騎士と妖精と熾天使の幻像
第1章 第12話.独逸
ゲヒルン独逸支部
ここ独逸支部は支部扱いとなっているものの権限的には本部と同等であった
なぜなら、ここ独逸は上部組織ゼーレのお膝元でもありこの研究所の幹部職員の殆どがゼーレ関係者によって占められていたからである。
そんな独逸支部も今ではゼーレからだけではなく各支部からも見下されていた。
その原因は惣流博士の暴挙による本部での起動実験の強行であった。
この事件以来、各支部からの突き上げがすさまじく、いかにゼーレといえども庇いきれなくなっていた。おまけに責任者であった惣流博士自身が実験の失敗により精神に異常を来していたからである。
責任者不在とエヴァ計画始まって以来の不祥事とあって、ここ独逸支部の幹部は常に頭を悩ませていた。
そんな中、本部において初号機が開発者の娘、碇レイの手によって成功したとの報は独逸支部だけではなく他の支部にも大きな衝撃をもたらした。
本部からは正式な報告は上がっていなかったが、各支部の所長にゲンドウの口から直接流された情報であり、本部にはそれだけの実績があった。
各支部とも詳細なデータを欲したが本部からは偶然の産物であり公開できる物ではないとの解答が下された。
それでもゲンドウは各支部にこの実験で得られたデータから新型インターフェースのベースフォーマットの公開と開発協力を求めた。
これだけでも各支部にしてみれば大きな収穫だった。今までエヴァに関する事は全て成功した本部・支部の物を採用してそれ以外は破棄してきた。
だからこそ支部毎で仕様や性能にばらつきがありデータにいたっては互換性が全くなかった。
しかし、今回の新型インターフェースのベースフォーマットは各支部でカスタマイズ・改良し易いように作られているうえに、カスタマイズされてもデータに互換性を待たせられるという各支部にとって理想的な物であった。
このゲンドウの発案に反対する物はなかった。むしろ進んで採用してデータの相互交換を求めてきた。
ここ独逸支部でもこの件に関しては大きな波紋を呼んでいた。
今まで独逸支部で採用してきた殆どのシステムはキョウコの手による物だったからである。
それを本人不在の間に勝手に新システムを採用したとなると、後で揉める事は確実であった。
それでも他支部に後れを取りたくないとの意見から新システムに以降を開始した。
間の悪い事にその直後、予定よりも早くキョウコは現場に復帰した。
そして本部での一件を知った後しばらく自分の実験室にこもってしまった。
そこでキョウコはとんでもない事を考えついていた。
「ユイの子供が起動成功ですって?それも娘、いったい何処にそんな子供が居たっていうの?それにあの時居たのは男の子、確かシンジだったわね。あの子確かに実験に関して詳しそうだったわね。どういう事?ユイは自分の子供に何をしたの? ・・・・・
そうか、ユイは自分の子供に何らかの処置を行っているのね!きっとそうに違いない!
なら、私のアスカならきっとうまくいくはず、あの子を強化すればユイの子供なんかよりもきっと素晴らしい力を発揮するに違いない。」
キョウコは完全に誤解していた。シンジの異常なまでの能力をユイの手による強化処置と考えていた。そして自分の娘にも同じ事が出来ると思いこんでいた。
「なら早速アスカを呼び寄せないと行けないわね。それに、その方面の知識のある優秀な教師が必要ね。誰か適当な人物は居ないかしら。」
そうやってキョウコがデータベースを調べている内にある人物に目星を付けた。
その人物の名は葛城ミサト、S2機関の提唱者である故葛城博士の娘。
既にハンブルグ大学を飛び級で卒業が決定しておりドイツ軍への入隊を希望している。
大学では主に生体工学を専攻している上に電子・機械工学にも詳しく亡くなった父の跡を継ぐと思われていたが、何故か軍への道を選んでいた。
実はキョウコは以前彼女の面倒を見ていた事があった。それはセカンドインパクトの直後失語症に陥っていた彼女から、南極での真相を聞き出そうと治療名目で預かっていたのである。
キョウコの治療の結果、失語症は回復した物の南極での事は殆ど覚えていなかった。
そのことが解ってからミサトの治療を他の人間に任せていた。それっきりではあるがあのころの彼女はキョウコに良く懐いていた。そして娘アスカも彼女に懐いていた。
「彼女なら申し分ないわね、それに軍なら何とか出来るわね。」
キョウコは彼女を呼び寄せる為に各方面に手を回していた。
いくらドイツ支部の評判が悪くともその名前には隠然とした力がある。
結局、軍からはミサトの意見を尊重するとの回答を得たため、今度はミサトの説得に回った。
「葛城さん、お久しぶり。」
