騎士と妖精と熾天使の幻像
 
第1章 第8話.少女
 
 
紅の世界
 
ただ一人
 
紅以外に何もなく
 
何の臭いも感じない
 
心臓の鼓動以外に何も聞こえない
 
LCLの血の様な味だけが口に残り
 
自分の気配の他、何の気配もしない
 
 
 
そこは孤独だった。
 
悪夢だった
 
『嘘だ!もう無いんだ、もうこんな世界はもう無いんだ!!」
 
シンジが吼える。だが以前とは違い力がふるわれることがない。
だが今のシンジにはそんなことにすら気がつかない。
幸せが長すぎたから、孤独とは無縁の世界だったから、
愛情に満ちていたから、誰かが寂しさを慰めてくれたから、
 
だが、ここにはそんなモノは何もない。
かつての思いがよみがえる。寂しさの中ですべてを拒絶して狂いかけたあの時の記憶が。
 
それはシンジも気がつかなかった心の傷
その傷を塞いでいてくれた師と姉、そして最愛の人はいない。
その存在を忘れさせてくれていた両親も大人達も今はいない。
今はたった一人でその傷に苦しんでいる。
 
なぜ忘れていたのか?
どうしてこんな大事な事を思い出さなかったのか?
自分がかつて、そして今、何をやっていたのか?
自分が何をしようとしていたのか?
 
何もわからなかった。
ただ苦しかった。寂しかった。つらかった。悲しかった。
それらの思いに押しつぶされる。
シンジの心がだんだんと狂気に引き込まれていく。
 
そんな中シンジは気がついた自分以外の誰かがいる。
それはシンジにとってとても懐かしい誰かだった。
最初は姉や師かと思ったが、それは違っていた。
 
まだ小さな女の子だった。
自分と同じぐらいの年の女の子だった。
うずくまって泣いていた。
その声を聞いたシンジは狂気の縁から舞い戻る。
 
『サビシイノ・・・ダレカ・・・・・』
 
その声はかつてのシンジが心の中で叫び続けた声よりも遙かに虚ろであった。
その声を聞いたシンジは少女の心がすでに壊れていることに気がついた。
 
シンジはとっさに少女を抱きしめた。
『一人じゃないよ、ここに僕がいるよ。寂しくないよ。』
 
なぜそんなことをしたのか自分にもわからなかった。ただこのままではいけない。その直感に導かれ少女の泣き声がやむまでそうやって慰め続けた。
 
どれほどの時が流れたのか、一瞬か、永遠か、それはわからなかった。
ただ少女は泣きやみシンジを見上げている。
 
その顔は・・・・・綾波だった。
しかし、その表情は虚ろで人間には見えなかった。
しかしシンジにはそんなことはどうでもよかった。
泣きやんでくれた、それだけで嬉しかった。
 
シンジは少女にほほえみかけた。
少女は無表情の中にもどうしていいか解らないといった感じだった。
そんな少女を見てシンジはすべてを理解した。
この少女こそエヴァンゲリオン初号機の中に閉じこめられたリリスの分御霊とも言うべき、魂。間違いなくこれこそが綾波レイの本質だと。
 
リリスはアダムのいない孤独に耐えられなかったのだ、だからリリン達の計画は孤独から癒されるわずかな望みだった。
誰一人としてリリスの元にたどり着けなかった。
しかし。ついに待ちわびていたリリンが現れた。
だが、そのリリンもリリスを拒絶しようとして自分の殻に籠もってしまった。
リリスの心はひどく傷ついた。
誰も自分を受け入れてくれない。
そして絶望していた、終わることのない孤独に。
 
エヴァ=リリスは人に近すぎたのだ。
長く人を見ていたが為に人の心に興味を持った。
そしてそれは興味から願いへと変わっていった。
羨ましかった。
自分も一緒になりたい。
だからこそ耐えられなくなっていた。
 
「ヒトリハイヤ・・・・ダレカ・・・・」
 
もうすでに壊れているのかもしれない。
ユイに拒絶されたことは信じられなかった。
リリスには理解できないことだったからである。
そして直後のシンジの存在である。リリンの姿をしたアダムの存在
なりふり構わずにシンジを取り込んでみたが、そのシンジにまで拒絶されかけていた。
シンジにしてみれば自分の忌まわしい記憶を見せつけられたのである。
拒絶したくなるのも解る、がリリスはすべてに絶望していた。
 
「リリス、ううんエヴァ、君は一人じゃない。僕がいるよ。さっきはごめんね。」
『ヒトリジャナイノ?』
「そうだよ、さっきはごめんね。でも、あんな事しちゃだめだよ。」
『ナゼ、リリンハヒトツニナリタガッテイル、ヒトツニナル、ナゼダメ?』
「うん、お互いをよく理解しないといけないよ。僕も君も知らないことが沢山ある。」
『リカイ?』
「うん、お互いを理解し合ったときに人は一緒になるんだよ。」
『ヨクワカラナイ・・・・』
「これから僕が教えてあげるよ。だからもう悲しまないで。」
『ワカッタ。』
 
