騎士と妖精と熾天使の幻像
 
第1章 第9話.事後
 
 
少女の存在に気がついた全員が凍りついていたが、誰よりも早く復帰したナオコがユイに自分の白衣を着せると、同じようにリツコもシンジや少女に自分の白衣や上着を着せかける。
そして、ゲンドウが我に返ると次々と指示を出していく。
「ユイ達をすぐに医務室へ、検査も忘れるな!エヴァはすぐに凍結処置をとれ、硬質ベークライトで固めてしまえ。所内に出された緊急体制も解除しておけ。」
その声を聞いた冬月をはじめとする職員が動き出す。
「わかった、上には連絡しておく。連中はどうする?一応監視は今のままでいいか?」
「いや、監視の方は強化しておけ。こんな時に騒がれてはたまらん。」
「ゲンドウさん、この女の子はどうしたら良いんですか?シンジ君から離れないんです。」
 
そう言われゲンドウが眠っているシンジを見ると謎の少女がシンジの腕をつかんだまま放さないでリツコを困らせていた。
 
「ねえお願い、シンジ君を休ませないといけないの、だからその手を放してちょうだい。」
「いや、ひとりはいや。さびしいのはいや」
 
少女はどうしたことかシンジに懐いているようだ。それならばとゲンドウはリツコに指示を出した。
 
「リツコ君、その子も一緒に連れて行きなさい。どうやらシンジと離れるのが嫌らしい。一緒にいさせてやりなさい。」
「はい、解りました。」
 
そう言ってリツコは少女を連れてシンジを医務室へと連れて行った。
ナオコもユイに着いていった。
 
「碇、ユイ君に付いていなくていいのか?何なら後は私がやっておくぞ。」
「いや、この緊急事態に私用で抜けるわけにはいかん、それに手はいくらあっても足らんはずだ。それにシンジが一緒に戻ってきたと言うことは恐らくシンジはサルベージの手助けをしていたのだと思う。」
「何だと、今回のことをシンジ君は予測していたというのか?それに手助けだと、いったいあの状態でどうやって?」
「詳しくはシンジが目覚めてから聞くとするさ、だが私は大丈夫だと確信している。」
「碇、本当にそれでいいのか。」
「問題ない。それよりもやることは山積みされている、さっさと片づけるぞ。」
そう言って二人は担当者達との打ち合わせに消えていく。
 
そうしている間にも次々とあがってくる報告にゲンドウと冬月は対応に忙殺されていく。
同じ頃医務室ではナオコとリツコがユイとシンジの検査をしていた。
そうやって研究所が忙しさから解放された頃にはすでに深夜を回っていた。
そんな中、ゲンドウの元にユイが目覚めたという連絡が入る。
ゲンドウは休憩をしていたがその一報が入るとすぐに飛び出して医務室に向かった。
 
医務室の個室の中には目覚めたユイとその診察をしているナオコの姿があった。
シンジと少女は隣の部屋でリツコに見守られて休んでいた。
 
「あらゲンドウさん、ちょうどいい所だったわ。ユイさんの方に以上はないわ。」
「あなた、心配をかけてごめんなさい。」
 
ゲンドウはその声を聞いても表情を変えずユイに近寄っていく。
後から冬月とナオコは気を利かせて部屋から出ていこうとするが、そのとき信じられない物を見てしまった。
 
パァン
 
ゲンドウがユイをぶっていた。
打たれたユイも何が起きたか解っていない。
さすがに冬月達が止めようとするがそれを無視してゲンドウがユイを責める。
 
「ユイ、おまえが何をしたのか解っているのか!どれだけの人間に心配をかけたと思っているんだ。いや、心配をかけただけじゃないシンジがどうなったか知っているのか!」
「えっ!あ、あなた、シンジが、シンジがどうしたの、いったい何があったの?教えて」
「ナオコ君、説明してないのか?」
「ええ、詳しいことは何も解っていないし。それに説明するのはゲンドウさんかシンジ君の方がいいと思って何も言っていないわ。」
 
そうしてゲンドウの口から実験の結末からシンジの行動、サルベージ計画の結果に至るまでのすべてが語られた。
その内容はユイの顔色を悪くさせる物だった。今のユイの顔は死人のように真っ青だった。
 