「え?あ、先生。いえ、惣流博士でしたね。おひさしぶりです」
「良いのよ昔のままで、それより覚えていてくれたのね。嬉しいわ」
ミサトは卒業を前に大学にきていた。キョウコはそれを事前に察知してあらかじめ先回りしていた。
「今日はどうしたんですか?うちの学校に何かご用でしょうか。」
「そんなに堅苦しくしないで、用事はもう終わったの。そしたら懐かしい顔が見えたので声をかけてみたのよ」
「そうだったんですか、私の方こそ覚えていてくれて光栄です。あのころは大変お世話になりました、おかげさまでこうして大学を卒業できるようになりました。」
「そう、良かったわね。ところで卒業後はどうするのかしら、もし良かったら私がどこか良いところを紹介しましょうか?」
「ええ、実は軍を希望してたんですけど、女性士官の採用枠が無くて仕事を探して居るんです。」
これはキョウコの工作のせいであった。キョウコはミサトが軍の中でも上級士官を目指しているらしい事が解ったので士官の中でも一般採用の枠だけを潰していた。
そうなると士官学校ではなく大学を卒業していたためにミサトにとっても厳しい物であった。
そういった理由からミサトは優秀な成績で卒業が決まっていながらも就職先が決まっていなかった。大学からは助教授として残留か大学院入りを望まれていたがミサトはあくまで軍に入ることを望んでいた。
「あら、てっきりお父さんの跡を継ぐのだと思っていたのだけど、どうして軍なんかに?」
「実は、私思い出したんです。あの南極に何が居たのか、父さんを殺したのがなんなのかを。」
キョウコは内心驚いていた。それは既に知っていた事だったが一般人が知っている事ではない。もし、ミサトの事が外部にばれた場合には監視の目が着くだろう。最悪口封じもあり得る。
「ミサトちゃん、その事は人に話さない方がいいわ。私も知っている内容だと思うけど一般人が知ってて良い内容じゃないのよ。」
「惣流博士はアレがなんなのかご存知なんですか!教えてください。私はアレが許せないんです。父を殺したアレが許せないんです!」
キョウコはミサトの軍を希望するわけがようやく解った。彼女は父親の復讐を望んでいるのだ、ならば自分の所に取り込む方法はいくらでもあると。
「そうなのね、なら私の所に来なさい。私達の組織はアレと戦うための組織なの。」
ミサトは驚いていた。軍にはいるしか父の復讐は出来ないと思っていたが意外なところでそのチャンスが巡ってきた。
「本当ですか!」
「ええ、詳しいことを教えてあげましょうか。でもそれを聞いたら私に付いてくるしか道はなくなるのよ。それでも良いの?」
などと言いつつもキョウコはミサトが絶対に付いてくると確信していた。
その予想通りにミサトはキョウコに付いてきた。
そして研究所で南極・セカンドインパクトの真実そして今ドイツ支部で行おうとしているエヴァ計画を説明した。
もちろん本部での事故や他支部から孤立していることなどは教えない。
そして士官候補生としてドイツ軍に入隊できるように便宜を図り、その上で全ての支援をキョウコが行うという話にまでなった。
「そんな、先生にそんなご迷惑をかけるわけには行きません。」
「良いのよ、別にたいしたことじゃないわ。でも一つだけ条件があるのお願いできるかしら。」
「なんですか?私にできることなら何でもします!」
そこでキョウコが提示した内容は娘アスカの教育を引き受けてほしいと言うことだった。
最初ミサトはキョウコの考えが解らなかった。
「私なんかよりももっと良い教師はたくさんいます。他を当たった方がいいのでは?」
「いいえ、軍で経験を積んで是非娘をしっかりとした子に育ててほしいの。あなたは将来私たちの組織で指揮官にアスカは使徒と戦うエヴァのパイロットになってもらいたいの。」
それはキョウコの考えていた将来の組織像だった。そしてミサトにその詳しい内容を語った。
ミサトもその内容に共感しキョウコに協力を申し出た。
それからミサトは3年間軍に士官候補生として入隊する。その間にキョウコはアスカの身体に密かに投薬や強化処置を行っていた。
それはかつて問題になっていた人体実験で得られたデータを元にした物だった。
キョウコは外部だけではなくアスカにも気が付かれないように少しずつ行われていた。
アスカ自身そんな事には気が付かず、そればかりか母親と一緒にいられることに喜んでいた。
そして3年後にはキョウコの元にミサトがやってきた。
「アスカちゃん、こんにちわ」
「お姉さんは誰?」
「覚えていないかな?私は前にお母さんにお世話になってた・・・・」
「あっ、ミサトお姉ちゃんだ!」
「覚えてくれていたの、うれしいわ。」
