騎士と妖精と熾天使の幻像
第1章 第7話.願い
シンジ達は地下に到着したが、そこには鍵がかかっており先へ進めなくなっていた。
それもナオコ達を警戒してか電子錠ではなく機械式の鍵だった。
「何でこんな所にこんな鍵が?」
「おそらくキョウコ君の仕業だろう。電子錠では私のパスやナオコ君がはずしてしまうと考えたんだろう。シンジ危ないから離れていろ。」
そういってゲンドウは懐から拳銃を取り出した。それは、護身用にしては火力の大きすぎる物だった。
ゲンドウはためらわず鍵に向かって全弾打ち込んだ。いくつかの玉が跳弾を起こしゲンドウの腕や顔に傷を付けるが、まったく気にしないでさらにマガジンをもう一つ打ち尽くした。鍵は既に穴だらけになってまったく用をなさなくなっていた。
「いくぞ」
ゲンドウはあっけにとられているナオコ達に声をかけてさらに奥へと進んでいく。
シンジは驚いていた。あの父がここまでするとは思っていなかったからである。
普段の様子からはまったく想像もつかなかったが、シンジはふと未来の世界であった事を思い出した。
あのとき停電の中、手動でエヴァの起動を行っていた時も父は先頭に立って働いていた。
シンジはゲンドウの事を見直していた。
そうしている内についに目的の管制室にたどり着いた。
だが既に起動実験は始まっていた。
「あら、碇所長どうかしました?それにナオコも久しぶりね、そっちの子達は誰かしら?」
キョウコはゲンドウ達を見てもまったく取り乱したりせずに対応してきた。
「すぐに実験を中止しろ。これは所長命令だ、直ちに中止しろ。」
「無理ですよ、もう起動しかけていますから。まあそこで見ていてください、すぐにエヴァを起動させて見せますから。」
キョウコは自信たっぷりにそう言ってのけた、まるで自分の力を見たかといわんばかりであった。
「なんだと!!」
「何を考えているの、ユイ聞こえる?すぐに中止して、ユイ、聞こえないの?」
近くの通信装置に飛びついてナオコは呼びかけたが変事がなかった。
「一時的に通信を切ってるのよ、せっかく集中しているのに邪魔しちゃダメよ。」
「だまれ、さっさと中止しろ。言っている意味がわからんのならそこをどけ。」
ゲンドウはキョウコや職員達に銃を突きつけ。そして発砲した。
弾は誰にも当たらなかったが、職員達は一斉に凍り付いた。
キョウコもまさか発砲するとは思っていなかったためにその得意そうな表情が引きつっていた。
「な、どういうつもり!仮にもドイツ支部長に向かって発砲するなんて、何を考えてるの。」
「黙れと言ったはずだ、仮にそうだとしても今は只の侵入者だ。機密保持のために抹殺して何がおかしい。」
ゲンドウのあまりに冷ややかな声に職員達は命乞いを始めキョウコも怯えだした。
だがその緊張状態を破ったのはシンジの声だった。
「まずいよ父さん!母さんの様子が変だ、それにあっちこっち警告が上がりだしたよ。」
「なに!!」
シンジの声に反応してナオコやリツコだけでなくキョウコ達までもが端末に釘付けになった。
「シ、シンクロ率が100%を超えている。そんな馬鹿な。あり得ない。」
そういって取り乱す職員をゲンドウが殴り飛ばした。
「ふざけた事を言っている暇があったら何とかしろ!それともここで殺されたいのか!」
ゲンドウの言葉に飛び上がった職員はすぐに作業を再開し出す。
だが状況は何一つ好転しない。それどころかどんどん悪化している。
既にシンクロ率は250を越えていた。
電源を切っても内蔵電池のせいでまだ10分は動き続ける。A10神経の接続も切れない。
ついには外部からの制御をまったく受けなくなっていた。
そしてモニターには信じられないものが映し出されていた。
シンクロ率は400に到達しエントリープラグ内の映像には誰も写っていなかった。
ただ、ユイの着ていたであろうプラグスーツだけが浮いていいた。
