにまとわりついていたが、逆にシンジの表情はさえなかった。
それは周りの視線のせいではなかった。
 
『おかしい、ケンスケが同じクラスにいないわけは解った。でもトウジはどうしたんだ?妹は助けたはずだ。何があったんだ?困ったな、調べたくてもこの調子じゃ学校で聞くのは無理だし、仕方がない後でNERVの方で聞いてみるか。』
 
しかしシンジの知らないところでとんでもない事態になっていた。
 
 
NERV病院にて
 
「この娘の身よりはいないの?」
「ええ、ユイさん、先輩。それどころかこの子の戸籍を調べてみましたら7年前に行方不明になっているんです、それもとても不自然な形で」
「本当なの?マヤちゃん」
「なんですって!マヤ、実はこっちでもとんでもない事が解ったのよ。」
 
先日の使徒戦で救助した少女を調べていたマヤはその課程で出てきた不振な項目をユイとリツコに報告していた。
この少女の身元がわからなかったので病院や政府のデータバンクにまで当たってみて驚くべき答えに行き着いてしまった。
少女の名前は鈴原ミユキ、しかし10年前に両親と死別し兄と二人で孤児院で暮らしていたが1年後に二人ともある夫婦に引き取られていたがその直後から行方が解らなくなっていた。
マヤはその夫婦を身元を調べていったが調べれば調べるほど怪しいところが出てきた。
孤児院から引き取った子供達の数が尋常ではないのだ、鈴原兄妹だけでなく他にも20人以上の子供を引き取っていた。
だがその子供達のその後が全く解らなくなっていたのである、殆どが家出・行方不明・死亡となっていた。
その異常さに気が付いたマヤは他の孤児院も調べてみると、なんと同じような手口でこの十年間に100人以上の子供達がいなくなっていた。
早速この事をリツコに相談してに来ていた。
 
リツコはこの少女の治療もかねて病院に来ていた。
意識は戻ったものの質問のたぐいに全く答えない少女に医者達は頭を抱えていた。
リツコも会ってみたが確かにこの少女に不自然さを感じていた。
仕方がないのでユイに相談して催眠療法を試みてみたがコレもうまくいかない、まるで何らかのプロテクトがかかっているようだった。
そんな中にマヤからも奇妙な報告を受けてユイとリツコは事態を重く見てゲンドウや冬月に相談してみた。
 
「何だとユイ君、それではその子の素性は全く解らないのかね。」
「はい、そればかりかどうやらこの子の行方不明の背景には何らかの組織があると見て間違いないようですわ。」
「副司令そればかりではありません。あの子の身体を調べてみましたが実は体内から多量の薬物反応が出てきたんです、それも異常なまでに。」
「!!、薬物反応だと?どういった薬かね。」
「はい、主に筋肉増強剤や神経反応の加速剤と言ったものだと思われます。なにぶん普通に出回っているものよりも強力なものばかりです、おそらく何処かの研究機関で作られた新薬のたぐいと思われます。」
「なんと!こんな子供で人体実験をしているというのか!いったいドコの組織だ。」
「まだ情報が不足していて特定は出来ていません。」
 
心配そうなユイ、冷静に報告を続けるリツコ、怒りを隠せない冬月、三者三様の様子を後目にゲンドウはいつものあのポーズで何かを考えている様だった
そして、ゲンドウからある指示が発せられた。
 
「リツコ君、諜報部を動かしてもかまわんその娘の素性だけでなく、その背後の組織や他の行方不明の子供達を出来る限り調べてくれ。必要ならマギの使用も認めよう、大至急調べてくれ。」
「!は、はい」
 
ゲンドウからの指示はユイ達の予想以上のものだった。諜報部だけでなくマギの使用まで認めるとはゲンドウがNERVの全能力を駆使してこの件を調査しろと言ってきているのである。
 
「実は、他でも気になる事があるのだ。冬月、日重の離反組の行き先の件聞いたか?」
「どうした碇、あの連中がこの件にかんでいるのか?」
「いや直接的には繋がらんでもないが、実はシンジから気になる報告を受けていたのでな。」
「シンジ(君)から?」
「ああ、アメリカの時の事でな少し気になっていてな。」
 
