騎士と妖精と熾天使の幻像
 
第1章 第15話.協力
 
 
 
 
本部では赤木ナオコ博士の葬儀が行われていた。
 
 
ゲンドウはリツコの代わりに参列者達に挨拶をしていた。
喪主は娘のリツコであっても参列している関係者の顔など見たことが無い為である。
少なくともゲンドウの頭の中では参列者の顔と名前と肩書きが一致していた。
その中に自衛官に手を引かれてやってくる老人の姿があった。
 
『あれはまさか、西田 啓、なぜ彼がここに?』
「碇所長ですね、西田と言います。どうもこのたびは・・・・」
「いえ、こちらこそわざわざお越し頂き・・・・」
 
ゲンドウは内心の動揺を隠しながらも挨拶を続けていく。
西田 啓、盲目のその老人は自衛隊だけでなく政府や企業にも大きな影響力を持った人物であった。
特に派閥や組織といったものに所属せず、自分の信念によって行動している人物であったがその人柄の高潔さから共感する者が多く、
現在の自衛官達の中には戦自を抜けてまで彼の思想に付いてきた者も少なくない。
また、そう言った者達のために現在の自衛隊を復活させるように政府に訴えかけ、現自衛隊の生みの親とも言える存在であった。
 
 
この時代、セカンドインパクトの混乱を乗り切った戦自の勢力はとても大きく、対照的に自衛隊は規模や予算を縮小され解体寸前であった。
国連軍への吸収も噂されていたが戦自の戦力増大をおそれたアメリカや日本政府の思惑の結果存続はしていたが既に対抗できるレベルではなかった。
そればかりか戦自の方が逆に国連軍として治安維持に臨むことの方が多くなっていた。
しかし、そんな自衛隊も今では盛り返しを見せていた。
それは西田の存在が大きかった。西田の思想に共鳴する者達も数は少ないが自衛隊、政府、企業と幅広く、そして彼らも西田と同じく多くの者達から慕われていた。
 
その人物が目の前にいる、ゲンドウは警戒していた。
 
 
「碇さん、実は今回のことで少しお話ししたいことがあるのですが。葬儀の後少しお時間をいただけませんか?」
 
西田の手を引いてきた自衛官がそう言ってきた。
ゲンドウは不審に思った。今回の事件は戦自の単独であり自衛隊にはなんら関係はなかったはず。
それに、何故西田ほどの人物がこの席に来ているのかが解らない。
 
「解りました、葬儀の後で所長室の方に来ていただけますか?そこなら他から邪魔は入りませんので。」
「ありがとうごさいます。」「すみませんご迷惑を。」
「いえ、お気になさらず。すいませんそろそろ行かねばなりませんので。失礼します。」
碇はこの事を冬月に告げ、葬儀の後リツコやユイも同席させるよう手配させた。
そして葬儀は終わった。まだ多くの人々がその場に残りナオコの死を惜しんだ。
ゲンドウはリツコ、ユイ、冬月を連れて所長室にいた。そこへ西田氏の来訪が告げられた。
そして西田と付き添い自衛官が部屋に現れた。
 
「申し訳ありません。私たちのためにわざわざ時間をとっていただいて。」
「いえ、そんな事よりお話とは何でしょうか?」
「はい、今回の赤木博士の死に関してお聞きしたいのですが、博士は事故死ではないんですね。」
「それを何処でお聞きになったかは知りませんが、口外なさらないでくれませんか。」
「ええ、かまいません。実は話というのは戦自に関することなんですが、彼らの上層部がゼーレという名の秘密結社と結びついているのはご存じですか?」
 
ゲンドウ達は驚いた。まさかその名前を外部の人間から聞くことになろうとは。
 
「西田さん、どこからそんなお話を。」
「私は目が見えませんが声は聞こえます。」
「しかし、彼らのことをご存じとは・・・」
「私は以前からあのセカンドインパクトに疑問を持っていました。あまり都合の良すぎる証拠、しかし関係者は全滅。
不自然すぎたのです。おまけにセカンドインパクト後の国連の動きを見ればその後ろに何者かが潜んでいることは解りました。」
「そうですか・・・そこまでご存じでしたか。」
「ええ、日本やアメリカ政府も薄々感づいているようですが問題は戦自の方なのです。彼らの傲慢ぶりは以前から問題視してきましたがさすがに今回のことは放ってはおけません。
それに先日の事件も本来はこちらの研究を強奪して、それを手土産にゼーレ内での立場を高めようとした愚か者達の仕業、と我々は推測しています。
現に戦自の情報入手先はゼーレ幹部だと調べが付いています。」
「そんなことまで、あなたは一体何者なんですか?」
 
