騎士と妖精と熾天使の幻像
 
第1章 第14話.悲嘆
 
 
 
ナオコの行方を追っていた保安部の見つけたものは信じがたいものだった。
 
その連絡は冬月だけでなくゲンドウの元にも届き、二人はすぐに現場に向かった。
そこにはバラバラに引き裂かれた人間の体が散乱していた。そしてすぐ近くにはナオコの着ていた白衣が血まみれになって落ちていた。
鑑定の結果、血痕はナオコのものに間違いはなかった。すぐに付近を探したが大雨によって血痕がとぎれてしまった、また近くに川があるためそちらの方にも人手を割いたが大雨による増水のため捜索は難航していた。
 
そして保安部や幹部は徹夜でナオコの行方を追ったが、結局見つかったのはその白衣だけであった。
 
 
「どういうことなんだゲンドウ、ナオコ君を襲ったのは委員会の工作員らしいが、その工作員をあんな風にしたのは一体誰なんだ。」
「わからん、しかし人間にあんな事が出来るのか?どう考えても人間業じゃないぞ。」
「ああ、だがソレをやったヤツがナオコ君をつれていったとしか思えんな、いったい何者なんだ。」
「そうだな、それにあの白衣の血痕からするとナオコ君はかなりの重傷だな。病院に担ぎ込まれるかもしれん網を広げてみよう。冬月、手配してくれ。」
「解った、何かあったら連絡が入るだろう。ソレよりもレイとリツコ君の方が大変だぞ。」
「ああ、こっちもソレが問題だ。全く戦自のバカどもに委員会の年寄り共が!目先の欲に釣られてとんでもないことをしてくれたな!」
 
ゲンドウと冬月が頭を悩ませていたのはレイとリツコがナオコのことでふさぎ込んでいることだった。
特にレイは自分のせいでナオコが居なくなったと思いこんでしまって、リツコも朝のうちにナオコを止めておけば良かったと自分を責めていた。
そのためリツコ、ナオコの不在をユイが一人でカバーしていた、そのユイもナオコのことを心から心配していた。
 
そして夜が明け、新たな進展を迎える。
 
ゼーレから今回のことに関して釈明が行われた。
それはキール議長からの直接の謝罪であった。
「碇、今回のことはこちらの落ち度だ。愚か者が一人、自分の保身のために情報を売ったばかりかどさくさに紛れて情報を奪取しようと企んでいたようだ。」
「議長、こちらの方も被害は少なくありません、その人物には厳重な処罰をお願いします。」
「解っている。我々としても裏切り者を見過ごすわけにはいかん。早速、手のものを送った。今頃は冥府で自分の行いを後悔しているだろう。」
 
キールは今回の責任を全てその委員になすりつけていた。そうすることによって委員会全体に自分の権威を示していた。
 
「ところで本部の方の被害はどうなっている?」
「はい、使者は今のところ居ませんが、行方不明一名、重傷者3名、軽傷者18名、危うく手遅れになるところでした。」
「そうか、被害は一人で住んだのかそれは何よりだ。」
「いいえ、行方不明者は赤木ナオコ博士です。被害ははかりしれません。」
「そうか。」
 
ゲンドウは内心はらわたの煮えくりかえる思いだった。
元を正せばゼーレのミスであり、本部はそのとばっちりを受けているにすぎない。しかもその被害に関してまるっきり他人事であるばかりか重要人物を失ったことに関してなんら問題を感じていないようであった。
ゲンドウはこの時、今回の事件の裏にキールがいることを確信していた。
そして、ナオコの事に関しても予想されていたことだと判断した。
 
「議長、今回のことにより本部の保安体制の見直しを考えたいのですが、追加予算を組んでもらえませんか。」
「うむ・・・・・・解った。一考しておこう。」
「ありがとうございます。」
 
あえてゲンドウは冷淡な態度をとりキールに対する怒りを押し隠していた。
そしてキールとの会談が終わったとたん自分の机に苛立ちをたたきつけていた。
 
しばらくした少し落ち着いたゲンドウは今回のことに関して様々な対策を考えていた。
 
まず、ゼーレは信用できない為、独自のバックを抱えておく必要があった。
それと今回のようなことが二度と起きないように保安部の徹底的な見直しを考えていた。
また、敵対組織の中に戦自を加えておく必要があると判断した。
 