最悪の事態だった。周りの人間はまだこの事態の意味をつかんでいない。だがシンジは誰よりもこの状態の意味を知っていた。
ユイはエヴァに取り込まれていた。それは間違えようもない事だった。
シンジは悩んでいた。それはユイを助ける事が正しい事なのかどうか、
キョウコや他の職員達は状況をつかめずに右往左往していた。
ナオコとリツコはより詳しい情報を求めて端末と格闘していた。
ゲンドウはひたすらユイに呼びかけていた
『母さんをこのままにしておくが以前の歴史だ。でも、今母さんがいなくなれば確実に父さんは以前のようになってしまう。それに僕も今の母さんを失いたくない。』
シンジの迷いは続く
『でも、そうしないと綾波が生まれてこない。それに、母さんを助けてもまた誰かが取り込まれるだけかもしれない。』
そんな中ゲンドウの顔を見ると涙を流していた。あの気丈な父が涙を見せている。
そして、シンジはついに決断した。
そして誰もシンジのその行動に気がつかなかった。
シンジは一人ケイジへと降り立ちエヴァの方へと向かっていく。
その姿をゲンドウが発見した。
「シンジ何をしている!戻れ!何があるかわからん、危険だ!」
ゲンドウの他にもナオコ達も気がつき制止しようとしているがシンジの耳にその声は届かなかった。
『エヴァ初号機、ここにアダムと同じ存在がいるぞ!僕を見ろ、そして僕を取り込め!母さんを帰せ!!』
「返せ!返せ!母さんを帰せ!エヴァ!おまえに母さんを渡さない!返せ!!」
シンジは普段の落ち着いた様子からは思いもつかないほどに感情を露わにしていた。
ゲンドウ達はその姿に驚き、動作が遅れた。
その一瞬の間に信じられないことが起こった。
沈黙していたエヴァの目に光が宿った。そして、自ら拘束具を破壊してその右手を振り上げる。
管制室に悲鳴が巻き起こる。その右腕の目標はシンジだった。
右腕はシンジをつかみあげ、捧げるかのように高く掲げた。
そして信じられないことに、そのシンジをエヴァが飲み込んだ。
そう、拘束具を破壊して自らの口に放り込んだのだ。
そしてそのまま一飲みにする。
管制室の中ではリツコや気の弱い職員達が失神する。
すでにキョウコは正常な精神状態ではなかった。高笑いを続け訳のわからないことを口走っている。
ゲンドウとナオコはすぐにエヴァの元に向かおうとしたが、そこでは更に信じられないことが起こっていた。
そこでは、エヴァがもだえ苦しんでいた。自らの装甲を掻きむしりコアが見えるまで止まらなかった。
そしてケイジ内を殴ったりのたうち回ったりと近づける状態ではなかった。
そしてその騒ぎの中、冬月が保安部をつれてやってくる。だが冬月も保安部もその騒ぎに自分たちの仕事を忘れる。
いち早く正気に戻ったのは以外にもゲンドウだった。
「冬月、直ちにキョウコ君達侵入者を逮捕して、独房に放り込んでおけ。」
「わ、わかった、だが碇これはどういうことだ?いったい何があった?」
「ユイが初号機に取り込まれ、そして暴走の後シンジを飲み込んだ。その後暴走がひどくなっている。以上だ。」
「ユイ君が!それにシンジ君まで飲み込まれたとはどういうことだ?」
「文字通り、飲み込まれた。食べられたのよエヴァに!冬月先生。」
ナオコの言葉に冬月だけでなく作業をしていた保安部員まで動きが止まる。
「食べられただと?本当なのか碇!」
「ああ、言ったとおりだ。冬月、大至急ユイとシンジの救出計画を立てるぞ。」
「わかった、直ちに上にも連絡して人を集める。」
「頼みます・・・・・ユイ・・・シンジ・・・無事でいてくれ、頼む。」
ゲヒルン本部自体が慌ただしくなった。所長命令で外部との接触・連絡がすべて絶たれ、その上で各部署の責任者達が集められた。
そしてその責任者達の前でゲンドウの口から今回の事件が語られ、そしてユイとシンジの救出に力を貸してほしいと所長のゲンドウが自らの頭を下げて職員達に頼み込んだ。
