騎士と妖精と熾天使の幻像
 
第1章 第5話.親子
 
 
ナオコは既に自分の仕事はマギを完成させることだけに決めていた。後はどんな仕事があろうと断り、引退するつもりだった。
そして自分達の子供達に後を引き継いでもらいたかった。それは娘リツコであり、親友の息子シンジであってほしいと思っていた。
 
そしてナオコは遠い外国にいる古い友人のことを思いだしていた。
そういえばキョウコにもシンジ君と同じくらいの子供がいたっけ・・・確かアスカちゃんだったかしら。
ナオコは彼女のことを思いだしていたがすぐにそれをやめた。
 
「やめやめ、今更キョウコの事を思い出すなんて。全く、私らしくない。」
 
ナオコとキョウコ、そしてユイ三人は大学時代の友人であったが訳あって3年前から連絡を取り合っていなかった。
それはセカンドインパクトのおきる前だった。キョウコは二人にある誘いをかけたがユイもナオコもその申し出を断り。そして、それっきりケンカ別れをしていた。
 
それ以後ユイの誘いを受けたナオコはゲヒルンに勤務することになる。
最初は娘のリツコも連れてくるつもりだったが、リツコがそれをいやがった為実家の母の元に預けてきていた。
リツコはナオコが大学院にいた時つき合っていた男性との間に出来た子供である。
その後、実家に戻ることになった男性に付いていくことが出来ず、分かれてしまった。しかし分かれてからリツコを身ごもっていた事に気が付いたが、分かれた男性の忘れ形見のつもりで産み育てていたが、研究に明け暮れるナオコになつかず結局自分の実家に預けてしまった。
そしてそれっきりである。年に数回会ってはいるが未だに親子の溝は深いままだった。
 
「リツコならシンジ君にも良い遊び相手になってくれると思うんだけど、あの子達このままじゃあ私みたいになっちゃうわね。
リツコ、シンジ君、私みたいになっちゃだめよ。」
 
ナオコはあらためてリツコを呼び寄せることに決めた。今のままではいけないと思わせる何かがシンジにもあったからだ。
 
 
そんなことも知らず両親と一緒に家に帰るシンジだった。
 
『思ったよりも良いところだったな。これなら作業もはかどるし良い勉強にもなる。』
 
シンジは今後の計画がうまく進みそうだと思っていた。
だがそこでは意外な形の出会いが待っていた。
 
シンジが研究室に通うようになってから3ヶ月が過ぎていた。
今では周りの職員達以上に仕事をこなせるようになってきたが、いかんせんまだ3歳にもなっていないので机やイスに届かない。それでもシンジの一生懸命な姿に他の職員達も何かと手を貸してくれていた。
最初のうちは職員達も混乱していた。ある物は自分の能力に疑問を抱いたり、ひどければ退職を願い出てきた物までいた。ナオコはそういった人たちに「しばらくシンジ君の様子を見てみなさい。」といって説得した。
彼らもしばらくするとナオコの言った意味が何となく分かった。
シンジは文字通り一生懸命だった。同じ年代の子供達がまだ親に甘えているはずなのに両親達に混じって仕事をしている姿はある種かわいそうであった。
職員達もそういったシンジに最初は同情していたがシンジはそういった職員達にも気を配っていた。研究室に花を持ってきたり、笑顔を絶やさなかったり、ユイと一緒にお弁当を作ってきたりととても2歳の子供の配慮とは思えなかった。
そうしているうちに殆どの者が「自分達があの子に心配をかけているようでは情けない」といった思いを抱いていた。今では「あの子に負けないぐらいがんばらねば」という思いになっていた。ナオコの思いは通じていた。
そして女性職員達の間ではそのかわいらしさから人気者になっていた。
このころのシンジは未来の頃の容姿が現れだし、ぱっと見にはかわいらしい少女にしか見えなかった。
 
 
そんなある日ナオコの元に面会者が来ていた。リツコだった。
リツコは母からぜひ会わせたい人がいると言われ渋々やってきたのである。
最初は断るつもりであったが、ちょうど夏休みに入り友人達が家族と共に出かけているのを見て寂しさを紛らわそうとして来ていた。
最初シンジに引き合わされたときには、母が自分の知らない間に弟を生んだのかと勘違いしたが、すぐ後にユイもリツコに会いに来たため誤解は解けたがユイもナオコもずっと笑っていた。
 