「あ、あなた、シンジは大丈夫なの?どうなの、教えて。」
「身体には異常はないそうだがまだ眠ったままだ、目が覚めれば連絡が入る。」
 
ゲンドウは怒っていた。その相手がたとえユイであっても今回の事は簡単に許すつもりはなかった。
 
「そうなの、よかった。」
「何が良かっただ!おまえの勝手な行動でシンジまで危険にさらしてしまったんだぞ。
シンジは半ばこうなることを予測して実験の中止を訴えてきたんだぞ、それをおまえは勝手な行動で台無しにしてしまったんだぞ。
それだけじゃあ無い、シンジとリツコ君が異常に気づくのが遅ければおまえもどうなっていたのか解らんのだぞ。
そうなれば残された私やシンジがどれだけ悲しむか解っているのか!」
 
ゲンドウは珍しく声を荒げユイを責め立てた、その一言一言にユイは落ち込んでいきついには泣き出してしまった。
「ごめん、ごめんなさい、私何も解ってなかったんだ、あなたやシンジがどんなに心配してくれているか、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・」
「解ったのならもういい、もうすんだ事だ、二度とこんな事はするな。」
「はい、はい、ごめんなさい、もうこんな事はしません・・」
 
ユイはまるで子供に戻ったかのようにゲンドウにしがみつき泣き続けていた。
ゲンドウもきついことを言った割にはユイを許そうとしていた。ゲンドウは今回のことに関してユイを特別責めようとは思っていなかった。自分たちもデータや資料なども見せずに一方的に実験の中止を決めたのだ自分たちにも責任がある。だが、もしもユイだけでなくシンジにまでなにかあれば自分は一人になってしまうことを恐れていた。
その事をよく解っているからこそユイを許してやることにした。
 
「もういい、後はゆっくりと休みなさい。」
「でも・・シンジが・・・」
「目が覚めたら教える、だから休みなさい。」
 
ゲンドウ達はユイの体のことを伝えてはいなかった。
本人も自覚がないまま横になっていた為、気が付いていなかった。
今のユイは二十歳前後まで若返っていた。
そんな中、内線電話に呼び出しがかかりナオコがそれを取った。
それはシンジが目覚めたとの連絡であった。
 
ユイはすぐに起きあがりシンジの元に行こうとしたが、うまく歩けずにすぐに膝をついてしまった。
ユイは自分の身体の異常に初めて気が付いた。自分の体がどこかおかしいと。
 
「あなた、何か体が変なの。私いったいどうしたの?教えて。」
「詳しいことはシンジに聞くことだ。」
 
ゲンドウは素っ気なく答えたが、ユイの体を優しく抱き上げた。
驚くユイにかまわずゲンドウはそのままシンジの元に向かった。
そこには目を覚ましたシンジと謎の少女とそれに付き添っていたリツコの姿があった。
 
「あ、父さん、母さん・・・おはよう。」「ゲンドウさん、ユイさ・・・ん」「・・・」
「シンジ大丈夫か?」「シ、シンジ。」
 
ゲンドウ達を待ちかまえていたシンジ達だがユイがゲンドウに抱きかかえられているという構図に一瞬言葉に詰まってしまった。
そんなシンジ達の様子も気にせずゲンドウとユイはシンジの元に駆け寄る。
「母さん大丈夫?まだ身体が慣れていないんじゃないの?」
「やはり、シンジおまえはユイの身体の事を知っているんだな。」
「どういう事なの、体の調子がおかしい訳を知ってるの?」
「うん、ごめんね母さん。そうでもしないとあそこからは出られそうもなかったから。」
「どういうこと?」「どういう事だ?シンジ」
「父さん、何処か外部に全く知られないような場所はない?」
「ああ、在るがどうした?」
「うん、それじゃあその部屋を準備してくれない?冬月さん達が来たら話すよ。エヴァのこと、母さんのこと、この娘のこと。沢山話さなきゃいけないな。
まだ疲れているからもう少し寝させて、準備できたら起こして。」
 
そう言って再びシンジは眠りについていった。
 
「「「シンジ(君)!」」」
 
三人は驚いた、またシンジが居なくなってしまうのかと思った。
だが、シンジの穏やかな寝息を聞いて落ち着いた。
心配していないのは謎の少女だけであった。もっとも理解していないだけであったのかもしれない。
そしてゲンドウは部屋にやってきた冬月達にすぐに部屋の手配をさせ、その間にユイは自分の服を着るため私室に戻っていった。
 