ユイは不思議だった。目の前の盲目の老人が知っている内容はおよそ関係者といえども知っていて良い内容では無かった。
そればかりかこの情報収集能力はゲヒルン以上のものだった。
 
「ユイ、こちらの西田さんは自衛隊の再結成にひとかたならぬ人力を尽くされた方だ。それに自衛隊だけでなく政府や企業からも助言を求められているいわば相談役の様な方なのだ。」
「そうだったんですか、申し遅れました碇ゲンドウの妻でユイと言います。ここでは技術一課を指揮しています。」
「ええ、良く存じています。碇 直純さんの御息女ですね、お父上からお噂はかねがね伺っておりますよ。」
「えっ、父をご存じなんですか?」
「ええ、昔からの知り合いですよ。あなたとも幼い頃に何度かお会いしましたよ。」
「え?・・・あっ、もしかして昔、父と一緒に碁を打っていたのでは?」
「良く覚えておいでだ。ええ、私ですよ。」
 
ユイは顔を真っ赤にしていた。小さい頃とてもお世話になっていた人の顔を見忘れているとは。
 
「それにユイさん、今日はお父様も参列されていたんですよ。」
「ええ、父がきてたんですか?」「!まずいな。」
 
ユイはゲンドウと一緒になるため半ば駆け落ちのような形で家を出ていた。それはゼーレと実家とのの関わりをさけるためでもあった。
そのためユイはゲンドウのことはおろかシンジのことも家には何も知らせていない。
 
 
「実は私の話というのは、ある提案を持ってきたのです。」
「提案、ですか。」
 
ゲンドウは警戒を強めた。しかしこれほどの情報収集能力を持ち各方面に強い影響力を持つ人物が自分にどんな提案を持ってくるのか興味はあった・
 
「ええ、私と言うより日本政府からなのですが、あなた達ゲヒルン本部のバックアップを申し出ているのです。」
「!なんですって、それは我々が国連の組織であり、ゼーレの一組織であること事を承知でいっておられるのですか。」
「もちろん、我々としてはあなた方ゲヒルン本部に対して協力であって、国連に対してのものではありませんし。ましてやゼーレにでもありません。どうでしょう?」
「一つだけお聞かせしてもらいたいのですが、あなた方はなぜ私たちを選んだのですか?」
 
ゲンドウは悩んでいた。
確かに現在のゼーレのやり方には疑問を持っていた。特にキョウコを送りこんできたり戦自を利用したりと、最近では手段を選ばなくなってきている。資金的なことからゼーレから離反することは出来ないでいるが今のままでは、何時また今回のようなことが起きるか解らない。
それに今回の一件ではナオコという犠牲を出してしまった。ゲンドウにとってこのことはゼーレからの離反を決意させるに十分だった。
だが問題は時期であった。
エヴァそのものにかかる費用は莫大であり、またこれから起こるであろう戦闘にかかる金額はそれこそ国家規模になってくる。
それほどの金額を調達するのはゲンドウ達といえ不可能だった。
だが、日本政府がバックアップに入ってくれれば資金的なことだけでなく人的にも問題が解決されることになる。
 
しかしこんな事をして日本政府にどんな特があるのだろう、それだけがゲンドウにも解らなかった。
 
「申し出は大変嬉しいのですが、そんな事をしてあなた方にどんな特があるというのですか?失礼ですが。善意と言う言葉で信用するにはいささか無理がありますので・・・」
「人類補完計画・・・・ご存じですかな?」
「なぜ!その事まで・・」
 
ゲンドウも今度はさすがに表情に出てしまった。その内容はゲヒルン内でも各支部長クラスですら知り得ることではなかった。
それこそエヴァ計画の中枢に携わるものでしか知らないはずであった。
 
「情報の入手策は教えられませんが、私の考えを言わせてもらいますかな。
人はそれぞれ何処かに欠けたところを持っているものなのです。それは人としてあたり前のことなのです。
しかし、彼らの行おうとしていることは間違っています。なぜなら、人はその欠けた場所を自らを鍛え、人に与え合って満たされる事が人として重要だと思うのです。
それを無理矢理融合させることにより補おうというのは、人のやるべき事ではありません。例え神にでも許される行為ではありません。
人はもっと強い生き物だと思います、なぜなら人は時に神を殺してまでも人の営みを守ってきました。
彼らが多くの人を踏み台にしてまで神になろうとするのなら、我々人間はたとえ神殺しの罪を背負おうとも人間であり続けるべきだと私は思うのです。」
 
