騎士と妖精と熾天使の幻像
 
第1章 第一話.誕生
 
 
何もない漆黒の闇の空間が果てしなく続く。
シンジと綾はこの何もない世界を漂っていた 。
何も見ることも聞くことも出来ない空間、人間の五感全てを遮断している空間。
そんな中でもこの二人は互いの存在を感じていた、 そして自分達の流れ着く先について考えていた。
 
『マスター、これから行くところはどんな所なんでしょうか?』
『昔の僕の居た世界、僕の思いでの中の世界だよ』
『はい!とても楽しみです。』
 
綾からの質問に不安な感じはなく好奇心のようなものが感じられた。だが、シンジは綾の事が心配であった。
なぜなら、生まれてからまだ10年も経っておらず普通の人間ならまだ子供のはずである。しかし外見上自分と同じは15〜7歳ぐらいにしか見えない。
おまけに生まれてから自分、ラキシス、マキシマムの3人しか人という物を知らない。つまり外の世界を知らない箱入り娘だった。
そんな彼女を連れて行く世界、それはある意味ではとても危険な世界であった。
 
今度のシンジの敵は使徒だけではなくNERV、戦自、国連ひいてはゼーレと言った巨大な組織であった。
対する自分は強力な力と最高のパートナーと最強のMHを持っていても、個人である。どんな力を持っていても個人で出来ることなどたかがしれている。
そんな中を、綾を守りながら戦えるか?また、綾だけではなくかつての世界で助けられなかった人たちをどうするか?
シンジには不安であった。そして綾もそれを感じ取っていた。
 
『マスター、きっと何とかなりますよ、私やこの子も精一杯がんばりますから、だから元気を出してください。』
『ごめん心配かけて、もう大丈夫だから。』
 
シンジは綾に心配をかけている自分のふがいなさに腹が立った。、
これから見知らぬ世界に行こうとしているのに、自分の不安よりも僕のことを考えてくれている。
 
『これから行く世界はある意味で危険な所なんだ、本当は僕一人で行くと頃なんだけど・・・』
『そんな子と言わないでくださいマスター、私はどんなところでもマスターのお供をします。だから、だから・・・・』
『ごめん、綾には心配かけてばかりで僕はマスター失格だな。』
『そんなこと無いです。私には世界でたった一人の最高のマスターです。』
『ありがとう、綾。』
 
弱さはなくなっても内罰的な正確は相変わらずなシンジではあったが、綾フォローのおかげで立ち直りが早い。
そして綾自身もそんなシンジを支ることがとても嬉しかった。
 
『そろそろ、到着するみたいだね。』
『はい』
 
しかし、ここでおもわぬ事態が起った。
 
『!!なに、綾が離れていく!そんな、いいや、ちがう離されていくのは僕の方だ!』
『マスター、大丈夫ですか!返事をしてくださいマスター!』
『綾っ、大丈夫か?くそっ、どうにもならない。なぜだ!なぜここまで来て・・』
 
シンジはどんどん綾の気配から遠ざかって行くのを感じながらも必死で戻ろうと足掻いていた。
そんなシンジの耳に声が届く、それは忘れられない師匠マキシマムの声であった。
 
『シンジ、聞こえるか?』
『師匠?師匠、いるんですか。お願いです、力を貸してください。このままじゃあ綾と離されてしまいます。お願いです・・・』
『すまないが力を貸すわけにはいかん』
『なぜ?どうしてなんです!』
 
シンジには師匠の言葉が信じられなかった。
旅立つ前にマキシマムは世間のことを何も知らない妹、綾のことをとても心配していた。
なのに今その綾を見捨てるようなこと言っている。
 
『シンジ良く聞け、これから戻る過去に綾の肉体はない、だがお前の肉体は既に存在している。そして今生まれようとしている。』
『どういう事です?生まれようとしている?まさかそれじゃあ僕は・・』
 
シンジの顔色が変わる。
 
『そう、お前はこれから新たな碇シンジとして生まれてくるのだ。そして、お前はこの世界を最初からやり直さなければならない。
なぜなら、そこがこの世界の神であるお前の始まりなのだからな。』
 
マキシマムの語ることはすなわち、シンジの行き先は2015年ではなく2001年であった。
そして、運命の日6月6日すなわち碇シンジの生まれた日であった。
 
『そうですか、解りました。でも!綾はどうなるんですか。どこへ行ってしまうんですか?それに綾は体がないんでしょどうやって・・・』
『落ち着けシンジ、それに関しては問題ないドーリーに再生設備がある。それに何のために姉上がドウターを渡したと思っているんだ。』
『そうですか、?それじゃあどうして僕だけが。』
 
シンジには理解できていなかった。なぜ、自分も同じドウターを使っているのにどうして条件が違うのか。
 
『お前は・・・まずひとつ言っておくが、一つの世界に同じ存在は複数存在できない。これはどのような力ある神であっても破ることの出来ない法則だ。
お前達の世界で言うところのタイムパラドックスを防ぐためだ。しかし、今のお前ならば精神体として存在できる。
そしてお前の精神がドウターによってこの世界に戻ったならば、その場合まずお前の肉体として選ばれるのは生まれる前のお前になる。』
『どうしてそんなめんどくさいことを・・・』
『全く、今言ったことを良く考えろ。まず、お前の考えている2015年には既にお前が存在している。そして2001年以前に行ったとしても2001年に誕生する碇シンジと重複してしまう。
そうなった場合どちらかがその世界に存在できなくなる。おそらくは不自然な存在としてお前の方が存在できなくなる。』
『!そういうことだったんですか、でもそれじゃあ綾はどこに行くんですか?』
 