「どうしたの、また一緒に暮らせるの?」
「ええそうよ、アスカ。今日からあなたの先生になる葛城ミサト先生よちゃんとご挨拶なさい。」
「はい、ママ。これからよろしくお願いします葛城先生。」
「アスカちゃん。できたら先生は辞めてね、昔通りのお姉ちゃんで良いのよ。」
「うん!」
アスカは姉ができたことをとても喜んだ。そしてミサトもアスカのことを妹のようにかわいがった。
だがミサトの教育は厳しく、その内容も時には血なまぐさい物があった。
アスカもそう言った勉強は嫌いだったが大好きな母と姉に褒めてもらう為に一生懸命がんばった。
その結果、アスカは同年代の友達よりも高い知識と運動神経を持つようになり。そればかりか学校も次々と飛び級を繰り返していった。
そしてエヴァの起動にも成功していた。それはシンジの残したデータを元に各支部の試行錯誤の結果であったがキョウコはそれを自分の発明だとアスカに説明していた。
「アスカおめでとう。ついに起動に成功したのね。」
「ありがとうお姉ちゃん、ママ見て渡しエヴァを動かせたわ。」
「ええ、あなたは私の自慢の娘よ当然の結果だわ。」
「キョウコさん?アスカちゃん、褒めてあげないんですか?」
キョウコはあまり嬉しそうでなかった、むしろ遅いと責めているようだった。
「ミサトさん、本部のファーストチルドレンは何年も前に起動に成功しているよ。」
「でも本部をのぞけばここが最初です。本部はデータ独占しているので当然でしょう。」
「そうね、アスカよくやったわ。今日はもう良いからゆっくりと休みなさい。」
キョウコは勘違いをしていた。本部はデータの独占などしては居なかったのだ。
単に本部での起動実験以来ゲンドウ達に反発して情報のやりとりを途絶していたからだった。
「うん、私がんばるね。きっと最高のエヴァのパオロットになってみせるね。」
その言葉を聞いてキョウコは少し気をよくする。
途中経過はどうでも良い最後に勝った者が勝者だと自分に言い聞かせていた。
そしてアスカが10歳になる時にはすでに大学に入っていた。
だが性格は母親と同じ様に自己顕示欲や差別意識の強い自己中心的な人間になっていた。
同じようにミサトも軍内部では孤立していたがキョウコの組織の力もあり順調に昇進していった。それにより作戦立案能力は高くてもその内容は人命無視や残虐な作戦などを平気でたてるようになって付けられた渾名が『血塗れの戦乙女(ブラッディ・ヴァルキリー)』である。
そして性格も社交的だが身勝手で無責任な性格になっていた。
それでも時間は流れ続けていく
そして運命の日がやってくる。
エピローグ 闇の中
「なんて事だ、こんな事になっているなんて!」
「ご自分を責めないでください、私たちでもできないことはあります。」
「だが、もう少し早く動いていればこんな事には、」
「過ぎた事を言ってもどうしようもありません、今の私たちの行うことはこれらに対する対策を講じることです。」
「そうか、そうだな。すまないな心配をかけてばかりで」
「いいえ、それより予定よりも急がないといけませんね。」
「ああ、工期を繰り上げて機体の完成を急ごう。兵装はブーメランユニットを最優先で主武装はエネルギーソードをメインでいこう、スパイドはまだ強度に問題がある。」
「解りました、その方向で進めておきます。あと、オプションの方も急がせておきます。」
「頼む」
闇の中から聞こえる声はとても苦悩に満ちていた。
それでも来るべき日の為に力を蓄えていた。
その闇色の巨神とともに
あとがき
どうでしょうか今回は以前から言っていた6ゾロコンビがついにそろいました。
そんなわけで6ゾロコンビの二人とはキョウコ&ミサトの二人でした。
キョウコはついに実の娘にまで手を出してしまいました。
ミサトも自分の出世の為に平気で周りを犠牲にして付けられた渾名が『血塗れの戦乙女』です。
何ともまあ救いようのないコンビです。こんなのに育てられたアスカちゃんは非常に気の毒ですがこれも何かの縁です。
不幸ルートを楽しんでください。真実を知るまでは自己中丸出しで暴れ回ります。
それでもシンジが出てくると一気に墜ちていくんですが、まあその辺は第2章で色々と考えていますのでそちらをお楽しみに。
今回のラストは謎の言葉が沢山出てきています。
機体の完成?ブーメランユニット?そして闇色の巨神と第2章ので明かされる秘密がどんどん出てきます。
ちなみにこの巨神とは序章に出てきたMHセラフ・ミラージュではありません。
みなさん色々と考えてみてください。
次回ですが再び舞台は日本に戻ります。
そしてある事件が起こります。そしてそれはとんでもない結果になります。
それでは次回”襲撃”をお楽しみに