騎士と妖精と熾天使の幻像
第1章 第13話.襲撃
時間は少し遡る
ここゲヒルン本部では今日もエヴァ初号期の起動実験と動作テストが行われていた。もちろんパイロットはレイだった。
レイもここに現れてからもう一年がすぎようとしていた。
今のレイは同年代の少女に比べると表情に乏しかったが、一年前に比べて驚くほど感情を表すようになっていた。
すべてはゲンドウ達の努力によるものだった。
一年前シンジがいなくなった後しばらく情緒不安定になっていたが、ゲンドウ達がその代わりにレイに惜しげもない愛情を注いでいた。
今日も無事に起動に成功しシンクロ率もすでに25%に届こうとして、動作テストも順調に進んでいた。
すでに各支部との協力により新型インターフェースが完成に近づいていた。
これはシンジの残したデータからユイとナオコが提唱したバイオリレーションシステムと呼ばれる物であった。これはシンジがダミープラグの理論を応用した苦肉の策でパイロットの神経細胞の一部をクローニングにより培養してエヴァに取り込ませ、それを仲介してエヴァとシンクロさせるという物でこれを使用すると取り込まれる危険性が無く、精神汚染の可能性もかなり低いという理想的な物だった。
それでも、シンクロできるかどうかはパイロット次第と言うことで、組み込んでみてもエヴァにシンクロできなかったということが多かった。
そうなると一度サルベージしてからでないと新しい物が組み込めないと言う欠点があるが、これもシンジとユイの残したデータを元にサルベージ用のマニュアルができた為、支部単位で独自に作業ができるようになった。
しかし、そんな現在でも起動に成功しているのは本部のレイだけであり。各支部はシンクロに成功しても低すぎて起動できない者ばかりだった
だが、各支部とも着実に進歩していた。
そんなゲヒルンに危機感を抱いている組織があった。それは日本の戦自だった。
この歴史に置いて戦時は国連軍の影響を強く受けていた。
なぜなら、セカンドインパクトの混乱直後の治安維持にこそ役立ってはいたものの、安定を取り戻した現在ではその戦力は日本政府にとって危機感を募らせるものだった。
日本政府は対策として戦自の予算を年々縮小していった。そして従来の専守防衛を目的とした自衛隊の復活を計画していた。
そんな中、戦自はゲヒルンが巨大人型兵器を開発しているという情報を入手しその存在を確認しようとしていた。
しかしゲンドウの指示で保安部内に防諜課が創設され、それによって戦自の諜報活動はことごとく失敗に終わった。
だが、この情報が外部に漏れてしまった。それは意外にもゼーレ幹部の委員の一人であった。
戦自幹部は自分達の権威回復とデモンストレーション、エヴァの強制徴発を目的としてゲヒルン本部への強襲を計画していた。
もちろん、相手が国連の直轄施設であることを承知の上でのことだったが、戦自は事が成功の暁に「ゲヒルンは本部で新型兵器を開発し反乱を起こそうとしていた」という理屈をでっち上げてエヴァを自分たちの物にしようとしていた。
もちろんこれには日本政府には極秘であった。あくまでエヴァを戦自の兵器とする為であった。
そんな事とはゲンドウ達も気づいていなかった。
だが、ゼーレには気が付いていた者がいた。それはキール議長だった。
キールは委員の一人が政治的取引から戦自幹部にエヴァの情報を流していたことをつかんでおり、その情報を元に本部の強襲計画の事もつかんでいた。
キールはこの情報を本部のゲンドウには流さずこれを機に本部の幹部職員の一掃を画策していた。もちろん本部のみならず委員会の内部でも粛正を行う予定であった。
そして、ナオコやユイといった重要人物を拉致しようと工作員を日本に派遣していた。
そして、この情報はある人物達にも伝わっていた。
「大変です!戦自が本部強襲を目論んでいます。」
「なんだって、戦自が!」
「はい、目的はエヴァ初号期とパイロットの確保のようです。」
「奴らエヴァの事をつかんだのか、しかしいったいどこから?」
「実はゼーレの委員会からのようなのです。」
「なんだと!なぜ奴らが?」
「どうやら、政治的取引からのようですが事はそれだけでは終わりそうもないのです。」
そして、キールの企みが語られた。
「奴らそこまで腐っていたのか!作業は一時中断だ、本部へ行く。」
「はい、準備はできています。すぐにでも出発できます。」
「すまないな、それじゃあ一緒に行くか」
「はい!」
そして彼らも本部に向かっていった。
そんなことを知らない本部ではいつも通りの日々がすぎていった。
そんなある日、ナオコは何故か胸騒ぎがしていた。そう、かつて感じたモノと同じぐらい不吉な感じだった。
ナオコはその日リツコをわざわざ呼びだし、今後の指示とマギに関する秘密を打ち明けた。
「母さん、いったいどうしたの?急にこんな事を言いだして。」
「なんでもないのよ、ただの気まぐれよ気にしないで。」
