騎士と妖精と熾天使の幻像
第1章 第4話.発覚
突然現れた冬月とナオコにさすがのゲンドウも驚いている。ユイに至ってはシンジをかばい怯えていた。
「碇、ユイ君、何をやっているんだ!」「ゲンドウさん、ユイどういうつもりなの、自分達が何をやっているのか解っているの!」
冬月とナオコは二人を問いつめた、だが二人とも沈黙したままだった。
さすがに冬月が外部と連絡しようとした途端ゲンドウはそれを止めようとした。
そんな4人の様子を見て一番困っていたのはシンジだった。
『何で冬月さんやナオコさんがここに?父さん達きちんと確認してなかったんだ。まったく。』
相変わらず肝心な所で詰めの甘い両親に少し呆れつつ、かばってくれている事に喜んでいた。だがこのままではまずかったのでシンジは予定とは違う行動に出ざるをえなかった。
シンジは寝たふりをやめ、ようやく目が覚めたといった雰囲気でこう言った。
「おはようございます。冬月のおじさん、ナオコおばさん」
と、はっきりとした口調で答えたのだった。
その瞬間、4人の表情は凍り付いた。信じられない物を見た4人はしばらく何もいえなかった。しかしそんな大人達をよそにシンジはさらに続けた。
「あれ、まだ夜なの?それじゃあ”こんばんわ”だね。」
4人の内一番早く落ち着いたのはユイであった。
「シンジ、今なんて言ったの?お母さんの言ってる事解る?」
「うん!だって夜なのにおはようございますじゃ変でしょ?」
ユイは信じられ無いながらも喜んでいた。またゲンドウもシンジのはっきりとした物言いに驚いてはいたものの喜んでいた。
そうしている間も冬月とナオコは信じられないものを見たといった感じで凍り付いていた。
その騒ぎを無視するようにプリンターから検査結果が印字された。
それに気がついたナオコが真っ先にその用紙に目を走らせる。やがてユイやゲンドウ・冬月もそれに目を通す。
その結果とは・・・・
DNA鑑定結果は問題無くゲンドウとユイの子供であると出た、精神鑑定も精神汚染の可能性無し、ウイルスの感染や遺伝子病の可能性も無し、ただシンジの体は既に運動選手以上の反射神経・動体視力を持っていて。その上、知能指数は天才と呼ばれたナオコやユイを上回っていた。
ゲンドウとユイはほっとしていた。二人はシンジが精神汚染や遺伝子に異常を持っていないと解っただけで十分だった。
例え、人並み外れた運動神経や知能を持っていても我が子が無事である事が何よりもうれしかった。
だが、冬月とナオコはそうではなかった。わずか2歳にして運動選手以上の運動神経を持ちユイ以上の知能、にわかには信じられなかった。最初ナオコはユイが自分の子供に何かしていたのではないかと疑ったほどである。
実はシンジは既に細工をしていた。検査のため取られた神や皮膚・採血といったサンプルの遺伝子は変化させた物であり、本来の碇シンジとなるはずだった物になっている。いくらユイ達とはいえそれを見破れなかった。
運動神経にしても騎士の反射神経を見破られるわけにはいかず、手を抜いていた。知能指数にしても同じである。
そんな事も知らずゲンドウ達夫婦は我が子の無事を喜び、冬月達は突然現れた天才の存在に驚いていた。
そしてシンジのこれからの事を相談する事にした。もちろんシンジ本人も参加した。
「碇、ユイ君、なぜ今まで黙っていた。」「そうよユイ、せめて一言ぐらい相談してくれても良かったんじゃないの」
まずは冬月達がゲンドウ達を攻めた。もちろんただの愚痴だった。
ゲンドウ達が口に出来なかったであろう事は理解できる。誰だって我が子をモルモットなどにされたくはない。
「すまない、二人とも」「心配をかけてすいませんでした」
ゲンドウとユイはおとなしく二人に謝った。二人が怒っていない事は解っていた、それでも黙っていた事に対して信用されていないと思われたくなかった。
「まあ、さすがにこればかりは他の人間に相談は出来ない事だからな。」
「そうね、わたしもリツコがもしそうだったらきっと黙っていたでしょうね。でも二人ともシンジ君がおかしいっていつ気がついたの?」
ナオコの質問は冬月も聞きたいものだった
「前々から感じてたのだけど、2・3ヶ月前からは特に気になっていたの。シンジが私達の会話を聞いてそれを理解しているんじゃないかって。ねえシンジ、あなたはお母さん達のお話解る?」
「うん、」
「やっぱり」
「いつ頃からだシンジ」
シンジの発言に黙っていたゲンドウが質問した。
「ずっと前から、良く覚えていないけど最初に聞いた言葉はたしか、目が見えないのに声が聞こえて女の人の声でおめでとうって言ってたと思う、それからお母さんが目の前にいたの・・・」