そういって大人しくなった少女の元からユイを分離させる。
シンジのアダムの力を使えば造作もないことだった。
少女は少し寂しそうな表情になり、シンジにしがみつく。
『イヤ、ヒトリハイヤ、サビシイ』
シンジは少女の言葉に困った表情を浮かべる。
少女をここから連れ出すことはエヴァ初号機が起動不可能になることを意味する。
さすがにそれはまずかった。ただでさえユイをサルベージしようというのにこれ以上はエヴァ初号機の存在問題に関わる。最悪の場合は廃棄処分されてしまうかもしれない。
 
シンジが悩んでいると外の様子がおかしいことに気がついた。
 
「あ、サルベージしようとしてるんだ。うーん、どうするか?」
 
しがみつく寂しそうな少女の姿を見るとどうしても置いてはいけない。
悩んだ結果は・・・・
 
「もうここまで来たら、どうにでもなれ。どうせもう歴史は変わってるんだ今更小細工するぐらいなら思いっきり干渉してやる。」
 
開き直ってしまった。すでに自分の知識にないことが起きすぎている為割り切ってしまったようである。
 
「よし、一緒にいこう!」
『イッショ?ドコヘ?』
「心配しないで、きっと君を寂しくさせたりしないよ。みんなが君のことを愛してくれるよ、だからもう君は一人じゃない。」
「サビシクナイノ?アイシテクレル?ワカラナイ、デモヒトリハイヤ。イク、イッショニ。」「よし、じゃあ君にも新しい体がいるね。ちょっと待っててね。」
『???』
 
少女には理解できなかった。どうして新しい体がいるのか?どうして今の体ではいけないのか?
だが今の少女はすべてをシンジに任せていた。孤独を癒してくれたシンジを信じ切っていた。
そうして少女が考えている間にもシンジは何かをやっているようだった
そうして、シンジが少女の元に戻ったときには、腕に少女とそっくりな体が抱きかかえられていた。
「さあ、この体に入ってみて今日からこれが君の体だよ。」
「ワカッタ。」
少女の姿が薄れて光の固まりになっていった。そしてシンジの腕に抱かれた体に消えていった。
そして少女の体が目を開ける。
「これがわたしのあたらしいからだ?」
「そうだよ、でも気をつけてこれからは怪我をしたりしてもすぐには直らないから。」
「けが?よくわからない、でもきをつける。」
 
シンジは少し不安になったがこれから両親達と一緒に教えていこうと思った。
そして外部の様子からサルベージが大詰めになったことを知ると、この世界から脱出の準備をする。
そしてサルベージにあわせてユイと少女の体と一緒にエントリープラグ内で体を再構成させる。
そこでシンジは初めて自分のミスに気がついた。
三人とも裸になっていた。おまけにユイの肉体を再構成する際に少し若く直しすぎてしまった。今の姿はシンジを生む前まで若返らせてしまった。
それは仕方なかった。少女の体を作るのにシンジは母が自分を身ごもったときの状態を再現した、そのためユイが若返ってしまったのだ
シンジはそのことに気がつくこともなくシンジは眠っていた。
そして、エントリープラグが排出され、LCLも抜けていってハッチが開けられた。
そこは喜びにわきかえっていたが、ユイとシンジ以外にともう一人の姿を見たとたん全員が凍り付いた。
 
そこにいたのがユイとシンジだけではなかったからである。
ユイの意識はまだ戻っていない。
シンジもいろいろとあって疲れていたため眠りについたままだった。
それとは逆に少女は周りの歓声で目を覚ましてしまった。
 
「ねえ、どうしたの?」
少女は不思議そうにそう言った。
そう、その少女の姿はアルビノであったがユイの子供にしか見えなかったからである。
 
 
 
周りは静寂に包まれた。
 
 
 
あとがき
 
 
ついに登場しました。綾波レイ
この話では純然たるエヴァの魂ということにしています。つまりリリスのコピーそのものといった感じになっています。
おそらくこれからはシンジの代わりに初号機に乗って活躍するでしょう。
というのも零号機に関してなんにも考えてなかったので登場させるタイミングを逸してしまいました。結果、レイと零号機の関係が説明できて無いのに初号機の方が関係が深いといった状況に陥ってしまいました。
ホントはもっと前にその存在を臭わせておいて、この事故のせいでシンジ以外に初号機が乗れなくなった為、予備の実験機をシンジの手によりレイ専用機にチュ−ンするという設定を考えてましたけど、その予備の話を出し忘れてました。完全に
その代わりレイはコアに関係なくすべてのエヴァを操縦できるという設定にしています。
だから、ファーストチルドレンとしてシンジより先に登録される事にしました。
まあ、今回ラストに関しては次回のはじめの方で詳しく説明します。
 
今回は話も短かったのでこれくらいにしておきます。