そこでユイは自分の姿に初めて気が付いて驚きの声を上げた。ちょうどそこへナオコが例の少女を連れてきた。
「ユイさん、シンジ君の代わりの服無いかしら?さすがにこの娘をいつまでも検査着じゃあ可哀想でしょ。」
「ナ、ナオコさん、私いったいどうなってるの?それに!その娘いったい?」
「うーん、私もよくわかんないのよ、でもいいじゃない。」
「ど、どこがいいのよ!」
「なに言ってんのよ、若返るなんて羨ましい限りよ。私もシンジ君に方法教えてもらおうかしら。」
「尚子さん!!」
 
少しおどけたナオコの態度にさすがに怒り出すユイであったがその時になって初めてみんなに謝っていないことを思い出した。
 
「ナオコさん、ごめんなさい心配かけて。私のせいで・・・」
「いいのよ、でもね次からは許さないわよ。今回もシンジ君が居なければどうなっていたか解らないのよ。」
「ごめんなさい・・・」
「さあ、もういいから着替えなさい。それとこの娘もお願い。」
「うん、さあいらっしゃい・・・・そう言えばこの子の名前はなんて言うの?」
 
ナオコはそう言われて初めてこの娘の名前のことに思い立った。そして無責任な台詞を言った。
 
「さあ、知らないわ。どうせシンジ君が教えてくれるわよ。でもあなたによく似てるわねこの娘、案外あなたの子供なんじゃないの?」
「ちょっと、ナオコさん」
「冗談よ、いいからさっさと着替えて。すぐにゲンドウさん達の方も準備ができると思うわ。」
 
ふざけた態度で居ながらもナオコはユイを慰めようとしていた。ユイはあまりにも自分を責めていたから少しでも気が楽になればと思っての行動だった。それは功を奏したようである。
そうしてユイは自分と少女の着替えを住ませたところに今度はリツコがやってきた。
 
「母さん、ユイさん、ゲンドウさん達が呼んでるわよ、所長室に来てって。」
「解ったわ、わざわざありがとうリッちゃん。」
「リツコちゃんありがとうね。それと、ごめんなさいね心配かけて。」
「ユイさんいいんですよ、それよりもゲンドウさんや母さんの何か言ってください。二人ともこの三日間飲まず食わず不眠不休で働いてるんですよ。」
「リッちゃん!」「リツコちゃんそれって本当!」
 
リツコの言葉にナオコはバツが悪そうに、ユイは申し訳なさそうになる。
「ナオコさん、ごめんな・・・」
「もういいのよ、もう気にしないで。それより早く行きましょう。休むのはそれからよ。」
 
ユイの言葉を遮りナオコは先に部屋を出ていった。
ユイは自分たちのことばかりでナオコの状態にまで気が付かなかった自分の不甲斐なさに呆れかえっていた。
そしてリツコに誘われて一緒に所長室に向かう。
 
そこにはすでにユイ達をのぞく全員が集まっていた。
そしてシンジから説明が始まった。
 
 
その内容は信じられない物であった。
 
 
 
 
あとがきです
 
すいませんレイの説明が結局できていません。
でも次では絶対にやりますから、というより話の流れがそう言う風になっているので確実です。
それと今回のゲンドウはひと味違います(笑)いきなりユイを殴っています。前の世界では考えられない行動です。
でも、私の考えですがゲンドウはユイがいなくならず、シンジがそばにいればゲンドウはこんな風にしっかりとした人間になれるんじゃないかと思ったのですが、みなさんはどうでしょうか?
まあ、嫌という人もいるでしょうがその辺には目をつぶってもらいましょう。
それと今まで予告していたシンジの居なくなる時期ですがもう少し後になりそうです。
それに居なくなるのはシンジだけじゃあありません。
つまりシンジと一緒にもう一人休場する人がいます。まあ、再登場するかどうかこちらの人物はまだ未定です。
 
今回は題名の通りユイ達の後始末の報告です。
ただの解説文になりそうなので会話を増やしてゲンドウやナオコ・ユイの気持ちなんかを少し書いてみましたが少し長くなりすぎましたね。
次回からは少し気をつけます。
 
それでは次回ですが・・・・
次の話はまだ決まっていません。少しに詰まっています。
この文章は出張先でノートで打っていますがいまいち気分が乗りません。
いつもは自宅のタワーPCで入力しているんです。そっちのは大好きなメカニカルキーボードなんですがこれに慣れてしまうとノートのキーボードは打ちにくいです。
 
そんなわけで執筆ペースが落ちていますが、何とか一週間後には5〜6話ぐらいを投稿できそうです。
 
それでは楽しみにしてお待ちください。