西田の語る内容はあくまで彼自身の考えであったが、ゲンドウ達は共感できる事が多くあった。
初号機の起動実験の時のゲンドウや戦自襲撃時のナオコのように、人は時に自分の命すらも賭けて守ろうとするものがある
ゲンドウやユイ達には皆大切な人がいる、それは子供達であり友人達であった。
それを訳無く奪われようとすれば誰でも抵抗するはずである。
 
「なぜあなたはそこまで出来るのですか。」
 
ゲンドウはこの西田という老人にも自分達と同じように守るべきものがあると感じていた。
 
「私は人としての尊厳を持っていたいだけなのです、それを失ってまで生きていこうとは思いません。」
「人としての尊厳ですか・・・・・西田さん、我々としても表だって彼らから離反することは出来ません。ですが私には守らなければならないものがあります、それを守るためならどんな犠牲も惜しみません。
ですが今はその申し出を受けることは出来ませんが、近い内に必ずお力をお借りするときが来ますその時を待っていただけませんか。」
「解りました、あなたがそこまで仰るなら待ちましょう。それにすぐ答えが出るとは思っていませんでしたから今はお互いに時を待ちましょう。我々もその時のために準備しておきますよ。」
「すいません。」
「いえ、お気になさらず。私たちは何時までもお待ちしていますよ。我々はそろそろ失礼させてもらいます、少し長居をしてしまったようですね。」
「何もご期待に添えなくて申し訳ありません。」
 
ゲンドウはせっかく危険を冒してまで接触してきてくれた西田の思いに報いることが出来なかった。
だが西田はそれでも納得してくれた、そればかりかこちらの勝手な都合を聞いて待ってくれようとしている。
ゲンドウはこの思いに答えるためにも今後のことを考えていた。
 
「そうだユイさん。」
「はい、なんですか?」
「せっかくだからお父上に会われたらどうですか?私が帰るまでは外にいるはずですよ、それにお父上は全てご存じですよ。」
「え!で、でも。私は家を出た身ですから今更・・・」
「大丈夫ですよ。さあ、お行きなさい。」「ユイ、行って来なさい。すいませんが西田さん妻をお願いします。」
「あなた・・・はいっ!」
 
そういってユイは西田と一緒に部屋を出ていった。
部屋に残ったゲンドウは冬月とリツコに相談していた。
それはゲンドウの頭の中で練られていた計画でユイにすら話していない内容だった。
それを聞いた二人は・・・・
 
「碇本気か!」「ゲンドウさん、あの人に言ってたのはそういう事なんですか?」
「ああ、本気だ冬月。それにリツコ君コレは以前から考えていたことだ、本当ならこんな事になる前にて打つべきだったのだが。完全に後手に回ってしまった、そのせいでナオコ君を失ってしまった、すまない。」
 
「では碇、本気でやる気なんだな。」
「ああ、もう手をこまねいてはいられない少し早いが計画を実行に移す。二人とも力を貸してくれ。」
 
碇の計画とはいったい何なのか・・・
 
 
 
後書き
 
 
すいません前回言っていた予定変更のことなんですが、どうやら現実になりそうです。
次の予定は最終話NERVでしたが急遽予定を変更することになりました。
そんなわけで次回ですがシンジと綾の二人っきりから始まります。
そこからシンジ達の暗躍が始まります。題名は“傭兵”の予定です。
FSSの方から数人のキャラを登場させます。FSSファンの方はおたのしみに
 
そんなわけで今回の言い訳に入らせてもらいます。
まず、気が付いた方もいると思いますが今回は「ガサラキ」から西田 啓を登場させました。
いささか反則気味ですがどうしても話を繋げるために必要と判断して登場させました。
別に西田氏を出さなくてもオリキャラでも良いと仰る方がいると思いますが私の個人的な意見で登場させました。
まず設定を考えるのが面倒だったのと個人的に私この人が大好きだからです
この人かっこいいです。ガサラキ本編では最後に割腹自殺をしてしまいますが、もっと生きていて欲しかったです。
そんないい加減な理由ですが、これからこの人が政府とNERVの関係に重要な役割を担ってきます。
 
それと西田氏の言っていることは私自身の個人的な考え方を書いていますのであまり気にしないでください。
まあ、ちょっと今回は話が長くなりすぎました、それでも次回はまだ長くなるかもしれませんがよろしくお願いします。
 
それでは次回をお楽しみに