騎士と妖精と熾天使の幻像
 
第1章 第2話.計画
 
 
シンジが誕生してから既に2年がたつ。
マキシマムから言われたことを守り、今のところは普通の子供として暮らしてきたシンジであったが心の中では焦っていた。
『もう2年もたってしまった、このままじゃまた母さんが取り込まれることになってしまう。』
 
そう、シンジの焦りと悩みの種は2年後に控えた初号機の軌道実験に関することであった。只の子供として周りの人間に悟られないように生きてきたこの2年間はもどかしい限りで、幾度となく周り人間に自分の正体を告げようかと思った。
その誘惑に耐えつつシンジは2年間ある一つの計画を立てていた。
それは対人類補完計画と呼べる物だった。シンジの中には過去の世界の知識があった。
それにより補完計画は恐ろしく複雑な代物で多少のことでは破綻させられそうになかった。
 
被害などを考えずに計画を潰すだけなら、シンジと綾それにセラフ・ミラージュの力を使えば難しくない。
方法はゼーレ本部を強襲し、続いて世界中にあるエヴァシリーズを全て破壊すれば良いだけである
その後はアダムを奪い人のいないところで使徒を迎撃し続ければ良いだけである。
だが、その方法には山のように問題があった。
 
まず第1にシンジ達の存在を世間にさらすことであった。
これは師にも止められていたが、そんなことをしてしまえば次は自分たちが化け物と呼ばれ人類と戦うことになりかねない。それこそ本末転倒である、だからこそ自分達の力は極力隠しておかなければならない。
 
第2に綾を悲しませたくないからである。
綾は優れた戦闘能力と戦略・戦術理論・観察力・判断力等全てにおいて最高の資質を持っているが、本来は心の優しい女の子に過ぎない。
彼女は戦うにはやさしすぎる。マインドコントロールの施されていない綾はシンジへの思いがなければきっと戦えなかっただろう。
そしてシンジは傷つくことも厭わないが、シンジが傷つく事により綾が悲しむ。それは出来ることなら避けたかった。
 
第3にそうやって強攻策を使うことによって第二第三の補完計画を誰かが企むかもしれない。そんなことになってしまったら自分達の苦労は水の泡になってしまう。
 
その為にもこれから色々な所に根回しをしておき人々の意識改革をさせねければならない。
そして、二度とこんな愚考を犯さない為にも、人類全体にも何らかの情報公開が必要になってくるだろう。その時の為の情報や方法などシンジには考えなければならないことは山ほどあった。
 
シンジは昼寝のふりをしながらそれらのことを考えていた。
だが、シンジの思いをよそに既に歴史は動いていた。
 
「あなた、最近思うのだけれど・・・」
 
碇ユイは夫ゲンドウに問いかけた。
二歳になる息子シンジのことで気になることがあった。
 
「どうした、ユイ」
「シンジの事なんだけど、ひょっとしてあの子私達の話していることを理解しているんじゃないのかしら。」
「何かおかしな事でもあるのか。シンジはもう二歳だ、私達の言葉に反応してもおかしくあるまい。」
「違うの、反応なんてレベルじゃないと思うの。まるで、私達の会話の内容までも理解しているみたいなの。」
「なんだと、それではあの子には私たちの会話の内容を理解できるほどの知性があるというのか?」
 
ゲンドウは驚いた。いくら天才と呼ばれた妻の血を引いているとはいえ、わずか二歳の子供に大人の会話の内容が理解できるとも思えない。
しかし、ユイも母親になったとはいえ科学者だ観察力は十分にある。
その妻が気がついたと言うことは気のせいではないかもしれない 。
 
「うむ、それは確かに気になるな。」
「ええ、まさかとは思うけど研究所での実験が何か影響しているのかしら・・・」
「それこそ、ありえん。いや絶対にない!」
 
ゲンドウは語気を荒げてまで否定した。
ゲヒルンでの実験それは公には出来ない物ばかりだ。おまけにゲンドウとユイの関わっている物はその中でも特に極秘とされる物だ。
もし、万が一にもその研究が原因だとすると妻と子は最悪サンプルもしくはモルモットとして連れて行かれてしまう。
いかに所長とはいえ、そうなってしまったらゲンドウでも助けることは出来無い。
妻と子を失う事をおそれたゲンドウには否定するしかなかった。
 
実はこの時代のゲンドウはユイだけでなくシンジにも愛情をそそいでいた。
自分の血を引いていながらも妻の特徴を色濃く表すシンジに、ゲンドウはユイがもう一人いるようだと知人に漏らしていた。
そしてシンジが生まれてからのユイは今まで以上に魅力的になっていた、とゲンドウは思っていた。
そんなこともありゲンドウはユイもシンジも失うつもりはなかった。
 
「だいじょうぶだ。きっと天才と呼ばれた君の血を引いているのだろう。問題ない。」
「でも・・」
「シンジは男なのに私よりも君にそっくりだ、ひょっとすると君以上の天才になるかもしれないぞ。そういえばこの前の冬月にもそんなことを言われたよ。」
「そうなの?」
「ああ、だから問題ない」
 