リツコはこの場から逃げたかった、そんなリツコを連れだしたのは以外にもシンジだった。
 
「お姉ちゃん、一緒にケーキを食べに行こう。」
「え?ちょ、ちょっとまって。」
「シンジ君、リツコをよろしくね」「シンちゃん、リツコちゃんと仲良くね。」
 
母とユイからそんな無責任な台詞が飛んできた。よりにもよってこの小さな子が私の面倒を見る、冗談にも程があると思ったが。その思いはすぐに消えてしまった。
 
「改めてこんにちは赤木リツコさん」
「え!」
 
リツコは驚いたほんの子供と思っていたシンジが立派に挨拶をしてきたのだった。
驚いて返事を返すのが遅れた。
 
「ごめんなさい、無理矢理引っ張ってきてしまって。」
 
またもや驚いたとても2歳やそこらの子供の話す言葉とは思えなかった。
 
「でも、リツコさんあの場にいるのが辛そうだったから。ごめんなさい僕のせいであんな勘違いをさせてしまって。」
「いっいいのよっ、私が早とちりしたのが悪かったんだから。でも僕、シンジ君だっけ君一体何処でそんな言葉を覚えたの?まさかユイさん?」
 
リツコは考えた、シンジがこれほど達者に言葉をしゃべれたのはやはり天才と呼ばれたユイからの英才教育のたまものかと。しかし、シンジは否定した。
 
「いいえ、ぼくには生まれた直後から記憶があるんです。それにその時しゃべっていた言葉もなぜか理解できたんです。それについては母さん達が色々調べてましたけど結局解りませんでしたけど。」
 
リツコは頭を思いっきり殴られたような気分だった。生まれた直後から記憶のある人間は時おりいる、しかしその言葉を誰に習う出もなく理解していたとなるともはやある種の特殊能力である。
急に目の前のシンジがただの子供から立派な科学者に見えてきた。
そんなリツコの視線に気が付き。シンジは少し寂しそうに言った。
 
「でも、一応まだ子供ですから。」
 
リツコは自分がとんでもなく失礼なことをしているのに気が付いて、さっき以上に落ち込んでいた。
 
「良いですよ、気にしていませんから。それよりこの先の喫茶店に行きませんかケーキがとっても美味しいんですよ。」
 
そういってシンジにつれられ喫茶店に行くことになった。
リツコはそこで母の研究内容、そしてシンジが母の手伝いをしていることを聞き愕然とした。
母が自分をおいてまで研究していた物の正体よりも目の前の子供が高校生の私よりも遙かに高度な研究をしてるということの方が驚きであった。
そしてシンジの口からナオコがリツコにも参加してもらいたいと思っていることなどを告げられさらに混乱していた。
結局答えは出せずにそのまま二人でおやつを楽しみ研究所へと戻っていった。
 
その夜、リツコはナオコの部屋で親子二人っきりで過ごした。
そしてリツコはシンジのことを聞いた。そして母のこと、研究のこと、父のこと、全てを聞いた、そして最後にナオコから告げられた。
 
「リッちゃん、私の役目はねマギを完成させることなの。」
「えっ!」
「私はマギが完成したら引退するつもりなの、いまの所ユイ達にも言ってないけどシンジ君は気が付いてるみたいね。」
 
ナオコは初めて自分の決意を人に語った。
 
「何で、母さんが作った物でしょその面倒を母さんが見ないで誰が見るのよ。」
「あなたよ。」
「そんなできっこない。私はシンジ君みたいな天才じゃないもの。」
「大丈夫よ、あなたは私の娘なんだもの。それにシンジ君も何時までも私につき合ってくれるか分からないもの。」
「どういうこと?シンジ君が別の所に行くの?」
「違うわ、なぜか解らないけどあの子は何時までもここにはいない。ううん、いられなくなる。そんな気がするの。」
「なんだ、そんなの母さんの気のせいよ。まさか迷信を信じない母さんがそんなことを言うなんて。」
 
リツコは母の弱気な姿に驚きつつも軽く受け流し元気づけるつもりだったが、母からはとんでもないことが語られた。
 
「私が迷信や勘を信じなくなったのはね、当たりすぎるからなの。」
「ま、まさか」
「本当よ、それが確信に変わったのはあなたが生まれたとき、そして信じなくなったのはあの人が死んだとき。」
「あ、あのひとって。まさか、おとうさん?」
「ええ、そうよ。あなたのお父さんよ。」
「う、嘘、嘘よ」
 
リツコは取り乱していた。今日は自分の理解を超えることばかりが続きさすがにまいっていたようである。
そんなリツコをナオコは抱きしめてこういった。
 
「あなたが生まれてくるときは何となくだけどこの子は女の子だって思ったの。」
「そうなの?」
「ええ、そしたら本当に女の子だったの病院の先生も驚いてたわ。先生に調べてもらう前に言い当てたから。それに生まれてくる日も何となくだけど解ってたの。」
「別に珍しい事じゃないんじゃない?」
「ううん、実はその時なにか嫌な予感がして少し早めに病院へ行ってたの、そしたら急に産気づいてあなたが生まれてきたのよ。」
「そうだったの、でもそれってやっぱり母親の本能ってやつじゃないの?」
 