ゲンドウから聞かされたシンジの報告とはアメリカ第一支部に勤めていたときシンジ達を引き抜こうとしていた組織があったのだ。
それはシンジ達の素性を知らず、スーツアーマーの開発者であるDrバランシェ夫妻に対しての引き抜きであったが、ずいぶんと非合法な手段を使ってきた為、逆にシンジの怒りを買い手痛い反撃を食らっていた。
その件を後で調べたシンジ達はその組織が戦自のダミー組織である事に気が付きゲンドウに報告してきたのだった。
そしてゲンドウの所には西田から別の情報がもたらされていた。それは旧日本重化学工業の離反組の行き先が戦自であるというものだった。
日重解体からずっとその動きを追っていた自衛隊からの確度の高い情報だった。しかも戦自でもかなり重要なポストに就いている事も解っていた。
 
ゲンドウはこれらの情報から戦自が大量の技術者を使って何かを開発しているという判断を下した。
ナオコが行方不明になった一件から始まり第三使徒サキエル戦の現在に至るまでNERVと戦自の仲は最悪と言って良かった。
今までNERV側は特に敵対視しているわけでなく、戦自側が一方的に仕掛けてきているのだったが今ではNERVも戦自を敵対組織として認識していた。
そうなるとこれらの動向にも注意を払わなければならなくなる。
 
「そう、そんな事があったのね。解ったわ、私の方でも何か無いか調べておきます。あなた、シンジが来たら私の所にくるように伝えておいてください。」
「ああ、今日は少し早めに来ると言っていたんでもう暫くすると来るだろう。ではリツコ君、冬月そっちの方は二人に任せるので頼む。」
「わかりました。」「解った、こっちでも調べておこう」
 
 
暫く後、学校の終わったシンジ達がNERVにやってきていた。
昨日からの学校でシンジはすっかり疲れ果てていた。もちろん授業の方は全く問題なく、ただひたすら自分たちに構ってくる生徒に対して疲れていたのである。
そんなシンジにゲンドウから綾とともにユイの所に行くように連絡が入った。
 
「母さんが呼んでるの?」
「ああ、先日使徒戦で助けた少女の事だすぐに行きなさい。」
「!そうなの、解ったよ。綾すぐに母さんの所に行こう。レイ、クリスすまないけど用事が出来たみたいなんだ。」
「「え〜〜〜〜、しょうがないな。それじゃあ帰るときにでは声掛けてね。」
「解ったよ、じゃあまた後でな。」
 
そう言ってレイ達と別れ、シンジは綾を連れてユイの元に向かった
そこでシンジはとんでもない事を告げられる。
 
「何だって、母さん!それ本当なの?」
「ええ、リツコちゃんとマヤちゃんの調べてくれた事なの、それに私も調べ直して見たけれど実際にその通りだったわ。」
「まさか、それじゃあ・・・・・」
 
シンジはここでも歴史の変わり様に驚かされていた。
そして、すぐにその少女に会いに行った、それも綾と二人だけで。
 
病室に入ったとたんシンジは病室を閉め切り、監視カメラを黙らせた。
そして眠っている少女ミユキに綾を介してのシンクロを行おうとしていた。
綾にとってシンクロする相手は何もエヴァに限ったもので無く、精神があれば人間でも他の動物でも可能である。
ただ、綾はインターフェースとしての能力は持っているもののコントロールしたり書き換えるといった能力が無く、そう言った事はシンジが一手に引き受けていた。シンジには使徒アルミサエルの能力がある為人の精神に介入する事は簡単であるが、強制的に行うと精神汚染と同じで最悪の場合、精神崩壊をまねきかねない事から綾のインターフェース能力を頼りとしている。
 
そうやってシンジはミユキの意識の底に潜っていった。もちろんミユキの精神に傷などを残さないように細心の注意を払って少しずつミユキの記憶を探っていく。
もちろんシンジは個人的な記憶には手を付けずもっぱら行方不明になった時の事やその後の状況等を重点的に調べた。
その過程でシンジはとんでもない事を知ってしまう。
 