そしてそれらに対する具体的な案を考えていたとき、ナオコに関する連絡がはいった。
それは予想を裏切る最悪のものだった。
ゲンドウは直ちに冬月と共に現場に向かった。
 
 
増水していた川の遙か下流で発見されたそれは人間の両足であった。それもその靴から解るように女性のものであり、両足は膝のすぐ上で潰れていた。
すぐ後からユイとリツコが駆けつけた。そしてそれを見てしまった。
 
「あ、あなた、それは!」
「まさか・・・みせてください!」
 
二人共取り乱していた。ゲンドウは二人に落ち着く様に諭し、その間に両足は検査に回された。その結果、予想していた最悪の答えが返ってきた。
両足は赤木ナオコのものと一致、切断されてから4時間以上が立っており生存は絶望的、生存していてもこの濁流に長時間浸かっていることにより感染症などの危険性大というものだった。
ユイはその答えを聞いたとたん気絶してしまった。リツコも同じようにその場に崩れ落ちてしまった。
ゲンドウはすぐに保安部員に命じて二人を医務室に運んだ。
その後も保安部の賢明の捜索にも関わらずナオコは見つからなかった。
 
ゲンドウは納得できなかったが報告書を作成していた。
 
今回の事件における人的被害
被害者
死亡一名   技術部 赤木ナオコ
重傷三名   保安部 利根川尚道 他
軽傷一八名  技術部 赤羽尊氏 他
 
これだけの文章を作るのにもかなりの時間がかかっていた。
そうしている間に冬月がリツコ達の様子を知らせに来た。
 
「まずいな、二人共かなりまいっているな。特にリツコ君の様子がひどい。」
「そうか、そういえばレイは見つかったのか?」
「ああ、そうだ。そっちの方も大変だったそうだぞ。」
「レイに何かあったのか!」
「ああ、泣きやまなくてみんな困っていたぞ。今はユイ君が一緒にいるので何とかなっているが、ナオコ君のことで責任を感じているようだ。」              
 
  
「そうか・・・少し様子を見てくる。」
「ああ、すまんな」
「コレでもあの子の親なんだぞ。」
 
ゲンドウは苦笑しながら冬月に後を任せて部屋を出ていった。
途中ユイの所によっていた。
ユイは既に意識を取り戻しておりゲンドウが入ってくるとすぐにベッドから起きあがった。
 
「大丈夫かユイ、」
「ええ、もう大丈夫。ナオコさんはやっぱり・・・」
「ああ、状況からは既に死んでいるとしか判断できないな。」
「そんな!ナオコさん・・・・」
 
ユイの顔色は多少良くなっていたが、その言葉を聞いてまた悪くなる。だがゲンドウは続けた
 
「ユイ、レイがナオコ君のことで責任を感じているらしい。」
「あの子が!そんな、」
「だが、コレも必要なことかもしれんな。あの子も人の死というものを知らなければならんし。」
「でも、こんなのはあまりにも酷すぎます。せめてもう少しあの子が大きくなってからでも、それに今回のことであの子は自分を責めています。だから・・・」
「だが、ナオコ君のことを隠しておいても答えは変わらん。なら、私たちで出来る限りのことをしてやろう。」
「・・・・わかりました。」
 
ユイは不服ながらも納得をしてくれたようだった。
そしてレイの休んでいる部屋にやってきた。だがそこには先客の姿があった。
それはリツコだった。
二人が入ってきたことに気が付かない様子だったので、二人はそのまま様子をうかがうことにした。
 
「レイ、私の母さんの事なんだけど・・・」
「お姉ちゃん!ナオコさんどこ?ねえ、何処に行ったの?」
「母さん、ナオコは・・・・・もう居ないの、何処にも・・・・・」
「お姉ちゃん、いやっ、そんなの嫌っ、ナオコさん何処に行ったの!教えてよ、ねえってば」
「レイ、良く聞きなさい私の母さんは死んじゃったの。だからもう居ないの、解ってちょうだい。」
「死んだ?ねえ、ナオコさん死んじゃったの?死んだら居なくなっちゃうの?そんなの嫌だよぅ。おねえちゃん。」
 