所員達はこの異常な事態に驚くよりも、ゲンドウが他人に頭を下げていることの方が驚きだった。
そんなことが無くとも職員達全員が話を聞いてすぐにこの計画に参加するつもりだった。
それほどまでに二人はみんなからは慕われていた。そしてその二人をこんな納得のいか無い形で失いたくなかった。
それからすぐに救出計画の立案に入った。
会議の席でリツコがシンジから預かっていたデータを提出した為、大まかな流れはできあがった。
だがその実行は困難だった。
今まで誰もやったことのない領域であり、失敗は二人の命に関わる。
そしてサルベージ計画の最高責任者はゲンドウが名乗りを上げ、現場責任者にはナオコがついた、もちろんリツコはその補助に入っている。
このサルベージ計画の為にゲヒルン本部はすべての業務・研究が中止され、外部との連絡を絶った厳戒態勢のまま総員体制でサルベージ計画の実行へと動いていた。
そして立案から三日が過ぎ、計画実行にまでこぎ着けた。
所員一同の努力の結果だった。
ゲンドウやナオコ、冬月などはこの三日間満足に食事も睡眠もとっていなかった。
そして、サルベージ計画は実行に移された。
そのころシンジは漂っていた。
海を漂っていた、かつての世界と同じLCLの紅い海を
あてもなく、ただ彷徨っていた。孤独な紅い世界をただ一人で
静寂に包まれ、紅い色以外のない寂しい世界を
シンジの思いはただ一つ
『返せ、母さんを帰せ!』
そして・・・・・・・
あとがき
こんにちはふぇいです。
いよいよこのゲヒルン編も佳境に入ってきました。
結局エヴァに取り込まれたユイ、それを助けようとする為エヴァに喰われたシンジ。
そして、ゲンドウの活躍によって驚くべき早さで進められるサルベージ計画。
エヴァに喰われたシンジはどこへ行ったのか?
とまあ謎を残したまま次に続くわけですが、なんだか最強シンジ君よりもゲンドウ活躍物になりつつ私自身困惑しています。
今まで見たのが腐っていただけに、よけいにかっこよく見えますね。
それにここまでまともなゲンドウを書いてるのは珍しいし、書いてて面白いです。
また別の意味で面白いのはキョウコです、今回でついに一線越えちゃいました。
次回からはMAD+独裁者一直線です。
ドイツ支部のみなさまのご冥福を祈ります。
と、ここまで書くとお気づきの方も多いと思いますが、レイとアスカに関することですがこの作品はLASにもLRSにもなりませんが、二人はちゃんとでてきます。
それにアスカはキョウコのせいでとんでもない目に遭いますが、実はさいころの目は6でした。
それでも−2のお陰で4に止まります。というわけで路線的にはとんでもない運命に翻弄されながらも何とかふつうの生活に復帰といったところでしょうか。
そうでもし無いと抗議のメールが来そうだし。
以前言ってた6ゾロコンビというのはこの親子ではありません。真の6ゾロコンビは他にいます。ちなみに後でこの二人はつるんで悪さばっかりします。
それでは今後に関してですがレイのことで一言、
レイはこの作品では性格が変わってしまいます。
そりゃあ今のあの二人に育てられたら変わるだろうと思いますが、実は根本的に違います。
それでは次回予告です
再び見ることになる紅い世界
かつての悪夢が呼び起こされる。
自分の弱さを見せつけられる。
正気が狂気に変わろうとする
孤独の中で見つけた少女は
自分と同じ孤独に壊れていた。
シンジは選択する。少女を救う為に
そしてそれは新しい歴史の一つとなる。
次回第1章 第8話.少女
まあ、かっこつけてこんなのを書いても、どうせすぐに続きは出ます。それもすぐに
現在主張中でやることが無く、宿の中でこんな事ばっかりしています。
さて、一週間後に何話できているか自分でも楽しみです。