『何だと!ふざけるな、奴らこんな事までしていたのか!くそっ、こんな事なら徹底的につぶしておけば良かった。・・・・すまないトウジ、ミユキちゃん。』
 
シンジがミユキの記憶の中で見たものそれはとても忌まわしいものだった。
ミユキ達兄妹を孤児院から引き取ったのは戦自であり極秘裏に行っているプロジェクトに参加させるため身よりのない少年少女を集めていたのだった。
そのプロジェクトとは少年兵の育成であった。それも国際法を無視しているだけでなくこの少年達には幼い頃から訓練の一環として多量の薬物を投与されていた。その内容は子供達によってまちまちだったがミユキは偵察兵として訓練されてきたようだった。
更にシンジはその記憶をたどっていくとそこには懐かしい顔があった。
それはトウジやムサシ・ケイタであり、そしてマナの姿もあった。
トウジ達は戦自で開発中の新型ロボット兵器のパイロットとして訓練されていたようだった。それはシンジにとって良く知っているものだった。
プロトタイプトライデントすなわちJA(ジェットアローン)であった。
そしてマナが既に先行試作型のトライデントを持ち出し脱走している事、トウジ、ケイタ、ムサシの三人がそのマナを追っている事等が解った。
ミユキがサキエル戦にいた理由もわかった。ミユキがサキエル戦の戦場にいたわけは戦自の命令で対使徒戦のエヴァのデータ収集であった。
もっとも接近しすぎて戦闘の余波で負傷してしまい、その結果NERV内に侵入する事が出来たが早速自分の素性を調べられマークされてしまっていた。
シンジは出来る限り背後関係を調べてみたが結局一兵卒がそれほど詳しい情報を持っているわけもなく、情報の殆どがじぶんや兄、友人に関する物ばかりだった。
それでもシンジにとってはどうしても知りたかった重要な情報ばかりだった。
シンジはミユキの記憶の操作を終えるとこの事をゲンドウ達に知らせようとしていた。しかしそこに警報が入ってきた。
 
それは使徒襲来を告げる物だった。
シンジと綾は大急ぎで病院を出てケイジに向かっていった。だがシンジ達がたどり着いたときには既にレイは初号機で出撃しているところだった。
 
「しまった、本部に居たせいで出撃が早まったか?不味いな、届いたばっかりで武器を持っていってない。」
「どうしますマスター?今のままの兵装ではおそらくシャムシエル戦は無理でしょう。それに今回届いた武器はまだ満足に調整をしていません、いきなり本番で使うにはいささか問題があると思います。」
 
実はシンジ達はアメリカからこっちへ来る直前に本部宛で初号機用の兵装として参号機用の武器を送っていたのである。だが、中学への転入やその後の技術課の増設と言った作業に手を取られてしまい、また初号機の方の修理もあり初号起用に調整できていなかったのである。
もちろんシャムシエルが来るのが予想よりも早かったのも原因の一つである。
シンジはしばらく考え込んだ、そして一つ思いつくことがあり早速それを実行することにした。
 
「よしっ、綾こっちだ、一旦外に出るんだ。」
「はい、でも危険ですよ?」
「わかってる、でもボクの記憶に間違いがなければ、その危険な場所でバカなことをやってる人間が居るはずなんだ。」
「???あっ!わかりました。」
 
そういうと二人は一気にNERV本部から出て山手のシェルターの入り口近くまでやってきた。
そこにはシンジの予測したとおりバカなことをやっている人間が居た。
 
「えっ、い、いかり、こんなとこにどうして。」
 
そこにはケンスケの姿があった。シンジのかつての記憶と違いトウジを引き連れてはおらず一人であったが、ビデオカメラなど数台を準備してさながら偵察兵のようであった。
 
「それはこっちの台詞だよ、相田くん。君は一体こんな所で何をやっているのかな?既に避難しているはずの君がこんな所で何をしているのかな?」
 
シンジは穏やかな口調だがその雰囲気はまったく穏やかではなかった。シンジの声にケンスケは身動き一つ取れなかった。
シンジは内心で怒り狂っていた。妹レイが命がけで戦っているのをこいつはそれを自分の興味のためだけに見物に来ている。
以前のシンジの時もそうだった。戦っている者のことなどまったく考えていない。もし自分の足下に人がいることをレイが知れば満足に戦闘など出来るはずがない。
 
「相田くん、君をスパイ容疑で逮捕させて貰う。言い訳はNERV本部で聞こう。」
「ちょっと、ス、スパイだなんて、ボクは・・・」
「その観測機材も全て没収させて貰う、抵抗するのなら僕たちも実力行使させて貰うよ。」
 
ギンッ
一睨みでケンスケを黙らせた。シンジは正直こんな愚者を相手にするのは煩わしかった、それでも今後こういったバカなことを赦さないためにも今回は徹底的にやっておく必要があった。
 