「まさか、何か嫌な予感でもしたの?」
「やれやれ、リッちゃんにはかなわないな。」
「母さん!笑い事じゃないのよ、真剣になって。悪い予感がしたのね」
「ええ、何か胸騒ぎがするの。それも今までで一番ひどいの」
「そんな!今日は研究所に行かないで家でじっとしてて。誰か来ても居留守を使って・・・」
「リッちゃん、あわてないの。私に何かあるとは限らないのよ。」
「でも・・・」
「それにね、もし何かあるとしても常に行動できる様にはしているつもりよ。」
「母さん・・・」
リツコの不安そうな顔を見てナオコはほほえみかけた。
「心配しないで、そんなんじゃそっちの方が不安になるわ」
「わかったわ、」
そう言ってリツコはナオコについて研究所に向かっていった
そしていつも通りの日々がすぎていく中その時は刻一刻と近づいていた。
その日は昼前から雨が降り出し土砂降りになっていた。
そのため窓の外は全く見えない状態だった。レイは外に出られないのが残念そうに外を見ていた。代わりにリツコや若い女性職員達と一緒に遊んでいた。
ゲンドウは冬月と一緒に所長室でユイの報告を受けていた。
ナオコだけはケイジでエヴァを眺めていた。エヴァを見ていると胸騒ぎの原因がわかりそうな気がしてしょうがなかったからである。
そして4時をすぎた頃になると外は日が暮れてしまったかのように真っ暗だった。
そんな中を怪しい黒い影がうごめいている。数は30人ほどの完全武装の戦自特殊部隊であった。
ところが怪しい影はそれだけではなかった。数は兵隊達よりも少なかったがその黒服姿は異様であった。彼らこそはゼーレの委員会直轄の工作員であった。
彼らは戦自の強襲の中から重要人物の拉致と重要情報の奪取を目的としていた。
戦自が動き出した。彼らの目的はエヴァとパイロット碇レイの確保、そしてそのために施設の制圧を開始した。
彼らの元に合図が届くと同時に所内の電気が全てストップした。
すぐに予備発電に切り替わるはずであったがなぜか予備も動かなかった。
ただちに回線が切り替えられたがその時にはすでに戦自隊員の進入を許してしまっていた。
戦自隊員は武器に電子銃やスタンガン、プラスチック弾を使用していた為、死者こそはなかったが保安部は完全に出遅れていた。
そんな中ケイジに来ていたレイを逃がす為ナオコは脱出路を二人で走っていた。
そしてレイを所内でも極秘の部屋、マギ内部にレイを隠して自分をおとりにする為、研究所の外に逃げ出していった。
彼女を追って戦自の隊員達が動くが、彼らは裏山の中で何者かの襲撃を受けていた。
ナオコもその異常に気が付いたが、その時にはすでにゼーレの工作員に取り囲まれていた。
「あなた達、何者なの?」
「赤木ナオコ博士、我々と一緒に来てもらおうか。」
「なんですって!まさか、あなた達は委員会の工作員なの?」
「答える必要はない、大人しく付いてくるのなら命の保証はする。だが拒むのであればその限りではない。」
「あなた達最初から知っていたのね、戦自の連中がこんな事をしでかすのを」
ナオコはようやく状況を把握した。つまり戦自の襲撃はあらかじめゼーレは知っていたのだ、しかしゼーレはそれを利用して本部の力をそごうとしていたのだと
ナオコには許せなかった、彼ら・ゼーレのようなモノの考え方が
「お断りよ!」
工作員達の一人がナオコに銃を突きつけた。
「この銃は奴らのモノと違い実弾が入っている。」
「撃ちたければ撃てば、私の役目はもう終わっているものもう思い残すことはないわ。」
「そんなに死にたいのか」
ナオコに銃を突きつけていた男が引き金を引こうとしたその時、死んだと思っていた戦自の隊員が銃を乱射した。
弾は工作員達に当たったが防弾チョッキを着ているのか、たいした傷にはなっていない様だった。
だが、ナオコにはそれで十分だった。隙をついて裏山の方に逃げていく。
工作員達が後追って行く、そして男達の放った銃声とともにナオコは山の斜面を滑り落ちていく。
その時、すさまじい咆吼のようなモノとともに男達に襲いかかる。
ソレはまるで人形を引き裂くかの様に人間をバラバラにしてしまう。
そして後に残ったのはバラバラになった人間の身体とナオコが墜ちるときに残していった血まみれの白衣だけであった。
そこに影が降り立つ。
「間に合わなかったか、くそっ!」
同じ頃、所内でも銃撃戦になっていた。
戦自に対して有効な手段を持っていたのは保安部以外ではゲンドウとリツコだった。
ゲンドウは冬月とユイをかばって所長室に籠城しており、外と激しい銃撃戦を演じていた。
そのため戦自隊員は足止めを食らっていた。
その間にも武装した保安部が現場に急行して鎮圧に成功した。
そしてリツコはマギを操作して各端末からの情報の流出を阻止すると同時に隔壁を下ろしていった、それは正体不明の侵入者がこの本部に侵入して狙うであろう施設全てを外部から隔離する為であった。