レイが駄々をこねる、それは人の死というものがまだよく分かっていないからだった。
リツコはそんなレイに一つずつ諭していった。
 
「レイ良く聞きなさい。人間は生きている限り必ず死ぬの。」
「嫌、居なくなっちゃいや。一人にしないで。」
「レイ!わがままを言わないで。あなたも私もいつかは死んでしまうの。
だからみんな色々な思い出を作るの、死んだ人のことも忘れないの、そうやって自分の中にいろんな人たちの思いを受け継いでいくのよ。」
「思いを受け継ぐ?」
 
レイは不思議そうな顔をしていた。レイはまだこういった教育を受けてはいなかった。
今まで受けた教育は常識や知識に偏っていて、こういった精神的なことまではまだまだ勉強中であった
 
「そう、母さんはあなたが無事であることを願ったの。あなたが幸せであることを望んだの。」
「ナオコさんが・・・私の幸せを・・・・よく分からない?」
「今はまだ解らなくても良いの、でもこれだけは知って置いて母さんは自分のことよりもあなたのことを守ったの。
だから、あなたは母さんの分まで生きないといけないの、それが思いを受け継ぐって言うことなの。」
「私、ナオコさんの分も生きるの?」
「ええ、母さんの分も幸せになりなさい。そして母さんの事であなたが責任を感じる必要はないの。」
「でも、わたしが・・・・」
「レイ、あなたが母さんの事に責任を感じるのなら、しなければいけない事があるの。」
「なに!」
「それは母さんの事を忘れない事よ。」
「忘れない?・・・私ナオコさんのことを忘れたりしないよ!」
「ありがとうレイ、きっと母さんも喜んでいるわ。後はあなたが笑って、そんな顔してたんじゃあ母さんが悲しむわ。」
「うん、私幸せになるの、ナオコさんの分も。ナオコさんを忘れたりしないの!」
「ありがとうレイ、ありがとう・・・・」
 
二人は互いに抱きしめ会ったまま涙を流していた。しかしその表情は悲しそうではなかった。
ゲンドウとユイはこっそりとその場を去った。
今の二人に自分達の慰めなどは必要なかったようである。二人は自分達で立ち直ったのだから。
 
 
その翌日、本部で赤木ナオコ博士の葬儀が行われた。
棺の中にはナオコの遺体は入っておらず発見された両足だけが入っていた。
所員の全員が参加していただけではなく。わざわざ他の支部からも所長や多くの研究者達が弔問に訪れた。
また、ゲヒルンに直接関係の無い研究機関や大学、企業のトップまでもが数多くの参列していた。
 
 
まだ誰も気が付いていなかったが、その中にはとんでもない人物達がいた
 
 
 
後書き
 
今回は話が長くなりすぎました。
申し訳ないと思っています。でも今回はこういう形で終わっておかないと残り2話で第1章が終わらないんです。
全ての原因は無謀な計画を先に立ててしまった私の責任です。
そんなわけで次回はまた新しいキャラが出ます。一応脇役ですが他のアニメから一人、オリジナルが二人です。
3人とも本編にはちょっとずつしか出てきませんが、それぞれ重要な役割を担ってます。
 
それとは別に最初に言ってた内容に関して、残り2話と言っていましたがどうやら増える可能性が高くなってきました。
理由はFSSの方のキャラを登場させようと言うことになりつつあるので、登場させるためその一話分増える可能性が高いです。
FSSのキャラと言っても本人ではなく、向こうの世界のパラレルワールドの人物という事にしています。
だから出てくるキャラは騎士(ヘッドライナー)ではありませんが、それぞれ達人と呼べる人たちです。
 
これからのことはこのぐらいで今回のことを少々
今回ナオコの事は少し生々しい表現になってしまいましたがコレには少し訳があります。
詳しくははなせませんがコレは伏線になっているところがあります。
まあ、簡単に読まれそうですが、一応まだ秘密です。<バレバレ
そんなショッキングなことがありレイとナオコは落ち込みますが何とか復活。
レイは初めて人の死を間近に感じてまた一歩人間らしくなっていきます。そして、自分の人生という者に目標を持って欲しいです
そうなって初めてシンジの願いの一つがかなうことになりますから。
 
そんなシンジ君は現在行方不明ですが間章と言う形で外伝を一つ作っています。
公開するかどうかは解りませんがそっちの方でお仕事していますのでもうしばらくお待ちください。