「綾、保安部に連絡してくれ。スパイを一人逮捕したと。」
「了解しました。・・・・・・すぐに人をよこすそうです。」
「わかった、それじゃあ後の始末は保安部に任せよう。」
 
 
 
そのころ既にレイはシャムシエルとの戦闘に入っていた。
 
「よーし、リツコ姉さん今度の使徒はどんなヤツなの?前のヤツとは全然似てないんだけど」
「ええ、レイそいつは以前の使徒とまったく違うわ。わかっている武器はその二本の光る触手、鞭と言った方がいいわね、それよ。」
「わかったわ、」
「気をつけなさい、その鞭の速度はかなりのものよ、まともに喰らえばビルでもまっぷたつにしてしまうわ。」
 
その言葉に突撃しようとしていた初号機の足が止まる。
 
「ちょ、ちょっと〜、そんなの相手にナイフだけでどうしろっていうのよ〜」
 
実はパレットライフルは早い段階で劣化ウラン弾が人体に有害と判断されタングステン=カーバイド弾で対応する予定でいたが、サキエル戦で得たデータを元に新たに作り直しとなっていた
そんなわけでレイはプログナイフ一本でシャムシエルに挑む羽目になっていた。
 
「ごめんなさいレイ、実はライフルの方が使えなくなってしまったの。戦法に関しては二本の鞭をかいくぐって接近戦を仕掛けて、鞭は間合いが長い分組み付かれると使えないわ、そこを狙って。」
「ふぇ〜〜ん、また面倒な注文だなぁ、リツコ姉さん。」
「難しいのはわかっているわ、でもお願い、今はソレしか手がないの。」
「りょーかい、でもまた少し初号機を壊すかもしれないんでその時はよろしく。」
「ええ、気を付けてね。」
 
レイは相手の出方をうかがった。クリスと一緒に今まで格闘技などの訓練を受けてきた為、間合いの取り方などは多少は心得ていた。
だがそれでも鞭対ナイフと言ったことは想定していなかった。まあ、普通ではこんなハンデマッチをやる事はあり得ないが。
レイがフェイントをかけて近づく、するとシャムシエルが射程範囲に入った初号機めがけて鞭を振るう。
あらかじめフェイントと割り切っていたためレイはソレを難なくかわす、そうやって何度かレイは相手の間合いを計っていった。
だが間合いを計ればはかるほどその分の悪さに難儀していた。
シャムシエルは二本同時に鞭を振るうがその動きはまったく独立している。まるでそれぞれが別の生き物のように動くのだ、例え一つかわしても次が来る。
おまけに普通の鞭と違って突くことも出来るようだ。その威力は正直考えたくはなかったがビルを簡単に貫通するほどであった。
仕方がないのでレイは捨て身の戦法に出ることにした。
 
そして、今度は思いっきり助走を付けてシャムシエルにつっこんでいった。
 
ヒュゥン
一つ目の鞭を旨くかわす。そこへ二つ目の鞭が襲いかかる。
 
ヒュン、キィン
レイは二つ目の鞭を右手のプログナイフではじき返す。
 
ドスッ
「クッ、もらった!」
シャムシエルは懐に飛び込んできた初号機に最初に放った鞭を戻して突いてきた。レイはその攻撃を左手の平で受け止めていた。
 
シャムシエルの鞭は初号機の手のひらを貫通していた、しかし初号機は貫通している鞭を握りしめ逆にシャムシエルを引っ張り寄せた。
宙に浮いているだけのシャムシエルはあっさりと引き寄せられた、レイは左手の痛みに耐えながらチャンスとばかりに右手のプログナイフを振るった。
ねらいはシャムシエルのコアである。シンジが使徒の弱点としてレイに教えてくれていたのである。
ねらいをはずさずプログナイフはコアを斬りつけようとしていたが、ここでもシャムシエルが信じられない動きをした。
何と引き寄せられていたシャムシエルが初号機に体当たりをしてきたのである。突然の使徒の動きにレイは目標であるコアを破壊できずプログナイフは表面を軽くかすっただけだった。
しかも最悪なことに体当たりをまともに喰らい吹っ飛ばされてしまう、おまけにその衝撃でつかんでいた左手の触手を手放してしまった。
レイは痛みに耐えながらも必死に距離を取ろうとしていた、しかしシャムシエルはそのレイを逃がそうとはせず執拗に追いかけてきた。
そしてついにかわし損ねた一撃で初号機は大きく吹き飛ばされてしまった。
「レイッ!」
「レイちゃん!」
発令所の職員達から悲鳴が上がる。
 