シンジは納得しつつも綾のことが心配であった。
 
『安心しろ、私が責任を持ってある場所で眠らせている。お前が迎えに行ってやれ、その方が綾も喜ぶ。』
『そうですか、解りました。それで場所はどこですか?』
『それこそ自分で探せ、何のためにその力はあるんだ。だが言ってておくぞ、生まれてもすぐに力を使おうとするな、下手をするとお前は化け物扱いされてしまうぞ。最悪、連中のモルモットにされてしまうぞ。
しばらくはおとなしくしておくことだな。綾の方も体の再生に少し時間がかかるからな。』
『どれくらいですか?』
『はぁ〜〜〜、何を馬鹿なことをいっている!お前と同じだけ時間がかかるのがまだわからんのか!!!』
 
間抜けな質問ばかりしていると、ついにマキシマムが怒り出した。しかし、これは説明不足であったマキシマムにも原因がある。
まあ、本人達はそのことに気が付いていない。おまけに、
 
『す、すいません』
相変わらず師匠に対しては腰の低いシンジであった。
 
 
そうしている内にシンジの誕生の時が来た。
 
『さあ、さっさと行ってこいい。そして今度こそ悔いのない生き方をするがいい』
 
素っ気ないながらも師匠の心遣いに感謝するシンジ
 
『何から何までありがとうございます、師匠。必ず、綾を見つけてこの世界を守って見せます。』
『そんなことはどうでもいい。ただ、妹を、綾を泣かせるな。そして生き延びろ。それが私の望みだ。』
『はいっ!かならず。』
 
そういっている間にもマキシマムの声も聞こえなくなったシンジの意識がこの場から消えていく。
そして一人残されマキシマムは、
「さて、急いで次に行くとするか。泣いてなければ良いんだがな。」
と言って自らの姿を消していった。
 
 
 
 
 
 
最初に感じたのは血の味だった。
まるでLCLのような味、なぜか嫌ではなかった。
そして浮遊感、ここはまるでエヴァの中にいるようである。しかし不快感はおろか安心感さえ感じられる。
心地よさに身を任せていたシンジが急に別の世界へ連れて行かれる。
そこは眩しかった長い間光を見ていないシンジには強烈な光であった。
そして誰かに体を抱き上げられ、とっさに声を上げたが言葉にならなかった。
 
ただ赤ん坊の鳴き声だけが聞こえた。
 
シンジは今ハッキリと自分の状態を認識した。
確かに赤ん坊だった。
かつて鍛えたからだが嘘のように動かない、おまけに言葉を出そうとしても出るのは鳴き声だけ。
 
そうしている内に自分を抱き上げているのが看護婦だと解った。
そして看護婦が祝福の言葉と共に自分を誰かに渡そうとしている。
「おめでとう、碇さん。元気な男の子ですよ。」「おめでとうございます。」
その言葉を聞いてシンジは自分を受け取るその女性を見た。
それは、母 碇ユイだった。
シンジには母の記憶はほとんどない。しかし、目の前に4歳の時に分かれた母がいる。
嬉しかった。だが同時に全てを悟った。
 
既に時は流れ出している、と
それはシンジにとって贖罪の戦いの始まりだった。
 
 
 
 
 
同じ頃、セラフ・ミラージュ搭載ドーリー内医務室
 
こちらでは心配していたとおりに綾が泣いていた。
マキシマムはこっちに着いてからずっと慰めていた。その甲斐もあってやっと泣きやみ、今は説明を受けていた。
 
「綾、すまないな。シンジと引き離した上にお前寂しい思いをさせてしまって。」
『いいえ、兄様気にしないでください。こうしなければならないことは解りました。
それでしたら私は待ち続けます。あの人が、マスターが私を見つけてくれるのを、ここであの子と二人で待ち続けます。』
「大丈夫シンジの事だ、釘を差しておいたが4,5年もすればしびれを切らして探しに来るだろう。スマンがそれまで待ってやってくれないか。」
『はい、マスターが来てくださるのを楽しみに待っています。』
「そうか」
 
医務室にあるカプセルの一つにマキシマムが話しかけている。
それは、綾の生まれたカプセルだった。
綾は再びこのカプセルに戻っていた。そして、シンジと同じようにこの世界で新しい命として生まれようとしていた。
 
「もう行かねばならん、綾」
『それでは兄様。お元気で」
「さらばだ」
 
そういうとマキシマムの体は光となって消えていった。
あとにはカプセルに眠る綾だけが残された。
そして綾はシンジが会いに来る夢を見ながら。静かに眠り続けた。
 
 
 
 
 
虚空の彼方からマキシマムが二人を見つめていた。
 
「二人とも幸せにな」
「シンジ、綾をあんまり待たせるな、早く見つけてやれ。」
 
そう言い残して自分のいるべき世界へと消えていった。
 
 
 
 
 
 
あとがきです
 
やっとの事で過去に戻ってきたシンジ達
しかし、いきなり最愛のパートナーとは引き離され
おまけに思っていた時間とは違う所に行ってしまったシンジ
別れたばかりの師匠の登場。あんまり話は進んでいませんね。
もっぱら説明するだけになってましたし、でも伏線を張るには強引にでもこうしないとちょっと厳しかったので無理矢理こうしました。
 
実はこのあとがき次の第2話のあとがきを先に書いて、後からこっちを書いています。
そんなわけで次のネタばれを少々、以前言ってたサイコロですが早速振っています。次のあとがきにも書いていますが既に二人振りました。
その結果はお伝えできませんが、そのせいでこれ以降の話にかなり重大な影響が出てしまいました。
サイコロに関して詳しくは第2話のあとがきを読んでください。