間一髪でリツコが先を越すことができた為、戦自はおろかゼーレの工作員達も肝心なデータを手に入れる事はおろか隔壁によって閉じこめられていた。
そして所内の侵入者全てを捕縛し終えたときリツコはレイとナオコの姿がないことに気が付いた。
「レイ!母さん!ドコなの?」
「どうしたリツコ君?」
現場の指揮を取りに行ったゲンドウに変わって所内全体の指揮を行う為、冬月がやってきた。
「冬月さん、母さんとレイちゃんがいないんです。所内のドコにも反応がないんです。」
「なんだって!監視システムを使って探してみたまえ。パスは私のを使いなさい。」
「はい!・・・・・・・これは」
「どうだね?」
リツコが調べ上げた中にはケイジを逃走中にはレイとナオコが一緒にいたが、ナオコが外に出るときにはレイの姿がなかった。
「どういう事だ、レイはどこに行ったんだ?」
「かあさん・・・そうか!あそこだわ」
「解るのかねリツコ君。」
「はい、冬月さんは外に出ていった母さんを捜してください。わたしはレイちゃんを迎えに行ってきます。」
「解った、人を使って周囲を探索させよう。そっちを頼む。」
そう言ってリツコは管制室を出て地下のマギシステムの元に向かった。
そして、マギ内部のメンテナンスルームにたどり着くとそこには怯えながらも泣くのをじっと我慢しているレイの姿があった。」
「レイ! 」
「!おねえちゃん!」
レイはリツコに抱きついていた。よほど怖かったのか体が震えていた。
「レイ、無事だったのね、よかった。」
「ナオコさんがここに居ろって、お姉ちゃんが来るまで隠れてなさいって、 ナオコさんどこいったの?」
「大丈夫よ、今みんなで探してるのすぐに見つかるわ。」
「うん・・・・」
だが冬月の元には保安部から意外な知らせがもたらされていた。
そのことをリツコ達はまだ知らなかった。
後書き
ついにレギュラー陣に被害が出てきました。歴史になぞらえたかのようにナオコの降板です。
今回の戦自の暴走は私自身ぜひやりたかったことです。コレによりマナやトライデントが出しやすくなりました。
ホントはマナとマユミは出すつもりが無かったんです。マナはともかくマユミの方は最近になるまでその存在を忘れていました。だってゲームやってないんだもん。
マナの方も一通り弟がやってるのを見ただけでしたし、ゲームの方でまともにやったのは綾波育成計画だけ。っていうのは少々問題かも。
次回はレイとリツコが落ち込みます。まあ、仕方のないことですが特にレイには初めての人の死ですから理解するまでは大変だと思います。
それでもこうしてレイは少しずつ人間になっていくんです。まあ、その成長をゆっくりと見てあげましょう。(なんだかコレこそ綾波育成計画みたい。)
それと、以前言っていたことなんですがFSSのキャラは登場させ無いって言いましたが、次回もしくはその次で何人か登場させようと思います。
ただし本人ではありません。まあ、パラレルワールドにいる元の世界の人間によく似た人とでも思ってください <ややこしい。
簡単に言うと、向こうの世界とこっちの世界にそれぞれ似たような人がいるっていう感じです。
まあ、解らないのなら気にしないでください。問題ないと思います。
また他の作品からもこっそりとキャラクターを引っ張ってこようかなと考えています。
実はコレに関してはチャットの方でみなさんと相談しましたが複合作品と言うより使いやすいキャラを流用すると言った感じです。
それと以前に少しだけ言ってましたサイコロの修正値の変更ですが一部修正値の大きすぎるキャラの調整が行われました。
これはマナの登場に関して少しもめたことにより、修正値は上限を±3の範囲に押さえようと言うことにしました。
マナ自身はコレにより−4から−1に変更しました、理由に関しては今回の事もあり戦自がらみのキャラは少しきつめにしました。
まだコレは登場していないキャラなので確定ではありません、よってまだ変更はあり得ます。(というより戦自から別の組織へ鞍替えって言う選択肢があるんでまだ未定)
一部チャット上などでは上の仮の数値を説明しましたが、未定であることはまだ説明していません。
登場段階で公開することとさせてもらいます。
それでは次回ですがナオコの死により本部はお通夜状態です。
特にレイ、リツコの憔悴はひどいものですが何とか立ち直ります。
しかし、今回の事件は色々なところに尾を引くことになります。
次回予告、第1章第14話“悲嘆”
「お姉ちゃん!ナオコさんどこ?ねえ、何処に行ったの?」
「レイ、良く聞きなさい私のお母さんは死んじゃったの。だからもう居ないの、解ってちょうだい。」
「碇さん、実は今回のことで少しお話ししたいことがあるのですが。葬儀の後少しお時間をいただけませんか?」
「もう他に手はないのか?」
「すみません・・・でもコレしか方法がないんです。」
う〜む、コレ読んだだけじゃあさっぱりわからんな。
それでもこれらの台詞は次回出てくる予定です。
それでは次回をお楽しみに