 
 
そして吹き飛ばされた先はシンジ達のすぐ近くだった。
だがシンジはそこで意外な人物と出くわしていた。
 
 
少し時間は遡る
ケンスケは保安部に連行されビデを等は全部没収されていた。
シンジと綾はそこから初号機の様子をその場から見ていた。超人的な視力を持つ二人にはその戦況がハッキリと見えた。
だがここで綾が意外な物を発見する、それは自分達以外にもこの林から戦況を観察している者がいることだった。
その観察者のほんの少しのレンズからの光の反射さえも綾は見逃さなかった。
 
「マスター、私たち以外にもこの林から観察している者がいます。どうしますか?」
「なに?・・・・わかったまずは確認してみよう。」
 
二人は気配を隠し観察者達に近づいていった
だがそこにいたのは何と自分のよく知る人物達だった。
 
そこにいたのはトウジ、ムサシ、ケイタの三人だった。
どうやらケンスケの存在をカモフラージュに使いEVAのデータ収集をしているようだった。
シンジに心境は複雑だった、ケンスケとは違いトウジは上からの命令でEVAの偵察に来ている。おそらく行方のわからなくなった妹ミユキの代わりにきたのだろう。
 
「どうやムサシ、NERVのEVAとやらの動きは?」
「ああ、正直驚いたぜ。あんな動きが出来るとはな。アレじゃまるで人間じゃないか、間違ってもトライデントには無理な動きだぜ。」
「そうだねムサシ。トウジ、EVAはロボットじゃなく人造人間って言われてるらしいからね。だからあんな人間みたいな動きが出来るんだろうね、それより良いのかいミユキちゃんを探しに行かなくて。」
「ケイタ、今は任務中やでそんな事出来る訳無いやろ。でも、終わったら行って来るけん。そんときゃ頼むわ」
「ああ、無事だと良いな。」
「大丈夫だよムサシ、どうもNERVに保護されてるみたいだし。怪我も大したことなさそうだよ。」
「やけどケイタ、それなら何で戻ってこんのや。」
「仕方がないさ僕らは家出扱いなんだよ、保護者のいない僕たちをそう簡単には解放しないさ。トウジ、NERVの司令官は子供には結構優しいって評判だからきっと大丈夫だよ。」
「そうか・・・なら早うこの任務終わらせて迎えにいかなあかんな。」
 
シンジと綾は会話を一通り聞いていた。
『トウジ!無事だったんだ。それにムサシとケイタも一緒だし、みんなミユキちゃんのことを心から心配してくれてる。戦自にいてもみんな変わってなかったんだ。』
『よかったですねマスター、でも彼らをどうしましょうか?このままではここも戦場になるのは時間の問題だと思います』
『わかってるさ、仕方がないけど少し脅かしておくよ。』
 
そうしてシンジは隠していた気配をあらわにした。
トウジ達は驚いた自分達がこんな近くまで接近を赦してしまった。しかも急に現れたところを見ると直前まで近くにいて気配を隠していたのだろう。
とっさに身構えたがそこに現れたのは自分達と年の変わらない少年少女だった。自分達の存在をNERVに知られるわけには行かず二人に攻撃を仕掛けようとするが体が動かない。
シンジ達から発せられる威圧感に押しつぶされそうになりまったく身動きがとれなかった、そればかりか良く立っていられたと思うほどのプレッシャーであった。
トウジ達は殺されると思った。だがシンジの口からは意外なことだ告げられた。
 
「鈴原君、妹さんは彼の言ったとおり無事だよ。今は怪我の治療のため病院にいるけど体に残ってる薬物の量が多いんで暫くは治療に専念させてあげたいんだ、連れて帰るのはしばらく待ってもらえないかな?」
「な、なんやと、おんどれ何でワイの名前を・・・」
「お見舞いぐらいなら大丈夫だよ、それと君達の名前に関してはミユキちゃんが喋ったんじゃないよ。ミユキちゃんの素性を調べてたウチのスタッフが探し当てたリストの中にたまたま君たちの名前があっただけさ。」
「お、俺達の事もか?」
「ああ、大丈夫だよ。まだこのことは公表していないし、知っているのは僕と彼女それに両親と数名だけさ。みんな口は堅いから心配しないで。」
「君は一体何者なんだ。」
 