確かにこれはシンジにとってこの世界で最初の記憶であった。
だがこれを聞いた大人達の反応はすさまじかった。
まさか、そこまで意識があったとは。おまけにそれを理解していようとは大人達には信じられなかった。
特にユイの驚きはすごかった。なぜなら、それは出産の時の記憶と何ら食い違いはなかった。あのときシンジは最初に自分を見た、それは間違いなく自分以外誰も知らないはずだった。
そしてユイは何も言わずシンジを抱きしめた。ゲンドウもそんな二人を穏やかな目で見ていた。
シンジはしばらく大人達が落ち着くのを待った。それほどまでに狼狽・驚愕していた。
そして冬月からの提案が出された「シンジを研究所につれてきてみてはどうか」と
ゲンドウもユイも最初は冬月の本心を疑ったが、それがシンジを守るためとわかりシンジ本人に承諾を得る事にした。
「うん、いいよ、お父さん達の所に行くよ。」
シンジは迷うことなく答えた。
シンジにとってこれは予定外だったが、これは正に渡りに舟の申し出だった。
『これならば初号機の起動実験に介入する事が出来る。』
内心で喝采をあげていたシンジをよそに大人達はこの天才にどんな教育を施そうかと悩んでいた。
ゲンドウと冬月はゼーレにシンジの存在が知られる事を気にして、その隠蔽工作の詳細を詰めていた。
ユイとナオコはまず、シンジがどういった事をしたいのか聞いてそれから決めようと言ってお互い納得した。
そうこうしている内に既に深夜を過ぎていることに気がついた。
この場はこれで解散し、翌日に研究所でもう一度詳しく話し合おうと言う事で決着した。
そして全員で片づけをし検査の痕跡を消した5人はそれぞれの家路についた。
ゲンドウ達親子も帰る途中はさすがに静かであった。それはシンジが眠っていたからだった。そしてそのシンジはゲンドウに背負われていた。
本来シンジはそれほど睡眠を必要とはしていなかったが、子供のふりをしている内に定期的な睡眠が週間になっていた。
そんなシンジの事情を知らず、ゲンドウとユイは先ほどまでの大人びたシンジとは違った、子供らしい行動がとてもほほえましかった。
どんなに優れた能力を持っていても、二人にとっては可愛い我が子であった。
その夜はとてもきれいな満月が三人を照らしていた。
翌日、シンジはゲンドウとユイに連れられゲヒルン所長室にやってきていた。
そこには既に冬月とナオコの姿があった。
所長室はしばらく立入禁止となり、その中で極秘の相談となった。
結局の所、ゲンドウと冬月はシンジのことを隠し通すのは不可能と判断して、逆に天才少年として世に出してしまおうとしていた。
シンジとしてはあまり世間の関心を集めたくはなかった。なぜなら、何時かはみんなの元を離れて綾と二人だけで生きていかなければならなくなる事を知っていたからである。
二人は人ではない、片方は神、もう片方は神々の作り出した神といえる存在。
二人と同種の存在はこの世界にはいない。例え使徒であっても今の二人とは釣り合わない。
いかに使徒が圧倒的な力を持っていても永遠の存在ではないからである。
シンジがそんなこと心の中で考えているうちにユイとナオコはある程度のプランを組み立てていた。
それは、ナオコの研究スーパーコンピュータ”マギ”の建造に関する手伝いだった。
これは昨日の検査の結果シンジは知能指数が高いだけでなく、大学生レベルの知識も持っていることが解ったからである
本来なら大学院レベルの知識があってもナオコの研究には付いていける物ではなかったが、ナオコにはなぜかシンジこそがこのシステムには必要な存在と確信していた。
ユイにしてみればコンピュータに携わることが出来れば間接的に自分の研究にも参加できることから。このことにはユイも賛成しシンジも了承した。
実のところシンジにとってこの提案は渡りに船だった。情報を欲していたシンジにとってコンピュータは喉から手が出るほど欲しかった。この2年間はひたすらゲンドウとユイの目を盗んで新聞やテレビを見たり、二人の会話を盗み聞きしたりと世間の情報を得るだけでも一苦労だったからである。
それにシンジにはもう一つの思惑があった。それはいざというときにマギを支配できるための仕掛けをしておく必要があった。
それはいつか来る戦時・ゼーレとの、もしかしたらNERVとの戦いに必要になってくるからである。
いずれ世界中に配備される、マギシリーズの中に自分専用のコントロールコマンドを仕込んでおくつもりだった。それは全体の一部として組み込まれ分離不可能かつ誰にも発見される恐れのない物でなければならない。そしてそれを量産するようにし向けなければならない。