これは事実であるが、しかし内容が少し違う。ゲンドウは冬月とナオコの三人でいる時に「シンジ君はユイ君似だな、君に似なくて良かったな。」と冬月にからかわれたのである。
よせばいいのにナオコまでからかったためその一日ゲンドウの機嫌が悪かった。
自分のことを笑われた以上にシンジのことを笑われたような気になり不機嫌になった。
もっとも翌日の冬月の弁解によって何とか機嫌を直したが、その日八つ当たりを食らった職員はたまった物ではない。
だが、ユイは未だ心配そうにしていた。そのことを察したゲンドウは悩みながらも一つの提案をした。
 
「ユイ、君がそんなに心配するならみんなには内緒で研究室で検査をしてみよう。」
「え、あなた?」
「大丈夫だ、シンジにはきっと何も問題はない。来月にでも所員全員に休みを出して研究所を空にする」
「ありがとうあなた、来月の第3週なら急ぎの用事もないから金曜日から三連休と言うことにすればみんな早く帰ると思うわ。私の方は一人で泊まり込みの研究をするとでも言って研究室に残るわ。」
「ああ、差し入れに行くふりでもしてシンジを連れて行こう。」
「ごめんなさい」
「気にするな、私の方でも他の研究者が残らないように手を回しておこう。」
 
シンジとユイのこととなると見境のないゲンドウのやり過ぎとも思える行動だが、ユイにはそこまで気にかけてくれているゲンドウに感謝していた。
 
 
実はゲンドウとユイのこの会話はシンジに聞こえていた。
二人とも寝室にいるシンジに配慮してか食堂で話していたが人よりも優れた感覚を持つシンジにはしっかりと聞こえていた。そしてシンジは自分の立てていた計画が早速変更しなければならなくなった事を悟った。
 
『まずいな、まさか母さんに気づかれるとはな。このままじゃあプランAは無理だな、おまけに時間もないからCやDも間に合いそうもないな、となるとBかEしか残らないな。まさかこんなに早く予定を変更しなきゃならないなんて・・・』
 
シンジは困り果てていた、日頃からの子供の振りのおかげでばれていないと思っていたがどうやら感づかれたようだ。
それ自体はまだ何とでもごまかせたが研究所での検査はまずい、遺伝子検査等のごまかしは何とか出来るが精神鑑定等をされたら何処でぼろを出すかわからないからである。
 
シンジは急いでプランを練り直していた。
プランB:ある程度の知性を見せて天才として周囲に認知させ、それにより研究所に出入りできるようにする。
プランE:こちらは夢を見たと言う形で未来の知識の断片を公開し、父と母の協力を得る。
 
今のところ選べる選択肢の中で有力なのはこの二つだった。
ちなみに実行不可能なACDの内容は
A:このままユイが取り込まれるまでほおっておく。そしてゲンドウに拒絶されそれから単独行動に行く
C:誘拐を装い行方不明になる。そしてほとぼりが冷めた頃に姿を現す。
D:通り魔などによって殺されたように見せかけ、自分の存在を消し他人になりすます。
といった物だった。確かにAは疑われた段階で没、BCの準備に時間がないので没、となった。
 
『さてどうすればいいのやら。まあいいまだ少し時間がある、今のうちにもう少し計画を煮詰めておくか。』
 
こんな事では諦めないシンジであったが
 
『しかし、これじゃあ何時になったら綾に会いに行けるのかな。はぁ〜〜まったく。』
 
どうやら別のことに悩んでいたようだ
そんなことをしつつもシンジの頭の中で計画は組み直されていく。そして二つの案の中間をとることにした。
 
『よし、後は土曜日になるのを待つしかない。さてうまくいくかな?』
 
両親の心配とは裏腹にとんでもないことを考えているシンジであった。
そしてその日がやってきた。
 
 
 
 
 
 
 
あとかき
 
ほんぺんしりーず、げひるんへんがほんかくてきにはじまりました。
 
上のは誤字ではありません。そんな気分なのです。
少し気が抜けてます。
 
は〜〜〜〜、ふぅ〜〜〜〜、親バカですね二人とも(笑)
以前言ってた様にこの二人には例のサイコロ振りました。そしたらなんとゲンドウ・ユイ共に+2のペナルティーを与えていたのになんと二人とも1でした。結果二人とも1+2=3ノーマルエンドと言ったところになりました。
ひっじょ〜〜〜〜に不本意です。正直ゲンドウは意表をついて普通の最後を迎えさせても良いのですが、ユイに関しては他の作品の感想でも書きましたがバッドをねらってただけにまさかこんな結果に終わろうとは・・・
仕方がないから少し変更を加えて親バカ気味にしてみました。そしたらなんとゲンドウが親バカ暴走気味、うーんストーリー全体に影響がないと良いんだけど。
 
そんなわけで第1章が本格的に始まりました。これから序章と同じぐらいの長さになりますがシンジの歴史改変の基礎が始まります。
綾の方は後半戦になるまで出てこられません。彼女は第1章では殆ど白雪姫状態で出番があまりありません。
綾のことを気に入ってくれた方には申し訳有りませんが2章まで待ってください。そっちではシンジ以上に活躍できる場面を沢山作っています。
 
次ではさらに二人サイコロを振ることになっています。もちろんあの二人です。
どうやら第1章ではサイコロを振ることになりそうなのは8人になりそうです。
今のとこ既に二人、残り後6人が誰になるかなまだ完璧には決まっていません。
 
それではまた続きを楽しみにしていてください。