三人は目の前の少年の素性をはかりかねていた。
自分達の素性を調べ上げたことといい、この恐ろしいまでのプレッシャーただ者ではなかった。
 
「僕の名前は碇シンジ、NERV司令碇ゲンドウの息子、アメリカ第一支部ではシン・バランシェと名乗ってEVA参号機の開発設計を担当するテストパイロットさ。」
「私は綾・バランシェと言います。今は本部付きですが元々はアメリカ第一支部で同じく参号機の開発設計とテストパイロットを兼任してました。」
 
三人は自分達の目を疑った。目の前にいる少年は何と自分達の敵であるNERVの総司令の息子、おまけにEVAの開発だけでなくテストパイロットまでしていたとなるとまさにNERVの全知識に携わっていると思って間違いはない。
つまりNERVの生きたデータバンクとも言える人物だった。
しかしそんな人物を前にして三人はまったく身動きがとれないでいた。
 
シンジはそんな三人を見ながら観測機器のデータを削除してバッテリーをはずしていった。
その途端三人はプレッシャーから解放された。
 
「もうすぐここも戦場になる早く逃げるといいよ、観測データはさすがにあげられないけど機材は回収してもいいよ。だから早くここを離れるんだ、巻き添えを食らうよ。」
「お、おまえはどうするんや?」
「ありがとう、心配してくれるんだね。でも僕たちは大丈夫だから、さあ、早く。」
 
そういってシンジはにっこりと微笑えんだ。その微笑みをみて三人は相手が男とわかっていても顔が真っ赤になっていた。
いち早く立ち直ったケイタが後の二人に指示を出す。
 
「わ、わかった。ありがとうとは言えないけど助かるよ。トウジ、ムサシ機材の回収を急いで。」
「あ、ああ」
 
そういって急いで機材を回収すると二人の元から去っていこうとしていた。
 
「なあ、あんたらワイらのことを黙っててくれるっていうとったな、ワイらもあんたらのことを黙っとくさかいにコレでおあいこや」
「ありがとう、さあ早く行くんだ。」
「ああ、じゃあな。」
 
三人は機材を担ぎ街とは反対の方角に姿を消していった。
 
「マスターよかったですね。」
「ああ、さてと次はレイの方だけど・・・・やっぱり苦戦してるな。」
「ええ、ナイフ一つではやはり無理ですね。」
「仕方がない、綾ここに初号機が来たらすぐに乗り込むよ。レイのサポートを頼むよ、僕はATフィールドに専念するから。」
「はい、武器の方は射出して貰いましょう。」
 
そういっている内にシンジ達のすぐ近くに初号機が落ちてきた。シャムシエルの一撃を食らい吹っ飛ばされてきたのだ。
レイはとっさに受け身を取ったが、それでも結構な距離を吹っ飛ばされたため痛みに顔をしかめていた。
そうするとなぜか自分の乗るエントリープラグがイジェクトされていくのであった。故障かと思い再エントリーをし直そうとすると誰かが乗り込んできた。
 
「やぁ、レイ少しお邪魔するよ。大分苦戦しているようだから手伝ってあげるよ。」
「お、お兄ちゃん!何でこんな所にいるの、危ないじゃない!」
 
何と乗り込んできたのはシンジだった。本部に居るはずのシンジがなぜかこんな所にいた。
 
「ちょっとした野暮用さ、それより手は大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫だよ。」
「レイさんお邪魔します。」
「あ、綾さんまで?一体何してたの二人とも?」
 
シンジがいるのなら彼女が居無い訳もないはずだが一体二人とも何をしていたのだろう、レイは疑問におもっていた。
 
「ちょっとした不心得者を懲らしめに行ってたのですよ。」
「不心得者?何の事?」
「詳しくは後です。来ます!」
 
綾が言うやいなや初号機にシャムシエルの鞭が襲いかかる。
レイは再エントリーを果たし、初号機を動かしその攻撃をかわす。
発令所でもエントリープラグのイジェクト・再エントリーはモニターされておりリツコやマヤは故障かと思いレイに連絡を取ろうとしていた。
だが連絡がとれたときにはプラグ内にはレイだけでなくシンジや綾の姿があった。
 