リツコはやはり理詰めで考えていた。
だがナオコからはさらにそれを否定する言葉が続けられた。
 
「でもね、言ったでしょうそれは確信だって。それから私の嫌な予感は良く当たったわ。特に人の不幸に絡んで。」
「かあさん」
「うちの副所長の冬月先生を覚えてる?」
「うん、前にお年玉をもらったもの」
「あの方の娘さんが亡くなった時もそうなの、セカンドインパクトの時シェルターだから大丈夫っていってたのになぜか嫌な予感がしてたの。それで冬月先生にもう一度確認を取ってもらったらやっぱりシェルターにいるから大丈夫だって言われたの。でもね、そしたらパニックを起こした人混みに巻き込まれて亡くなったそうよ。あり得ないはずなのにおきてしまったの。」
「か、かあさん、偶然よ。」
 
母の顔色は悪くなっていた。まるで自分の罪を攻めているかのように。
 
「そう偶然、で片づけていたの、でもあのときは後悔したわ。いいえ、いまでも後悔している。あの時すぐにでもあなたを連れてあの人の所へ行っていれば、あなたをお父さんに会わせてあげれたのに。私はただの予感で片づけてしまってそのせいでリッちゃん、あなたをお父さんに・・・・」
「もういい、やめて、もういい、もう良いのよ、お母さん、もういい」
「ごめんね、ごめんね、私がもっと早く気が付いてれば・・・・」
「いいの、お父さんに会えなかったのは寂しいけど、でも、でもね私にはお母さんがいるの。」
 
何時しかナオコもリツコも泣いていた。
そして二人とも涙を流した分だけお互いに素直になっていた。
 
10年以上かけて作ってしまったミゾがようやく埋まっていた。
 
「お母さん、私、高校を出たらお母さんの所で働きたいの」
「リッちゃん。」
「まだなんの役にも立たないと思うけど、お願い私にも何かやらせて。」
「ありがとう、ありがとうリッちゃん。」
 
その夜、二人は夜遅くまで語り合っていた。
 
翌日、リツコがここで働きたい棟をゲンドウと冬月に報告に行った。
そこにはユイとシンジの姿もあった。
 
そしてゲンドウらは快く了承しシンジからは夏休みの間バイトをしていったらどうかという提案まで出た。リツコはナオコと一緒にいたかったためこのバイトを引き受けナオコとシンジの所で働くことになる。
 
その後リツコは学校に戻ったがまた冬休みにやってきた。そして卒業後すぐゲヒルンの研究員として就職しようとしたが。
ユイやナオコ、シンジのすすめもあって仕事をしながら通信制の大学へ通うことになった、リツコはとても忙しいがとても充実した毎日を送っていた。
 
 
 
 
あとがき
 
いやー今回はホームドラマになっちゃいましたね。おまけにシンジ達の出番は極端に少ないし、話は全然進んでないし台詞なんか殆どリツコとナオコの二人ばっかり。
まあ、シンジも今回はおとなしかったし
前回のあとがきで描いたようにリツコはハッピーエンド確定なのでまずはその前祝いに親子の和解をさせてもらいました。リツコの父親に関してはどっかで似たような設定を見たような気がしますが、直接的なイメージは「ブレンパワード」です。
それとナオコにもこっそりと特殊能力を持たせてあります。これが無いと話の都合上死んでしまう可能性が出てきたのでそのための保険です。
 
 
今回は話の方が大分長引いたのであとがきは短めにさせてもらいます。
その代わり予告のコーナーをつくっときましたので見てやってください。
 
次回予告
 
「結局、エヴァの起動実験は無くならないのか、みすみす母さんを危険に晒すわけにはいかないな。結局僕がやるしかないのか。」
 
それでも亡霊達の暗躍を止められない。
 
「父さん!母さんが起動実験をやっているって本当なの?」
「馬鹿な!私は中止命令を出したぞ!」
「でも、母さんがいないんだ!地下実験場の方にもなんか変な動きがあるみたいなんだ。」
「なんだと!」
 
急ぎ地下へと向かう二人、しかしそこには・・・・
 
 
と、まあこんな感じですが次回のタイトルは100%暗躍にしようと思います。
というわけでついにゼーレが動き出します。
それではまた次回をお楽しみに。