シンジとユイ達の話は終わったがゲンドウ達の方はまだ難航していた。
なぜならシンジが自分が有名になることを嫌ったからである。確かに何時までも隠しておけるわけではない。だが、わざわざこちらからばらす必要も無いと思ったからである。
結局はシンジに行動の自由を与えようとすると、最低限の人間には知られてしまう事になるとの冬月が説得にシンジがおれ所内の一部の人間にだけシンジのことを公表すると言うことになった。もっともシンジも時間稼ぎと割り切っていた。
そして、その日のうち所内の主立った上級所員にシンジを会わせた。
最初のうち職員達は碇夫婦の冗談としか受け取っていなかったが、会話を重ねるうちにシンジの秘められた知性に気が付いていった。
殆どの職員達がシンジを自分達の所へと望んだ。だが、そのシンジの配属先がナオコのマギ開発の手伝いと聞いてさらに驚くことになる。
完全に極秘のユイの研究を除けばこの研究所で最大の最高の研究と呼べるマギ、そしてその開発にはナオコの選んだの一部の研究者達しか参加できなかった。
それだけにナオコがどれほどシンジの力を高く買っているかの証拠であった。
そして最後にゲンドウは無駄と知りつつも、このことは外部に秘密である旨を伝えた。
そしてその翌日からゲヒルンの研究員として極秘のうちに勤務していた。
もちろんユイもナオコも仕事をさせようとは思っていなかった。しかしシンジは半日ほどでこつをつかみ午後からは職員達と同じように仕事をこなしていった。そして仕事を終えたゲンドウとユイに連れられて帰っていく。周りの職員達は呆気にとられていた、たった2歳の子供が半日で自分達と同じように仕事をこなす様を見て呆然としていた。
ただ一人それを感心しながらも何時も通りに仕事をこなしていたのはナオコであった。
『やはりシンジ君はすごい才能を持っていたようね。これならリツコを呼んでシンジ君と一緒にここに来させるのも良いかもしれないわね。もっともあの子がおとなしく来てくれたらだけど。』
ナオコはここにいない娘のこと思っていた。
最近シンジはよく夢を見ていた。
それは、大きな川が流れていて。自分がの触れた途端それはさざ波立ち小さな波をいくつも起こし、やがて大きな波が起こり流れを変えてしまうという漠然とした物だった。
そしてこの夢を見ていたのはシンジ一人ではなかった。
カプセルの中で眠る少女もまた同じ夢を見ていた。
神であるシンジ達の見るこの夢、何らかの啓示だったのかそれとも只の夢だったのか、今のシンジにはそれを確認する事は出来なかった。
しかし夢の通りこの世界は大きく動き出していた。
それはあるべき姿に戻そうとする時間・世界の意志なのか、それとも只の偶然なのか今のところ誰にも解らない。
しかし、この夢の様に日本で起きたこの小さなさざ波は、海を越え遠い所で大きな波となりつつあった。
このことは後のシンジに永遠に癒えない心の傷となって残る事になる。
だが、今のシンジはまだ何も知らなかった。
あとがき
通算第10話となるこのシリーズ今回でやっとラストに向けての大まかな構成ができあがりました。
それは今回のラストで書かれている事が大きく関係しています。
結果としてはシンジは自分の誓いが守れません、でもそれは仕方がない事でしたこの世に完璧な存在があり得ない以上、誰もシンジの行動は攻められません。
既にシンジは重大な一歩を踏み出してしまいました。
まあ、堅い話はここまでにしておきます。それにあんまりしゃべりすぎるとネタバレにもなりかねないので。
それでは前回言ってあった二人ですがなんと6ゾロというとんでもない結果でした。
それぞれ修正値は−1でしたが、それでも5です。
結局、一部の方達からは非難を受ける事を覚悟でこの数値で通す事にしました。
ちなみに今回のラストで名前の出てきた彼女は−1でサイコロが2でした。
そんなわけで文句無くハッピーエンドにさせてもらいます。
それと1章でサイコロを振る人間ですが8人と言っていましたが、今のところ公表している4人と公表していない3人の計7人ですが。どうやらあと1・2人増えそうな雰囲気になってきました。
ちなみにキール・ゼーレの爺どもに関しては序章の段階で言ってた様に問答無用で+6にしていますので確実にバッドエンドに追い込んで見せます。それだけは安心してください
さて、後3〜5話の内にシンジの方もお休みになってしいます。
そしてその後再登場したときが第3章の開始になると思います。
そしていよいよ対使徒編に突入します。
それではまた次回お会いしましょう。