「レイ!大丈夫?・・・・ってなんでシンジ君や綾ちゃんが居るの?」
「リツコ姉さん詳しくは後、それよりアメリカから届いてたコンテナを射出して。」
「え、ええ、いいけど、アレっていったい何なの?まだ中身は見てないんだけど。」
「本来は参号機用の武装さ、もっとも初号機でも何とか使えると思って先に送っといたんだけどね。ぶっつけ本番だけど使ってみるさ。」
「武器なの?わかったわ4番から射出するから何とかそこまで来て。」
「了解」
 
リツコは急いでコンテナをカタパルトに乗せて射出の準備に入っていた。
一方シンジ達はシャムシエルの攻撃を必死にかわしていた。
 
「レイ!コントロールは任せるがATフィールドは僕が何とかする。後の詳しい指示は綾に聞くと良い。」
「う、うん、でも・・・」
「レイさん!次、右から来ます。後退せずに飛び越えてください。そうすれば四番ゲートまではすぐです。」
「わ、わかった。」
 
そうやってレイは必死にシャムシエルの攻撃をかわしていた。時々体をかすめるような攻撃は全てシンジがATフィールドで防いでいた。
傷ついた初号機が四番ゲートの目の前に来たときゲートが開き中から巨大なコンテナが現れた。
 
「レイ!コンテナの右のハンドルをひくんだ。そしたら中にある物を右手に付けるといい。」
「う、うん、・・・・・って、なにこれ?」
 
コンテナの中から出てきたのは奇妙な武器だった。まるでギターのような形をした、盾らしき物だった。
レイにはこの武器の用途が今ひとつわからなかった
それでもレイははシンジの指示に従ってその武器を右手に装着する。
 
「レイさん、これはルーターベイルです。」
「るーたーべいる?なにこれ?一体どうやって使うの?」
「大丈夫ですよ、余りややこしく考えないでください。これは盾にブレードを取り付けただけの物でから。」
「じゃあ何でこんな形してるの?別にこんな形でなくても・・・」
「盾の装甲部を大きくしすぎるとブレードを振り回すのには重すぎますので、そのための軽量化を施してあるんですよ。」
「よくわかったようなわからないような、ともかく盾の先に剣が付いてると思っていいのね。」
「はい、ナイフよりはリーチが長いので大分楽になると思いますよ。」
 
そんな事を言っている間にもシャムシエルは攻撃の手を休めなかった。それをシンジは一人でATフィールドを維持しながら耐えていた。
 
「二人とも早くしてくれ!何時までも僕一人じゃ大変なんだから。」
「あ、ご、ごめんなさい」
 
そういうとレイの初号機はシャムシエルに飛びかかっていった。
レイはその性能を疑いながらもシャムシエルの鞭をルーターベイルで払いのけた、だが払いのけただけのつもりが何とシャムシエルの鞭が切れていた。
もちろんルーターベイルのブレード部で払いのけたのだが、それでも切れるとは思っていなかった。
この奇妙な武器はプログナイフ以上の切れ味を誇る恐るべき武器だったのだ。
さらに怒り狂ったかのようなシャムシエルの鞭の乱打を防いでもまったく壊れるような気配がなかった。
どうやらこのルーターベイルという武器、見かけとは裏腹に攻防一体の優れた武器のようだった。
 
 
「す、すごい・・・・」
「先輩・・・・・こんな事って・・・・・」
発令所では職員達が目を点にしてこの光景を見ていた。用途を疑うような形をした武器が信じられないほどの戦果を発揮している。
もちろんEVAがあってこその武器だが、リツコとマヤはこれほどの武器を開発したシンジ達の知識に驚いていた。
 
「マヤ、あの武器の詳細はわかるかしら?」
「は、はい。・・・・・・メトロテカクロム?何でしょうかこれ。仕様書を見てみたんですけど、基本的なところはこの鋼材を鍛造して作ったという事しかわかりません。」
「メトロテカクロム?何かしら聞いたことはないわね。それにしても只の鍛造ブレードでこれほどの切れ味と高度があると言うことは、かなり特殊な鋼材のようね。」
「はい、ひょっとするとセラミックよりも堅いんじゃないですか?」
「ええ、その可能性はあるわね。もどってきたらシンジ君達に聞いてみましょう。」
 
その間もEVAとシャムシエルの戦闘は続いていたが、その戦闘は一方的な物になりつつあった。
レイの初号機はシャムシエルの攻撃を全て切り落としていた。綾が全ての攻撃を先に予測してレイのアシストをしている為シャムシエルの攻撃が初号機に届くことはなかった。
シンジと綾はルーターベイルの能力に満足して、レイのアシストから実戦訓練に切り替えていった。
只でさえ使徒と戦闘する機会が少ない中、これほどのんびりと戦闘できる機会等そう簡単にはない。むしろ今なら二人が居るので多少のことなら不測の事態が起きても対処できると判断したからだった。
そして二人の思惑通りに事は運んでいった、今は綾とシンジは殆どアシストしておらず実質レイが一人で戦っていた。ルーターベイルのような強力な武器があってこそなのだが、レイは確実に自分の力だけで使徒と戦っていた。
シンジもそれに満足してそろそろ終わらせようと思った。
 
「レイ。そろそろ終わりにしよう。もう敵の攻撃を凌ぐのにも飽きただろう。」
「うん、でも結構厄介だよ、コイツ。」
「ああ、そうだね。今から僕がお手本を見せてあげるから集中してよく見ているんだ。」
「う、うん、」
 
レイはそういうとEVAとのシンクロ率を高めていった。それはレイが自分の体からEVAの肉体へ魂を移したと言うことだった。
発令所へのデータは綾がごまかしており、シンジは再び綾を介してレイにシンクロしていった。
サキエル戦とは違いレイの意識があるため少し勝手が違っていたが、それでもシンジは初号機を意のままに操っていた。
 
『レイ、よく見ておくんだ。いくらルータベイルといえどもATフィールドを簡単には貫通することは出来ない。だからそういった時はこうすると良い』
 
シンジのする事とはサキエル戦と同じ様に攻撃するポイントにATフィールドを集中させることだった。
シンジはシャムシエルの鞭を二つとも見事にかわしATフィールドを集中させた右手を突き出していく。
ルータベイルがシャムシエルのコアをえぐった。
そして、以前と同じように誰にも気が付かれないように右手に集中させたATフィールドでコアを押しつぶしていく。
今回はこの事態に気が付いていたのはレイ一人だったが、そのレイ自身にもコアを破壊したようにしか見えていなかった
実はシンジのこの行動には裏があった。それはコアに関しての事でまだNERVにも報告していない。
だがシンジはまだこのことは綾以外に誰にも話すつもりはなかった、それほど危険な内容だった
 
そしてサキエルと同じようにコアをえぐり取られたシャムシエルは大きな地響きを立て倒れていった。
 
 
 
 
 
 
 
あとがき
 
今回もまたかなり大きくなってしまいました。
かなり長い文章になっています。おまけに登場人物も増えています。
そんなわけで今回からクラスメイト達も登場することになりましたが、かなり扱いがひどいですね。
特にケンスケの扱いは我ながらかなり厳しい物にしましたが、これは自業自得です。
今回トウジ達も登場しましたがこちらはかなり役どころが変わってきていますが、こんなのもたまには良いでしょう?
しかもシンジはケンスケに対しては厳しい態度をとりながらも、トウジ達に対してはかなり便宜を図っています。
この立場の違いを付けることにより今後トウジ達も行動させやすくなってきました。
 
注 トウジの関西弁はいい加減です。変な所があっても気にしないでください。標準語を喋るよりはまだましと判断していい加減な関西弁を使用しています。
 
さて、今回シンジが使用した武器はFSSのルーターベイルそのものです。まあ、プログナイフと比べるとかなり強力な武器ですが、さすがに次のラミエル戦では使用できません。
おまけに今本部には初号機しかいません。さて次回はどうやってラミエルと戦うのでしょうか?
実は私の頭の中にはかなり意表を突いたアイデアがあります。しかしこれをやってしまうとあるキャラの登場がかなり早まってしまうんです。
アスカ&ミサト登場前に出すのはかなり問題がありそうなのですが、それでもそろそろ張りまくった伏線の消化にはいるのも良いかもしれませんね、そんなわけで次回はラミエル戦はあるキャラを登場させて二話構成にしようと思っています。
一部の方達はとても喜ぶと思いますのでお楽しみに  <さて誰でしょう?